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第63話

 人面瘡の一件で霊力を使い切った英二は2日間学校を休んだ。

 サンレイとガルルンも一緒だ。

 霊力を使い切って爆発能力も使えない英二を1人にするわけにはいかない、力を狙う妖怪に襲われれば一溜りも無いだろう。


「英二、お昼持ってきたがお」


 ベッドの上で上半身を起こす英二にガルルンが昼食を持ってきた。

 気を失った日を入れて2日間目を覚まさなかったのだ。

 3日目の午前9時頃に起きたが疲労困憊と言った様子で会話もままならなかった。

 昼になってようやく上半身を起こせるほどに回復したのだ。


「そのままでいいがお、ベッドのまま食べられるように作ったがお」


 ガルルンがベッドで上半身を起こしている英二の足の上に段ボールを刳り貫いたテーブルを置いてその上に料理の乗ったトレーを置いた。


「ガルちゃんありがとう、旨そうだ。机も作ってくれたんだね、ありがとうな」


 ガルルンの優しい気遣いに英二が感動して泣き出しそうな顔で礼を言った。


「ブタの生姜焼きがお、昨日の夜御飯がう、英二は寝てたから食べてないがお、さっき母ちゃんに習ってガルが焼いたがお」


 病み上がりではなく疲労しているだけなのでお粥などより精の付く物の方が有難い。


「ガルちゃんが焼いてくれたの? ありがとう」


 感激しながら一切れ食べる。


「ああ……美味しいよ、今まで食べた生姜焼きの中で1番美味しいよ」

「わふふ~~ん、英二に褒められたがお~、ガル良いお嫁さんになれるがお? 」


 嬉しそうに尻尾をパタパタ振るガルルンを見て英二が満面の笑みでこたえる。


「なれる。なれる。ガルちゃんは可愛いし優しいし料理も出来たら最高のお嫁さんになれるよ、ガルちゃんがお嫁さんなら幸せだよ」

「わふふ~~ん、ガルは英二のお嫁さんになるがお」


 英二がちらっとサンレイを見る。

 甲斐甲斐しく世話をするガルルンと違いサンレイはベッド脇のテーブルにお菓子と飲み物を置いて妖怪テレビを見てゲラゲラ笑っている。


「 ……そうだね、ガルちゃんなら結婚してもいいかもな」


 英二が呟くように言うとサンレイが身体ごとくるっと振り返る。


「ダメだぞ、ガルルンは四国の祖父ちゃんが飼ってるゴンと結婚させるぞ、そんで妖怪山犬を量産して売り出すんだぞ、あれだぞ、ブリブリダーってヤツだぞ」

「ブリブリじゃなくてブリーダーな、って言うかガルちゃんは売り物じゃないからな、妖怪山犬を売ったら大変だからな」


 怒る英二の横でガルルンが子犬のように首を傾げる。


「ゴンって誰がお? 」


 サンレイがニヤッと意地悪顔でこたえる。


「ガルルンの婚約者だぞ」

「がわわ~~ん、いつの間に婚約者が……格好良いがお? 」


 大きく口を開けて驚いた後でガルルンが身を乗り出して訊いた。


「おぅ、格好良いぞ、灰毛のイケてるイケメン犬だぞ、雑種だけどな、ゴンと結婚して子をポコポコ産んでおらに分けてくれ、おらが高値で売ってやるぞ」


 泣き出しそうな顔でガルルンが口を開く、


「厭がう、婚約破棄するがお、ガルは婚約など知らないがお、血統書付きならともかくガルは雑種犬の子なんか産みたくないがお」


 血統書付きならいいのか……、残念な子を見るように英二が見つめる。


「ガルちゃん大丈夫だよ、全部サンレイの嘘だからね」

「がわわ~~ん、また騙されたがお」


 悔しがるガルルンを見てサンレイが笑いながら立ち上がる。


「ほんとバカ犬だぞ、ガルルンは何でも信じるぞ、そんなんでよく生きて来れたぞ」

「ガルはバカじゃないがお、サンレイや英二だから信じるがお、いいんちゅや小乃子と晴美と秀輝と宗哉だけがお、あとは英二の母ちゃんと父ちゃんだけがお、他の妖怪や人間は信じないがお」


 英二がガルルンの頭を撫でる。


「ガルちゃんはバカじゃないよ、優しいから信じちゃうんだよ」


 ガルルンの頭を撫でながらサンレイを睨み付ける。


「余り酷い事したら怒るからな」

「にゃははははっ、冗談だぞ、冗談」


 笑いながらサンレイが英二の額に手を当てる。


「霊力は回復してるぞ、あれだけやって2日程度で済むんだから大したもんだぞ、んじゃおらは少し寝るぞ、ガルルンも寝てないだろ、英二は大丈夫だから夜御飯まで寝るぞ」

「寝てないって? 」


 英二が訊くとガルルンがこたえる。


「気を失ってる英二に何かあればいけないがお、霊気が急に変動したら命も危ないがう、それでサンレイはずっと起きてたがお、ガルも英二が心配だから一緒に起きてたがお」

「ガルルン、余計な事は言わなくていいぞ」


 ガルルンを叱るとサンレイが英二の頭をポンポン叩く、


「霊力は安定してるぞ、暴走とかしないから安心して休め、明日は学校行くぞ、秀輝に礼言うんだぞ、バイト1人でしてくれたぞ、宗哉は心配して電話あったぞ、大丈夫だっておらが言っておいたぞ」

「サンレイ…… 」


 サンレイなりに心配してくれていたんだと分かって英二の顔から怒りが消える。


「おらに礼はいいぞ、おらと英二は一心同体、英二の守り神だからな」


 照れるように言うとガルルンの手を引っ張ってサンレイが部屋を出て行く、


「今日はゆっくり休むがお、明日からいっぱい遊んでもらうがお」


 ドアの隙間から聞こえてきたガルルンに英二が元気な声でこたえる。


「うん、いっぱい遊ぼう、またみんなでカラオケでも行こう、ありがとうガルちゃん、サンレイ、2人が居てくれてよかったよ」


 パタンと閉じたドアの向こうで2人のはしゃぐ声が聞こえてきた。


「カラオケだぞガルルン、今度は宗哉も誘って豪勢にいくぞ」

「やったがお~、また晴美と歌うがお」


 ありがとう……、英二が心の中で再度礼を言った。

 2日も眠っていて腹が減っていたのかガルルンが持ってきてくれた昼食をガツガツと平らげると英二がベッドから起き上がる。


「もっと強くならないとな、この程度で2日も寝込むなんて情けない」


 勉強机の上に飾ってあるハチマルの写真を手に取る。


「サンレイやガルちゃんに心配掛けてばかりだ。2人が安心できるくらいには強くなる……なってみせるよハチマル」


 誓うように言うとトイレに行ってまたベッドに横になる。目を閉じると直ぐに睡魔が襲ってくる。

 良い夢が見られそうだ。体は怠いが心は温かくて軽やかだった。



 翌日、すっかり回復した英二はサンレイとガルルンと一緒に元気に登校する。


「風邪流行ってるのかな? 」


 道を歩く生徒たちの半数以上がマスクをしている事に英二が気付いた。

 サンレイが険しい顔をして英二の腕を引っ張る。


「違うぞ、風邪じゃないぞ、悪い気が充満してるぞ」


 挟んで反対側でガルルンも顔を顰める。


「ガルも感じるがお、小さいけど妖気が漂ってるがお」


 英二がサンレイの顔を覗き込む、


「妖気って……妖怪か? 」

「たぶんな……薄いけど広い範囲に悪い気が充満してるぞ、こんな事出来るのは雑魚妖怪じゃないぞ」


 マジ顔でこたえるサンレイを見て英二の顔に緊張が走る。


「雑魚妖怪じゃないって事はこの前の初物小僧や旧鼠よりも強いって事か? 」


 ガルルンが鼻を鳴らしながら英二の背をポンポン叩く、


「がふふん、安心するがお、大妖怪でも2匹くらいはガルが本気出せば倒せるがお」


 反対側でとぼけ顔をしたサンレイが同意するように頷いた。


「そだな、ガルルンとおらが居れば大妖怪の4~5匹は倒せるぞ、だから安心していいぞ、それに姑息な手を使ってくるのは大抵弱い奴らだからな、何を企んでるのかわかんないけどこんな事するヤツは大妖怪じゃないぞ」

「でも雑魚妖怪に出来る妖気の使い方じゃないんだろ? 」


 まだ不安気な英二を見上げてサンレイが口を開く、


「雑魚でないとして中クラスって所だぞ」


 ガルルンが任せろというように胸を張る。


「ガルが付いてるから安心するがお」

「そだな、暫くおらやガルルンから離れないようにしとけば大丈夫だぞ」

「わかったよ、まだ敵と決まったわけじゃないしな、俺も一応戦えるしな」


 拳を作るように手を閉じたり開いたりする英二を見上げてサンレイが笑った。


「そだぞ、何かあったら爆発させてやればいいぞ」

「そうだな、たっぷり休んだし今ならビルでも吹っ飛ばせそうだ」


 ニカッと笑うサンレイに釣られて英二も大笑いだ。



 学校の門の前で先輩女子たちがサンレイとガルルンを取り囲む、2人が今日は登校してくると誰かに聞いたのだろう。


「サンレイちゃんおはよう、ガルちゃんもおはよう」

「サンレイちゃん、ガルちゃんおはよう、昨日休んでたよね、サンレイちゃんとガルちゃんも風邪引いたの? 」


 満面笑みの先輩たちに遠慮して英二が2人から少し離れる。

 先輩たちはあくまでサンレイとガルルンに好意を持っているだけでイケメンでもない英二には興味は無い、サンレイとガルルンの保護者といった認識で会釈くらいはしてくれるといった感じである。

 先輩女子たちに囲まれてサンレイとガルルンが元気な声で挨拶を返す。


「おっはぁ~だぞ、おらたちは風邪じゃないぞ」

「おはようがお、ガルは風邪引かないがお、昨日は英二の看病してたがお」

「そうなんだ。でも気を付けないとダメだよ、悪い風邪が流行ってるらしくて沢山休んでるよ、3年生なんか受験があるから少しでも風邪気味だったら休んでいいって事になったくらいだからね」


 きゃ~きゃ~言いながら先輩女子たちがサンレイとガルルンにお菓子を手渡していく、幼女のようなサンレイと愛嬌があって運動神経抜群で目立つガルルンは学校のアイドル的な存在だ。

 そこへ3年生の先輩がやって来る。


「絢奈ちゃんおっはぁ~ 」

「怜那ちゃん、おはようがお」


 サンレイとガルルンが大きな声で挨拶すると先輩も元気に手を上げてこたえる。

 先輩を呼び捨てにする2人の後ろで英二が深々と頭を下げている。

 3年生の絢奈と怜那が気にしてないよと言うように英二に手を振ってからサンレイとガルルンに向き直る。


「サンレイちゃん、おはよう、ガルちゃんもね」

「サンレイちゃん、ガルちゃん、おはよう、2人とも元気だな」


 マスクもせずに元気そうな先輩たちを見てサンレイがニカッと笑う、


「おぅ、元気だぞ、絢奈ちゃんと怜那ちゃんも元気でよかったぞ」


 絢奈先輩がサンレイの手を握り締めた。


「御守りの御陰だよ、サンレイちゃんに貰った小石の御陰で志望校に受かったよ」

「ほんとだよ、あの御守り効き目抜群だよ、私も1番は落ちたけど2番目の大学に受かったよ、無理だって言われてたんだよ、それが受かったよ、サンレイちゃんの御陰だよ」


 反対の手を握り締めて怜那先輩が礼を言った。


「そっか、良かったな、でもあの御守りはあくまで集中力を高めるだけだぞ、試験に受かったのは先輩たちが頑張ったからだぞ」

「そうがお、絢奈ちゃんも怜那ちゃんも勉強頑張ったがう、だから受かったがお」


 サンレイの隣で優しい笑顔を見せるガルルンに先輩たちが満面の笑みを向けた。


「ありがとう、でも不思議だよ、あの小石があると勉強がスイスイ捗るんだよ」

「そうそう、風邪も引かないしね、御守り貰った女子は全員風邪引いてないよ、私のクラスの女子は3分の1が風邪引いて休んでるのにさ、御守り持ってるのはみんな元気で受験もだいたい旨くいってるみたいだよ」


 絢奈と怜那の後ろから他の3年の先輩たちが口々に礼を言う、


「本当だよ、サンレイちゃんとガルちゃんの御陰だよ」


 御守りを貰った先輩たちが御礼だと言って2人に次々とお菓子を手渡していく、サンレイとガルルンの小さな鞄がお菓子でパンパンだ。



 女子たちに囲まれながらサンレイとガルルンが学校へと入っていく、少し離れて英二が遠慮がちに続いた。


「よぅ、もう体はいいのか? 」


 上履きに履き替えていると秀輝がやって来た。


「おはよう秀輝、体はバッチリだ」

「俺と同じ時間帯に居るからまだ本調子じゃないと思ったぜ」


 靴を履き替える秀輝を待ちながら英二が続ける。


「いつもと同じ時間に家は出たんだけどさ、門の前で先輩たちに止められてな、さっきまで門の所で2人が失礼な事言わないか見てたんだ」

「成る程ね、それでサンレイちゃんとガルちゃんは? 」

「2人ともお菓子貰って大喜びで先に行ったよ、俺なんか放ったらかしだ」

「あははははっ、だろうな、昨日は休みの度に先輩がサンレイちゃんとガルちゃんはどうしたのかと訊きに来て大変だったぜ、委員長と小乃子が今日は来るからって言うと安心して帰って行ったぜ」


 英二と秀輝が並んで教室へと向かう、


「それでか、いつもの倍くらい待ち構えてたよ、コンビニの袋ごとお菓子貰ったりしてサンレイとガルちゃん浮かれまくってたよ」

「人気あるからな、2人とも只者じゃないってのは何となく広まってるしな」

「只者じゃないか…… 」


 呟くと英二がマジ顔に変わる。


「秀輝にも迷惑掛けたな、バイト1人でやってくれたんだろ? 俺の分のタイムカードなんて付けなくてもいいのに…… 」

「気にすんな、1日くらいどうって事ねぇよ、バイト代でサンレイちゃんやガルちゃんに服でも買ってやってくれ」


 照れるようにスポーツ刈りの頭を掻く秀輝を見て英二が頷く、


「そうだな、小乃子たちにも迷惑掛けた礼をしないとな、サンレイとガルちゃんがまたカラオケ行きたがってるからさ」

「じゃあ宗哉も誘おうぜ、宗哉の都合訊いて奢って貰おうぜ」


 ニヤッと悪い顔で笑う秀輝を見て英二が溜息をつく、


「サンレイと同じ考えだ……どうりで気が合うわけだな、思考レベルが同じだよ」

「あははははっ、サンレイちゃんと同じなら嬉しいぜ」


 バカにされているのに気付いているのかいないのか、嬉しそうな秀輝を見て英二は呆れ顔で苦笑いするしかない。



 2人が教室に入るとサンレイとガルルンが机の上にお菓子を並べて食べる順番を思案していた。

 机一つに収まらないのか自分たちの机だけでなく英二や小乃子に晴美の机の上にまでお菓子が並んである。


「サンレイちゃん、ガルちゃん、おはよう」


 秀輝が声を掛けるまでお菓子に夢中になっていたサンレイが顔を上げた。


「おっはぁ~~、秀輝おっはぁ~ 」

「秀輝、おはようがお、お菓子いっぱい貰ったがお」


 ガルルンの嬉しそうな笑みを見て秀輝の頬が緩みきっている。


「凄ぇな、パーティーが出来るくらいあるぜ」

「何たって2日分だからな、先輩たちが2日分くれたぞ」


 自慢気なサンレイの隣り、英二の席に座っていたガルルンが続ける。


「秀輝にも分けてあげるがお、英二もあげるがお」

「サンキュー、それじゃあ辛いヤツを分けてくれ、ガルちゃん辛いのはダメだったろ」


 喜ぶ秀輝をちらっと見てサンレイが英二にお菓子を差し出す。


「おらも分けてやるぞ、英二遠慮なく食え」

「サンレイがお菓子分けてくれるなんて珍しいな…… 」


 受け取ったお菓子を見て英二が言葉を止める。

 サンレイがくれたのはトマト味のお菓子だ。

 自分の嫌いなトマトを英二に押し付けただけである。


「よかったな英二、あたしらも分けて貰ったぞ」


 笑顔の小乃子と委員長が両手にお菓子を持っていた。

 苺やチョコなどの甘くて美味しそうな女子が好きそうなお菓子だ。


 俺にはトマト押し付けたくせに……、何とも言えない顔をして英二が自分の机の横に鞄を掛ける。机の上はガルルンが広げたお菓子で使えない。

 そこへ宗哉がやってくる。


「英二くんおはよう、体は良いようだね」

「おはよう宗哉、あれから2日は気を失ってて昨日目が覚めたよ、今は元気だ」


 英二が笑いながら言うと宗哉の顔がさっと曇る。


「2日も気を失ってたのか? 本当に体は大丈夫なのか? 無理はするなよ」

「問題ないよ、むしろ気力が充実してる感じだ」


 心配顔の宗哉の左右にいるメイロイドのサーシャとララミに英二が微笑みかける。


「サーシャとララミもおはよう」

「おはようございマス、英二くん」


 金髪巨乳のサーシャが微笑み返す隣で赤髪ロリのララミがじっと英二を見つめる。


「英二さん、おはようです。体温は平常です。回復したみたいですね」

「うん、元気だ。心配掛けたね」


 プログラムされた笑みだと分かっているが2人とも可愛いので見ている此方もついつい顔が綻んでしまう、


「大丈夫ならいいけど…… 」


 まだ心配する宗哉に英二が続ける。


「マジで大丈夫だって、心配掛けたな、ごめんな」


 英二が小乃子と委員長に向き直る。


「小乃子と委員長にも心配掛けてごめんね、先輩たちがサンレイとガルちゃんを訪ねてきて迷惑掛けたらしいから謝るよ、ごめんな」


 委員長が微笑みながら口を開く、


「私は別に……先輩たちとも話ができて楽しかったわよ、それより小乃子が大変だったわよ、高野くん大丈夫かなって毎日言ってたわよ」


 自分の席に鞄を置いて秀輝がやって来る。


「だな、俺に電話して聞けって煩かったぜ、2日休むってサンレイちゃんが言ってたから電話しなかったけどな」


 小乃子が慌てて大声を出す。


「なっ、何言ってんだよ、お前の事なんて心配してないからな」


 焦りまくる小乃子の向かいで英二が優しく頷いた。


「ありがとうな、迷惑掛けてごめんな、もう大丈夫だからさ」

「なっ……だから、あたしはお前の事なんて心配してないって言ってるだろ、サンレイとガルちゃんと遊べないから電話して早く来るように言いたかっただけだ」


 耳まで真っ赤になっている小乃子を見て委員長や秀輝に宗哉までもが楽しそうに笑みを浮かべている。


「もうこの話は終わりだ。もう直ぐチャイムなるからな」


 話しを逸らそうとした小乃子の腕をサンレイが引っ張る。


「晴美ちゃん来ないぞ」

「晴美休むがお? 」


 お菓子から目を離してガルルンも不安顔だ。


「篠崎さん? そういや来てないな、いつもならあたしより先に来るのにな、昨日は元気だったけどな、風邪引いたのかな」


 呑気にこたえる小乃子の横で委員長が顔を顰める。


「悪い風邪が流行ってるらしいわよ、篠崎さんも風邪引いたんじゃないかな」

「だな、男も5人ほど休んでるぜ、俺と同じで体が丈夫なだけが取り柄みたいな浅井と中川も昨日に続いて今日も休むみたいだぜ」


 相槌を打つ秀輝の前にサンレイが立つ、


「風邪じゃないぞ、悪い気のせいだぞ」


 ガルルンがサンレイの手を握る。


「晴美が心配がお、サンレイどうにかするがお」


 2人の様子に秀輝や小乃子たちの顔が曇る。


「悪い気って、また妖怪か悪霊か何かか? 」

「風邪じゃなかったのか……妖怪って事はまた英二を狙ってるのかよ」


 興味津々で訊く小乃子と違い秀輝はマジ顔だ。

 委員長が強張った顔でサンレイを見つめる。


「風邪じゃないって……妖怪の仕業だとしたらヤバいんじゃない? 学校中で何人もが悪い風邪って事で休んでるわよ」

「委員長の言う通りだよ、これだけの事が出来る妖怪なら今までより強いんじゃないか、そんなのが英二くんを狙ってるなら…… 」


 険しい顔で話す宗哉の腕をサンレイがポンポン叩いた。


「心配無いぞ、確かに今までの雑魚妖怪よりは強いと思うぞ、けどおらとガルルンの敵じゃないぞ、英二も爆発能力が使えるしな」


 ガルルンが任せろというように鼻を鳴らす。


「がふふん、大妖怪でも2匹くらいならガルがやっつけてやるがお、英二からは目を離さないがう、何かあってもサンレイが電光石火で直ぐに助けにいけるがお」


 2人の態度に秀輝や宗哉たちの緊張していた顔が元に戻っていく、


「まだ俺を狙ってるって決まったわけじゃないし、妖怪じゃなくて悪霊が集団でやって来て悪さしてるだけかも知れないしさ」


 安心させようとしてか英二が秀輝たちを見回した。

 サンレイが英二を見上げる。


「そうかもな、集団霊って事もあるかもな、今は様子見るしかないぞ」

「妖気が小さすぎて人面瘡の時みたいに近くに来るまで相手が分からないがお」


 ガルルンが鼻をヒクヒクさせながら言った。

 妖気は彼方此方から感じるが少なすぎて何処から来ているのかも分からないのだ。


 委員長が小さく手を上げてから話し始める。


「高野くんを狙うなら学校じゃなくて家に行くはずでしょ、高野くんの休んでいる間に悪い気が充満したのだとしたら高野くんを狙ってきてるって結論づけるのは早いわね」

「そういう考えもあるか……どちらにせよ警戒するに越した事はないね」


 宗哉の意見に賛成するように英二たちが頷いた。

 ガルルンが心配そうにサンレイの手を握る。


「晴美はどうするがお、苦しんでるかも知れないがう、早く助けてやるがお」


 ちらっとガルルンを見てからサンレイが口を開く、


「そだな、晴美ちゃんは心配だな、昼休みにでも電話するぞ」

「電話がお……晴美の番号知ってるがう? 」


 子犬のように首を傾げるガルルンの肩に委員長が優しく手を置いた。


「私と小乃子は知ってるわよ、メアド交換もしたからね」


 ガルルンがバッと顔を上げた。


「よかったがお、ガルも晴美と話したいがお」

「うん、昼休みに連絡取りましょう、直ぐに授業始まるからね」

「了解だぞ、んじゃさっさとお菓子しまうぞ」


 サンレイとガルルンが机に広げていたお菓子を鞄の中に入れ始める。秀輝たちは自分の席に戻っていく、英二は自分の机の上にあるお菓子をガルルンが片付けるのを見ていた。


 席に戻っていく宗哉が呟く、


「電話か…… 」


 直ぐ傍を通ったので英二が振り返る。


「電話がどうかしたのかな? 」


 訊きたかったが直ぐに始業ベルが鳴ったのでそのまま席に着いた。

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