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「シュウスケ様!」
「シュウスケ君。気がついたか」
秀介はゆっくりと目を開いた。金髪の少女がこちらを覗いている。秀介は思わず赤面した。
「エリー、近いよ」
「あ、ごめんなさい」
エリザベスは慌てて顔を遠ざけた。
「大丈夫かい、シュウスケ君」
「はい……あの、ここは?」
秀介は思いついたように辺りを見渡した。薄暗い洞穴のような所に寝ている。唯一ある光源といえば、壁に埋まっている緑色に光る鉱石だけだ。
「ここはドワーフが一時的に非難している、仮設住宅のようなものさ」
秀介が疑問に思っていると、岩の陰から一人の男が出てきた。金髪で碧眼の、どこかエリザベスに似た雰囲気がある青年だ。
「そうなんですか……えと、貴方は……」
「ん? ああ、会うのは初めてだったね。私はルノワール王国第一王子、フィリップ・マギア・ルノワールだ」
「ってことは……」
「私の兄ですわ」
エリザベスが付け加えた。
「あ、始めまして。乾秀介です」
「聞いてるよ。それにしても驚いた、まさか父が勇者を召還するなんてね。さっきエリーから聞いたときには、耳を疑った。まったく、私にも知らせるべきだと思うがね」
セドリックはフィリップに、勇者や魔王について何も知らせていなかった。そのため、ドワーフ国への魔族の襲撃に対して、何の措置も取れなかったことに、フィリップは憤慨していた。
「魔族とやらの襲撃で、ドワーフの三分の二が犠牲になった。生き残りのドワーフ達は、森の中の古い城に身を寄せるしか無かったんだ。もうちょっと行動が早ければ、あんなに犠牲を出すことも無かったんだが」
「え? ここお城なんですか?」
もう一度部屋を見渡すが、唯の洞穴の中にしか見えない。秀介の考えるお城には程遠かった。
「ああ、お城と言っても、何百年も前の城で、ここはその地下牢に当たる所だからね。でも、見た目はアレだけど、ドワーフの城だけに頑丈だよ」
フィリップはそう言って、壁を叩いてみせた。
「じゃあ私はまだやらなければいけないことがあるから、これで失礼するよ。レオナール、頼んだぞ。この子達はまだ、頼りないから」
「ええ、分かりました」
レオナールにそう言い残し、フィリップは岩陰に消えていった。
(頼りない、か……)
秀介は自分の無力さに歯噛みした。
「エリー、ごめん。俺、全然役に立ってないよね。鎧も壊しちゃったし」
「そんなことありませんわ、シュウスケ様はシュウスケ様なりに頑張ってるではありませんか。それに鎧のことなら問題ないです。ドワーフの皆さんが鎧を修理してくださるそうですわ」
「そう、なんだ……」
「シュウスケ様、心配要りません。もう少し横になっていてください。療養は必要です」
エリザベスの心地良い声を聞きながら、秀介はもう一度深い眠りについた。
「心配ですわ」
エリザベスがポツリと呟いた。
「シュウスケ君か。確かに、君が見たと言う光の柱が、シュウスケ君に何らかの影響を及ぼしている可能性は捨てきれない」
その影響が良い方向に出るか、はたまたその逆か、そこがレオナールが一番気にしているところだった。
「聖剣の力か」
「ええ、おそらく。それにさっきのシュウスケ様、どこか雰囲気が変わっていましたわ」
「同感だ」
二人が城の広間に上がると、そこは行き場を失ったドワーフ達で溢れていた。怪我人の治療に当たる者や、忙しく物資を運ぶ者、警備をする者。皆寝る間も惜しんで働いているのか、目の下には隈が出来ていた。
「私達も手伝いましょう。レオナールは物資運搬を、私は治療に当たります」
「了解」
エリザベスは目の前に横たわっていたドワーフに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「あ、あんたは?」
「ルノワール王国のエリザベス王女です」
そのドワーフは片足が千切れて、そこが化膿し炎症を起こしている。
「薬草を使っているのですが、炎症を抑えきれないんです」
横で看病をしていた女性のドワーフが言った。エリザベスは始めての女性ドワーフに驚きながら、冷静に症状を分析した。
「おそらく魔法による攻撃でしょう。どうやって怪我をしたのです?」
「あんま覚えてないんだ。突然紫色の光が足に当たって、恥ずかしながら気絶しちまってな、それからどうなったか分からない」
「そういう人が他にも居るんです。酷い人では手足が腐り落ちたり、高熱が発症したり、原因が分からなくて……」
エリザベスは呪いのような魔法だと推測した。呪いは、毒属性や闇属性の魔法とも言われている。治癒が難しい病気を引き起こしたり、長期間に亘って苦痛を与えるなど、世界共通で規制が掛かっているほど危険な魔法である。
「『聖なる癒し』」
エリザベスが手をかざしている部分から、見る見るうちに傷が塞がっていく。そのドワーフは、突然の出来事に驚くしかなかった。
「す、すげぇ」
エリザベスが唱えた魔法は治癒魔法の一種で、通常の『治癒』よりも、呪い等の魔法によって受けた傷を治療するのに有効な聖魔法である。だが、エリザベスは難しい顔をしていた。
(思ったより呪いが強力ですわ。私の聖魔法でも治りが遅い)
魔族の魔法が想像以上であるのに、エリザベスの不安は募らざるをえなかった。
「こ、こっちもお願いします!」
「俺もだ!」
「ここの怪我人を見てください!」
エリザベスの聖魔法を見ていた他のドワーフ達が一斉に声を上げた。
「はい、今行きます!」
避難所となっている古い城の一室で、二人の男が対峙していた。一人は、金髪碧眼で精悍な顔立ちの青年、フィリップ・マギア・ルノワールだ。もう一人は、皺だらけの顔に豊かな髭を蓄えたドワーフの老人である。
「魔族にここまでしてやられたからには、そなた達人間に協力するのも吝かではない。あの少年の鎧も、ドワーフの域を集結して強化してある」
「はっ、ありがとうございます」
「じゃが……」
そのドワーフは、フィリップを冷たく見据えた。
「そなたらの勇者とやら、本当に役に立つのかの?」
「ええ、もちろん。勇者ですから」
フィリップはあの頼りなさげな少年を思い出し、不安を感ぜずにはいられなかったが、ドワーフの王を前に滅多なことは言えなかった。
(頼むから頑張ってくれよ、勇者君)
フィリップは切にそう願うのであった。
どうも、冬休みに入って浮かれてたら、トライさんの「受験まであと50日!」というCMで軽くパニックを起こしたたいがーです。
第二章ももうすぐ終わりですね、頑張ります。




