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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート3
39/56

「雷撃」

 

「うぐおおおッ!!」


 果敢に攻めていた建だったが逆にヒノに両脚をつかまれてしまい、やつの能力で全身を焼かれながら頭から急降下させられる。

 夜空に煌々と燃える紅き軌道は、さながら花火の逆再生のようだ。


「ぐわあああッ!!」

「フハハハ、燃えろ焼けろ焦げろ蒸発しろ……血の一滴すらもな! ウェルダンを超えたベリーウェルダンとしてくれよう!!」

「ほう、肉は残してくれるんですかい!? そいつは有難えや!!」

「なに、お前の喰らってきた四足(けもの)たちと同じにしてやるというのだ……光栄に思え! フハハハ!!」

「生憎、おれの好みは鶏でね! それも蒸したやつのな! 焼肉より高蛋白、低脂質なんですぜ!!」

「なら、さっき食っていた牛丼は何だ!?」

「アッ、そういやそれもそうだったか!!」


 さて、脳筋どもの戯言は放っとくとしてこりゃまたまずい状況だ。温泉街すべてを焦土にせんとするヒノの迎撃のための空中戦なのに、形勢がまるで逆戻りだ。

 さすがの建も常人なら一瞬にして焼け死ぬ灼熱地獄と、あの高さからの衝撃じゃ無事ではいられまい。このままじゃ大惨事は火ィだけに火を見るより明らかだ。

 それどころか下手すれば昔アメ公が落としやがった広島原爆の二の舞になる。人々に危害が及ぶのは何としても避けなくては。


「つってもどうする気よ! 私たちでアレをどう止めろっての!?」


 隣で狼狽する小夜子に俺は静かに応えた。


「なに心配するな、勝ち筋は用意してある」

「はああ!? どうやって!!」

「ところでさっきから寒いと思わないか?」

「クシュン! そういやあの男の熱気は着実に近づいてきてるのに――この辺だけは馬鹿に冷えンね」


 そう、ここで再び我が“変若水”の出番だ。俺の全身にくまなく流れる伝説の霊薬の働きで、周囲の熱をも気化させる秘術のな。

 すでに辺り一帯の気温を可能な限り下げ、冷気を空へ煙のように流しておいた。

 それを建の極限まで鍛えた筋肉の発する電気信号と反応させれば――ホラ大きくなってきたぜ。舐められたり吸われすぎて黒く変色したアレのような暗雲がな。


「建、ドデカいのを一発喰らわすぞ! 電気を出して出して出しまくれ! 給料日あとの俺が“店”に行くみたいにな!」

「応、今だけは一穴主義を破るとするぜ!」


 さて、準備は整った。これで狙いはわかっただろう? ショータイムと行くぜ!


「はあ、なんて下品な男どもなンだろ本当」

「まあ、父親がそれは相当な好色家でしたしね。口説き文句のセンスは酷いですが。『お前の身体の凹みに俺の凸を入れよう』だとか言い出す人で」

「テメエもそいつから生まれたンだろうが」


 隣での珍しい組み合わせの掛け合いをよそに、上空に建の雄叫びが激しく轟く。


「ウウウオオオオオオオオオッッ――!!」

「タケ、貴様!? 何をするつもりだ!?」

「ふふ、ところでよォおめえ様。いい身体してるがアタマの方はどうですかい?」

「何ッ!?」

「空に昇る冷気の仕組みは知ってっか。それは次第に氷の粒となり、やがて重さで逆戻りする。上と下、互いのぶつかり合いで静電気が生じるのさ」


 天を指し、俺も便乗して叫ぶ。


「そして雲は最終的に、溜まったそれを地面に逃がそうとする。モノをティッシュに出すみたくな!」

「まっ、まさか!!」

「それが落雷の原理さ。建の筋肉の放つ電撃も加えれば、それはもうすさまじい威力になるだろうぜ」

「きっ、貴様ら!!」


 ゴロゴロ――


「このおれを掴んだままなのがおめえ様の敗因だったな! さあ覚悟されよ!!」


 カッーー!!


「ぬわーーーーーーっっっ!!」


 天駆ける龍の爪、いやこれはそれをも超えた“牙”だ。それが鋭い閃きとなり一直線にヒノを貫いた。

 やつはスキンヘッドなので逆に跳ね返されちまったらどうしようと少しだけ肝を冷やしたが、まあ杞憂に終わったな。


「オラァ!!」


 建の鉄槌を受け逆に自分が叩き墜とされるヒノ。もう意識はないだろう。すべてを焦がす熱気も失われ、銃弾さえドロドロにしちまう力もついに封じてやった。

 1.21ジゴワット、いやギガワットの雷に打たれりゃ肉体に深刻なダメージを受けるからな。かの戦国大名、立花道雪が下半身不随になったように。


「親父に代わって今度こそ討たせてもらいます。さようなら兄さん――お達者で」


 落下する脳天が地面にブチ当たる寸前に一発、その眉間にトリガーを鋭く引く。

 やがて建も長い空中散歩から帰還し俺の側へと鮮やかに着地する。


「ヒノ……バカな!」


 驚愕するヒルコに、ふたりで人差し指を突きつけて高らかに言う。


「俺の頭脳と建の力、一度は姉さんをも打ち負かした実力は伊達じゃないんだぜ」

「これぞ器の違いよ、おめえ様ら程度じゃハナっから相手にならねえってことさ」

「ふう……ちょいとばかし疲れたな」

「何だい兄貴様よ、何発もしこたま頑張ったおれより先にばててどうすんだい」

「いや……ヒルコにお前、ふたりの顔を同時に見たらつい、な。どういうワケか……急に」

「おいおいどうしたよ、顔色が悪いですぜ」

「クソ……この島根に来てからどうも昔のことが……な。一体何、だってんだかよ……」

「だからって脅威が完全に去ったわけでもなけりゃ、時間も待ってはくれねえぜ。しゃんとされよ。というわけで次回、高原署〜『反逆』」

「お楽しみにね♪ ――大丈夫? ヨミさん……」

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