ノスタルジーを味わう旅
3月
【石神家】
【アラタ】
「おはよう、子どもたち。」――父
「おはよう、パパ。」――アラタ
「おはようございます、お父さん。」――サキ
「アラタ。」
「韓国への遠征のことで話がある。」――父
(……)
パパ。
(……)
真剣な顔だ。
「どうしたの?」――アラタ
「お母さんとも話したんだが、一つ気になることがある。」――父
「旅行の日程と試験が重なっているんだ。」――母
「だから、いろいろ確認しておきたくてね。」――父
電話が鳴る
「もしもし。」――アラタ
「アラチン……。」
「お父さんとお母さんに相談したんだけど……。」
「今回は一緒に行く許可がもらえなかったの。」――ハル
(……)
そうだったのか。
「分かった。」
「こっちでも今、そのことを話してたところなんだ。」――アラタ
「ごめんね。」――ハル
「気にしないで。」
「ありがとう。」――アラタ
「サキは高校の入学試験があるんでしょ?」
「それに、ハルも1年生の期末試験があるし」
「それなら、その期間、サキがハルの家に泊まって、一緒に勉強したらどう?」 —お母さん
「そのほうがお互い安心だ。」
「アラタも韓国で大会に集中できるだろう。」――父
「お母さんがね。」
「サキをしばらくそっちで預かってもらえないかって。」――アラタ
「うん。」
「お父さんもお母さんも、大丈夫だって。」――ハル
「そうか。」
「ありがとう。」――アラタ
「あっ……。」
「しまった。」――ハル
【ハル】
(……)
寂しいな。
(……)
こうして。
(……)
出発の日が来た。
【ハル】
「アラチン。」
「気をつけてね。」
「私の分まで頑張ってきて。」――ハル
(……)
もう。
(……)
寂しい。
「ありがとう、ハル。」――アラタ
「花田さん。」
「娘を預かっていただき、本当にありがとうございます。」――アラタの父
「ご安心ください。」
「責任を持ってお預かりします。」――ハルの父
(……)
彼の腕が。
(……)
私を優しく包み込む。
「愛してるよ、アラタ。」――ハル
「僕も愛してるよ、ハル。」――アラタ
(……)
彼は。
(……)
搭乗口へ向かっていった。
(……)
行ってしまう。
「ハル。」
「そんな顔をしないの。」
「ほんの数日よ。」――母
「でも……。」
「永遠みたいに感じるの。」――ハル
【アラタ】
「さよなら、友よ。」
「元気でね。」――みんな
(……)
僕を。
(……)
見送りに来てくれたんだ。
(……)
なんて。
(……)
嬉しいんだ。
「じゃあね、みんな。」
「行ってくる。」――アラタ
ソウル空港
アラタ
(……)
ここが。
(……)
韓国なんだ。
(……)
日本を離れるのは。
(……)
初めてだ。
「アラタ、疲れてない?」――母
「うん、大丈夫。
でも、少し不思議な気分なんだ。」――アラタ
「代表団のみんなとホテルへ向かうぞ。」――父
「うん。」――アラタ
「明日は大会だから、今日はゆっくり休みなさい。」――母
(……)
日本代表として。
(……)
ここにいるんだ。
【ハル】
(……)
会いたい。
(……)
もう。
(……)
数時間も経った。
「ハル、大丈夫?」――サキ
「なんだか心に穴が開いたみたい。」
「前と同じ毎日に戻ったみたいなの。」――ハル
「お兄ちゃんがいつもそばにいたからね。」――サキ
「うん。」
「私も。」
(……)
彼は。
(……)
私の支えになってくれた。
「この時間が。」
「永遠みたいに感じる。」――ハル
(……)
会いたいよ。
(……)
アラチン。
大会当日
ソウル国立学校
アラタ
(……)
準備はできた。
(……)
振り返ると。
(……)
すべては。
(……)
春から始まった。
(……)
あの日。
(……)
数学オリンピックの結果に。
(……)
なぜか。
(……)
君の名前を書いてしまった。
(……)
あの頃は。
(……)
理由が分からなかった。
(……)
そして。
(……)
君の学校へ行ってから。
(……)
少しずつ。
(……)
僕は変わっていった。
(……)
君は。
(……)
いつの間にか。
(……)
僕の心の中にいた。
(……)
今なら分かる。
(……)
君がいないと。
(……)
寂しい。
「みんな、挨拶しなさい。」――先生
「はい。」――みんな
【ハル】
(……)
もうほぼ一日が過ぎた。
(……)
心が苦しい。
「ねえ、悲しそうね。」――アカリ
(……)
否定できない。
「彼がいなくて寂しいよ。」――ハル
「当然よ。だって彼はあなたを良い方向に変えてくれたんだから。」――ユナ
「俺たちも、それぞれの形でアラタを恋しく思ってるよ。」――セイジ
「みんな、ほんの数日だけだよ。」――サキ
(……)
数日。
(……)
誰が私を抱きしめてくれるの。
「大丈夫だよ、ハル。アラタにはご両親がついているから。」――サイト
【アラタ】
「みんな、残り一時間三十分で終わらせてね。」――先生
(……)
一時間半。
(……)
十分な時間だ。
(……)
少し長いくらいだ。
試験開始
(……)
綺麗な人は多い。
(……)
でも。
(……)
誰も。
(……)
僕の心を揺らさない。
(……)
君だけなんだ。
(……)
ハル。
――みんな、残り十五分だよ。――先生
(……)
そうか。
(……)
君はいつも。
(……)
僕を支えてくれていたんだ。
(……)
今も。
(……)
君が僕を集中させてくれた。
「先生、これが試験です。」
「ありがとう。
結果は数日後に発表されるよ。」――先生
「はい、ありがとうございました。」――アラタ
中庭
(……)
「アラタ、どうだった?」――母
「うん。
うまくできたと思う。」――アラタ
「おい、チャンピオン。」
「可愛い子がたくさんいただろう?」――父
「うん。」
「でも、可愛いだけだった。」――アラタ
「そうか。」
「お前にとって、ハルちゃんには美しさ以上のものがあるんだな。」――父
(……)
そうだ。
(……)
ハルにしか。
(……)
できないことがある。
(……)
僕の心を。
(……)
満たしてくれる。
【ハル】
「ねえ、ハル。」
「アラタが他の女の子たちと一緒にいても、嫉妬しないの?」――アカリ
(……)
嫉妬。
(……)
「そうね。」
「今考えてみると、あまりしないかな。」――ハル
「海外には綺麗な子もたくさんいるでしょう?」――アカリ
「ちょっと、アカリ。」――ユナ
(……)
彼は。
(……)
決して外見だけで人を好きになったりしない。
(……)
この間。
(……)
気づいたの。
(……)
彼が私と一緒にいる理由は。
(……)
もっと深いものなんだって。
「つまり、アラタがいないからって疑ったりはしないのね。」――ユナ
「うん。」
「むしろ。」
「彼への想いはもっと強くなったよ。」――ハル
(……)
あなたは。
(……)
私の帰る場所。
(……)
あなたを信じてる。
(……)
愛しい人。
「彼は、そんなことで揺らぐ人じゃないもの。」――ハル
翌日
【玄関の庭】
【ハル】
「ねえ、あの人……アラタじゃない?」――ユナ
「うん。」
(……)
アラチン。
「ハル、その笑顔は何?」――アカリ
「ほら、こっちに来るよ。」――ユナ
「あっ、アラタだ!」――アカリ
「本当だ。」――セイジ
(……)
もう。
(……)
待てない。
彼のもとへ駆け寄る。
「会いたかったよ、愛しい人。」――ハル
「僕も君に会いたかった。」――アラタ
【アラタ】
「よう、相棒。どうだった?」――セイジ
(……)
帰ってこられて。
(……)
よかった。
「ただいま。」――アラタ
「お兄ちゃん、お帰り!」――サキ
「ねえ、アラタ。」
「韓国には可愛い子がたくさんいたんじゃない?」――アカリ
(……)
また。
(……)
その質問か。
「うん。」
「可愛い子はたくさんいたよ。」
「でも、それだけだった。」――アラタ
【ハル】
(……)
その表情で。
(……)
全部分かった。
(……)
私なんだ。
(……)
あなたにとって。
(……)
一番大切なのは。
「韓国でも。」
「君のことばかり考えていたよ。」――アラタ
(……)
私のことを。
(……)
思ってくれていたんだ。
「でも、それじゃ質問の答えになってないぞ。」――セイジ
「ハルは。」
「僕の命なんだ。」――アラタ
(……)
いつも。
(……)
思いやりのある人。
「ありがとう、アラチン。」
「私も同じ気持ちだよ。」――ハル
「相変わらず、仲のいい二人だね。」――みんな




