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第29話

 ガルルンが転入して3日が経った。

 幼い姿と天然ボケですっかり学校に馴染んでサンレイと並んでクラスメイトはもとより先輩たちにも人気者だ。


 4時間目が終わって昼休みになる。


「英二見るがう、今日のは上出来がお」


 左隣のガルルンがノートに書いた落書きを見せる。

 授業中、ガルルンは食べ物の絵を描いてサンレイは動物や魚の絵を描いている。

 二人とも勉強する気は全く無い。


「今日の弁当はミートボールと玉子焼きと金平牛蒡か、旨いな直ぐに分かったよ」

「がふふん、ガルは鼻もいいけど絵も旨いがう」


 ガルルンが得意気に鼻を鳴らした。

 4時間目はその日のおかずを描いてくれるので絵を見れば今日の弁当がわかるのだ。

 反対側からサンレイが腕を引っ張る。


「なあなあ英二、おらの絵も見てくれ」


 英二が振り返るとサンレイが自信たっぷりにノートを広げて見せる。

 はっきり言ってサンレイに絵の才能は無い、ガルルンは上手ではないが何が描いてあるのかはわかる絵だ。

 だがサンレイの絵は暫く考えても何かわからずに訊くことが多い。


「 ……蜘蛛? 蜘蛛の化け物か? 」

「何処見てんだ。猫に決まってんぞ」


 どう見ても猫には見えない、英二が絵を指差す。


「猫? でもこれ足が6本あるよ」


 サンレイがバッとノートをひっくり返して見つめる。


「間違えたぞ、横になってるポーズ描こうとして途中で立ち上がったポーズにしたんだぞ、そんで4本足のまま立ち上がって手を余計に描いたんだぞ、でもこれでいいんだぞ、怪獣だからな、猫の怪獣だぞ、だから足が6本あってもいいんだぞ」


 開き直りやがった……、何とも言えない顔をして英二が口を開く、


「怪獣ならありだよね、この尻尾が3本も生えてるところなんか怪獣っぽいし」

「何言ってんだ。それは尻尾じゃないぞ、日本猫だからな尻尾は上にある短いヤツだぞ」

「じゃあお尻から伸びてるこの3本のは何なんだ? 」


 不安気に訊くとサンレイがニヘッと厭な笑みを見せた。


「寄生虫だぞ、回虫とサナダムシが出てんだぞ」

「聞くんじゃなかった……本当に寄生虫が好きだな」


 嫌な顔をする英二の肩越しからガルルンが顔を覗かせる。


「猫素麺っていうヤツがお、猫のお尻から白い虫がいっぱい出てくるがう、犬から出てくるのは犬素麺っていうがお」

「そんじゃガルルンから出てきたらガル素麺だぞ」

「ガルにそんなのもの入ってないがお、寄生虫なんていないがう」

「御飯前にそんな話しはダメだからね」


 英二がサンレイとガルルンの頬を摘まんで引っ張った。


「でゅひひひひっ、こそばいからひっぱんなよ」

「ぎゅふふふん、気持ちいいがう、もっとほっぺた掻いて欲しいがお」


 軽い悪戯などは叩くと拗ねるので頬を摘まんで怒ることにしているのだが逆効果にしかなっていない。

 英二の机の上に小乃子が弁当箱を置く、ここで集まって食べるのが日課になっていた。


「何じゃれてんだ? 飯にするよ」


 頬を引っ張る英二の手を払い除けてサンレイが立ち上がる。


「そんじゃ宗哉に弁当貰ってくんぞ」

「ガルも行くがお、今日は海老フライとウインナーにポテトサラダがう」


 鼻をヒクヒクさせながらガルルンも立ち上がる。

 サンレイとガルルンのために宗哉は毎日弁当を持ってきてくれる。

 それを小乃子たちと分けて食べているのだ。


 二人が宗哉の元へ歩いて行くのを小乃子が見つめる。


「宗哉のポテサラは旨いんだよな、海老フライもデカいしな」

「ウインナーも本格的だよね」


 サンレイの前席の篠崎晴美が椅子ごとくるっと後ろを向いた。


「全部シェフが作ってるからね、今日のも楽しみだわ」


 笑顔の委員長がガルルンの机を英二の机にくっつける。

 二つ机を合わせてみんなで食べるのだ。


「あたしが座るから早くどけよ」


 小乃子に押し出されるように英二が立ち上がる。


「俺の机汚すなよ」


 英二が小乃子の椅子を持って秀輝の机の横に座った。

 小乃子から提案されたのだ。

 2つ後ろの秀輝の席に自分の椅子を持っていくより斜め前の小乃子の椅子を使った方が楽である。

 小乃子が英二の椅子に座りたいだけという本当の理由に英二は気付いていない。



 昼食が始まる。

 わいわい賑やかなサンレイたち女子グループの後ろで英二が秀輝の机の右に椅子を置いて弁当を食べ始める。

 秀輝はトイレに行ってまだ帰ってきていない。


 10分程して帰ってきた秀輝に英二が声を掛ける。


「遅かったな」

「並んでたんだ。西校舎のトイレが故障して水が流れないってよ」


 和泉高校は横に長い本校舎と短い西校舎が上から見てL字型に並んで建っている。

 西校舎には職員室や家庭科と理科の実習室に視聴覚室と図書室などが入っているだけで普通の教室はないのだが本校舎の各階にトイレは一つしか無いので近い方の教室の生徒は西校舎のトイレを使うのが普通になっている。


「マジかよ、大変だな」

「急に出なくなったらしいぜ、業者呼んで修理は明日以降だとさ」


 驚く英二の前で秀輝が弁当を広げる。


「男はまだいいぜ、小便は普通にできるからな、女は大変だ。それで体育館のトイレと運動場のトイレは男用も一時的に女子専用にするんだとさ」

「いい考えだな、体育館と運動場のトイレは新しくなって男も全部個室だからな」


 話している途中で校内放送が聞こえてきた。


『現在西校舎のトイレが故障して使えません、水が流れないので女子トイレは全面禁止です。男子トイレも個室は使えませんので注意してください。故障が直るまで体育館と運動場の男子用トイレは女子トイレとして使いますので注意してください。男子は本校舎のトイレを使ってください………… 』


 繰り返し放送が流れる。


「まっ、いざとなったら男は校舎裏いって立ちションできるからな」


 ニヤッと笑うと秀輝が弁当をかっ込むように食べ始めた。


「女の子は大変だな、サンレイとガルちゃんに注意しとかないとな」


 いつものバカ話に移って昼食を食べ終わる。

 サンレイたちが食べ終わるのを見計らってトイレのことを注意しようと英二が近付いていくとガルルンがバッと立ち上がった。


「トイレいってくるがう」


 今にも駆け出しそうなガルルンの腕を英二が握る。


「ガルちゃん放送聞いたよね? トイレ込んでるから注意するんだよ」

「トイレ込んでるがお? 」

「うん、並んでるからガルちゃんもちゃんと並ばないとダメだよ」

「なんで並んでるがう? 何か貰えるがおか? 」


 全く放送聞いてないな……、弱り顔で説明しようとした時に委員長が立ち上がった。


「私も行くから大丈夫よ、ガルちゃん体育館のトイレ行きましょう、新しいから綺麗で気持ちいいわよ」

「一緒に行くがう、いいんちゅと一緒がお」


 委員長なら安心だと英二がガルルンの手を離した。


「ありがとう委員長、トイレ故障してるのガルちゃんに教えてくれ」

「うん、歩きながら説明するわ」

「いいんちゅ、早く行くがお」

「いいんちゅじゃなくて委員長だからね」


 仲良く手を繋いで2人が教室を出て行った。

 英二がサンレイに向き直る。


「サンレイは放送聞いてたよな」

「しってんぞ、図書室のトイレ使えないんだぞ、んで女子がトレイ使うから男子はそこらで立ちションしろって言ってたぞ」


 晴美と一緒にノートに落書きしながらサンレイが言った。


「そんな事言ってなかっただろ、男子使用禁止なのは体育館と運動場のトイレだけだ。故障してるのは図書室だけじゃなくて西館のトイレ全部だからな」


 漫画雑誌を読み終わった小乃子がパタンと本を閉じて弱り顔の英二を見る。


「後で一緒にトイレ行くからあたしが教えてやるよ、それより漫画返してきてくれ」

「頼んだぞ小乃子」


 自分で返しに行けと言う言葉を英二が飲み込んで漫画雑誌を受け取ると持ち主の男子に返しにいった。

 漫画雑誌を買ってくる男子が読み終わると直ぐにサンレイに回ってくる。

 サンレイとガルルンが授業中に読んでその後で小乃子や委員長が休み時間に読み、それから他の生徒たちに回る順番ができていた。


 喧嘩の強い秀輝や御曹司の宗哉、クラス委員長の芽次間菜子などと仲の良いサンレイはいつの間にかクラスでヒエラルキーの高い位置についていた。

 もちろん霊能力を持っていて不思議なことができるという事で一目置かれているので当然だ。



 何やら興奮した様子でガルルンが戻ってきた。


「体育館のトイレは凄いがう、新しくて綺麗で温水洗浄便座も付いてたがお」

「大声で言わないの、恥ずかしいんだから」


 一緒に帰ってきた委員長が頬を赤く染めて迷惑顔だ。


「ごめんね委員長、ガルちゃん何故か温水洗浄便座好きなんだよ」


 弱り顔の英二が家のトイレでの一件を話した。


「ガルルンは野良犬だったからな、トイレなんかそこらで全部垂れ流しだぞ、そんで温水洗浄便座の使い方も知らなかったんだぞ」

「温水洗浄便座は凄いがう、人間のところへ来て一番の感動がお、その温水洗浄便座がいっぱいあったがお、体育館のトイレは温水洗浄便座天国がう」


 バカにして頭をぽんぽん叩くサンレイに構わずガルルンのテンションは高いままだ。


「ガルちゃんは体育館のトイレ初めて行ったのか? 運動場のトイレも温水洗浄便座付いてるぜ、あの二つは10月に改装して新品だからな」


 秀輝の話を聞いてガルルンのテンションがまた上がる。


「マジがう! 次の体育はトイレにずっといるがお、温水洗浄便座を独り占めがお」

「ちゃんと授業受けろ、学校に来て唯一真面目に受けてるの体育だけなんだからな」


 思わず英二が怒鳴りつけた。


 サンレイもガルルンも運動神経は抜群にいいので適当に遊んでいても体育の授業だけは満点をあげてもいいくらいだ。

 今のところまともに受けている授業は体育しかないのにサボらせるわけにはいかない。


 委員長が溜息をつく、


「話を聞いてやっとわかったわ、飛び跳ねて上から他の個室も覗くから騒ぎになって大変だったわよ、故障で人もいっぱい来てたし…… 」

「本当にごめんね委員長」


 拝むようにして謝る英二の隣でお構いなしでガルルンが続ける。


「広くて綺麗で温水洗浄便座付いてるし洗面台もあるがお、体育館のトイレならガルは住めるがう」

「そだぞ、テレビと電子レンジと冷蔵庫を置けば住めるぞ、寒くても温水洗浄便座のケツ暖房があるし夏なら水でお尻洗えばひんやりするぞ」

「サンレイ変な事いわないの! ガルちゃんが本気にしたら大変だろが」


 英二がサンレイの頭をポカッと叩いた。


「叩くな、痛いだろ、おらはガルルンの望みを言っただけだぞ」


 プクッと頬を膨らませたサンレイが頭を摩りながら英二を見上げる。

 ガルルンが子犬のように首を傾げて考えた後でニヘッと嫌な笑みになる。


「ガルの望み……それなら今座ってる椅子も温水洗浄便座にして欲しいがお、授業中もお尻洗えて安心がお」

「流石ガルルンだぞ、ケツ暖房にケツ洗い、温水洗浄便座はお尻を堕落させるんだぞ」

「女の子がケツとか言わない」


 英二がサンレイの頬を摘まんで引っ張る。


「でゅひひひひっ、やめろよ、こそばいぞ」


 嬉しそうに身をくねらせるサンレイを見て黙って話を聞いていた小乃子が口を開く、


「お尻を堕落させるとか発想が凄いな、ちょっとやらしいけどな、でも学校のトイレ全部を温水洗浄便座にして欲しいってのはあたしも思ったな」

「サンレイちゃんもガルちゃんも温水洗浄便座派かよ、俺はダメなんだよな、風呂やプール以外でお尻が濡れるのが絶対嫌だぜ」


 嫌そうな顔をする秀輝を見て英二が笑う、


「そういや秀輝はうちに温水洗浄便座が付いた時も間違えて動かないようにしろって使い方聞いていたよな」

「秀輝は温水洗浄便座嫌いがう? もう秀輝とはわかり合うことは一切ないがお」

「そんなに温水洗浄便座が好きか」


 呆れる英二を見上げてガルルンがニパッと笑う、


「大好きがお、もう温水洗浄便座が無い生活なんて戻れないがう、お尻を拭かないでいいなんて便利になったがお、ガルはトイレットペーパー切るの苦手がう、日本のトイレ全てが温水洗浄便座になればいいがお」

「それ賛成、全部温水洗浄便座になれば出先で探さなくてもよくなるよ、少なくとも公衆トイレやデパートなどみんなが使う場所は全部温水洗浄便座になればいいのにな」


 楽しそうに追従する小乃子の隣でサンレイがマジ顔に変わる。


「それはヤバいぞ、一つ間違ったら日本が滅びるぞ」

「滅びるがう? 人間が? 」


 不思議そうに首を傾げるガルルンの横で英二だけでなく秀輝たちもサンレイに怪訝な顔を向けた。


「確かに温水洗浄便座は便利だぞ、けど全てのトイレが温水洗浄便座になった時に日本人は滅ぶんだぞ」


 またバカ言い出して……、呆れた英二が止めようとするとガルルンが身を乗り出す。


「マジがお? 何で滅ぶがう? 」


 サンレイがマジ顔のまま話し始める。


「温水洗浄便座を使えばケツを拭かなくてもいいだろ、全てのトイレが温水洗浄便座になったら日本人は全部ケツを拭かなくなるぞ、それが何年も続けばケツを拭く方法を忘れるんだぞ、日本人はケツを拭かない民族になるんだぞ」

「がふふん、何言ってるがお、温水洗浄便座で綺麗になるからお尻は拭かなくてもいいがう、拭かなくてもいいんだから拭き方なんて忘れてもいいがお、日本人は世界一お尻の綺麗な民族になるがお」


 そんな事かと鼻を鳴らすガルルンの向かいでサンレイが眉間に皺を寄せて続ける。


「温水洗浄便座は電気で動いてんだぞ、電気が止まったらどうすんだ? 太陽フレアの大爆発や地震などの影響で電気が止まれば温水洗浄便座も止まるんだぞ」

「当たり前がう、電気止まったら温水洗浄便座どころかテレビも冷蔵庫も止まるがお、でも水が流れたらウンチは出来るがお」

「確かにトイレは使えるぞ、でも誰がお尻を拭くんだ? 」

「温水洗浄便座が動かないから自分で拭くしかないがお」

「そだぞ、でもさっき言っただろ、日本人はケツを拭く方法を忘れてんだぞ」

「そうがう、温水洗浄便座がないとお尻が拭けなくなってるがお」

「ケツの拭き方を忘れた時に温水洗浄便座が止まるんだぞ、そしたら誰もケツを拭かなくなるんだぞ、ケツはどうなる? 」


 ガルルンの顔から色が消えて青くなっていく、


「お尻がウンチだらけになるがお」

「そだぞ、全員クソまみれだぞ」

「ヤバいがお、温水洗浄便座天国がウンチ地獄になるがう、日本人はとんだクソ野郎になるがお」


 ガルルンの顔が真っ青だ。


「バカな事言ってガルちゃんを怖がらせるな」


 叱る英二をサンレイが押し退ける。


「邪魔すんなよ英二、まだ続きがあんだぞ」

「続きも何もそんな事あるわけないだろ、だいたい温水洗浄便座を使ってもお尻は……」

「いいから英二は黙ってろよ」

「そうだぜ、サンレイちゃん続けてくれ」


 呆れ返りながらも続きが聞きたいのか秀輝と小乃子が英二を押さえる。

 秀輝たちに頷くとサンレイが話を続けた。


「話しはここで終わりじゃないぞ、本当に恐ろしいのはここからなんだぞ」

「お尻がウンチだらけになるより恐ろしいことが起きるがおか? 」


 ガルルンがゴクリと唾を飲み込む音が英二にも聞こえてきた。


「病気だぞ、クソまみれのケツから感染症が発生して疫病が蔓延するんだぞ」

「病気がう……ウンチまみれのお尻からどんな恐ろしい病気が…… 」


 ガルルンが怯えるように隣の英二の腕をギュッと握り締めた。

 サンレイがマジ顔の口元をニヤッと曲げる。


「肛門が腐り落ちるんだぞ、そんでクソが止まらなくなるんだぞ」

「マジがう~~っ、ウンチ垂れ流しがお、下痢が酷くなると体の水分が無くなって脱水症状になるがお、それで死ぬ人もいるがう、恐ろしいがお、そんな事になったら町中ウンチだらけで外も歩けなくなるがお」

「町中どころか自分の家もクソだらけだぞ、ケツだけじゃなくて全てがクソまみれになるんだぞ、温水洗浄便座で日本は滅びるんだぞ」

「がわわぁ~~ん、大変がう、日本が滅亡するがお」

「そだぞ、日本人は潔癖すぎるんだぞ、でももうすぐ全滅だぞ」


 2人がバッと振り向く、


「死んじゃ嫌だぞ英二ぃ~~ 」

「ガルはウンチまみれでも英二が好きがお~~、だから死んじゃダメがお~~ 」


 抱き付いてくる2人を英二が振り払う、


「死ぬか!! お尻の拭き方なんか忘れるわけないだろが! 」


 怒鳴る英二をサンレイが押し退けた。


「秀輝、英二を押さえとけ」

「了解だぜ」


 ニヤニヤしながら秀輝が英二を後ろから取り押さえた。


「離せ秀輝、お前らいい加減にしろよ」


 もがく英二の頭をサンレイがポンポン叩きながら続ける。


「でも一つだけ助かる方法があんぞ」

「何がう、教えるがお、英二を助けるがう」

「ケツの拭き方をマニュアル本にして備えておくんだぞ、現代っ子は何でもマニュアルだからな、マニュアルさえあれば旨くケツが拭けるぞ」

「おおぅ、流石サンレイがう、早速作るがお」


 ガルルンがぱぁーっと顔を明るくした。


「そんなものいるか! お尻の拭き方なんて忘れるわけないだろ、前から拭くか後ろから拭くかだけだろが」


 秀輝に押さえられたまま英二が呆れ顔で叱りつけた。


「なに言ってんだ。間違えて横から拭いたら広がって大変だぞ、間違いを起こさないためにもマニュアルがいるんだぞ」


 とぼけるサンレイを英二がじろっと睨み付ける。


「いい加減にしないとアイス抜きにするからな」

「にへへへへっ、冗談だぞ、冗談に決まってんぞ」


 サンレイが誤魔化すように笑いながら英二の肩をバンバン叩く、


「秀輝離していいぞ、お遊びは終わりだぞ、もうすぐチャイムも鳴るからな」

「了解だぜ」


 秀輝の手を振り解いて英二がムスッと口を開く、


「ほんっとにサンレイの言うことなら何でも聞くんだな」

「怒るなよ、面白かったからついな」

「まったく」


 呆れてそれ以上文句を言うのを止めた。


「冗談がう? 全部サンレイの嘘だったがお? 」


 子犬のように首を傾げるガルルンの頭を英二が撫でる。


「そうだよ、全部サンレイの嘘だから安心していいよ、だいたい温水洗浄便座を使っても最後にお尻に付いた水を拭き取るだろ、だからお尻の拭き方を忘れるわけないんだ」

「最後に拭くがお? トイレットペーパーで? 」


 不思議そうに見つめるガルルンの前で英二の表情が硬くなっていく、


「もしかしてガルちゃんは最後に拭いてないのか? 」

「拭いてないがお、お湯で洗うから綺麗になってるがう」

「綺麗にはなってるけど濡れてるだろ? 拭かないと濡れたまま……ひょっとしてそのままパンツ穿いてるのか? 」

「そのままがお、5分もすれば自然と乾くがお」


 英二だけでなく秀輝や小乃子たちも残念な子を見る目になっていた。


「 ……わかった。とにかくサンレイの言ったことは全部嘘だからな」

「また騙されたがお、サンレイは嘘ばかりがう」


 プクッと膨れるガルルンの向かいでサンレイがニヤッと意地悪に笑う、


「ケツの拭き方なんて忘れようがないぞ、痒くなったら自然と拭いてるぞ」

「そうがお、ガルも痒くなって山で地面に擦り付けてたがお、拭き方なんて誰にも習ってなくとも自然に出来るがお、嘘でも安心したがう」

「地面で擦ってたって……マジで犬と同じだな」


 小乃子と委員長は少し引き気味だ。



 授業が終わり帰路につく、サンレイとガルルンはもちろん秀輝や小乃子と委員長と一緒に帰る。

 今日はバイトがないので気が楽だ。


「どっか寄っていこうよ、コンビニじゃなくてさ」


 小乃子が言うとガルルンがバッと手をあげた。


「賛成がお、ガルはチーカマが食べたいがう」


 委員長が弱り顔でガルルンの頭を撫でた。

 犬と認識しているらしく委員長も小乃子も頭だけでなく全身をよく触る。


「チーカマってコンビニかスーパーしか売ってないよ、ハンバーガーとかドーナツ食べに行きましょうよ」

「じゃあマ○クでも行くか、ソフトクリームもあるしな、英二はガルちゃんとサンレイちゃんの分があるし小乃子と委員長には俺が奢るぜ」


 秀輝が任せろというように胸を張った。


「よっ秀輝太っ腹だな」

「来週バイト代入るからな、たまには格好いいとこ見せないとな」


 煽てる小乃子を見て秀輝がニッと照れ笑いだ。


「そうだな、たまにはコンビニ以外に寄ってくか、なっサンレイ」


 いつもなら真っ先にアイスが食べたいというサンレイが何も言わないのに気付いて英二が振り返る。


「どうした? 忘れ物か? 」


 門を出たところでサンレイが振り返って校舎を見上げていた。


「なんか変な感じだぞ」

「変な感じって? 」


 英二に構わずサンレイがガルルンに向き直る。


「ガルルンは何も感じなかったか? 」

「何も感じないがう、でもトイレ故障してるからいつもより少し匂いがきついがお」


 首を傾げるガルルンにサンレイが畳み掛ける。


「何か変わった匂いとかしないか? 」

「トイレの匂い以外はいつもと同じがお」

「そっか…… 」


 難しい顔で考え込むサンレイを見て英二が心配そうに声を掛ける。


「何かあったのかサンレイ? 」

「悪霊か何かいるのかサンレイちゃん? 」


 以前、宗哉に憑いた悪霊を払ったことやメイロイドのクロエが暴れたことを思い出して秀輝が顔を顰める。


「気の所為だぞ、何かあってもおらがいるからな」


 ニパッと笑ったサンレイが英二の腕を引っ張った。


「んじゃハンバーガーとソフトクリーム食いに行くぞ」


 考え事をしていても食べ物の話しだけは頭に入ってくるらしい。


「それじゃ行きますか」


 サンレイとガルルンと手を繋いで英二が歩き出す。

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