早朝なぞなぞ!
「アタシは絶対に帰らない!」
ジルが昨日言った言葉が夢の中にまで登場し、俺の睡眠の邪魔をした。
「ったく、折角の土曜日だってのに」
まだ六時半をさしている時計を恨めしそうに睨んだ後、布団に潜り込んで、頭の中を整理していた。
ジルの言ってる事は明らかにおかしい。元々は海に帰るために、謎解きをしていたはずだ。それが原因で、あの手紙を見つけてしまったわけだし……。いや、落ち着け俺。初めからよく考えろ。
ジルの転校は理由があった。ジルの話によると『何らかの罪』によるものだそうだ。そうだ、ジルは海に帰りたがっていた。そのはずだ。
しかし、昨日のアレはどうだ。「絶対に帰らない!」と言いやがった。これは小学生でもキチンと説明をすれば……否、説明不要なほどにわかり切っている。ジルは、何故か俺に嘘を吐き、ここ、人間界に居座ろうとしている。何故だ。何故なんだ。
「っても、分からねーもんは分からねーしなぁ」
眠くなってきた……。
土曜日というゆとり的休日を存分に活かそうと俺が瞼を閉じた時、何かが窓をコツコツと叩いた。
無視をする事二分。コツ、コツ、という音はいつまでも止まない。小学生でも今時こんな悪戯はしないだろうが、一括してやろうと思い、ベッドから起き上がり窓へ向かう。
「うるせーぞ、何時だと思ってる!」
「さて、問題です」
朝から他人のテンションを下げる程のハイテンションでそう言ったのは、昨日出会ったジルの兄、ダグ・トールボットだった。
「他のものを見ているときは決して見えないが、見えるときは目隠ししていても見える。それはいったい何?」
「はぁ……。いいですか? 今、朝ですよ。分かりますか? ドゥーユーアンダスタン? こんななぞなぞバカバカし……」
「カッチ、カッチ、カッチ、カッチーー」
「カウントダウンしても無駄ですよ」
「いやぁ、君ならできるさ! ホラっ! カッチ、カッチーー」
問題、何だっけ。
他のものを見ているとき、見えない……。見えるときは目隠ししていても見える。
答えは『夢』だと思うけど、多分……。
「タイムアーーップ! 正解は『妹』だ」
だろうな。そういう答えだろうと思ったよ。真面目に考えた自分が馬鹿みたいだ。
「あー、そうですか。よく分かりました」
「ちょいちょい! なぞなぞが苦手だからって、オレを嫌わないでくれよう。ほら、簡単なの行くからさ」
「…………」
この人朝からうるさいな。本当に忌々しい。
「だぁーい二問! 八百屋さんがトラックにピーマン、トマト、ナス、きゅうりを積んで高速道路を走行していーる。急カーブであるものが落ちちゃった。さて、それは何?」
どうせ、妹が……的な答えだろ? 正解してやろう。もうこの人面倒だし。
「妹への愛?」
「は……?」
「へ?」
「何だ? 君は変態なのか?」
俺のイライラメーターはついに限界を突破した。人ってこんなにイライラ出来るんだな。なんてことを考えている余裕はなかった。
「ちなみに、答えは『スピード』ね」
「おぁぁあぁあぁぁああああ!」
窓を閉める速さを競う大会があれば、間違いなく全国大会に出場出来るであろう速さで窓を締めて、カーテンを引いた。
なんだよ、『スピード』って! ちょっといい問題じゃないか! でも忌々しいっ!
カーテン越しにダグはまだ何か言っていたが、正直どうでも良くなっていた俺は、ベッドに寝転び、窓に背を向けた。
「悪かった。からかい過ぎた! しかし、聞け! 聞いてくれ! このままではマズイんだ。非常にマズイ!」
身体を仰向けにして、窓に目をやる。
カーテン越しに、ガラス越しに、ダグが言った一言は俺の心を真っ黒にした。
「このままでは、妹は死んでしまう」