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第50話


 サンレイたちが話している間も英二と初物小僧の戦いは続いている。


「爆練、3寸玉! 」


 英二が飛ばす爆発する気を初物小僧が難無く避けていく、


「ぐはははっ、遅いな、そんなものが当たるか」


 初物小僧が凄い速さで英二に向かってくる。


「気を掴めんなら殴り殺してやる」


 英二が左手を下に向けた。


「爆跳! 」


 初物小僧が英二を殴らんと拳を振り上げた次の瞬間、爆発と共に英二がジャンプした。


「なに! 」


 驚く初物小僧に向けて宙に浮いた英二が右手を突き出す。


「爆突、4寸玉! 」


 英二の右手から白い光が初物小僧に伸びる。

 殴る動作をしていた初物小僧は避け切れない、どうにか避けようと身を捩った初物小僧の背が爆発した。


「グガガァ~~ 」


 悲鳴を上げる初物小僧の向こうに英二が着地する。

 それを見た小乃子が感嘆の声を上げた。


「凄ぇ……英二のヤツいつの間にあんな事が出来るようになったんだ」

「爆発を使ったジャンプが爆跳で初物小僧を貫いたのが爆突だぞ、爆突ってのは爆発する方向を制御して一点を突く技だぞ、爆発を一点に凝縮させるからそこらの妖怪なら貫くことが出来るぞ」


 得意気に説明するサンレイの横でガルルンがほっと安心顔だ。


「旨いこと着地したがお、練習では3回に1回しか着地できなかったがう、英二は本番に強いがお、やれば出来る子がお」

「3回に1回か……怖いギャンブルだよ英二くん」


 宗哉が険しい顔で英二を見つめた。



 初物小僧が走って英二から距離をとる。


「ぐははっ、油断しただけだ」


 笑い顔が苦痛に歪んでいた。

 先程受けた脇腹の傷は既に塞がっている様子だが背中の傷は逃げて距離をとるほどの大怪我だ。


「敵はビビってるぞ、そのままぶっ倒してやれ」


 英二の勝ちを確信したのかサンレイが余裕に大声だ。

 爆発する気を何時でも出せるように構えたままで英二が口を開いた。


「降参しろ、俺を倒してもサンレイやガルちゃんがいるんだぞ、俺の百倍以上強い2人に勝てるわけないよ、気を吸ったといっても誰も殺してないみたいだから今降参すれば許してやるよ」


 初物小僧が口角泡を飛ばして怒鳴る。


「黙れ人間!! 降参など誰がするか! 」


 涎を垂らしながら初物小僧が続ける。


「人間に負けたなど知られれば妖狐どもや他の妖怪たちに笑われるわ、貴様を喰らって妖狐どもを……狐女どもを見返すのだ」

「降参しないんだな」


 マジ顔で構える英二の耳に後ろからサンレイたちの話し声が聞こえてくる。


「粋がっても半人前の英二にやられてるぞ」


 呆れ顔のサンレイの後ろで晴美がガルルンに向き直る。


「妖狐? 狐の妖怪だよね、狐と何かあったのかな」


 サンレイがくるっと振り返る。


「どうせ戦って負けたんだぞ、狐は狡賢いからな」

「化け狐ならともかく、妖狐は一つ目なんかよりずっと上の妖怪がお、一つ目なんて本気で相手にしないがお、どうせ逆恨みがお」


 適当にこたえるサンレイと違いガルルンが教えてくれた。

 小乃子が話しに入ってくる。


「DTをバカにされたんじゃないのか? 」

「そうかもな、300年DTだからな」


 英二の勝ちを確信したのかサンレイは適当にしか話さない。

 思いを巡らせるように宗哉が口を開く、


「妖狐が裏で初物小僧を操ってるって事じゃないかな」


 委員長が宗哉を見つめる。


「でもそれだったら妖狐に恨みがあるのは変じゃない? 」

「あっそうか、見返すとか言ってるしね、妖狐が黒幕って言うのはないな」


 頷く宗哉を見て委員長が続ける。


「高野くんを食べて力をつけて狐女を見返すって言ってるから高野くんを襲う原因の一つなのは確かだけどね」

「どっちにしろ一つ目小僧を倒せばわかるだろ、英二が直ぐに倒すぜ」


 宗哉と委員長を見て秀輝が言った。

 サンレイだけでなく秀輝たちも既に英二が勝った気でいる。



 英二が左手を前に突き出す。


「降参しないなら行くぜ、爆練、3寸玉! 」


 爆発する気を連続で飛ばすが先程までよりは小さな気だ。

 高い霊力を持っているとはいえ、本格的な修業をしていない英二では長時間続けて力を使うことは出来ない、大技のために霊力を温存しているのだ。


「何度やっても無駄だ。そんなものが当たるか」


 初物小僧が避けながら言った。

 強気の口調だが背中の怪我のためか先程までより動きが遅い。


「同じ手は通用しないか…… 」


 右手に込めた気を英二が緩める。

 初物小僧が襲い掛かってきて近付いたところを再度爆刀で切ろうとしたが当てが外れて右手に溜めた気を一時解放したのだ。


「掛かってこないのか? それじゃあ俺から行くぜ」


 肩で息をつきながら英二が嘯いた。


「ぐははははっ、お前の爆弾など俺様に利くかよ」


 口では笑って返す初物小僧だが目がマジになって笑っていない。

 初物小僧は警戒しているだけではない、背中の傷が思ったより酷くて治るのを待っているのだ。


 ガルルンが鼻をヒクヒク動かしながら口を開く、


「英二もう限界がお、気力が残ってないがう、あと3回くらいデカい技使ったら疲れ切って倒れるがお」

「まったく……霊力はまだまだあるんだけどな、体力が追っつかないぞ」


 サンレイが秀輝の手を引っ張る。


「英二は基礎体力が足らないぞ、秀輝くらいにスポーツマンだったら1時間くらい戦えるんだけどな、そゆことだから英二をもっと鍛えてくれ、頼んだぞ秀輝」


 少し考えてから秀輝が聞き返す。


「基礎体力か……技をもっと使えるように持久力を上げればいいんだな? 」

「そだぞ、いくら霊力が多くても器が小さいと1回で掬える量は少ないままだぞ、本当なら幼い時から修業すればいいんだけどな、英二と出会ったのは1年前だからな」

「了解した。フルマラソンを完走できるくらいに鍛えてやるぜ」


 サンレイに頼られて秀輝が嬉しそうにこたえた。

 話しを聞いていたガルルンが鼻を鳴らす。


「がふふん、秀輝が英二の体を鍛えて霊力の使い方はガルとサンレイが教えるがお、短期育成で英二を戦士にするがお」

「戦士って物騒ね」


 顔を顰める委員長の隣で小乃子が前にいるサンレイの肩を掴んだ。


「戦士って英二を何にするつもりなんだ。妖怪と戦わすのか? 」

「英二のためだぞ」


 振り返ったサンレイに小乃子が声を荒げる。


「何でそんな事する!! 英二を危ない目に遭わせるな、英二は普通の高校生なんだぞ、何で妖怪と戦わなきゃいけない、英二は……オタでひょろっとしてて……スケベで……優しくて……英二は喧嘩や戦いなんてするヤツじゃないからな」


 目に涙を溜める小乃子を見てサンレイがニッと微笑んだ。


「心配すんな、英二の方から妖怪と戦えって言ってんじゃないぞ、自分の身を守るために戦うんだぞ、旧鼠や一つ目みたいに襲われた時に戦うんだぞ、おらやガルルンが居なくても自分の身を守れるくらいに強くなって貰うんだ。おらが傍にいる間は命に懸けて守ってやるぞ、でも……おらも英二が死ぬとこなんて見たくないからな」


 英二を思うサンレイの気持ちがわかって小乃子がぐいっと涙を拭う、


「サンレイ…… 」

「高野くんのためか…… 」


 委員長が何とも言えない表情で呟いた。


「サンレイちゃん」


 晴美が優しい目でサンレイを見つめる。

 ガルルンが小乃子の手をギュッと握った。


「英二は戦う運命がお、望まなくても妖怪たちが放って置かないがお、英二の霊力はそれ程魅力がう、ガルはサンレイに頼まれたから英二を守ってるわけじゃないがお、英二を気に入らなかったらガルが喰らって力を奪ってたかも知れないがお、それほど凄い霊力を持ってるがお」

「英二は小さい頃から修業すれば大妖怪でも退治できる立派な退魔師になれたぞ、丁髷の時代ならどこかの寺か神社で修業してるはずだぞ、でも今の時代にそんなものは必要無いって人間は思ってるからな、おらやハチマルも昔は山の神社で祀られてたんだぞ、人間がもののけを忘れて、もののけも人間から離れた。それが今の時代だぞ」


 寂しそうに話すサンレイが一呼吸置いて小乃子たちを見回した。


「おらやガルルンやハチマルも英二の力も今の時代にはいらないものかもしれないな」


 寂しそうに笑うサンレイを見て秀輝が身を乗り出す。


「そんな事ないぜ、俺はサンレイちゃんと出会えて本当に良かったって思ってる。妖怪に襲われて死んでもサンレイちゃんやハチマルちゃんにガルちゃんを恨んだりなんてしないぜ、英二だって同じだ……いや、英二は俺なんかよりもずっとサンレイちゃんやガルちゃんのことを思ってるぜ、だからいらないなんて言わないでくれ」


 秀輝の隣りにいた宗哉が一歩前に出る。


「秀輝の言う通りだよ、僕もサンレイちゃんやガルちゃんのためならどんな事でもするつもりだ。サンレイちゃんとハチマルさんに救ってもらったからだけじゃないよ、サンレイちゃんやハチマルさんにガルちゃんが好きなんだ。サンレイちゃんたちが必要なんだよ」

「秀輝……宗哉も…… 」


 嬉しそうに微笑むサンレイの手を小乃子がギュッと握り返す。


「そうだよ、英二が危険な目に遭うのは嫌だけど……けどサンレイやハチマルのせいじゃないだろ、サンレイと出会って英二の力が出たのは知ってる。でもそれは仕方がないことだよ、あたしを救ってくれた妖怪あはんや豆腐小僧みたいに良い奴らもいるってわかっただから妖怪が、もののけがいらないなんて言うなよ」


 委員長が優しく微笑みかける。


「そうね、遅かれ早かれサンレイちゃんと高野くんは出会ってたと思うな、逆に今じゃなかったら私はサンレイちゃんに会えなかったかも知れない、だから今この時を感謝してるわ、だから無ければよかったなんて言わないで」


 深呼吸してから晴美が口を開く、


「私に出来る事なんて無いかも知れない、でも私もサンレイちゃんとガルちゃんが好き、だから何でもするからね、妖怪は怖いけど……私に出来ることがあれば何でもするからね」


 引っ込み思案でおとなしい晴美がハッキリとした声で言った。


「出来る女のガルが付いてるがお、英二もサンレイも守ってやるがお、大船に乗った気でいるといいがお」


 ガルルンが八重歯のような牙を見せてニカッと笑った。


「小乃子に委員長に晴美まで……おらも英二も幸せ者だぞ」


 ニッコリ笑うサンレイを見てみんなが笑顔になった。



 初物小僧と睨み合っていた英二が突っ込んでいく、


「爆練、1寸玉! 」


 爆発する小さな玉を足下に叩き付け砂や枯れ葉を舞い上げて進む、


「煙幕か? そんなものが効くか」


 大きな目でギョロッと睨みながら初物小僧が左に跳んで避ける。


「8寸玉! 」


 英二の両手から左右に爆発する大きな気が飛んでいく、


「あのバカ! ブンブンバリアー 」


 サンレイが咄嗟に出した雷光をあげる壁が後ろに居た秀輝たちを包み込む、


「ばっ、バカな……グガガガァァ~~ 」


 叫びを上げて初物小僧が吹っ飛んだ。

 大爆発によって砂や枯れ葉どころか神社の森に生えている木や岩までが飛んできて電気の壁に当たって青い炎をあげながら地面に転がっていく。

 小乃子と秀輝が顔を見合わせる。


「すっ、凄ぇな…… 」

「ああ、サンレイちゃんのバリアがなかったら俺たちも吹っ飛んでるぜ」


 視界が悪い中で宗哉が英二を探す。


「英二くんは無事なのか? 」

「英二は大丈夫がお、力使いすぎて失神してるがお」


 ガルルンが気を失った英二を抱えていた。

 サンレイがバリアを張ると同時にガルルンが跳んでいって英二を助けたのだ。


「英二くん……よかった」


 安堵する宗哉の脇を通ってやって来たサンレイが気を失っている英二の頭をポカッと叩いた。


「このバカが! 無闇にデカいのは使うなって言ったぞ」

「叩かなくてもいいがお、気絶してるから言っても無駄がお」


 抱いていた英二を庇うように横へやりながらガルルンが続ける。


「最後の力で一つ目をやっつけたがお、自分より速い一つ目をぶちのめすにはアレしか無かったがお」

「そんな事わかってるぞ、でも小乃子たちのこと考えてないから怒ってんだぞ」


 怒り冷めやらぬサンレイの手を小乃子が引っ張る。


「あたしたちに構わず大爆発をさせたっていうのはわかる。でも一つ目を倒したんだから許してやれよ」


 小乃子が指差す先で倒れている初物小僧はぴくりとも動かない。


「がふふん、英二の作戦勝ちがお」


 得意気に鼻を鳴らすガルルンをその場の全員が見つめる。


「作戦って? ガルちゃん」


 晴美に訊かれてガルルンが説明を始めた。


「力が残ってないのは英二が一番よく知ってるがお、だから一か八かの賭に出たがう、小さな爆発を起こして煙幕を張ったのは囮がお、初物小僧は英二が突っ込んでくると思ったがお、さっきやられた爆突や爆刀で攻撃してくると思ったがう、だから左に避けたがお、そこを8寸玉の大爆発に巻き込まれたがお、左右に8寸玉を投げるのを見られないように煙幕を張ったがお、手元を見られると予想されて初物小僧に逃げられるがお」

「だからって何も言わずに大爆発させるなんて許せないぞ」


 まだ怒ってるサンレイの前に宗哉が出てくる。


「成る程な、旨い作戦だ。僕たちのことはサンレイちゃんがいるから任せても安心だと思ったんだよ、でないと英二くんが捨て身の攻撃なんてしないよ、失敗したら自分が危ないんだからね」


 英二は初物小僧が左右どちらに逃げても当たるように両方の手にありったけの気を込めて爆発する大玉を使ったのだ。

 小さな爆発で起こした煙幕は囮だ。

 左右同時に攻撃するのを読まれないように姿を消したのだ。自分の手元が見えないようにしたのである。


「そういう事か、それで2つ爆発が起きたんだな」


 スポーツマンで動体視力も良い秀輝には爆発が2つ起きたのが見えた様子だ。


「限界なのはわかってたぞ、おらとガルルンが居るんだから素直に交代してくれって言えばいいぞ、無茶して怪我したらどうすんだ。そんな事しろっておら言ってないぞ」


 怒って口を尖らせるサンレイの背を秀輝がポンッと叩いた。


「英二の意地だ。自分1人で倒したかったんだぜ、サンレイちゃんにやれるって事見せたかったんだ。サンレイちゃんとハチマルちゃんが消えた後、英二がどれだけ悔やんでいたか……体鍛えるって英二から言ってきたんだぜ、泣き言一つ言わずにトレーニングしてたぞ、次はサンレイちゃんの役に立つんだってな、俺も同じ気持ちで2人でさ…… 」


 サンレイの膨らました頬と尖った口が戻っていく、


「そんな事わかってるぞ、だから怪我して欲しくないんだぞ、秀輝もだぞ」

「わかった。英二にも言っとくよ」


 秀輝の顔を見上げてサンレイがはにかむように微笑んだ。


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