表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏の雪  作者: つむぎ舞
39/47

八月一日②

 秋山義之率いる武装グループの立て籠もる倉庫建物敷地内。

 SAT及び自衛隊を迎撃した時とは異なり、建物周囲にも巡回の警備を置くなどし、目に見えて警備を強化している姿が目立つ。

 ここまで大胆に彼等が敷地内を出歩けるのは、昨日の自衛隊突入時に銃火器の発砲による周辺被害が広範囲に及ぶと想定された事から、警察と自衛隊による倉庫包囲の輪が大きく後退し、倉庫街全域が完全なる無人地帯と化しているためである。


 現在確認されている敵の数は十人。

 正面ゲートの内側を守る二つの土嚢トーチカにそれぞれ一人、倉庫建物二階の四隅に四人、そして倉庫敷地内の巡回に四人だ。

 武装グループの哨戒の連携は、倉庫建物二階四隅に配置されている兵がそれぞれ敷地内を巡回する兵達を常に視界に入れる事で成されている。

 つまり、巡回の兵を隠密裏に始末する姿は確実に建物内で歩哨に就く兵の目に止まり、その時点で侵入が発覚する。また、倉庫建物二階の四隅の兵達もそれぞれ連携しており、狙撃により一人を倒した時点で攻撃が露見し、特殊部隊特有の被害を最小限に抑えて敵を制圧するステルス戦術というものが封じられているという具合だ。だからまずはその連携を破壊する。


 対岸の人工埠頭にある巨大な立体駐車場の屋上階から約一キロメートル離れた倉庫建物の二階の兵士に向けM82バーレット対物狙撃銃が自衛隊特戦群狙撃手によって発射される。

 12.7mmの弾頭は倉庫建物の壁を破壊しながらそれを軽々と貫き、内部にいた兵士ごと吹き飛ばす。狙撃手は銃の角度を少しずらし、海側に面するもう一方の角に立つ兵士に距離と風向きを計算しながら狙いを付ける。狙撃手である彼の目には直接兵士の姿は見えていないが、ドローンによる盗撮映像と動態探知機、そして倉庫図面とを照らし合わせたドローン操縦士のサポートによってその位置を把握するのである。

 二射目の狙撃はさすがに外れたが、その二度の強力な火力による狙撃に倉庫内の兵達は混乱しており、海側に面する一帯を巡回する歩哨との連携はそれで崩れた。


 そして高森雪緒にとっては、その程度で十分であった。

 彼女は破壊されたばかりの倉庫建物の壁に注意を向けた兵士の横を駆け抜けながら、その身体に少しだけ触れる。兵士の身体は一瞬で凍りつき氷の彫像と化した。

 これを目視した巡回兵の一人がアサルトライフルを構えながら走り寄って来る。

 その銃撃を転がって躱し、高森雪緒は周囲に降る雪を更に激しく回転させて吹雪の渦にし彼の視界を塞いでしまう。雪が降る倉庫街の中でこの倉庫敷地敷内だけが激しい猛吹雪にさらされる。

 視界不良の中ではあるが、高森雪緒の目にはその場で立ち止まりアサルトライフルをあちこちに向け発砲している兵士の体温が形作るその姿がはっきりと見えていた。

 彼女が腕を一振りすると、その軌道上の湿った空気が氷の刃と化して突き進み兵士を斬り裂いた。高森雪緒が『氷刃ひょうじん』と名付けている技である。

 雪の嵐が消えるとそこには首無しの兵の遺体が一つ、薄く積もった雪の上に転がっていた。


 無線から特戦群のドローン操縦士が悪態をつく声が聞こえる。

「高森二佐、ドローンが今の吹雪で墜落しましたよ。もう一機も機能が、画像の乱れが酷…ブチッ」

「すまない、気を付ける。あれ?」


 無線の調子が悪い、先程の吹雪の影響だろうか。

 侵入経路上の歩哨二人を倒した彼女は倉庫建物に張り付き、そのドアノブを引いた。途端に銃撃が目の前のドアを襲いそれをズタズタに破壊する。

「ここからは銃撃戦のようね」

 高森雪緒はショルダーホルスターから自動拳銃グロッグ18Cを抜き放ち、三十連のロング弾倉を装填して閃光手榴弾を投げ込むと真っ暗な倉庫建物内へと転がり込むように侵入した。

 しんとした静寂、倉庫内にまだいるはずの三人の兵士達からの攻撃は無い。自動拳銃をフルオートモードに設定して構えながら高森雪緒は階段を上り二階部分を目指す。兵の姿は無く、確認しようにも無線の調子が悪い。

 ならば向かう先はあそこだ。

 高森雪緒は二階事務所前の壁を背にすると事務所のドアを開けてその中へと一気に躍り込む。

 彼女の目に入ったのは事務机に座る三人の初老の男達、自動拳銃を構えたまま彼等の前に立った。


「秋山義之か」

「そうだ」


 スイッチを押すようなピッという音と共に、壁から照射された光に捕われ、高森雪緒は突然身動きが出来なくなった。

 目の前の三人の男達が一斉に銃を構えて弾丸を何発も高森雪緒に撃ち込む。身体中を弾丸に貫かれて蜂の巣になりながらも、その光は高森雪緒を捕えて離さない。

 口から青い血を流しながら高森雪緒が彼等をキッと睨み付けるのを見て、秋山義之は感心するように声を上げた。


「凄まじいな、これ程の数の弾丸を浴びせても死なないとは。だが『雪女』といえども血を流すならば痛みも感じる。雪中と違いこんな場所では再生も微々たるものか。殺す事も出来るかもしれんな」


「何だこれは。答えろ」

「何だろうな? リチャード大尉の置き土産だよ。君に効果があって良かった。まあ、殺せなくともここに『雪女』を足止め出来ればそれで良し。部下達には君をここに引き込むように命じたよ。無駄に死人を増やしたくもないのでね」


「リチャード、傭兵リチャードか。奴は何処にいる」

「もうここには居ない。君を誘き出すための役目は十分に果たしてくれたよ」


          *          *


 秋山義之より撤収の指示を受けた倉庫二階の防御に就いていた兵士達三人は、高森雪緒の倉庫建物侵入とほぼ同時に建物二階から別階段を用いて敷地内へと出て歩哨任務に就いていた他の二名と合流、用意していたハイエースに乗り込み倉庫敷地からの脱出を試みていた。

 あとは入口の銃座の二名を回収して倉庫街を走行するだけ。「自分達を包囲している警察か自衛隊に投降せよ」というのが彼の最後の命令だった。

「我々は『防衛大臣』と『外務大臣』直属の秘密組織、後は彼等が裏から手を回してくれるはずだ」と秋山義之は彼等にそう語ったのである。


 そんな彼等五人を乗せたハイエースがトーチカ銃座の側に停車したその時、それは現われたのである。

 片手にヨーロッパ各地の観光地で買ったシールを一杯貼ったトランクケースを持ち、ゆっくりとこちらへと歩いてくる赤い洋服姿の年若い女性。

 こんな場所に迷い込んだ? 銃座で軽機関銃を構える兵士は銃を撃つのを一瞬躊躇う。だが、彼女の目が妖しく赤く光るのを見てすぐに引き金を引いた。

 消えた? どこだ?

 射界から一瞬にして姿を消した彼女の姿。


 空中へと飛び上がった『吸血鬼』十六夜六花いぜよいりっかは、パカリと開いたトランクケースの中からこぼれ落ちた超巨大なリボルバー拳銃と銃の巨大な弾丸を詰めた弾帯をそれぞれの手に握りしめると素早く五発の弾丸を装填し、落下しながら二つのトーチかへそれぞれ二発、そして五人の兵士を乗せたハイエースへ最後の一発を叩き込む。

 軽機関銃の発射と共にハイエースから飛び出す兵士達、十六夜六花の持つ超巨大拳銃パイファーチェリスカの600ニトロウラニウム弾の直撃を受けたハイエースは一撃で爆発炎上してしまう。


 地面に飛び降りた彼女は再び二つの銃座からの弾幕に晒される。瞬間移動しているような素早さでジグザグに回避しつつ、銃に弾丸を再装填しながら近づいてくる女の姿に銃手は狂乱し、叫び声を上げながら銃撃を続けた。

 ハイエースから辛くも脱出し散開した兵士の一人が放ったライフルグレネード弾が十六夜六花の横を掠めて遙か後方へと着弾する。思わず振り返った十六夜六花、そして再び顔を戻した彼女の目は明らかに涙目になっていた。

 彼女が避難させていたもう一つのトランクケース。その中にはヨーロッパ土産と各地のショップで買い漁った彼女のお気に入りの洋服達がぎっしりと詰まっていたのである。

 十六夜六花の背後で焼け焦げた多数の衣類が空を舞う。


 怒りを露わにした彼女はそのまま土嚢トーチカをズルリとすり抜けて内部へと侵入、銃手の胸ぐらを掴んで彼を持ち上げた。


「初任給と三ヶ月分のお給料の全てを注ぎ込んだ買い物だったのに…ぶっ殺す」

「許して、助けて。殺さないでくれ」


 そう慈悲を乞う銃手に向け、十六夜六花は首を小さく振りながら冷たく言い放つ。


「我ら『人外』は人との協定に基づき渡来の怪士あやかしより日ノ本の守護を司るものなり。その権は全ての法を超え、何人もその行使を妨げることなかれ。

 渡来種と組み我らに危害を加えし事、我らの領域に踏み込みし事、『渡来誘致罪』と『人外特殊保護法』違反により極刑を言い渡すわ」


 土嚢の壁に押しつけられ、そのまま力ずくで胸部を押し潰されて軽機関銃銃手は絶命。弾帯を襷掛けにした彼女は片手に奪ったミニミ軽機関銃も新たに加えて持ち、再び兵士達の前に姿を現す。


「誰一人、この私から逃げられると思うなよ」


 もう一つの土嚢トーチカに向けて走り出す十六夜六花、五人の兵士達が応戦するも一人、二人とパイファーチェリスカの巨大弾頭を身体に受けて吹き飛んでいく。

 目標を見失い銃身を右往左往させている重機関銃のトーチカの銃眼に向けて彼女はミニミ軽機関銃の銃身を突っ込むと、そのまま引き金を引いて全弾を中の機関銃手に向けて撃ち込んだ。


「ダメだ。化物だ。殺される」

 アサルトライフルの弾丸を撃ち尽くし、恐慌状態に陥り逃げようとする三人の兵士達の背中をワンショットワンキルで止めを刺していく彼女。

 静けさが周囲に戻り、十六夜六花は目を赤く光らせて周囲に生命が残っていないかを探し始めた。

熱感知透視インフラビジョン』、彼女が持つ異世界吸血鬼の持つ能力の一つである。


「外にはもう生きてる人間はいないわね。あとはあそこか、高森さんは何をしているのかしら?」


 十六夜六花が見上げるのは倉庫建物の二階、彼女の目には二つの人間大の熱反応と一つの小さな熱反応、そして周囲よりも熱反応の低い異質な反応が一つ映っている。


「高森さんと人間が二人。もう一人は人間? 何か一つ変なのが混じってるわね」


 そう彼女は呟いた。

 原文とは随分と改変した内容で書いているため、次話との繋がりを確認しながらの作業という事で投稿が遅れています。次話もすでに九割方書き上げたので、本日は二話投稿出来ると思います。

 高森雪緒が一人で戦うのが原文、高森雪緒がしくじり、十六夜六花登場としたのでちょっと書き直すのが大変でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ