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アラタの限界、そして彼女の選択

この10ブロックは、まるで永遠のように感じられた。


そういえば、花田と一緒に答えを書いてしまった。


もしバレたら、大騒ぎになるだろう。

完全に混乱する。


――エラー。


「新田、兄さん、遅れてるよ。」


咲は、彼の歩く速度が遅いことに気づいた。


「友よ、一緒に行こう。」


「ああ。」


知られてはいけない。


この情報は――


隠蔽する必要がある。



「新田、今日は体育の日だよ。」


「何時?」


「中学の時は1時間目だったよね?」


「うん。」


「高校では2時間目だよ。」


「じゃあ、またね。」



教室に入る。


近代文学


いつもと同じ景色。


――のはずなのに、


どこか、違う。


席に座る。


カバンを置く。


教科書を取り出す。


すべて、いつも通りの動作。


……だが、


わずかに、ずれる。


ページをめくる指が、


一瞬、止まる。


――思考が、引き戻される。


花田。


試験。


あの一行。


消せない。


「……」


【アラタ】


ああ、よかった。


本を読んでいるうちに。


さっきまでのぼんやりした思考から少。


しだけ抜け出せた。


ベルが鳴る。


数分後――


「第一組スタート。石上、多橋、山本。」


水泳の先生の声。


その時――


プールの向こう側に、

バレーボール部の女子たちが見えた。


ピーッ!


スタートの笛が鳴る。


――花田。


ユニフォームが、彼女の身体に自然に馴染んでいる。


風に揺れる髪。


無駄のない動き。


……視線が、離れない。


僕は、固まった。


笛の音に、気づかなかった。


【はる】


その時、ボールがこっちに飛んできた。


――え?


石上の方を見る。


(え……なにあの体…)


(あんなの、絶対モテるやつでしょ…)


(なのに、なんであんなに目立たないの…?)


(イメージと全然違うんだけど…)


(意味わかんない…)


「ちょっと花田!あんたのせいでポイント落としたんだけど!」


女子たちが不満そうに声を上げる。


「あら、ごめんごめん。大丈夫?」


【アラタ】


何が起きている?


状況が、把握できない。


身体が、動かない。


僕は、固まった。


視線。


……多い。


周囲の生徒が、こちらを見ている。


「石上、どうした? 今日は様子が違うぞ。」


水泳の先生の声。


「おい、大丈夫か?」


部員たちの声。


理解が、追いつかない。


――遅延。


「大丈夫です、失礼します。」


「同じエラーは、繰り返しません。」


僕は対岸まで泳いだ。


身体は、正常に動いている。


外部の視線が、減少する。


ノイズが、消える。


思考が、静まる。


――再起動、完了。


【はる】


ジャンプして――ブロック!


ポイント!


セットも、そのまま取った。


「花田、今のやばくない!?」


「めっちゃ昔の調子じゃん!」


「ナイスすぎるんだけど!」



歓声が、少しずつ遠ざかっていく。


みんなが笑っている。


……なのに、


胸の奥に、違和感が残った。


(さっきの……なんだったの)


無意識に、


石上の方を探していた。



木曜日


[ハル]


(…最悪だ。)


席に着いたら、もう彼がそこにいた。


…石上さん。


何も見ていないふりをした。


(…何も感じない。)


(でも、気になる。)


(…どうして?)


石上さんはちょっと怖い。



痛っ!


(何してるの……?)


(最悪……)


はぁ……


横目でちらりと見る。


……笑った?


「うっかり者ね。」


(もう我慢できない……うっかり者って言うなんて)


(……私に言う?)




【アラタ】


机に向かう。


ノートに視線を落とす。


……


ぷっ。


「はぁ……」


「うっかり者ね。」


(発言の意図が不明)


さて、元の作業に戻る。



みんながこっちを見ている。


ざわめいている。


内容は分からない。


花田の様子が違う。


冷たい。


距離を置いている。


「だい……」


やめる。


「石上、教室を出てきなさい。」


先生の声。


ざわめき。


「二回も花田をからかっただろ。」


……


僕は廊下に出た。


間違いは姿勢だった。


中から声が聞こえる。


ざわめき。


「鵜込、お前も教室から出ていけ。」


教師の声。


TRIN NNNNNNNNNN


「鵜込、次はもっと厳しくする。もう出ていい。」


「誤解するな。


罰のつもりじゃない。


少し落ち着かせただけだ。」


……


理解した。


[ハル]


(当然の報いだ。あいつ、私をからかったんだから)


「花田さん、もっと集中して」


(まるで私がドジみたいに見てくる)


(あの二人がいなくなればよかったのに…)



*リンリン*


休み時間のベルが鳴る。


石上がいない。


(怒ってるのかな…?)



石上はいない。


休み時間は何も変わらないのに、

胸の奥が、少しだけ落ち着かない。


(……別に)


友達を探す。


何を話せばいいのか、浮かばない。



金曜日


トントン


「おはよう、石上」


「おはよう、斎藤」


「もう準備できてるよ」


「よっ」


「ルナ、ここで何してるの?」


「バスに乗り遅れちゃったんだ」


たしか、あの子はいつも僕たちと一緒に来ていなかったはずだ。


……違う。


何か、おかしい。


「えっ、ルナさんって、いつも三人で来てたんじゃないの?」


と、サキが驚いたように言う。


「ああ……君、石上の妹か」


「えっ、石上は?」


「置いてきたのか?」


「大丈夫か、アラタ」


と斎藤が心配そうに言った。


【はる】


(また、あの子……)


「ハル、さっきから何見てるの?」


アカリが不思議そうに聞く。


「……別に」


「石上のこと見てたでしょ」


アカリははっきりと言った。


「そう思う?」


視線をそらす。


「ねえ……石上と一緒にいるあの子、誰?」


小さくささやく。


「ああ、あの子?テニス部の部長、竹下ルナだよ」


(石上と一緒にいる先輩……)


胸が少しざわつく。


「へえ……そうなんだ」


小さくつぶやいた。


(石上さん……)


気づいてない……?


(……なんで?)


胸が少し引っかかる。


(普通、気づくでしょ……)


「ハル……どうしたの?」


アカリが少し強い口調で聞く。


「……なんでもない」


小さく首を振る。


(……何かある)


(でも、それが何なのか分からない)



断片


【アラタ】


「今日は代数をやるよ」


……声が遠い。


……何だ、これ。


花田が席を選んでいる。


こっちを見ている。


電車の中の花田。


ケンシたちの笑い声。


からかわれる。


手が――


触れる。


花田の肌。


バレーボール。


――


(……)


――


【ハル】


石上の方を見る。


(目が閉じる)


「石……」


――


【アラタ】


何かが聞こえる。


でも、分からない。


プッ――


――


【ハル】


(……)


「石上は大丈夫か」


返事がない。


彼を揺さぶる。


動かない。


胸が痛い。


(いなくなる気がする)


首に手を当てる。


「先生、石上は反応がありません……でも、脈はあります」


涙がこぼれる。


(止まらない)


(でも……生きてる)


――


胸の奥が、崩れる。


初めてだった。


こんなふうに、


誰かのことで、


壊れそうになるのは。



【教室】


「真矢、保健室に行ってくれ。大和先生に救急車を呼ぶよう伝えて、花田を連れていくんだ」


数学の先生は険しい顔で言った。


「行こう、ハル」


「落ち着いて……大丈夫だよ、石上は」


「大丈夫なわけないだろ? 震えてたの、見なかったのか?」


(……だって、心配だから)


胸が痛い。


――あの状況なら、誰だってそうなる。


――なんで、私が当番なの……?



石神が救急車で運ばれていくのを見ていた。


アカリがそっとハルの肩を抱く。


(……大丈夫だよね)


そう思いたいのに、


胸が締めつけられる。















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