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明けましておめでとうございます。今後共よろしくお願いいたしますm(_ _)m
何者かの会話を聞きながら、秀介は目を覚ました。
「ねえ、この人が本当に勇者だって思う?」
「うーん、みんながそう言うならそうなんじゃないの?」
「本当かな? 弱そうだよ、この人」
「じゃあお姉ちゃんはこの人が勇者じゃないって思うの?」
「だって勇者って御伽噺の人じゃん」
うっすらと目を開けて、声のする方向を見ると、二人の少女がこちらを覗いているのが分かった。
「あ、気が付いたみたい」
「大丈夫?」
「うん、君達は?」
秀介は起き上がりながら少女達に尋ねた。体の疲れはもうすっかり治っている。
「私はサラ。こっちが妹の……」
「サユだよ!」
「そ、そう。お……僕は乾秀介、よろしく」
自分のことを黙ってじっと見つめる姉妹に、居心地が悪くなった秀介は、その姉妹に質問をした。
「あの、エリーは……」
「王女様なら上で皆を治療してるよ」
答えたのは妹のほうだった。そこに間髪居れず姉が切り出した。
「ねえねえ、あなた本当に勇者なの?」
「ちょっとお姉ちゃん!」
「いいじゃない。ねえ、本当?」
「えっと、それは……」
秀介は答えられなかった。自分が勇者であると、自信を持って言うことが出来なかった。
黙ったまま俯いていると、入り口のほうから声がした。
「シュウスケ様。ちょうど良かった、今起きたのですね」
「エリー……」
「サラさん、サユさん。ありがとう」
エリザベスがそう言うと、その姉妹は小走りで出て行った。
「シュウスケ様、もうすぐ出発いたします。旅支度をいたしましょう」
「え、もう行くの?」
「ええ、実は魔族側から――」
この時、全世界全種族が混乱していた。魔族側から次の襲撃の場所と日付を告げてきたのだ。各国は緊急事態宣言を発令、人々は国の発表に混乱に陥った。人間だけではなく、ドラゴニュートやマーピープルも行動を起こした。ほぼ全世界の軍がその国に向かうこととなる。何故ここまでの混乱になるのか、それはその場所が問題だった。
「そ、その場所は?」
「南大陸と北大陸のちょうど間に位置する『ラマティギール山』。その中央部に位置する――『エルフの里』です」
秀介は時折上下に揺さぶられる馬車の中で、自分の身に着けている鎧を見つめていた。
光沢のある銀色のフォルムは、以前にも増して強く光を放っている。全体を走る筋は、紋様を刻んでいるように見える。
(……カッコイイ)
秀介が身に着けている鎧は、今まで着ていたルノワール王国の鎧を、ドワーフの技術力で強化したものだ。
ドワーフは魔力を持たない種族であるが、それに反して魔道具を作る技術が発達している。魔力を溜める性質がある魔石という鉱石を使い、下手な魔法よりも強力な魔法を放つ魔道具や、空間を拡張していくらでも荷物を詰め込めるカバンなど、様々な道具を作ることができる。
今回ドワーフが改造を施した鎧には、もともとあった魔力攻撃のダメージ軽減の他に、身体能力の上昇や鎧の無い素肌を守る機能など、ドワーフの技術を詰め込まれている。世界最強の鎧だとドワーフは豪語した。
(最強の鎧か、すごいなぁ……)
秀介はまるでプラモデルを眺める少年のような目をしていた。
「シュウスケ様、どうしました?」
鎧を見ている秀介が俯いているように見えたのか、エリザベスが声をかけてきた。秀介が顔を上げると、鼻先が付きそうなほど近くに顔があった。決め細やかな、染み一つ無い真白な肌。吸い込まれそうな青い眼が、自分を映し出している。秀介は思わず赤面し、再び視線を下に向けた。
「あ、いや……何でも、ないよ」
「そうですか、無理しないでくださいね」
エリザベスの慈悲がたっぷりこもった声を聞き、照れるようで情けないような気持ちになった。
「そうだよ、何かあったら僕に言ってね」
「ありがとう。エリー、レオナールさん」
エリザベスは優しく微笑み、レオナールは御者台から後ろ向きで手を振っている。秀介もぎこちなく笑みを返す。
「そう言えば、これからエルフが居る場所に行くんですよね」
「ああそうさ、シュウスケ君はエルフについてどのくらい知ってる?」
「ええっと……」
小説やゲームの中では、エルフといえば魔法や弓が得意で、耳の尖った妖精という印象だ。
「そうだね、まあ大体あってる。エルフは森の中に集団でひっそりと暮らす種族なんだ。あまり他の種族と接したがらず、人前に出てくることは滅多に無いんだ」
「でも、エルフが攻撃されるからって、何で皆エルフの国を助けようとするんですか? 自分の国だって、被害がすごいだろうに」
「それはエルフが、神が最も愛した種族だからだよ」
「神が……?」
「ああ、エルフは世界で始めて生まれた種族なんだ。『エルフの里』は神が創った最初の楽園といわれている」
「……今ちょっと思ったんですけど、何でエルフの国じゃなくてエルフの里なんですか?」
「それは古代の神話まで遡らなければならないんだけど……要するに、最初に里という文明を作ったエルフに敬意を表しているんだよ」
エルフは王政で、定義は王国となっているのだが、一般的にエルフの国は『エルフの里』と呼ばれている。エルフの王族はハイエルフと呼ばれ、並みのエルフより多くの魔力を持っており、全種族の畏怖の象徴となっている。
「エルフは世界で一番影響力がある種族なんだ。高い魔力操作の技術や、人間の数倍は長寿でそれ故の深い知識。それだけじゃなくエルフに酷いことをしたら神からの天罰が下るとも言われていて、まあ敵に回す奴は誰もいないだろうね。あのザルダート帝国だって下手に手を出せないんだから」
「そ、そうなんですか」
「だから、くれぐれもエルフの人たちに失礼の無いようにしてくれよ、ルノワール王国の存亡に関わるかも知れないんだから」
秀介は額に冷や汗を浮かべ、生唾を飲み込んだ。
「レオナール、あまりシュウスケ様をいじめないでください。大丈夫ですよ、エルフは心優しい種族ですから」
「そう…………」
秀介の不安をよそに、一週間後、勇者の一行は『エルフの里』に着くことになる。
第二章も終わりました。第三章からは物語が加速させ、もう少し掘り下げていきたいと思います。お待ちかねのエルフも登場、新要素も出てきます。お楽しみに。
冬休みももうすぐ終わり、ここまで来ても受験への焦燥感がない自分に焦ります(笑)




