第28話
チャイムが鳴って全員席に着いた。
席順は以前と同じである。
縦に6列並んでいて左にある運動場の見える窓から3列目の前から4番目がサンレイの席でその後ろが小乃子の席だ。
英二はサンレイの左隣でその左後ろの窓際席が委員長の芽次間菜子だ。
秀輝は英二の二つ後ろ、1番後ろの席だ。
秀輝の右がメイロイドのララミの席でその右が宗哉で更に右がサーシャだ。
窓際席の1番後ろがハチマルの席で今は空いている。
つまり1番後ろの席が窓際から見てハチマル、秀輝、ララミ、宗哉、サーシャの順で横並びだ。
弱り切った顔の英二が右に座るサンレイを見つめる。
「なんでガルちゃんを入れたんだ。家で母さんと遊んでたらいいだろ」
「バカ犬のためだぞ、温水洗浄便座も知らないんだぞ、学校で勉強させないとダメだぞ、それに家で遊ぶのもそろそろ飽きるぞ、バカ犬が1匹で外歩き回ったら大変だぞ」
「だからってさ…… 」
サンレイの言うことも一理あると英二はきつく言えなくなる。
「宗哉に弁当まで持ってこさせて…… 」
「みんなを吃驚させようと思ったんだぞ、お母様に頼んだら英二にバレるからな、明日からガルルンの弁当もお母様に頼むぞ」
「前から思ってたんだけどサンレイって遠慮って言葉知らないよね」
「知ってんぞ、でも英二とおらの間は無礼講だぞ」
「親しい仲にも礼儀ありって言葉から教えなきゃダメだな」
ニパッと可愛い笑みを見せるサンレイの隣で英二が机に突っ伏した。
担任の小岩井恭子先生が入ってきて教室が静まり返る。
おおらかで少しボケの入っている先生だ。
普段なら彼方此方で話し声が止まないのだが今日は転入生が入ってくるという噂が広がって全員注目していた。
「みんなぁ~、おはよう~ 」
小岩井先生が気の抜けるような軽い挨拶をしながら教壇に立つ、
「今日は静かですねぇ~、それじゃあ、大事な話をしますよぉ~ 」
教室を見回して小岩井先生が続ける。
「急な話ですが転入生が入ってきます。みんな仲良くしてあげてねぇ~ 」
ドアに振り向くと首を傾げる。
「ガルちゃん入ってきてもいいですよ、ガルちゃん? 」
開けっ放しのドアに向かって小岩井先生が歩いて行く、
「ガルちゃん? ガルちゃ~ん、自己紹介ですよ~ 」
行き成りガルちゃんかよ、サンレイやハチマルも女の子の名前としてどうかと思うがガルルンはもはや日本人の名前じゃないだろ、神様の術を使えば何でもありだな、術が苦手だと言ってたけど戦うのと悪戯の術だけは旨いんだからサンレイは……、机に突っ伏したまま英二がサンレイを見つめた。
「んだ? もっと喜べよ英二ぃ~ 」
「喜んでるように見えるのか? 」
ニヤニヤ顔のサンレイに英二がムスッとしてこたえた。
廊下に出ていた小岩井先生が戻ってくる。
「高野くんガルちゃん知らない? 」
気の抜けた声に英二がバッと顔を上げる。
「知らないって……居ないんですか? 」
「居なくなっちゃった。さっきまで後ろを歩いてたんだけど…… 」
冗談じゃない、探しに行こうと英二が腰を上げると同時に黒板上の校内放送用スピーカーが雑音混じりで音を鳴らした。
「あ~、あ~、ヴァ~、聞こえてるがお? 聞こえてなくても聞くがお」
舌足らずな声にクラスの全員がスピーカーを見つめた。
「がふふん、聞け人間ども、今日からこの学校はガルのものがう、ガルがこの学校のボスがお、この学校にあるものは校長の薄い髪の毛1本までガルのものがお」
独特の鼻を鳴らす音に自身をガルと呼び語尾に『がう』や『がお』を付ける話し方、間違いなくガルルンだ。
「ああぁ………… 」
隠れるように英二が机に突っ伏した。
「ガルが来たからにはこの学校を日本一にするがお、勉強も運動も一番がう、ぶんぶりょうほう? ぶんぶんりょうほう? 分福茶釜分がお、できる女のガルに全てお任せがお」
「文武両道だろが!! 」
大声を出して英二がバッと顔を上げる。
クラスの全員が英二に注目した。
「また高野の知り合いか? ガルちゃんって言ったよな? 可愛いのか? 」
サンレイの時で慣れたのか級友たちは好意的だ。
「知り合いというか、訳あって家で一緒に暮らしてるんだ」
英二は大声で言い訳するとサッとサンレイに振り返る。
「どうなってんだ? なんでガルちゃんが放送してんだ? 」
「おら知らないぞ、英二に黙って入学するってのは企んだけど放送してんのはバカ犬1人の責任だぞ」
頬をプクッと膨らませるサンレイを見るに嘘ではないらしい。
スピーカーからはガルルンの話しが続いている。
「その為のカリキュラムはもうできてるがう、1時間目は散歩、2時間目はブラッシング、3時間目はおやつ、4時間目はボール遊び、5時間目は昼寝、6時間目も散歩、この時間割で日本一を目指すがお」
英二の顔がみるみる青くなっていく、
「これじゃ犬の時間割だ。文武両道なんだろ勉強はいつやるんだ? 日本一目指すんじゃないのか? 」
「それから明日から弁当は二つ持ってくるがお、一つはボスであるガルに献上するがお、弁当の美味しさで内申点が決まるがお、10回忘れたヤツは落第させるがお」
「どれだけ食うんだ? 全校生徒の弁当って軽トラ1台分くらいあるぞ」
顰めっ面の英二の背中をサンレイがバンバン叩く、
「心配無いぞ、おらも手伝って食うからな」
「アホか! そんな事いってんじゃないの」
ニパッと笑うサンレイを怒鳴りつけると英二がバッと立ち上がる。
「すいません、直ぐに連れてきます」
言うが早いか英二が教室を飛び出していった。
放送室へと走りながら英二が呟く、
「前もこんな事が……行動パターンがサンレイと一緒だ」
「夏になったらみんなでカブト虫を取りに行くがお、みんなで焼いて食べるがう」
「カブト虫なんか食うか! 」
廊下に響くくらいの声を出して英二がバッと放送室のドアを開けた。
「わふふ~ん、英二が迎えに来てくれたがお」
マイクの前に座ったガルルンが英二を見て尻尾をブルンブルン振る。
「なっ何やってんだ!! 」
怖い顔をした英二が肩で息をつきながらガルルンの前に立つと腕を上げる。
「今日から英二と一緒に勉強するがお」
ガルルンの屈託の無い満面の笑みを見て英二は叩こうと上げた手をそっと下ろしてその頭を撫でた。
「学校に来るのはいいけど悪戯しちゃダメだよ」
「ガルが来たことをみんなに報告してたがお」
「わかったから、もう報告はいいだろ、みんなに謝って教室に戻ろうな」
「何で謝るがお? ガルは悪いことしたがう? 」
ガルルンが子犬のように首を傾げた。
「この学校のボスとか言ってたでしょ、学校はみんなのものだからな、ボスとか言ってたらみんなに嫌われるよ、勝手に放送室使ったのもダメだろ」
「わかったがお」
幼子に言い聞かせるように言うとガルルンが頷いた。
「みんな悪かったがお、ガルは今日から転入してきたがお、みんなと友達になりたいだけがう、謝るから許して欲しいがお」
ガルルンが言い終わると英二がマイクを掴む、
「先生方済みません、みんなもごめんなさい、二度とさせないので許してください」
マイクのスイッチを切るとガルルンの腕を掴んで放送室から出る。
手を繋いで歩く英二を見上げてガルルンが不思議そうに口を開いた。
「なんで笑ってるがお? 」
「えっ? ああ…… 」
サンレイの時と全く同じだと自然と笑っていたらしい。
「ガルちゃんと一緒に勉強できると思ったら嬉しくなったんだよ」
ガルルンの顔がパッと明るく変わる。
「ほんとがう、ガルと一緒が嬉しいがお? 」
「うん、ガルちゃんは可愛いからな、お手伝いもしてくれるし、今だってちゃんと謝ってくれたし、逃げようとしたサンレイとは大違いだ」
悪戯もするが何処か抜けているガルルンにはついつい甘くしてしまう、サンレイと違った魅力がある。
昔飼っていたバカ犬に通じるような愛らしさだと英二は思った。
「がふふん、ガルはできる女がお、英二の母ちゃん優しいから好きがう、手伝いくらいいつでもしてやるがお」
嬉しそうに鼻を鳴らすガルルンを連れて教室へと戻った。
教室の前のドアを開けて英二とガルルンが入っていく、
「小岩井先生済みません、ガルちゃんも謝って…… 」
小岩井先生が英二を押し退けてガルルンに抱き付く、
「ガルちゃん大丈夫? 迷子になったのかと先生心配したんだから」
「大丈夫がう、ガルはできる女がお、迷子になんかならないがう」
抱き締められたガルルンが嬉しそうに尻尾をパタパタ振る。
前にもこんな事があったよな……、よろけて黒板に頭をぶつけながら英二は思った。
気を取り直した英二の目にパタパタ振っている尻尾が映る。
「わぁあぁ~、尻尾尻尾、尻尾出てるから…… 」
「尻尾? 尻尾がどうかしたの高野くん? 」
慌てる英二を見て小岩井先生がきょとんとした顔で訊いた。
「ガルちゃんの尻尾が…… 」
話す途中で英二がハッとしてサンレイを見ると意地悪顔でニヤッと笑っていた。
「ガルちゃんの尻尾? どこに? ガルちゃん尻尾生えてるの? 」
小岩井先生が不思議そうにガルルンを見つめる。
「がふふん、尻尾も犬耳も付いてるがお」
鼻を鳴らすガルルンの頭を小岩井先生が撫でる。
「もうガルちゃんったら先生をからかって可愛いんだからぁ~ 」
頭を撫でる手が犬耳に当たっているのに気が付いていない。
先生たちには見えてないのか? 普段からそうだから気付かなかったけど尻尾だけじゃなくてガルちゃん犬が半分混じったような姿だ……、英二が改めてガルルンを見た後で教室を見回すと誰一人としてガルルンの尻尾や毛だらけの手足に気付いている様子はない、いや秀輝と宗哉と小乃子と委員長は気が付いている様子だがサンレイに聞いたのか驚くどころが笑っている。
ガルルンを抱いたまま小岩井先生が立ち上がった。
「じゃあみんなに挨拶しようか、高野くんは席に戻りなさい」
「えっあっはい、ガルちゃん自己紹介で変な事言わないようにね」
心配顔の英二が自分の席に戻る。
ガルルンが教卓の前に立つ、
「ガルルンがお、神狼の直系で火山犬っていう大妖怪がう、それで…… 」
「わあぁーっ、冗談だからね、サンレイと同じで悪戯っ子で冗談が好きなんだ」
立ち上がって大声を出す英二の腕をサンレイが引っ張った。
「英二心配無いぞ、黙って聞いてろよ」
ニヤッと悪い笑みをしながらサンレイが続けて大声を出した。
「ガルルンはおらの親戚みたいなもんだぞ、そんでいろんなことが出来るんだ。みんな宜しく頼むぞ」
『サンレイちゃんの親戚か、それでかよ、納得したね、ガルちゃんって呼んでもいいよね、可愛いな、ガルちゃんよろしくな、これから面白くなりそうだよ』
教室の彼方此方から好意的な声が飛ぶ、
「なんで……みんな知ってたのか? 」
サンレイが只の幼女でないことはみんな知っているらしい、わかっていなかったのは自分の方だと英二が落ち込んで机に突っ伏した。
「ガルちゃん自己紹介を続けろよ、みんなも黙って聞こうぜ」
英二の2つ後ろの席で秀輝が言うと教室内が静まり返った。
「秀輝わかったがお」
ニコッと笑ってガルルンが続ける。
「ガルの好きなものはカブト虫とチーカマがう、嫌いなのは辛いのと酸っぱいのがう、匂いのきつい酸っぱいのとか辛いのは全然ダメがお、香水とかもダメがう、ガルは鼻がいいからきつ過ぎるのは好きじゃないがお、特技はいっぱいあるがお」
ガルルンが鼻をヒクヒクさせてみんなを見回す。
「そこのお前! 」
真ん中の列の男子を指差して続ける。
「お前の弁当のおかずにはレトルトのハンバーグに玉子焼きと昆布の佃煮とブロッコリーが入ってるがお」
「なんでわかるんだよ、見たのか? 」
怪訝な顔で言う男子の周りから弁当を確かめてみろと声が掛かる。
授業中だというのに男子が弁当箱を開けた。
「マジだ……ハンバーグと玉子焼きと昆布にブロッコリーが入ってるよ」
驚く男子を見てガルルンが鼻を鳴らす。
「がふふん、ガルは超能力者がお、見なくともわかるがう」
今度は女子を指差す。
「そこの女、お前の弁当は鶏肉の炊き込み御飯に冷凍のオムレツとウインナーにミニトマトがお、そんでポッケにミントの飴が入ってるがう」
「凄い……何でわかるの? 飴は通学中に他のクラスの友達に貰ってポケットに入れたのなんてすっかり忘れてたわよ」
男子と違って女子は自分の弁当をチェックする子もいるので見なくても中身を知っているのだ。
それよりも忘れていたポケットの中の飴玉を当てられてマジ顔で驚いている。
「がふふ~~ん、これがガルの特技がお、運動も得意がお、ガルはできる女がう」
ガルルンが鼻の穴を大きくして自慢気に胸を張った。
『透視能力かよ、超能力者だ。流石サンレイちゃんの友達だね、凄いけど一寸怖いわね、何でも透視できるのかな? 』
教室内がざわざわと騒がしくなる。
ガルルンの直ぐ前にいた男子が手を上げた。
「じゃあ、俺の筆箱の中身を当ててください」
「そんなもの知るか!! ガルは食い物以外興味無いがお」
ガルルンが牙を剥いて即答だ。
「あっあははは……ごめんなさい」
卑屈に笑いながら男子が謝った。
「超能力なんて言って匂いでわかるだけだろ」
呆れながら呟く英二の右隣でサンレイが目を丸くしていた。
「すげぇ~なガルルン、透視能力だぞ、いつの間に超能力を身につけたんだ」
こいつらは……、英二は呆れ果ててもう何も言うのを止めた。
「ガルはサンレイの親戚で英二の家に住んでるがお、学校は楽しいってサンレイが言ってたがう、だからガルも今日から一緒に勉強するからよろしくがお」
ガルルンがペコッと頭を下げて自己紹介が終わった。
どうやらサンレイとは口裏を合わせて親戚と言うことで押し通すつもりらしい。
「親戚ねぇ」
英二が左隣のサンレイを睨む、
「にへへへへっ、そういう事だからよろしくな」
「まったく…… 」
ニヤッと笑うサンレイを見て英二は溜息しか出てこない。
小岩井先生が教室を見回す。
「じゃあガルちゃんの席は…… 」
「恭子先生、ガルは英二の隣がいいがお、サンレイの反対側の隣に座りたいがう」
ガルルンが甘えるように言いながら英二の左隣を指差した。
また我儘言って……、英二が注意しようとした時、左にいた女子が手を上げた。
「先生、私席替わってあげてもいいですよ」
英二の左隣に座る名倉芽衣子だ。
肩に掛かるくらいのストレートの髪に眼鏡を掛けた大人しい女子だ。
委員長や小乃子と仲が良くサンレイを入れて女子トークをする友達である。
英二を挟んで右席のサンレイが机越しにひょいっと首を伸ばした。
「悪いな芽衣子、ガルルンはバカだからおらの近くに置いとかないと何するかわからんからな、この埋め合わせはいつかするぞ」
何をするかわからないなんてどの口が言うんだろう? 英二は文句の一つも言いたかったがサンレイと同じようにガルルンも近くの席なら安心だと思った言葉を飲み込んだ。
「サンレイちゃんの親戚ならお安いご用だよ」
優しい笑みでこたえる芽衣子に英二が体ごと振り向いて頭を下げる。
「気を使わせてごめんね名倉さん、サンレイが言ったようにこの埋め合わせはするからさ、困ったことがあったら何でも相談してよ、俺ができることなら何でもするからさ」
「うん、何かあったらサンレイちゃんに相談するね、お化けとか出てきてもこれで安心だよ、席替えくらい安いものだよ」
嬉しそうに笑う芽衣子を見てサンレイが立ち上がって偉そうに胸を張る。
「任せろ、悪霊でも妖怪でも芽衣子に悪さするヤツは全部退治してやんぞ」
クラスの彼方此方から『名倉さんいいな』と羨む声が上がった。
悪霊退治ってみんな知ってるのかよ……、英二が苦笑いだ。
サンレイが神様だということは知られていないみたいだが霊能力があるということは全員が知っているらしいのをこの時改めて認識した。
ガルルンが英二の左隣に座り名倉芽衣子は廊下側の女子列の後ろから2番目、サーシャの前の席に移動した。
「名倉さんありがとう、僕からも礼を言うよ、ガルちゃんは僕の友達でもあるんだ」
左後ろの席で爽やかスマイルを見せる宗哉を見て芽衣子の頬が赤く染まっていく、
「うん、サンレイちゃんの親戚なら私も友達になりたいからね、それに……佐伯くんとも友達になりたいし………… 」
「もちろんだよ、サンレイちゃんの友達なら名倉さんも僕の友達だよ、何かあれば僕も力になるから何でも相談してくれよ」
もじもじしていた芽衣子がパッと顔を明るくする。
「うん、よろしくお願いします」
「こっちこそよろしくね」
頭を下げる芽衣子を見て宗哉が爽やかに手を上げて返した。
空いている席は今座っている席かハチマルの座っていた窓際の1番後ろしかない、もしかしたら芽衣子は宗哉の近くに座りたくて気前よく席替えに応じたのかも知れない。
1時間目は担任の小岩井先生の現国なのでいつもより15分くらい早く終わって後はガルルンの話で盛り上がりあっと言う間に授業が終わる。
授業中、ガルルンはノートを広げて絵を描いていた。
もちろん英二が買い置きしていたノートだ。
クレヨンや色鉛筆は100円ショップで売っている物だ。
サンレイの落書き用に色々買っていたものを分けて貰ったのだろう。
休み時間、小乃子や委員長に芽衣子とサンレイの前席の篠崎晴美がサンレイとガルルンを囲んで女子トークだ。
今日は他の女子グループも近くで様子を伺うように集まっている。
英二は秀輝の席にいた。
サンレイとガルルンに挟まれた英二の席は小乃子が座って女子トークの中心となっていて近寄れない。
「みんなにはどう見えているのかな? 」
秀輝の机の上に座って英二が首を傾げる。
サンレイと違ってガルルンは完全に人間に変身することができないらしく犬と人間が混じったような姿だ。
だが決して怖いという姿ではなく逆に可愛く感じる。
頬の外側まで毛が生えているがそれ以外は人間の顔とほぼ同じだからだろう、ボーイッシュに犬耳の生えたコスプレをしたような感じである。
「さっきサンレイちゃんに聞いたんだが俺たち以外には普通の女の子に見えるらしいぜ、幻視の術ってのを掛けてるらしい」
お尻をずらして怠そうに椅子に座りながらこたえる秀輝を見て英二が溜息をついた。
「やっぱりサンレイの術か、小岩井先生が犬耳と尻尾見えてないのわかって何となくそうじゃないかと思ってたけど普通ってどう見えるのかなって思ってさ」
「そうだな、ガルちゃん頬に毛が生えてるし犬耳と尻尾生えてるもんな、可愛いけど手足も毛だらけだしな」
「背中も毛だらけだよ、時々犬の姿になって悪戯するし」
「山で戦った時も犬になってたよな、でもさガルちゃんは目鼻のパーツとかバランスが整ってて美人だぜ、基本が可愛いからみんなにはカワイイ系の女子に見えてるんだぜ」
「可愛いのは確かだけど……でもカブト虫食べるんだよ」
「マジで食ってたな、化けイチョウと戦った時にカブト虫の幼虫だって言われて丸かじりしてたぜ、夏の味って、カブト虫ってどんな味だろうな? 今年の夏は一寸ヤバいぜ」
「ガルちゃんが食べろってくれてもカブト虫は食べたくないよな」
駄弁っている2人の元へガルルンがトトトッとやって来る。
「英二ぃ~~、飴貰ったから分けてやるがお、秀輝もあげるがお」
飴を差し出すガルルンを見て2人の顔が綻んでいく、
「ガルちゃんありがとう」
「ガルちゃん制服似合ってるよな、可愛いぜ」
秀輝が褒めるとガルルンが嬉しそうにその場でクルッと回る。
「わふふ~~ん、可愛いがう、ガルも制服は気に入ってるがお」
ニコッと笑うとトトトッと女子トークへと戻っていった。
英二の通う和泉高校はブレザーの制服だ。
ガルルンはサンレイより7センチほど背が高い、体もほんの少しだけ大きいので少しダブついた感じのサンレイと違ってぴしっとして似合っていた。
ガルルンがくれた飴玉を秀輝がじっと見つめる。
「ガルちゃん優しいな」
「そうだろ、サンレイならこっちから言わないと分けてくれないよ」
ガルルンは大好物のチーカマまで分けてくれる。
サンレイからアイスを分けて貰ったことは一度もない、溜息をつく英二を見て秀輝が声を出して笑った。




