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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート3
37/56

「落星」

「ヒェッ……相変わらずスゲェな」


 サノさんの拳の引き起こす超風圧による大竜巻。轟音とともにヒノという大男を一呑みに喰らい、その身を激しく切り刻みつつ上昇する。


「身を護る“電撃”と離れた敵も穿つ“烈風”。これも極限まで鍛え上げた肉体の成せる業だ。筋肉に不可能はねえ」


 最後に見たのはいつぶりか。たったひとりでこんな天災レベルの現象を起こせるなンて、あまりにやばすぎる。


「何だと……まさかヒノまでもが」


 向こうではヒルコの野郎が、その間抜け面に驚愕の色を浮かべ悔しそうに天を仰いでる。

 いい気味だが今の私とやつとはたぶん同じ感想を抱き似た表情をしてるだろう。それが少し癪に障る。

 まあ私なンかとこのふたり、さらに“天岩(アマイワ)課長”を含めた姉弟とじゃ昔から全然格が違う。本来私みたいな田舎娘と親しくしてるなど、世が世なら絶対あり得ない出自のヒトたちだからだ。

 ふう、まだまだその領域には踏み込めず、いや、肩を並べることすら決して叶わずか――


「卑屈になるな小夜子、別にお前をハブってるわけじゃないぞ。例えばエロDVDの趣味も隠し場所も、弟は知ってても妹には教えないだろ」

「否々、流石に“えーぶい”の共有はせんでしょう、幾ら兄弟でも。そもそもおれはそんなの観ねぇしよ」

「えっ、観ないのですか? タケ」

「応さ、先立たれても心に決めた女のみを愛し続ける。それこそが真の漢よ」

「こいつ根が硬派だからな、いわゆる“一穴主義”ってやつなんだよヒルコ。人生損してると思わない?」

「うん……まあヒトそれぞれですしイイんじゃないですかね。私とツキヨなら耐えられないでしょうが」


 はあ……少しでもセンチになった私がバカだった。全身の力が一気に激しく抜けてゆく。


「そうですね、緊張感の消えた勝利ムードに水を差してすみませんがね君たち。まだ終わってませんよ」


 ここでヒルコが人差し指で器用にサングラスを回しながら何やらほざく。この死に損ないが、今度こそとどめを


「待て小夜子。――耳をすませろ」


 “ヲヲヲォォォォォォォォォッ”


 上空からうなり声のようなものが少しずつ近づいてくる。えっ、まさか――


「チッ、おれもまだまだ未熟ってワケか。殺すつもりでブチかましたのにな」


 “ォォォッ……オオオオオオ!!”


 それがはっきりと聞こえる頃には、上空に煌々と赤く輝く“炎の塊”も明確に視認できた。

 まるで隕石が、太陽が今にも落ちてきそうなごとく周囲の気温も再び上昇してる。やばい、やつはマジで炎そのもの、生ける爆弾なんだ!


 “オオオオオオッ……貴様らすべて消し飛べェェィィ!!”


「さあ来ます。辺り一帯さぞ派手に吹っ飛ぶことでしょう。打ち上げたのが失策でしたね」


 バカな、仲間(アンタ)もいるのにこんな――。だがヒルコの野郎は、指先でクルクルしてたグラサンを滑らかな手つきでかけると平然と言い放つ。


「日本に、君らに嫌がらせをするためならば手段は選ばない。それが、私たちなんですよ」


 クソッ、もう一刻の猶予もない。ヨミさんから肩を叩かれて走れ! と声をかけられる。


「建、彼女のところまで行ったら拳で穴を掘るんだ。絶対に死なせるな!!」

「否、駄目だ。間に合うはずもねえしこれでは温泉街丸ごと焦土と化しちまう。ここで迎え撃つッ!!」

「何だと!?」

「お忘れですかい兄貴様。何年経とうが此処はおれたちの故郷なんだ。何もかもがブッ壊され、焼き尽くされんのを見過ごせるはずがねえ」


 言われた通り走る準備をしてたのに、ふたりはその場から一向に動き出さない。それどころかアレを今から迎撃するだなンてちょっと何言ってンのかわからない発言まで飛び出す始末だ。


「小夜子、パトカーの側に稲田さんがいる。彼女を頼むぞ」


 ちょっ、本気!? 食い止めるってどうやって。質問に答えることなくヨミさんは背を向けてしまう。


「やれやれ、普通そんな発想に至るかって。クソ真面目な野郎だな、お前は」

「いえ、あんた様より少々ましな程度です。そんなことより最早“変若水”も残り少なしでしょう。おれがやりますから援護だけ頼んまさぁ」


 サノさんが地面を蹴り、跳ね上がったアスファルトの塊に飛び乗る。それを足場にまるで空を飛ぶように――ってああもう、勝手にして!

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