11
残酷な描写があります。これを書きたくてがんばりました(笑)。
「お目覚めですか、魔王様?」
『ここは?』
「魔王城でございます。我々が貴方様のために作りました」
『……お前は?』
「貴方様の足元にも及ばない、名も無き魔族にございます」
魔王は頭をかしげた。
『名前が無いのか?』
「はい」
『不便だな、私が決めてやろう。そうだな……ネロ、お前は今からネロだ』
「ありがたき幸せ。このネロ、貴方様に忠誠を誓います」
魔王は不適に笑った。
『外に出よう、外を見たい』
「かしこまりました、行きましょう」
魔王は外に出ると、城の周囲にいた魔族がざわめきだし、紫色の空がうねった。
『ネロ、こいつらは私の物か?』
「はい」
『この世界は私の物か?』
「ええ、今は下等な人間共がのさばっていますが、いずれ貴方様のものに」
「そうか、人間が……」
魔王は空の彼方を見遣った。
『ネロ、今魔族の数は?』
「三百ほどです。その中で戦えるのは女も含めて二百ほどでしょう」
『人間は?』
「……かなりの数かと」
『ほう』
魔王は感嘆の息を漏らした。
「ですが人間は我々魔族よりも貧弱です、いくら集まったところで我々の敗北はありえない」
相変わらず魔王は遠くを見ている。
『聖剣が目覚めた……』
「……?」
ネロには魔王の言葉の意味も、魔王が何処を見ているのかも分からなかった。
『人間どもに攻撃を加えろ、そして私に服従すれば助けてやると世界中に伝えるのだ』
魔族の王は邪悪な笑みを浮かべた。
ザルダートという世界最大の軍事帝国がある。北大陸の八割を自国の領土にしているザルダートは、新兵器の開発に最も力をいれ、世界の何処を見てもザルダートほどの技術力をもつ国は無いといわれている。ザルダートが作る兵器には、驚くべきことに魔法陣が刻まれていないものがある。
そんなザルダートに対抗する唯一の勢力が、南大陸のバーク山脈周辺の三カ国が軍事同盟を結んでできたバーク軍事連合である。ザルダート帝国とバーク軍事連合。この二つの勢力が互いを牽制しあっている。
北大陸の最西端は、まるで巨大な包丁で切ったかのように途切れている。途切れた大陸の向こう側にはまだ誰も足を踏み入れたことの無い大陸が見える。その大陸にはどんな生物がいるのか、どれだけの高山資源があるのか、数多の冒険者や調査団が向かったが、たどり着けたものは誰一人としていなかった。
「なんだ、あれは?」
その未開の大陸から、無数の黒い影が飛んでくるのが分かる。
「あれは……人?」
その影一つ一つが人のような姿をしていた。どれだけ多くの人々がその影を見つめていたのだろうか。ただ言えることはそのほとんどが圧倒的な力の前に、なすすべも無く犠牲になったことだ。
最初の犠牲者は雑貨屋を営むごく普通の男性だった。町内仲間から「なにか黒い影がたくさんきている」と聞き、面白半分でその光景を眺めていた。影の一つがオレンジ色に光ったかと思うと、次の瞬間には紅蓮の炎が目前にまで迫っていた。一瞬にして男性の体は炎に飲み込まれ、うめき声を上げる間もなく焼き尽くされ、あとに残ったのは灰だけだった。
周囲の人間がその光景を理解するのに数秒の時間を有した。
「キャァァ!!」
それを皮切りに、あちらこちらで悲鳴と火の手が上がった。その場は地獄絵図と化していた。肉が焼ける音、骨が砕ける音、頭が破裂する音。魔族たちは人間も家々も、何もかもを破壊していく。見たこともない魔法を使う魔族たちに、人々は蹂躙されていった。
その情報が世界全土に伝わるには、そう時間はかからなかった。




