表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏の雪  作者: つむぎ舞
14/47

姫ちゃん現る

 放課後のクラブ活動。

 ゆま先生に託された『日本の未確認生物研究発表』の為の膨大な資料の束を藤村部長と日吉副部長の二人で熟読した結果が今日発表されました。

 結局、一年生の女子部員である佐々木さんと小林さんの二人は、あれ以来柔道部の方のマネージャー業に集中している様子で、この作業は私と南君を含めた四人だけで進める事になりそうです。


「結論から言うとこの資料はとても面白い。でもそのまま使う事が出来ない。だからかなりの部分を自分達の手で展示用に書き換える必要があると思う」


「つまり、それをカラーコピーとかして展示って訳にはいかないって事か」

 藤村部長の説明に南君が面倒そうな口調で言います。具体的に私達にも分かるようにと資料の一つを開いて見せながら、藤村部長が説明を始めます。


「まずはこの添付写真だが…」


 写真には形の不思議な生き物や動物みたいなもの、そして踊る猫に一見人らしきものが確かに写っています。でもその横には必ず笑顔でピースサインをしているゆま先生の姿があるのです。


「何これ、信じられない」

 私は思わずそう口にしてしまいました。

 写っている変な生き物達についてというよりも、横で写っているゆま先生の行動に思わず声が出ちゃったって感じです。

 撮影日がいつのものか分からない赤茶けた白黒写真の中ではさすがにピースサインはしていませんが、昭和あたりのものからピースサインで写り始め、平成では両手を前に大きく突き出した逆さピースに変わり、そして令和には胸前で手でハート型を形作るような写真まで。その全てが親しげな友人と記念撮影でもしたような写真ばかりなのです。


「これさ、ゆま先生自作の研究資料なんだろうけれど、この写真をそのまま展示では使えないだろ」

 こんな変なものを見せられれば、資料そのものが全部ヤラセだって笑い飛ばされても仕方ないのですが、ここ生物部、もとい『都市伝説調査隊』の面々の反応は違いました。

 彼等はここに写っている怪しげな生き物は全て本物で、後からゆま先生自身を合成で貼り付けているのに違いないと考えたのです。

 彼等がこの資料を事実と捉えるのはその資料に記された情報の詳細さです。撮影地の住所だけでなく未確認生物とされている者達の名前と現在の生息数や連絡先。その家族構成といった個人情報がびっしりと書込まれているのです。

 ただ、資料の何点かは偽物のっぽいって日吉副部長は断定します。そしてもう一つ不満な点は彼等『都市伝説調査隊』がその存在を認定しているここ尾道の怪異についての資料が一つも見当たらないこと。


「おう、やっているな諸君」

 藤村部長から呼ばれていたゆま先生が部室のドアを開きながら言います。そしてゆま先生を交えての資料についての意見交換や質問会が始まりました。


「この資料、先生のおふざけで台無しになっていますよ」

 日吉副部長がファイルを指さしながら言います。ゆま先生を写真に合成した事でせっかくの資料が台無しだと言うのです。


「ふむ、ツッコミ所がそこか…面白い」

 私はともかく、資料そのものを否定しない三人の姿にゆま先生は大層満足げで嬉しそうな表情。


「その写真は全て本物。私もちゃんとそこにいたから合成ではないぞ。自分の目で確認して写真撮影をお願いしてから撮ったものだよ。写真の合成? そんな事が今は出来るんだねえ。日吉、後でやり方を教えてもらえるかな」


 ゆま先生の発言に皆「おおっ」と声を上げますが、日吉副部長は一人首を傾げて独り言を…。

「そうなるとある矛盾点が、明治や大正時代のものらしきこの写真にゆま先生が存在…それって僕のひいお婆ちゃんよりも年上に…」


 あっ日吉副部長、それ以上考えるのを止めたみたい。そうです、それが正解です。ゆま先生に歳の話をするとブチ切れる可能性が高いです。

 ゆま先生ことお婆ちゃんの推定年齢は私も実数はよく知らないのですが数百歳はいっています。推しのアイドル的存在は戦国時代の東北の雄、あの伊達政宗だてまさむねだって豪語している様な人です。


「でも先生、この資料に僕は不満点が二つあります。一つは資料がまだ不完全であること。そして二つは偽物らしきものがいくつか混じっていると思われる点です」


 日吉部長がゆま先生に対して挑戦的にそう述べると、ゆま先生の方も「ほう」とばかりにその言葉に感心を示します。

「日吉、まず資料が不完全とはどういうことかな?」


「この資料の中には僕たちがその存在を断定しているここ尾道の怪異の記載が無いことです」

「尾道の怪異だと。それは君たちの空想の産物ではなくて?」


 それについては私も声を上げます。

「先生、私もそれははっきりと見ました。尾道に怪異は存在します。済法寺の『げんこつ和尚』は顔がこうくわってしわくちゃになったし、千光寺の『龍神』は目がビカーって光ってたし」


「ほうほう、由季子も見たのかい。なら本物の可能性が高いな。今度、菓子折持って挨拶しに行ってくるから場所を教えてくれないかな。国内のものは完璧に仕上げたと思っていたがまだ抜けがあったか。確かに平安時代建築の寺社の多い尾道、調査し直す必要がありそうだねえ」


 日吉副部長は自分達の説がゆま先生に認められた事で、得意げにスマホを取り出し『都市伝説調査隊』が存在を断定しているいくつかの怪異情報を彼女に伝えます。藤村君と南君もそれに参加して私だけが蚊帳の外みたい。

 

「済法寺はここで、千光寺はここ。べっちゃー祭りの鬼は出現場所が不明です。あとは浄土寺と瀬戸田の耕山寺こうさんじ、少し遠出すると怪異ではないですが大久野島おおくのじまの旧日本兵の幽霊とかもありますけれど」


「ああ、日吉。お化けは専門外だ」


 聞いたことの無い古の寺社の名前が次々に挙げられていきます。尾道以外のものもいくつかある様ですよ。でも確か大久野島って兎がいっぱいいる島ですよね。ぜひとも行ってみたいですが、お化けは嫌だな。見たら私気絶するかも。


「それで日吉、もう一つの偽物が混じっているというのはどういう事なんだい?」


「確かに先生から提供された資料の殆どの怪異はこの僕の頭の中に蓄積された膨大な怪異データと合致していますが、いくつかイレギュラーなものがあります」


 日吉副部長は日本産の吸血鬼と橋姫の亜種とされる存在を例に挙げてゆま先生に言います。


「目に付いたのは比較的新しいこの二つですね。一つ目は最新の吸血鬼の十六夜六花いざよいりっかさんですけれど、吸血鬼っていえばまずオーストリアのトランシルバニア発祥っていうのが基本でしょう。日本産の吸血鬼、それも異世界帰りって『なろう小説』じゃないんですから、これは事実とはとても思えませんね」


 日吉副部長は続けます。

「この京都の一橋一家。橋姫の亜種なんて書かれていますけれど、どう見ても小説や映画『貞子』のパクリでしょ。電波を介してテレビや監視カメラ、スマホ画面を通して物を見たり瞬時に移動したりって、そんな能力を持つ怪異なんて知らないし聞いた事も無い。さすがにこれは無しでしょう」


 どうだとばかりの日吉部長の態度。

 ゆま先生は長年かけて作り上げたその調査成果の一部をこの若者に否定されたことにどうやらムッとしたご様子。日吉副部長に否定された二つを証明できないと全ての資料の信憑性が無くなるとでも考えたのでしょうか、なにやら小声でブツブツと独り言を言っています。


「そっかあ、六花ちゃんは今頃北欧でオオカミ男を退治している最中だからすぐには呼び戻せないし、一橋警部はこんな事で呼ぶなってきっと怒るだろうし、どうするかな」


 そしてゆま先生、何かをひらめいた様で私達全員を第二校舎四階の多目的教室へと半ば無理矢理に連れ出します。そしていおもむろに携帯電話を取り出しどこかへ電話。

「姫ちゃん、今暇かな?」

 携帯電話の向こうからも声がします。この学校の具体的な場所の説明が終わるとゆま先生が声を上げました。

「お前達、教室のカーテンを閉めてくれ」

 ゆま先生の指示に従い教室中の黒いカーテンを閉めます。隣の準備室に人が居ないことを確認して教室内のテレビを点灯、そしてゆま先生は電話の主にその事を告げました。


 テレビ画面のザザーッって砂嵐が急にクリアになって何処かの森の様な風景が見えます。家の庭先でしょうか、画面中央には小さな井戸のようなものが…。

 一度画面が暗転し再びクリアになると、そこには白い着物を着た長い黒髪を垂らした女性が立っています。更にストロボが明滅するようにテレビ画面と教室の明かりが消えては点灯するたび、テレビ画面の中の彼女はこちらへと近づいてくるのです。そしてついには顔のドアップに。

 そして一瞬の眩い光と共に私達の目の前に、正確には日吉副部長の目の前にその女性は現われました。


「え~彼女は姫ちゃんです。呪いとかそういうのは無いから、安心して」


 安心とかそういう問題じゃないと思うんです。ゆま先生、一体何をしでかしているんですか。男子達三人とも口を開けたまま固まって全く動けません。


「姫ちゃん。可愛い」

 間近で彼女の顔を見た日吉副部長がそう声に出します。彼の言葉に姫ちゃんは目を輝かせて喜び、その場で何度か飛び跳ねていました。

「そんな事初めて言われました。とっても嬉しいです。こんな姿じゃアレなんで、ちょっと着替えてきますね」

 姫ちゃんと呼ばれるその人はテレビの方に向き直るとまた姿を消します。今度はテレビ画面に向こう側から手書きの『しばらくおまちください』の張り紙。かなり長く待たされましたが、その張り紙が剥がされると画面の向こうにはどこかの学校の制服に着替え髪の毛も綺麗に整えた女の子の姿が、こっちに笑いかけながら手を振っています。

 もう一度ピカッてテレビ画面と教室内が光ると、そこに現われたのは下着姿の女の子。自分の今の姿に気付いた彼女は黄色い悲鳴を上げてその場に座り込みます。


「ちょっと男子、すぐに後ろを向きなさい」

 慌てて男子三人を教室の隅に追いやって、両手を広げて立ち塞がりました。背から姫ちゃんのずんと落ち込んだ声が聞こえてきます。

「失敗ですね。やっぱり洋装での移動は無理みたいです」

 ゆま先生がひとっ走りして自分の体育用のジャージを持ち込み、それに着替えた彼女は改めて私達四人に自己紹介。


「京都の平安女子学院高等学校二年一組、一橋姫子ひとつばしひめこです」


 その学校って、私も風の噂に聞いた事があります。顔面偏差値の非常に高いお嬢様学校だった様な気がします。

「今、僕は運命の人に出会った」

「日吉、マジか」

 藤村君と南君の言葉を無視して日吉副部長は姫ちゃんに歩み寄りぐいぐい行きます。姫ちゃんと連絡先にメルアドももう交換しているみたいですし、彼女の方も何か心なし嬉しそう。これは、カップル誕生の瞬間ってやつですか?


 この姫ちゃん騒動を体験した藤村君がゆま先生に言います。

「ゆま先生、俺達は怪異の存在を信じてはいたけれども、それを実際に見たり経験した事は今まで一度もなかったんですよ。俺は、俺達は今猛烈に感動しています。先生、ありがとう」


 南君も「俺は今日の日を絶対に忘れない」なんて天上を見上げながら体を震わせています。でも驚きです。この私でさえ今のこの出来事に動揺しているのに、藤村君達、驚くどころか大はしゃぎなんですから。


「ゆま先生。もう一度確認するけど、あのファイルに載っている怪異の内容は全部本物って事ですよね」

「ああ、私の長年の研究成果ってやつさ。お前達、今日の事は秘密だからな。あのファイルも文化祭での発表以外での外への公表は禁止」


「分かってますよ。ゆま先生の研究成果を奪うはずないじゃん。俺達は俺達なりの研究を進めて尾道の謎を解き明かすよ」

「おお、その意気だ。頑張れ若人」


「うおおお、何かやる気出て来た。日本の未確認生物、これを伝えないなんてあり得ない。文化祭で絶対に発表するぞ。皆もいいな」


 そんな藤村部長の言葉に反論する者など私達の中には誰一人としていません。

 ゆま先生はせっかく姫ちゃんが来たから、彼女のお母さんの所へ連れて行くって言います。

 姫ちゃんのお母さん、今尾道にいるんですね。


 ゆま先生と姫ちゃんの二人と別れて私達は部室棟の部屋へと戻り今日からの作業の準備を始めます。

「そういえば高森さん。一人だけ驚いて無かったよな。姫ちゃんの事を知ってたのか?」

「えっ十分に驚いていましたよ」


 彼等にはお婆ちゃ…いえ、ゆま先生の事も私の事も話せませんから、そういうことにしてやり過ごしました。そして翌日からゆま先生提供の資料を文化祭展示用にまとめる作業が始まります。

 各都道府県ごとの怪異の紹介文を日吉副部長が簡潔にまとめて、私と南君とで大きな用紙にそれを清書。そして藤村君が写真の怪異をそれぞれ可愛らしくイラスト化していきます。

 何か本格的なクラブ活動の開始って感じがしてきました。

 でも火曜日と木曜日だけは藤村君、クラブも早々に切り上げてさっさと帰っちゃうんですよね。


 それにしてもゆま先生はなんで生物部の皆に秘密をばらしちゃう様な事をしたのでしょう。あの資料ってやつも確か政府の機密文書とかいうやつですよね。それに姫ちゃんって子まで部員達の前に連れて来ちゃうし。でもきっと彼女なりの深い考えがあるんだと思います。

 秘密をばらした生物部の部員達の人となりは既に調査済み、そういう事にぬかりのない人ですからね。これはきっと私が一人で考えてもきっと無駄、今度直接聞いてみようかな。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ