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Legend of brave  作者: たいがー
第三章:神器
28/45

長らくお待たせしました。

 状況はこうである。秀介は膝をつき、エリザベスは秀介と自分の周りにドーム型の治癒結界魔法を張り、レオナールは三つの頭を持つ巨大な犬、サーベラスと対峙している。

「レオナールさん! 僕に『加速(アクセル)』を!」

 秀介は立ち上がり、サーベラスに向かって突進しながら声を張り上げる。

 サーベラスは耳を劈くような唸り声を上げながら、秀介を叩き潰そうと前足を振り上げた。

「シュウスケ様!」

「シュウスケ君! くっ、『加速(アクセル)』!」

 レオナールが叫ぶと、秀介の体が赤く光った。両手に持った聖剣も、それに呼応するように輝き出す。秀介は目にも止まらぬ速さで懐に入り込んだ。

「うああぁぁ!」

 秀介は逆袈裟にサーベラスの三つある首の一つを切り上げた。

「ェアアァァア!」

 気管を切り裂かれ、声にならない叫び声を上げるサーベラスに、秀介は追撃を加えようと後ろ足の付け根に踏み込んだ。

 しかし、秀介が振り抜く前に、サーベラスは前足を支点にして回転し、秀介に向き直った。

「グルアァァア!」

 相手に向ける明確な殺意を乗せた雄叫びが、激しく空気を振動させた。

「エリー! レオナールさん! 伏せて!」

 秀介がそう叫び、聖剣を振りかぶった瞬間、世界が光に包まれた。



 ――十四時間前――


「ここがエルフの里ですか、なんだか人が居ませんけど……」

 一行はエルフの里を歩いていた。

「エルフは里の中でもあまり外に出ないのさ。まずは王の所に行こう」

「私、エルフにお会いするのは初めてで、なんだか緊張しますわ」

 木々が生い茂り、その上には家や、木と木をつなぐ吊り橋が掛かり、それはさながら木の上の里と言ったところだ。前方には見上げても頂上が見えないほど巨大な木が見える。

「それにしても、高くて怖いなぁ」

 秀介は吊り橋から下を見下ろし、生唾を飲み込んだ。地面は十メートルほど下に見えていた。

「エルフは華奢で、身体能力では他の種族よりも弱いと思われがちだけど、意外と身軽なんだ。それに、エルフは弓を得意としていて、エルフの弓兵は逞しい者が多いんだよ」

「へ、へぇ」

(なんでも知ってるな、この人)

 しばらく歩いていると、巨木の根元に着いた。そこには青く光る水晶のようなものと、それを守るように立っている二人のエルフが居た。

「誰だお前ら、一人ずつ名前を言え」

 エルフの一人が一向に呼びかけた。

「私はルノワール王国第一王女、エリザベス・マギア・ルノワールです。ルノワール王国の代表としてやってきました」

「私はルノワール王国の宮廷魔術師、レオナール・カルリエだ」

 そのエルフの青年はエリザベスの自己紹介に軽く目を剥き、怪訝な表情を浮かべた。

 普通であれば、各国の要人などは、十数人ほどの護衛を付けているものだ。護衛と思わしき者が、二人しか居ないエリザベスを怪しく思ったのだった。

「其方は?」

 もう一人の青年は秀介を顎で指した。

「え、僕は……」

「この方は我がルノワール王国が召喚した勇者様で御座います」

「なッ!? 」

 二人は目を見開いた。

「イングロール、お前はアルフィリオン様に伝えてこい」

「分かった」

 イングロールと呼ばれたエルフは、青い水晶に手を触れると、吸い込まれるように消えていった。

「申し訳ございません勇者様、ただいま責任者が来ますので、もう少々お待ちください」

「は、はあ……」

 突然のエルフの変わり身に戸惑い、秀介は息を吐いた。

「当然ですわシュウスケ様、勇者はこの世界の救世主ですもの」

 エリザベスが胸を張って言った。

「いや、問題はそこじゃない……」

「え?」

 レオナールの呟きに秀介が反応する前に、先ほどのイングロールが一人のエルフを連れてきた。

「お待たせいたしました勇者様と、そのお連れの方々。私は筆頭執事のマルディルと申します。ただいま中でアルフィリオン様がお待ちです。こちらの魔石に触れてください」

 マルディルと名乗ったそのエルフは、どこか焦った様子で早口に捲し立てた。

「ささ、お早く」

 なし崩し的に秀介が魔石に触れると、魔石に吸い込まれるような感覚が手から伝わり、周りの風景が歪んだ。次の瞬間、車酔いのような吐き気を催したと思うと、周囲の風景が完全に変わっていた。

「こ、ここは……」

 青々と緑が茂る森の風景が、一瞬にして白い光を淡く放つ、大きな大理石の空間になっていた。

「驚いたな、転移用の魔道具なんて。あの魔道具自体が魔石だから、術者が魔力供給を行う必要がないというわけか……」

「綺麗ですわ……この光には聖気が宿っているのですね……」

「……」

 他の二人はブツブツと何か訳の分からないことを言っている。秀介は不安でたまらず、キョロキョロと辺りを見ていた。

「ここに人族を入れるのは何年ぶりだろうか」

 その声はガラス細工のように繊細で、それでいて凄まじく重いプレッシャー掛けてくるような声だった。 

 三人は弾かれたように顔を上げ、声がした方に振り向いた。

 そこに居たのは二十歳前後の若いエルフだった。鼻筋の通った造形の良い顔に、金髪から覗く長く尖った耳が、まさにエルフだと感じさせる。

 レオナールとエリザベスはすぐさま跪き、右手を左胸に当てた。

 秀介も見よう見まねで、二人に習う。

「お初にお目にかかります。私はルノワール王国第一王女、エリザベス・マギア・ルノワールで御座います。以後お見知りおきを」

「知っています。貴方たちが来ることも分かっていました。私はアルフィリオン、エルフの王です」

 秀介は呆然とアルフィリオンを見つめた。

(エルフの王様ってもっとお爺ちゃんみたいな人かと思ってた……意外と若いんだな)

 アルフィリオンの言葉に、「やはりな」とレオナールが呟いた。

「貴方が勇者殿ですね、随分とお若い」

「え?」

 君が言うの? と、見た目あまり年が変わらないアルフィリオンに、秀介はいかんせん解せなかった。

「その腰に携えている剣、まさしく聖剣だ。やっと持ち主を見つけたのですね」

 アルフィリオンは感慨深そうに目を細める。

「陛下」エリザベスが切り出した「魔族のエルフの里への襲撃予告に、我が国も非常に遺憾に感じております。そこで、ルノワール王国も微弱ながら協力させていただきたく……」

「他の国も、そう言ってくれましたが、全て断りました」

「え?」

 アルフィリオンは厳しい目つきでエリザベスを睨みつけた。

「我々エルフは、人間の力を借りなければならないほど弱くはない」

「も、申し訳ございません。そのようなつもりでは……」

「いいんですよ。今まで来た人は、私たちに貸しを作ろうという魂胆が目に見えていましたからね。その点、貴方は魔族の驚異を目の当たりにして、本当に我々を案じているのが分かります。でも、手を貸そうというのは、過ぎたお節介ですね」

 エルフは世界で一番影響力のある種族だ。そのため、エルフとコネクションを持ちたいと思う国や種族は多い。

「魔族の驚異についてはこちらも把握している。我々は何千年も前から魔族と敵対していたのだから」 

「そ、それってどういう事ですか?」

 秀介は思わずエルフの王に問いかけた。

「……三千年ほど前、私はある者から言いつかっていました」

「三千年前?」

 私はって言ったか? 秀介は耳を疑った。

「ええ、”神”と呼ばれる存在……マギア様にね」

入試の前日まで勉強していなかったのに、何故か高校に合格してました。

ありがとうございます。

これでのびのびと小説を書くことができます。

今日から一日おきで一話ごと投稿していくので、よろしくお願いします。

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