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第108話

 サンレイがバチッとハマグリ女房の前に現われた。


「お前わかってんだろうな、おらの英二に怪我させて…… 」

「あひゃひゃひゃひゃ、チビの神か、今の私の力なら貴様如き怖くないわ」


 笑いながらハマグリ女房がバッと後ろに跳んだ。


「貝紐縛り」


 英二たちとの戦いで撒き散らされた肉片がウネウネと動いてサンレイに纏わり付く、


「サンレイちゃん気を付けろ英二もガルちゃんもそれにやられたんだ」


 大声で教える秀輝の見つめる先でサンレイが肉片に巻き付かれて見えなくなる。


「あひゃひゃひゃひゃ、毒で動けまい、そのまま絞め殺してやるわ」


 勝ち誇るように笑うハマグリ女房の前でサンレイが埋もれた肉の山がピクッと動く、


「放電地走り! 」


 サンレイの叫びと共にバチバチと雷光をあげて肉の山に火が付いた。


「にひひひひっ、こんなもんでおらを倒す? 毒針? そんなもの電気のバリヤーで1本も刺さってないぞ」


 青い雷光を纏ったサンレイが肉を割って現われた。


「なっ……山犬も倒した私の技が…… 」


 焦るハマグリ女房の前でサンレイがニヤリと不気味に笑う、


「ボケ犬と一緒にするな……違うな、油断してたんだぞ、ガルルンも油断してなかったらこんな罠で倒れたりしないぞ」


 サンレイがバチッと消えた。


「んじゃ、次はおらの番だぞ、お前には手加減無しだぞ」


 ハマグリ女房が辺りを見回す。声は聞こえるが姿は見えない。


「雷パァ~ンチ! 閃光キィ~ック! 」


 バチッと青い光が走ってハマグリ女房が吹っ飛んで転がった。


「グヒャァ~、グヒャヒャァアァァ~~ 」


 叫び転がるハマグリ女房の上にサンレイがバチッと現われる。


「閃光チョ~ップ! 」


 バチバチと雷光をあげる手刀がハマグリ女房の頭を割った。


「グヒャヒャヒャァァ~~ 」


 ハマグリ女房が絶叫して動かなくなった。

 抱きかかえて英二を治療しているハチマルに宗哉が振り向く、


「英二くんの爆発はともかくガルちゃんや豆腐小僧の攻撃は効かなかったのにサンレイちゃんの攻撃は効くんだね」

「あれでも神じゃからの、只のパンチ1つにも霊気が籠もっておる。邪を払う霊気じゃ、ハマグリの纏う妖気など本気のサンレイの前では役に立たん」

「普通の妖怪のガルちゃんとは違うって事か…… 」


 納得した様子の宗哉の元へガルルンがやって来る。


「ガルは本調子じゃ無かったがお、イソギンチャクに飲み込まれて痺れてたがお」


 豆腐小娘に貰った薬効豆腐ですっかりよくなった様子だ。

 ハチマルに抱かれながら英二がガルルンを見上げる。


「毒なんて効かないって言ってたじゃないか」


 ハチマルが英二の頭を撫でる。


「ボケ犬の空元気じゃ、毒矢や毒針なら幾らでも防げるじゃろうが、毒のプールに入ったようなものじゃからな、それであれだけ戦えるのじゃから大したものじゃ」


 ハチマルに褒められてガルルンが得意気に鼻を鳴らす。


「がふふん、ガルは神狼の血を引く大妖怪がお、あれくらい平気がお」

「平気って空元気なだけでしょ」


 英二が起き上がる。


「がふふん、空元気でも元気は元気がお、ガルはできる女がお、少々辛くても付け入る隙は見せないがお」

「お主はボケボケの隙だらけじゃぞ」


 得意気なガルルンに遠慮して英二と秀輝と宗哉が言わなかったことをハチマルがズバリと言った。



 英二が元気になったのを見てサンレイがニッと笑顔になった。


「良かったぞ、ハマグリも倒したぞ」


 倒れて動かないハマグリ女房にサンレイが近付いていく、


「油断するな、まだ生きておるぞ」


 ハチマルが注意するとサンレイがくるっと振り返った。


「わかってんぞ、でももう終わりだぞ、妖力の暴走で体が限界になってんぞ」


 ハマグリ女房がガバッと起き上がると大きな体でサンレイを包み込むように捕まえた。


「あひゃひゃひゃ、捕まえたぞ」

「捕まってやったんだぞ、お前もう終わりだからな」


 蔑むように言ったサンレイを見てハマグリ女房が目を吊り上げて怒り出す。


「終わりだと、お前こそ捻り殺してやる」


 ハマグリ女房が押し潰そうとするがサンレイはバチッと雷光を残して消えた。


「結界も無く只の力や妖力だけで捕まるわけないぞ」


 サンレイが直ぐ前に姿を現わす。


「手遅れだぞ、おらやハチマルにも止められないぞ」

「何が手遅れだ。お前たちを殺せば…… 」


 悔しげに睨むハマグリ女房から黄色い光が噴き出す。


「ギャガガガ……ギャヒヒィィ~~、体が……力が……グヒャヒャヒャァァ~~ 」


 絶叫と共に眩しい光に包まれてハマグリ女房が縮んでいく、元の女の姿に戻るが光は消えない。


「力が抜けていく……悔しい……もう少しで……もう少し………… 」


 淡い光に包まれながら更に小さくなっていく、人の姿から二枚貝を背負った50センチ程の軟体動物のように小さくなった。

 サンレイの隣りにハチマルがやって来る。


「あの方とは何者じゃ? 」

「教えると思って? 」


 ニヤリと笑うとハマグリ女房は貝殻の中に消えていった。

 黄色い光に包まれながら貝殻も小さくなっていく、光が消えると手の平ほどの大きな蛤が転がっていた。

 サンレイが右手を青く光らせる。


「焼き蛤にしてやるぞ」


 英二が後ろからサンレイを抱き締めた。


「もういいよサンレイ、もう只の蛤なんだろ? 妖力を使い切って普通の貝に戻ったんだろ? また妖怪になって悪さは出来ないんだろ? それなら殺す必要は無い、海に帰してやろうよ」


 優しい眼差しでハチマルが頷いた。


「英二の言う通りじゃ、此奴は只の大きな蛤に過ぎん、仮にまた変化するとしても30年以上は掛かるじゃろう、海に帰してやるが良い、魚やタコなどに食われずに30年生きられたら大したものじゃ」

「わかったぞ、英二とハチマルが言うなら見逃してやるぞ」


 サンレイが蛤を拾い上げた。


「んじゃ海に捨ててくるぞ」


 バチッと消えると暫くして直ぐに戻ってきた。


「おらアイスが食いたいぞ、結界破るのに力使って腹ペコだぞ」

「ガルもおなか減ったがお」


 サンレイの横に並んだ狼姿のガルルンが普段の少女姿に戻っていく、


「おわっ! ガルちゃん、うへへへ…… 」

「わあぁ~~、ガルちゃん裸だ。服、服」


 ガルルンの裸を見て嬉しそうに顔全体を緩める秀輝の後ろで英二が慌てて上着を脱いだ。


「ガルちゃんこれ着て、服着て、早く別荘へ戻ろう」

「がふふっ、ガルは英二と秀輝と宗哉なら見られても平気がお、3人とも好きがお」


 英二の渡した上着をモソモソ着るガルルンを見てハチマルが溜息をつく、


「お主が良くても英二が困るじゃろ」


 サンレイがガルルンの生お尻をペチペチ叩く、


「ほんとだぞ、只でさえ英二と秀輝はおっぱい星人なんだぞ、ケモノ好き属性まで付いたら本物のヘンタイになるぞ」

「違うから、そんな事で困ってるんじゃないからな」


 弱り顔の英二を見て宗哉が楽しそうに微笑んだ。


「じゃあ別荘に戻ろうか、どこかで御飯食べて家に帰ろう、もちろんサンレイちゃんとハチマルさんにはアイスクリームもね、ガルちゃんにはチーカマとサラミだよ」

「やったぁ~、帰りのバスでもアイス食い放題だぞ」

「ガルはチーカマとサラミも食うがお」


 両手を上げて喜ぶ2人の向かいで宗哉が豆腐小僧と小娘を見つめた。


「豆腐小僧と豆腐小娘ちゃんも一緒に食事しないか? 帰りはバスで山まで送るよ」

「そうじゃな、お主らには世話になったからの、色々あったからの、里へは今度顔を出す事にしよう、今日は一緒に食事会でどうじゃ」


 ハチマルにも声を掛けられて豆腐小僧が嬉しそうにこたえる。


「ハチマル様のお誘いなら遠慮無く行くっすよ」

「行く行く、パフェ食べ放題でしょ、何処へだって行くわよ」


 豆腐小娘は大喜びだ。

 秀輝が英二の肩に手を回す。


「どうにか勝ったな」

「ああ…… 」


 何とも言えない表情で英二がこたえた。

 ハマグリ女房は倒したがその後ろにいる大妖怪とやらの正体も目的もわからない、勝つには勝ったがモヤモヤしたものが残った。




 海の中、アザラシとナマズが混じったような黒い毛むくじゃらの妖怪が何かを探すように泳いでいる。


「あったのだ」


 黒い妖怪が手の平ほどもある大きな蛤を拾うと岸へと泳いでいった。

 ゴツゴツとした岩に囲まれた磯に煤けた法衣を着たHQがいる。

 狐面は被っていない、ほっそりとした頬に整った目鼻、中々のイケメンだ。


「ハマグリ女房では無理でしたか……次は髑髏坊主か蛭仙女にでも頼みましょうか」


 独り思案するHQの前、水しぶきをあげて黒い妖怪が上がってきた。


「どうするんです? 既に只の蛤ですよ」

「よく働いてくれたのだ。おいらが暫く預かっておくのだ」


 黒い妖怪が大蛤を腰の毛の間に突っ込むのを見てHQが表情を緩める。


「珍しいですね、貝アレルギーは治ったのですか? 」

「アレルギーは治ってないのだ。でも持ってるだけなら大丈夫なのだ」


 黒い妖怪はこたえるとブルブルと犬のように体を振って水を払った。


「そうですか……ハマグリ女房も幸せ者ですね」


 飛んでくる水を避けもせずにHQが微笑んだ。


「それでどうするのだ? おいらは何時でもいいのだ」


 黒い妖怪の向かいでHQの目がキラッと光った。


「そうですね、ハマグリさんが頑張ってくれた御陰で英二の力も覚醒段階です」


 黒い妖怪も目を光らせる。


「力を得るには丁度いいのだ」

「そういう事です」


 HQがマジ顔で黒い妖怪を見つめる。


「では動きますか? 」

「わかったのだ。英二の力を得ておいらが奴らを叩き潰してやるのだ」

「なまさん、私も助力しますよ」


 HQがにこやかに言った。

 黒い妖怪は『なまさん』と言うらしい。


「それじゃあ、手下を集めるのだ」

「そうですね、山神の2人をどうにかしないといけませんからね」


 互いの顔を見て頷くと2人はスーッと影のように姿を消した。

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