表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/139

第27話 「スナイパー」

 ドタドタと階段を上ってくる音が聞こえてきた。


「凄い勢いだぞ、何やってんだ? 」


 サンレイがゲームをしている手を止める。

 元気が有り余っているガルルンは階段を駆けるように上り下りするのだが今日は一段と騒がしい。


「大変がう、トイレにスナイパーがいるがお」


 大声を出しながらガルルンが部屋のドアを開けた。


「わあぁあぁ~~、大変なのはガルちゃんだから」


 思わず英二が叫んだ。

 下半身丸出しでガルルンが立っている。

 母に買って貰ったお気に入りのミニスカートはもちろんパンツも穿いていない。


 胸からお腹の辺りまで毛が薄い普通の犬と同じようにガルルンの下腹部と股にはほとんど毛は生えていない、柔らかそうなお腹から繋がる腰のくびれと太股に挟まれた大事な部分が丸見えである。


 ガルちゃんのアソコ……、ガン見していた英二の肩をサンレイがポンッと叩いた。


「おおぅ、やるなぁ~、パンツが無いから大丈夫ってヤツだぞ」


 茶化すサンレイの声で英二が正気を取り戻した。


「無かったら困るからな! 」


 サンレイを怒鳴りつけるとベッドから毛布を引っこ抜く、


「見えてるから隠しなさい!! 」


 真っ赤な顔をした英二が毛布をガルルンの腰に巻いた。


「パンツは? スカートはどうした? 」

「そんな事より大変がう、トイレにスナイパーがいるがお」

「わあぁぁ~、毛布が脱げるから、毛布を巻き付けたまま歩け」


 マジ顔で抱き付くガルルンのずれる毛布を必死でたくし上げる。


「トイレにパンツとスカート置いてきたのか? 汚れちゃったのか? 怒らないから言ってごらん」


 怒られると思って変な事を言っているんだと考えた英二が優しい声で訊いた。


「汚してないがう、ガルは尻尾が邪魔だからトイレは全部脱いでしてるがお」

「じゃあ何で穿いてないんだ? 」


 マジ顔で話すガルルンを英二が怪訝な顔で見つめる。


「スナイパーがいたがお、トイレスナイパーがう」

「スナイパー? 」


 顔を顰める英二の向かいでサンレイがガルルンの頭をぽこっと叩く、


「またバカ言ってんぞ、どうせクソしながら寝てたんだぞ」

「サンレイ! 女の子がクソなんて言っちゃダメだからね」


 叱りつけた後でガルルンに向き直る。


「それでガルちゃん、スナイパーって何のこと? 」

「トイレ終わった後にお尻にピューッてお湯が飛んできたがう、ガルのお尻をスナイプしたがう、凄腕のスナイパーがお」

「 ……ああ、あれか」


 一瞬考えると英二がガルルンの頭を撫でた。


「あれはスナイパーじゃなくて温水洗浄便座っていうお尻を洗浄してくれる機械だよ」


 ガルルンが訴えかけるように険しい顔を向ける。


「お尻の戦場……やっぱりスナイパーがう、ガルたちのお尻は狙われてるがお」


 呆れ顔のサンレイがガルルンの犬耳を引っ張った。


「ほんとにバカ犬だぞ、おらの可愛いお尻ならともかく、バカ犬の小汚い毛だらけのケツなど野良犬くらいしか狙わないぞ」

「サンレイ! 女の子がケツとか言わない、サンレイは下品なこと平気で言うよね」


 また叱りつける英二の向かいでガルルンが鼻を鳴らす。


「がふふん、ガルのお尻は可愛いがお、この前パンツ穿く時に尻尾が可愛いって英二も言ってたがう」


 サンレイがジロッと英二を見る。


「バカ犬の尻に何したんだ? 」


 英二がふるふると首を振った。


「ちっ違うから……ガルちゃんがパンツ穿きにくいって言うから……母さん居なかったし……それでちょっと手伝っただけだから………… 」

「英二の手がガルのお尻を優しく包み込んでくれたがう、その時に尻尾が可愛いって褒めてくれたがお」


 嬉しそうに言うガルルンの向こうでサンレイがじとーっと英二を睨む、


「ほぅ……英二は獣に欲情する性癖もあんだな、ヘンタイだぞ」

「ちっ違うから、変な事はしてないからな、それよりも温水洗浄便座の話しでしょ」


 話を逸らそうと英二が必死だ。


「おんすいせんじょうべんざ? 何がう? 」


 ガルルンが食いついてきて英二がほっとして話を始める。


「温水洗浄便座って言うのはお尻を洗ってくれる機械だよ、トイレで用を足した後でお湯で洗ってくれるんだよ、便座の横に箱みたいな機械が付いてるだろ…… 」


 思い出したようにガルルンが口を開く、


「ボタンとか付いてるヤツがう、液晶の数字が出てたがお、ガルはトイレの時間を計るものだと思ってたがう」

「そだぞ、時間に追われる現代人はトイレの時間さえ惜しいんだぞ、そんで一秒でも早くウンチ出るように毎日測ってんだぞ、おらなんか今日もハイスコア叩き出したぞ」

「マジがお、サンレイ凄いがお、ガルもウンチ競争に参加するがう」

「違う!! 測ったりしてないからな、サンレイは黙っててくれ」


 割り込んできたサンレイの頭をどけると英二が続ける。


「液晶の数字はお湯の温度設定とかだからね、ガルちゃん使い方知らなかったんだ。女の子だからトイレのこととか母さんが教えてるかと思ってたよ、知らずにスイッチ押しちゃったんだよ、それで温水洗浄便座が動いたんだ。今度使い方教えてあげるよ」

「そうがうか……ガルはてっきりエロスナイパーがトイレに居ると思ったがお」


 ガルルンは何故か残念顔だ。


「そんなもん居るわけないぞ、便座に付いてる機械だぞ、自動販売機と同じだぞ、自動ケツ洗い機だぞ」


 楽しそうに言うサンレイの頬を英二が摘まんで引っ張る。


「この口が悪いんだな、女の子がケツとか言わない」

「でゅひひひひっ、止めろよほっぺた伸びるだろ」


 怒られて嬉しそうなサンレイを見て英二が溜息をついて手を離す。


「にへへへへっ、怒るなよ、ガルルンにはおらが使い方教えてやんぞ、なんたってパソコンの神様だからな、機械には詳しいんだぞ」

「機械? ああ、あの伸びてくるやつがう、ガルはてっきり誰かが操ってると思ってたがお、トイレ用お尻スナイプドローンだと思ってたがう」

「誰も操ってないぞ、プログラムされてんだぞ、そのセンサーに付いてるカメラがお尻の穴目掛けてお湯を飛ばすんだぞ、そんでついでに全世界にネット中継してんだぞ、今流行の動画配信ってヤツだぞ」

「がわわぁ~~ん、マジか!! カメラ付いてるがお、中継されてるがう」


 大口を開けて驚いた後でガルルンが英二に振り向いた。


「英二、マジがう? ガルのお尻が全世界に……これでガルも有名人がお」

「喜ぶな、恥ずかしがれ!! 」


 ニパッと笑顔を見せるガルルンを叱りつけると英二が続ける。


「嘘だからね、そんなの勝手に配信したら逮捕されるからね、盗撮だからね」

「よかったがう、ガルのお尻は英二だけのものがお」


 ガルルンがバッと英二に抱き付いた。


「ちょっガルちゃん…… 」


 嬉しそうに頬を緩める英二をサンレイがじとーっと見ていた。


「何喜んでんだ? ほんとに英二はヘンタイだぞ」

「ちっ、違うからな、そんなんじゃないからな」


 慌てて否定する英二からガルルンがバッと離れる。


「エロスナイパーじゃないなら問題ないがお、パンツとスカート取ってくるがう」

「そっ、そうだ。ちゃんと穿いてきなさい、女の子が丸出しはダメだからな」


 焦りまくって挙動不審になっている英二の向かいでサンレイが立ち上がる。


「英二のヘンタイは今に始まった事じゃないしな、んじゃ、ついでに温水洗浄便座の使い方教えてやんぞ」


 ガルルンを連れてサンレイが部屋を出て行く。


「ヘンタイじゃないからな……たぶん…… 」


 2人が出て行った部屋で英二が呟いた。




 トイレのドアを開けっ放しにしてサンレイがその場に固まる。


「べちゃべちゃになってんぞ、シャワーでも浴びたんか? 」

「スナイパーに驚いてもうちょっとで便器叩き割るところだったがお」


 トイレの床の彼方此方が濡れていた。

 コップ一杯くらいの水を撒いたような感じだ。


「スカートも濡れてんぞ」


 便器の前の床に置いてあるミニスカートも盛大に濡れている。

 ガルルンが笑顔で指差す。


「パンツは無事がお」


 サンレイが眉を顰めた。


「手を拭くタオルと一緒にパンツを掛けてんぞ」


 トイレットペーパーが付いてある反対側の壁にタオル掛けがありタオルの横に幼児用のパンツが掛けてあった。


「ここに置いとかないとパンツ穿くの忘れるがお、スカートだけ穿いて出てきてしまうがう、ここだと手を拭いたら直ぐにパンツのこと思い出すがお」

「流石ガルルンだぞ、これならパンツのこと絶対忘れないぞ」

「がふふん、ガルはできる女がお、パンツを脱いでも大丈夫がお」


 胸を張るガルルンの頭をサンレイが本気で叩く、


「アホかぁ~~、汚いパンツをタオルの隣に置くな、今まで知らずにタオル使ってたと思うとゾッとするぞ」


 頭を押さえたガルルンが頬を膨らませて拗ねるように口を開く、


「痛いがお、じゃあ何処に置けばいいがう……後はトイレのドアに掛けるしかないがお」

「ドアなんかに掛けたら本気で怒るぞ、トイレ終わるまで頭にでも被ってろ、ほんとバカ犬だぞ」


 もう一度ポカッと殴るとサンレイが続ける。


「取り敢えずパンツ穿け、英二に怒られるぞ」

「わかったがお、スカートは洗濯機に入れてくるがう」

「トイレの床拭くから雑巾持ってくんだぞ」


 ガルルンは慌ててパンツを穿くと濡れたスカートを持って洗面所へと向かう。


「まったく、おらより常識知らないぞ」


 サンレイが呆れ果てて呟いた。

 雑巾を持ってくるとガルルンがしゃがんでトイレの床を拭き始める。


「ガルルンはほんとに何も知らないんだな」


 開けっ放しのドアの前でサンレイが訊くとガルルンが振り返る。


「人間は悪い奴ばかりだってハチマルが言ってたがう、ガルは騙されやすいから気を付けろって言われてたがお、ガルは山犬がお、山で生活してるがう、時々食い物かっぱらいに行く以外は人間とは話ししなかったがお、人間のルールなんて知らないがう」

「ガルルンは何でも信じるからな、そんでハチマルは騙されないように人間は全部悪いって言ったんだぞ、でも英二や秀輝のようにいいヤツもいっぱいいるぞ」

「英二は優しいがお、ガルは人間は嫌いだけど英二や秀輝は別がう」


 ニパッと笑うガルルンを見て思い付いたようにサンレイがニヤッと悪い笑みをする。


「そだぞ! ガルルンも学校行けばいいぞ、学校で人間社会の勉強すんだぞ」

「学校がう? ガルは勉強嫌いがお、英二の家で母ちゃんと遊んでるほうがいいがお」


 ガルルンが厭そうに顔を顰める。


「勉強なんて簡単だぞ、授業中はノートに絵を描いたり図鑑読んでればいいんだぞ、図書室には本いっぱいあるぞ、料理の本もあるし漫画もあんぞ、みんなお菓子とかくれるぞ、そんで宗哉がアイス奢ってくれるんだぞ」


 楽しそうに言うサンレイを見てガルルンの顔がぱあっと明るくなる。


「図鑑って絵がいっぱい付いてる本がお、漫画もあるがう? お菓子食べ放題がう」

「そだぞ、宗哉にねだれば何でも買ってくれるぞ、図書室にある漫画は歴史とか偉人とか今一面白くないけど男子が買ってくる週刊誌回し読みすんだぞ、おらは術かけてるから授業中に読んでも先生に怒られないからな、そんで弁当食うんだぞ、時々学食でランチとかカツカレーとか食うんだ。旨いんだぞ」


 床を拭き終わったガルルンが立ち上がる。


「漫画と弁当食べに学校行くがう、図鑑も読みたいがお」

「図鑑は面白いぞ、勉強になるからな、そんでおらは寄生虫図鑑が大好きだぞ……そだ、ガルルンには寄生虫入ってるかもな、お尻痒くなったりしないか? 」


 ガルルンがキリッとマジ顔で口を開いた。


「痒くならないお尻などこの世に存在しないがお、犬も猫も人間も生きとし生けるもの全てお尻だけは平等に痒くなるがう、ガルは耳の裏とお尻は年中痒いがお、でも温水洗浄便座で治る気がするがう」

「年中痒いのはケツ拭いてないだけだぞ」


 じとーっと軽蔑した目で見るサンレイの前でガルルンがムスッと口を開く、


「失礼がお、ガルはできる女がう、時々地面に擦り付けて拭いてるがう……温水洗浄便座もお尻拭かなくていいがお、ガルも地面に擦り付けてたから手でお尻拭いてなかったがお、手でお尻を拭かないのは一緒がう、時代の最先端がお」

「マジだぞ、手でお尻を拭かないシステムだぞ」

「そうがう、お尻なんか拭かなくてもいいがお」

「何バカ言ってんだ! 一緒じゃないからな、お尻拭かない女の子は嫌だからな」


 2人を心配して見に来た英二が怖い顔をしてトイレのドアの横に立っていた。

 サンレイがバッと振り返る。


「拭かない勇気、紙を節約することによって森林破壊が防げるんだぞ、エコロジーだぞ」

「CO2削減がう、お尻拭かない運動がお」


 トイレの中でガルルンが偉そうに胸を張る。


「そんな勇気は捨ててしまえ! お尻拭かなかったら汚いだろ、歩く時や座った時とか気持悪くなるだろ」


 弱り切った顔で怒る英二がガルルンを見て驚く、


「うわっ、ガルちゃんスカートどうした? 何で穿いてないんだ? 」

「温水洗浄便座でびしょびしょになってたぞ」


 思い出したのかサンレイが顔を顰める。


「ここに掛けて置いたからパンツは無事だったがお」


 笑顔のガルルンがタオルを指差した。


「タオル……みんなが手を拭くタオルの横にパンツを掛けてたのか…… 」

「ここに置いとくと絶対にパンツ穿くの忘れないがお」


 満面の笑みを見て英二は怒る気も無くなった。

 ガルルンのパンツに関しては後日、専用のパンツ置きをトイレに設置したのは言うまでも無い。



 次の日から英二が霊能力を使いこなせるように訓練が始まった。


 ガルルンにはサンレイが説明してくれた。

 バイトの無い日は夕方から夜にかけて、バイトのある日は夜に1時間ほど特訓することになる。

 

 夜の山に英二とサンレイとガルルンがいる。

 サンレイの瞬間移動、電光石火で近くの山へと来ていた。

 今日はバイトがあったので1時間だけの訓練だ。


「んじゃ始めんぞ、初日だからな、爆発の力がどんな物か確かめるだけでいいぞ」


 サンレイが笑顔で英二を見つめる。


「どうした? さっさと爆発させろ」

「いや、行き成り言われても出来るわけないだろ、この前も何で爆発したのかわかってないんだからな、サンレイが電気で爆発させたと思ってたんだからな」


 困惑顔の英二の前でサンレイが腕を組んで考え込む、


「う~んっと、どうしたらいいんだ? ハチマルなら教えてくれんだけどな」

「力を集中するがお、指の先に気を集める感じがお」


 ガルルンが指を立てて念じるように目を閉じて見せた。


「こうやって静かに力のことだけを思い浮かべるがお、爆発させたことがあるならその時のことを思い出すといいがお、ガルが初めて火を使った時にそう教えて貰ったがう」

「目を閉じて指に力を溜める感じで爆発した時のことを思い出せばいいんだな」

「そだな、ガルルンができたなら英二もできるだろ、やってみろよ」


 サンレイは教え方知らなかったくせに……、呆れながら英二が目を閉じた。


「指先に全ての気を向かわせるがう、でも力は抜くがお、肩の力抜いて気だけを指先に集めるがう、旨く行けば指先が熱くなったり重くなったり感じるがお、そしたら爆発した時のことを思い出して爆発しろと念じるがお」


 ガルルンに言われた通りに右手の人差し指を立てると指先に全身の気が向かうように集中した。

 ガルルンが背中をバンッと叩く、


「力が入ってるがお」


 いつの間にか体が硬直するくらいに力んでいたが叩かれたショックで力と共に集中も無くなった。


「ごめん、もう一回やってみるよ」


 謝ると英二がまた目を閉じて指を立てる。


「またダメだぞ、眉間にしわ寄るくらいに顔が力んでるぞ」


 今度はサンレイが両脇を擽ってきた。


「わぁあぁ~、止めろよサンレイ」


 体を捩りながら英二が叫んだ。

 その後も何度かやるが全て何処かで力みすぎて失敗する。


「英二ちょっとしゃがむがお」


 しゃがんだ英二の頭をガルルンが抱き締めた。

 柔らかなおっぱいが額に当たる。

 子犬と女の子の匂いが混じったような芳香が気持ちを静めていく、


「リラックスしてやるがお、怖いことも危ないことも無いがお、ガルもサンレイも付いてるがう、何かあったら絶対守ってやるから安心するがお」

「ガルちゃん…… 」


 立ち上がると英二は目を閉じて人差し指を立てた。

 心の中で指先に気を集中させる。


 辺りが静まり返った。

 今まで風でざわざわ揺れていた草木の音や何かの動物が発する音、傍にいるサンレイとガルルンの息づかいも聞こえてこない、まるで音の無い世界に1人で立っているように感じた。

 同時に指先が熱くなるのがわかった。


 爆発しろ、英二が心の中で念じる。

 次の瞬間、ボンッという音を立てて英二の指先が爆発した。

 指は無事だ。指先から辺りへ飛ぶように爆発が広がったようである。


「バ~ンってなったがお、英二凄いがう」


 驚いて目を開けると嬉しそうに目を見開くガルルンがいた。


「できた……できたよサンレイ、ガルちゃんありがとう」


 サンレイがニヤッと意地悪に笑う、


「よくやったぞ、これで英二は立派な爆弾魔になれんぞ」

「がわわ~ん、英二が爆弾魔に……今すぐ自首するがお」


 喜びから一転してガルルンが顔を引き攣らせる。


「爆弾魔じゃないから、悪いことに使わないから、ガルちゃんが本気にするから変な事言うなサンレイ」


 慌てて大声を出す英二を見てサンレイが意地悪顔のまま続ける。


「にへへへへっ、冗談だぞ、んじゃ、忘れないうちに30回ほど爆発させろ、それが終わったら今日は帰るぞ、次から爆発のコントロールの訓練だぞ」

「わかった。感覚を忘れないうちに沢山やって身につけるよ」


 頷くと英二がまた目を閉じて指を立てる。

 サンレイとガルルンが見守る中で英二が何度も爆発させる。

 1時間半ほど練習してその日は帰った。



 3日後の朝、学校へ行こうと玄関へ出た英二が2階にいるサンレイを呼んだ。


「サンレイ学校行くよ、何か忘れ物か? 」


 普段は英二より早く靴を履いて飛び出していくのだが今日は朝からガルルンと何やら話し込んでいて中々出てこない。


「今日は恭子ちゃんの現国が1時間目だからな、先生優しいから安心だぞ」


 何やらサンレイが話す声が聞こえてきた。

 恭子ちゃんとは英二の担任である小岩井恭子先生のことだ。

 サンレイがちゃん付けしても怒らない優しい先生である。


「小岩井先生だからって遅刻したらダメなんだからな」


 自分に向かって話したと思っている英二が2階に向かって声をかける。


「わかってんぞ、英二先に行っててもいいぞ」


 2階からサンレイの大声が聞こえてきた。


「待ってるから早くしろよ」


 玄関先から英二が言った。

 サンレイ1人に歩かせたら何が起きるかわからない。

 英二に構わず2階からは何やら話し声が途切れ途切れに聞こえてくる。


「制服はこうやって着るんだぞ」

「格好いいがう、何か偉くなった気分がお、大人って感じがう」

「ブレザーって言うんだぞ、特注で3日掛かったんだぞ」

「サンレイが買ってくれたがお? 」

「おらお金持ってないぞ、そんで金の代わりに豆腐小僧のとこ一っ飛びして薬効豆腐貰ってきたぞ、服屋の爺さんが腰痛いって言ってたからな、薬効豆腐で直ぐに治ったぞ、そんでガルルンのブレザー作って貰ったんだぞ、おっぱいは少し大きいけど背はおらと同じくらいだからなピッタリだぞ」

「サンレイありがとがう、これで学校行けるがお」

「ガルルンは後から出るんだぞ、英二や秀輝を驚かせるんだからな」

「わかってるがう、美少女の転入生で驚かせるがお」

「そだぞ、にひひひひっ」

「楽しみがう、がひひひひっ」


 ボソボソとした話し声の後に大きな笑い声が聞こえて2階に向かって声をかける。


「まだかサンレイ? 何やってんだ? 」


 英二が玄関へ入ろうとした時、サンレイがドタドタと階段を駆け下りてきた。


「にへへへへっ、遅刻なんてしないぞ、まだ時間たっぷりあるしな」


 サッと靴を履くとぴょんっと跳んで玄関から出てきた。


「ガルちゃんと何かしてたのか? 」

「別に何もしてないぞ、今日もバイトだろ、英二が帰ってくるまで何して遊ぶか相談してただけだぞ、それより早く学校行くぞ」


 ニヘッと笑うサンレイに不穏なものを感じたがいつもの悪戯だろうとさほど気にせずそのまま登校した。



 サンレイがいつものように元気に挨拶しながら教室に入っていく、


「おは~~ みんなおは~~ 」


 手を上げて挨拶しながら自分の席に向かう、


「小乃子おは~ 」

「おいす~ サンレイ、今日も元気だな」


 後ろの席の小乃子が上げたサンレイの手にハイタッチだ。


「オッス、サンレイちゃん」


 後ろのドアから入ってきた秀輝が大声だ。


「おは~~、秀輝おは~~ 」


 鞄を机の上に置くとサンレイも元気に返す。


「小乃子おはよう、秀輝もな」


 サンレイの左隣りで机に鞄を掛けながら英二が挨拶した。


「おいっす。今日は遅かったな、エロゲーのしすぎで寝坊か? 」


 からかう小乃子に英二がムッとする。

 登校順はだいたい決まっていて委員長が1番で小乃子が2番、英二とサンレイが3番でその後から秀輝と宗哉が前後してやってくる。


「変な事言うなよ、エロゲーなんてしてないからな、サンレイがガルちゃんと話ししてて家出るの遅れたんだ」

「犬娘のガルルンだな、元気にしてるのか? 今度会いに行っていいか? 」

「小乃子ならいつでもいいぞ、ガルルン暇してるから喜ぶぞ」


 英二がこたえる前にサンレイがニパッと笑顔で言った。


「そっか、じゃあ近い内に委員長連れて遊びに行くよ、いいよな英二」


 何故か嬉しそうに小乃子が英二を見つめる。


「えっ、別にいいけど……俺の部屋じゃなくてハチマルとサンレイの部屋で遊べよ」

「英二の部屋でゲームやるぞ、んで女子会だぞ」


 迷惑顔の英二の隣でサンレイが満面の笑みだ。


「女子会いいね、お菓子持っていくよ」


 楽しげな小乃子を見て英二が顔を引き攣らせる。


「お前らなぁ~~ 」


 呆れ声を上げる英二の肩を秀輝がポンッと叩く、


「俺より遅いなんて珍しいぜ、コンビニからサンレイちゃん歩いてるの見えたぞ、弁当買いにコンビニに寄ってなかったら俺が先に着いてるぜ」


 言いながらサンレイの机に駄菓子の小さいチョコレートを置いた。


「おおぅ、チョコだぞ」

「弁当のついでにサンレイちゃんへの貢ぎ物買ってたんだ」


 しっかりチョコを受け取りながらサンレイが秀輝を見上げる。


「おらもコンビニ行きたかったぞ、チョコよりアイス買って貰ったのに…… 」

「だから呼び止めなかったんだ。朝からアイス食ってるの先生に見つかったら俺まで怒られるからな」


 苦笑いする秀輝の前でサンレイが早速チョコを食べ始める。

 メイロイドのララミとサーシャを連れて宗哉が入ってくる。


「英二くんおはよう、サンレイちゃんもおはよう」

「サンレイ様おはようデス、英二くんも秀輝くんも小乃子さんもおはようデスから」

「サンレイ様、おはようございます。皆様もおはようございます」


 宗哉の両脇でサーシャとララミが頭を下げた。


「おう宗哉おは~~、ララミとサーシャもな」


 チョコで口の周りをベタベタにしたサンレイがニコッと笑って返す。


「ベチョベチョだ。ほらサンレイこっち向いて」


 口の周りを拭いてやろうと英二がテッシュを取り出すがサンレイは構わずにトトトッと宗哉に駆け寄っていく、


「そんで頼んでたの持ってきてくれたか? 」


 テッシュを持った英二が後ろからサンレイの腕を取る。


「頼んでたのって? また宗哉に何かおねだりしたのか? 」


 怪訝な顔をしてサンレイを見つめる英二を見て宗哉がいつもの爽やかスマイルだ。


「あははははっ、英二くん気にしないでくれ、弁当を一つ余分に持ってきてくれって頼まれただけさ、僕の分とサンレイちゃんの分を入れて二つが三つになったくらいどうって事ないよ、僕とサンレイちゃんは友達だからね」


 初めて会った日に弁当のおかずを分けて貰って以降サンレイに気に入られようと宗哉は自分の分だけでなくサンレイの分の弁当も持ってくるようになっていた。

 その弁当はサンレイが小乃子と委員長と分けて食べている。


「にひひひひっ、友達以上だぞ、宗哉は親友だぞ」


 サンレイが嬉しそうに宗哉の腕をバンバン叩いた。


「弁当って……二つも貰ってどうするんだ? 二つも食べるのか? これ以上宗哉に迷惑掛けるなよ」


 サンレイの口の周りのチョコを拭きながら英二が叱りつける。


「迷惑なんてとんでもない、僕はサンレイちゃんの役に立てるならどんなことでもするよ、もちろん英二くんの役にも立つよ、何でも言ってくれ」

「宗哉の気持ちは嬉しいけどサンレイを甘やかせるのはダメだよ、俺がハチマルに怒られちゃうからさ」

「そうか御免よ……英二くんの言う通りだね、今度から英二くんの許可を貰ってからにするよ」


 気落ちする宗哉の腕をサンレイが引っ張る。


「宗哉気にすんな、許可なんか要らないぞ、だってだっておらは神様だからな」

「サンレイ! ハチマルが居ないからって悪さばかりしてたらダメだからな」

「何言ってんだ? 悪さなんてしてないぞ、弁当もおらが食べるんじゃないぞ」


 怖い顔の英二の向かいでサンレイがとぼけ顔だ。


「じゃあ誰が食べるんだよ? 」

「それは……まだ秘密だぞ、直ぐにわかるから楽しみにしてるんだぞ」


 ニヘッと悪戯っ子のように笑うサンレイを見て英二の顔が歪んでいく、


「また何か企んでるんだな、変な事したら怒るからな」

「でゅひひひひっ、怒っても平気だぞ、秀輝に助けて貰うからな」


 悪い顔のまま言うとバッと秀輝に振り返る。


「なぁ秀輝ぃ~~ 」

「おう、任しとけ、サンレイちゃんは俺が助ける」


 甘え声を出すサンレイに力瘤を見せながら秀輝がニッと笑った。


「ダメだからな秀輝」

「英二の頼みでもそれだけは無理だ。俺はどんな時でもサンレイちゃんの味方だ」

「そだぞ、秀輝はおらの家来だからな、1番の忠義者だぞ」

「マジか? 俺が1番の忠義者かよ、嬉しくて涙出るぜ」


 家来呼ばわりされて何で嬉しそうなんだよ……、弱り切った英二の向かいで秀輝とサンレイが並んで悪い笑みだ。


「みんな来てるわね」


 先に来て職員室へと行っていた委員長が教室へと戻ってきた。


「委員長おは~~ 」

「うんサンレイちゃん、おはよう」


 元気よく挨拶するサンレイに構っていられないという様子で素っ気無い挨拶を返すと委員長が続ける。


「さっき先生に聞いたんだけど今日転入生が来るらしいわよ」

「あたしらのクラスにか? 」


 サンレイたちのやりとりを楽しそうに見ていた小乃子が一番に食いついた。


「うん、女子だって言ってたわよ」


 英二の頭に今朝サンレイとガルルンが何やら話していた声が蘇る。


「女子の転入生? まさか…… 」

「バレたぞ、そのまさかだぞ」


 ニヘッと悪い顔でサンレイが笑った。


「ああ……マジかよ………… 」


 英二がその場にしゃがむと近くの机に突っ伏した。


「なんだよ、誰か知ってるのか英二? 」


 背中を叩きながら小乃子が訊くが英二は机に突っ伏したまま何もこたえない。


「ガルちゃんか! 」


 秀輝が大声だ。


「当たりだぞ、流石秀輝だぞ」

「ガルちゃんってあの山犬の子? 」


 驚いて訊く委員長に机に突っ伏したままで英二がこたえる。


「そうだよガルルンだよ、サンレイと同じくらいのちびっ子だ」


 悪い笑みのままこたえるサンレイを見て委員長と小乃子も全てわかった様子だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ