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最大の難所 2

 竜と対峙してるクロエは視線だけを動かし観察していた。あれだけの巨躯だ。動きは鈍いとクロエは考える。竜の全身を覆う鱗は鉄壁と言っても過言ではないだろう。


(……出方を窺おうと思ったけど動く気配が無いな。こっちから行くか)


「"炎装"」


  身体を炎に包ますと残像を残して竜の正面に移動する。そこまでは良かったが読まれていたのか振り上げた腕の爪がクロエの肩から右の内腿までを切り裂いた。


「ぐっ!?」


  鮮血が飛び散り、顔が苦悶に歪む。しかし態勢を立て直して拳を繰り出す。唸りを上げる拳は竜の身体に直撃すると衝撃で後方に炎が飛散した。効いてないのか、竜はクロエの動きをただ目で追っているだけだった。


「ちっ……」


  舌打ちをし、竜の攻撃を躱す。 先程受けた傷は既に回復していた。一旦距離を取ろうとしたその時、竜の頭突きがクロエの顔面にモロに入った。骨の折れる嫌な音が響く。


「がはっ!!」


  歯も何本か折れて空を舞う。 そして竜が回転し、遠心力を利用した尾の攻撃はクロエの腹に直撃。 肋骨付近の骨が悲鳴を上げ、クロエはそのまま背後にある岩盤に背中から突っ込んだ。衝撃で砂塵が舞い上がる。

 竜は追撃せずに様子を窺っているようだった。


「痛いわね……。もう容赦しないよ。

 "術式炎装・インフェルノ零"」


  砂塵すらも飲み込み、火柱が天を突く勢いで上がる。衝撃波が空を駆け、熱風が地上を荒らす。火柱の中から飛び出したクロエは竜の爪撃は飛び上がって回避し、勢いそのままに竜の顔面に炎を纏わせた拳を当てる。 触れた瞬間に爆発を起こし首から上が噴煙で包まれる。すぐさま距離を取って、魔力を練り上げる。


「"紅炎・波状の炎牢"」


  手を前に突き出すと竜を囲むように炎が出現し、それは瞬く間に炎の檻を形成し、竜を閉じ込めた。 竜は一瞬固まったが、自体を呑み込んだのか、出ようともがく。炎を掻き消す爪だが、それも一瞬でまた炎が繋がり檻を作る。


「一気に終わらせてあげる」


  不敵に微笑むと手を広げる。濃密な炎の細い糸が幾重にも絡まり始める。 それはものの数秒で炎の槍を形作った。最高密度まで高められたソレはクロエの得意とする技の一つだった。


「"煉獄の極槍"」


  竜目掛けて投擲する。投げられた槍は空気を切り裂きながら進んで行き、炎の檻を螺旋状に吸収して竜の身体に直撃する。火柱が噴煙と共に上がり、爆風と熱風が荒野全体を駆け巡る。 地面はひび割れ、隆起した地面は岩のようだった。


(今ので片付いてくれればベストなんだけど、どうかな)


  噴煙が上がって竜の姿を確認出来なかったクロエだが、明らかな手応えを感じていた。

 煙が晴れ、竜の姿が段々と露わになる。クロエは微笑を含んでいたが竜の姿が目に入ると思わず表情を強張らせた。


「う、嘘でしょ? まさか、私の全力の"煉獄の極槍"を受けて無傷だなんて……!信じられない……」


  竜の身体は鱗一つ傷が見受けられなかった。

 竜は咆哮を上げるとその巨体からは考えられない速度でクロエに接近する。


「っ!? しまっ────────」


  クロエの声が掻き消される。 竜の爪撃はクロエの左腕の肩から先を綺麗に吹き飛ばした。血が辺りに飛散し、大量に出血する。


「があっ!? ぐぅぅっ!!」


  激痛が走り、身体をねじ曲げる。 竜の攻撃は止まず、腹に尾を突き刺す。 柔らかい肉を抉り、裏側の背中を貫通する。


「ごぼぉっ!!」


  大量に吐血しクロエの全身から力が抜け、ぐったりする。ほぼ意識の無くなったクロエの首から上を強烈なブローで吹き飛ばす。

 クロエは首から上が抉り取られており、断面からは血が湯水のように溢れ出ていた。


「きゃああああああああああああああ!!!!」


  マシロの絶叫が木霊する。クロエの腕か首が飛んできたのだろう。 その絶叫を聞いた竜がゆらりと身体を反転させマシロ達のいる方向に目を向けた。クロエの身体を地面に叩きつけて尾から外し、ゆっくりとマシロ達の方向に歩き出した。

  しかしクロエの腕が竜の尾を掴んで行く手を阻んだ。竜は尾を上下に振り回し何とか離させようとさせる。クロエの身体が徐々に再生していき、顔は元どおりに再生した。


「行かせるわけないでしょ? "属性変換・雷" "雷装"」


  炎を雷に変換させ、雷を身体に纏わせる。

 尾から手を離し、竜の頭部へと移動したクロエはハイキックを喰らわした。頭を揺らされ身体もグラいついた竜にさらに追撃と言わんばかりに小さな雷球を手の平に出現させるとそれを竜に向け放った。

  竜の鱗に触れると小規模な爆発をスパークと共に起こす。 竜に吹き飛ばされた腕は既に再生しており、身体の傷も完治していた。


「"雷縛"」


  竜の足元の地面から雷の鎖が出現し、竜の巨躯を拘束しがんじ絡めにする。

 竜は抜け出そうともがくが、暴れれば暴れる程絡みつき、さらに鎖から電撃が発生する。


(雷縛は暴れれば電流が流れ、千切れる寸前になると落雷に匹敵する電流が全身を駆け巡る……。さぁ、どうする)


  クロエは空中に浮遊し、竜の姿を見下ろしていた。もがけば電流が流れるのを理解したのか、竜は暴れるのを止めた。


「知能はかなり高いようだね。どっかの誰かとは大違いだ。驚くよ。

 でも、私がそのままにしてとくとでも?」


  クロエがチャクラムを出現させると右手でそれを掴み、回転させる。回転させるとスパークを起こし始めた。回転数の上昇に比例して、スパークも唸りを上げチャクラムを包み始める。 最大回転数に到達する頃には既にチャクラムは雷に包まれて見えなくなっていた。発光しており、その周りをスパークが駆けている。


「"雷昇天撃"!!」


  勢い良く投擲し、瞬く間に竜の身体に直撃すると地面を抉るように光の柱が突出する。衝撃波が波紋を描いて広がった。


(さっきの事もあるし、油断は禁物だ。

 身体に負担が掛かるけど出し惜しみをしたら負ける)


「"落ちた雷霆"」


  静かに呟くと、クロエの身体に雷が落ちる。

 クロエの真上に、小さな積乱雲が発生しておりそこから落雷していた。身体に雷を薄く纏っておりバチバチとスパークしている。

 未だ砂塵が舞っているがクロエは生きている事を確信していた。 瞬間移動をし、砂塵の中へ消える。轟音と共に雷が空に走る。


「はああああああ!!!」


  クロエは裂帛とした声で叫ぶと両腕に雷を集約させ、それを振り下ろす。斬撃となった二つの雷は竜の腹の部分に当たる。腹の部分に鱗はないため、竜のくぐもった悲鳴が聞こえる。腹が弱点と理解したクロエは腹を集中的に攻撃した。


「"雷昇天撃"!」


  威力が底上げされた技を叩き込み、竜の巨躯が地面に落ちる。


「はぁ……はっ、はぁ……まだまだ!

 "落ちた雷霆・最大出力"」


  クロエの身体が一層雷に包まれる。全身に雷を纏うその姿はもはや人型の雷のようだった。 赤目になっており、目だけが確認できた。


(いつまで身体が保つか分からないけど、全力を以って叩き潰す。この状態でも倒せないとなると流石にお手上げだ)


  クロエはそう思考してからスパークだけを残して消える。やっとの事で立ち上がった竜に猛攻を仕掛ける。 腕、背中、頭、胴体、足、ありとあらゆる場所に蹴りや拳をめり込ませる。威力が高いのか、クロエの攻撃が当たるたびに竜の足元の地面がひび割れ、足の形に地面がへこむ。


  上空へ飛び上がったクロエは巨大な雷球を生成すると同時に竜の周りに魔法陣を展開させた。


「"雷霆の深淵"」


  雷球を竜の頭上に落とす。重力に従って落ちるそれは竜の頭に直撃し破裂した。辺り一帯が光で包まれる。人間が見れば一瞬で目が潰れるほどの光度だった。


「はぁ……はっ、はぁっ……はっ、はっ……」


  肩で息をし、呼吸を整える。両腕をダランと下げている。もう体力、魔力共に底を尽きかけていた。


(一旦様子を見るか)


  そう思ったクロエは上空から地上に移動する。 深い穴が開いており威力の高さを物語っていた。 その穴から煙が上がっており竜の姿はおろか下が見えずにいた。まだ肩で息をしているが幾分か和らいでいた。


「全く、てこずらせてくれたね……。

 でもこれで終わ───」


  言葉の途中でクロエの腹部に衝撃が走りクロエが物凄い速度で吹き飛ばされ岩壁に勢いよく突っ込む。


「がはっ!! っつ、嘘でしょ、まだ生きてるなんて、どんな化け物だよ……! くそっ」


  頑丈さに呆れながらもクロエの身体の形の窪みからやっとの事で抜け出す。


(傷の治りが遅い!? くそ、魔力を使い過ぎたか)


  悪態をつきながら竜を睨む。クロエの再生能力は全身に魔力を生き巡らせる事で治癒力を底上げする事が出来る。が、今は充分に魔力が無いため治癒力は限りなく遅かった。


「ぐっ、……諦めきれるか。 ここまで来たんだ。 私がやるしかないんだ!」


  なけなしの魔力を身体強化に使う。 もう "雷装" の効果が切れたのか、雷は纏っていなかった。 先程の猛攻は見る影も無く、威力も速度も無かった。その為、拳が竜の身体に当たってもクロエの拳が悲鳴を上げた。


「きゃあっ!?」


  再度尾による攻撃を喰らい岩壁に激突し、顔面から地面に落下する。血だらけの顔を上げ、何とか立とうと肘で身体を支えようとするが殆ど力の残っていないクロエには無理な話だった。


(くそ! もう身体が……術の反動で!

 ここまでか? ここまでなの?)


  諦め切れないクロエ。 だが地面に這いつくばって意識を保つのが精一杯だった。クロエに巨大過ぎる壁が立ち塞がった。

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