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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
昔話パート3
47/56

「光運」弐

『これはロキ殿……なんとまあお労しい』

『ガキの頃調子に乗って、ナールママにしこたま折檻されたの思い出したわ。ふふふ……』


 歯と瞳を純白に剥き眠りについたその顔より視線を外し、負けず劣らずの色の肌を煌めかせる微笑みをにらみ据える。


『姉上。これは暫くぶりに御座いますな』

『ほほ。お前も少し見ない間に随分と、愉快なお友達と仲良くなりましたこと』

『貴女様こそ珍妙面妖奇ッ怪なる力を身につけ、益々厄介となられたご様子で』

『ええ、建速の武芸を極限まで鍛え上げし努力。そしてお前の、外界との友愛という言葉を笠に着た国売に対するため体得したものです』

『ほう? して、それは何と』

『“光運”ですわ。災いに打ち克つに刃や策謀を用いる必要はなし、そもそも寄せつけねば良いだけのこと。まばゆき光を直視することは出来ぬように』

『光運……ふむ』

『自ら何をすることもなく勝利する。これこそが陽の王たるわたくしに相応しき、天より与えられし最も強き才ですわ』

『クククッ! フハハハッ!』

『むっ、何が可笑しいのです』

『なに、偉そうに嘯く割には所詮、我が想定の範疇を超えてはおらぬようでな』

『どういう意味なのでしょう』

『ひとつ忠告しておくぞ姉上。かような極東の孤立無援なる島には所詮、海の向こうの大国に勝るモノなどないのだよ』

『はあ』

『ゆえにこそわたしは彼らとの盟を求めた。この弱き国を強く豊かとする礎を作るために』

『ふむ、それで何が言いたいのでしょう』

『運か、生憎さようなインチキやイカサマにペテンで頂きは取れぬのだよ。敗れし“前例”があるゆえな』

『ほお』

『貴様も万象のひとつに過ぎぬ以上必ず殺せる、いつかは絶対に滅びるということだ。今こそその刻よ』

『では、お前にこのわたくしが倒せると』

『ハッ、馬鹿めが。そしてわざわざこのわたしが戦う必要が何処にある? さあおいでませ義父上よ!』


 合図の瞬間、わたしと天照の間に蒼白く輝く光柱が出現する。その中より出でし横顔が、


『フッ、人使いの荒いことだ』


 と、こちらを一瞥したのちあやつめと相対する。


『これはこれは驚きましたわ。まさか本物の【落星】殿がお出ましになるとは』

『そなたこそ、その豪胆さと美しさを兼ね揃えし様は親譲りのようだな。何とも懐かしい気分であるよ』

『ほほ。それはかの恥知らずのことを仰っておいでで御座いますか? “恨み”と“怒り”に呑まれあのような悪鬼と化した、稀代の逆賊の』

『フッ。ナミを……伊邪那美をそう言ってくれるな。そなたの母なのだからな』

『丁度よい。ではその要因を招いた張本人に、今こそこの手で然るべき処断を』


 姉君が薙刀を構え直す。その切っ先と奴の眼を通り、さらにこちらへと鋭く反射する光でもって成される無言の布告。

 成程、厄災をはね除けし運と元来の優れたる武勇。そのふたつを本気で発揮せんとする我こそが最強よ。さあ刮目して見よ、とでも言わんばかりだ。

 されどわたしの考えが正しくば、つけ入る隙はその二段構えにこそある。矛も盾も、強大であるほど自らを苛む足枷となるに相違ない。


『それは私もそなたも同じだ、ツキヨミ』


 不意に義父上が、こちらへと再び視線を向ける。


『この国を手に入れる、私の命を使ってでも――。そうと決めたのならば貫き通せ。ひとつ言えるとすればそれのみだ』

『義父上――?』

『されど横道に逸れた先で見出せる光もまたある。生とはかくも面白きものよ』


 流石、この胸中に秘めしさらなる企ては見透かされていたか。だが二度目の言葉、その意味は一体――

 義父上よそれはと即座に尋ねるも、答えの返ることなく激闘の火蓋が切って落とされる。


『消え去りなさい明の星よ! 白にも黒にも属せぬ落伍者よ! 光に照らされるのみの木偶の坊、我が愚弟とともに!』

『フッ、感じるぞ。その溢れんばかりの闘志を。“諸刃の剣”を。そなたの辿るは我がかつての宿敵と同じ道か、それとも――。見届けさせてもらおう』

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