エレベーターの中にて
櫻井が自分の過去を話し出した。
人はそれぞれに過去があり、今の生活がある、そしてラッパーは、いや人は過去を乗り越え今に辿りついている、だから強くなれるし優しくもなれるのだ。
なんちゃって。
マケルはスーコの手を引きエレベーターに向かった、スーコはグイグイと引っ張られながら
「そんなグイグイしたら痛ぇってマケル、急がなくても大丈夫だっつーの、ダメなら階段で上がりゃいいじゃねーか」
とのんびりした様子だ。
しかしとにかく生き残る為にMCバトルをし続けなければならない…だがマケルは弱い、スーコに頼ってしまう事となる、このままで本当に良いのか。
複雑な気分のまま業務用の大型エレベーターに向かって走り出した。
他のメンバーも走って後を追って来る、一番年配の櫻井もなんとか追いかけて来た。
スネークは必死で走っているものの、息切れして途中で止まってしまったが、追走していたムゴンにひょいと抱えあげられ、みるみる内に皆に追い付いた。
スーコはもはやマケルにおぶられながら、スネークに向かって言った。
「やーい、ドラッグばっかやってるから走れねえんだよ!オッサンにまで負けてるじゃねーか」
スネークもムゴンに抱えられながら反撃する
「てめーも男におぶられてるじゃねーか!それに俺は売り物のドラッグに手なんかださねぇよっ!お前と違って俺は高学歴の東京帝国大学医学部出身なんでな、さしずづめ勉強し過ぎで運動不足ってとこだぜ!バカは頭が回らねぇな!バーカ」
スネークと言うギャングは本当に医学部出身なのか?!と思いながらエレベーターに乗り込み、皆がいる事を確認してから、階数ボタンが無く上昇ボタンのみの有線コントローラーをを押した「ガタン!ヴーーーンッ!」と普通のエレベーターとは違う独特に雑く力強い音が響き渡り、本当にゆっくりと上昇を始めた。
すると、エレベーターの中で櫻井がぽつりぽつりと話しを始めた。
「皆さん。ここにいるトメ子ちゃんと私は何かやましい関係があるのでは?とお思いでしょうけれど、決してそんな事は無いんです」
皆がホントかよと言う顔で櫻井を見たが、本人はあまり気にする様子無く続けた。
「皆さん同じ境遇かと思いますが、私は…私も実はフリースタイルバトルが好きで、会社の文具を押韻学園に卸す事を口実に、韻牙島に出入りしてバトルを観戦していました、いつか自分も出場してみたい、なんて夢まで見る様になってしまって、そこを急に拉致されて袋を頭にかぶせられて、着いた先でトメ子ちゃんとMCバトルを強いられたと言う…」
そう言えばマケルもそうだったが、何となくうやむやにスーコとはペアを組まされた、この櫻井と言う人とトメ子はどの様な経緯でペアを組まされたのだろうか。櫻井は続きを話す。
「トメ子ちゃんは流石にお若い人だ、私の様に古い押韻スタイルでは到底かなわない、審判は誰がやっていたのか、観客がいたのかも分りませんが、トメ子ちゃんが勝ったと言うアナウンスの直後、私の頭に何か固い鉄パイプの様な物が押し当てられました…今思うと銃口だったのかな、そうしたらトメ子ちゃんがソレを止めてくれて、私の様なオジサンを引き取ってペアを組んでくれると言ってくれたのです」
マケルはその話しを聞いて「やはり俺たち同様、うやむやな感じでペア決定か」と思ったが、さっきのグリッターの話しでは結構具体的にペアの相手を勝った方が選んでいる様子も伺えた、するとスネークも話し始めた。
「俺達は同等って所だったか、否、むしろムゴンの方が強かったかも知れねえ、しかしどちらが勝ちと言う事は言われ無かった、とにかくこのムゴンは強かった。今まで押韻スタイルに負けた事は無かったが…」
スネークが話している所をスーコが遮る様に
「あんたバトルなんてするんだっけ?そう言えば前にあんたん所の金庫の中身全部ぶんどって行った時、あんたも4〜5回戦位で当たったっけ?あんま記憶ねえわー、キャハハハハ」
小馬鹿にされたスネークはまんじりとしない顔付きをしながら続けた
「ああ、お前には本当に煮え湯を飲まされたぜ。とにかくだ、俺もムゴンとバトッちゃいるがこうして生きている、まるで俺とムゴンをわざとペアにした様なあつらえじゃねえか」
スーコはスネークの話しを聞いて、頷きながら答えた。
「アタシもマケルとバトルみたいな事をして、もうチョイで殺されちまいそうになった所をマケルに助けられる様な感じでペアになったな、ペア基準は何か決まっているのか…な?マケル♡」
マケルは急にスーコが近付いて来て驚くより照れくさかったが、軽く頷き答えた。
「俺は押韻学園1年、山道マケル。この中では恐らく一番弱いだろう…一方俺とペアを組んでいるスーコは、この中でも一番か二番に強いかもしれない。それに公式戦なんて出た事も無いし予選すら通らない、なのにいきなりスーコと当てられて、今こんなに凄い面子と一緒にされている…何かある筈だ」
すると櫻井が話し始めた。
「そうですね、なにかジャンルと言うかバランスと言うか、そう言う所でペアにされている様におもいます」
と櫻井も同意した、その後櫻井自身の身の上話に戻る。
「私、実は25年程前にまだまだ都内でもフリースタイルバトルが公園やクラブで行われていた時、そこら辺のバトルでは負け知らず…と自分で言うとお恥ずかしい限りですが、割りと強いバトルMC集団の一員でした、メジャーでもアルバムを出したりしていたんです『45シンドローム』と言うグループでMCネームはチェリーでした」
マケルは驚きながら言った
「え!?あの『45シンドローム』ですか?!テレビ番組の『にこにこビーフ!!』の主題歌をやっていましたよね??」
櫻井は照れくさそうにコクリと頷き
「はい、しかしメンバーのソリッドこと橇山の薬物所持発覚、私の不倫騒動でメンバーは離散、メインMCだったビレッジマウンテン、ビレマンこと村山だけは今も俳優をやっています、トメ子ちゃんは…」
と櫻井がトメ子の話しをしようとした瞬間、トメ子が櫻井の頭を、ごついネールが施された平手でパチンッと叩いた。




