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初めての狩り

 ある日の朝、マシロが一階でくつろいでいるとライズがマシロに寄ってきた。

 マシロは、また風を起こしてスカートを捲られる、と思ってスカートを押さえる。


「おいおい、勘弁してくれ。いつまで根に持ってんだよ。今日はマシロと魔物の狩りに行こうと思ってな。ラスクから依頼は受注しといたから俺は行けるぜ」


「……むー、狩りですか?」


  頰を膨らませながらライズに質問するマシロはどこかあどけなかった。


「ああ。掃除ばっかじゃつまんないだろ?ちょっと外でリフレッシュも兼ねてな」


  ライズはマシロの頭を無造作に撫でた。


「きゃっ!!」


  いきなり頭を撫でられたマシロは驚いて声を上げる。それに驚いたライズも反射的に手を頭からどかす。


「ああ、すまん。つい触りたくなってな。

 ま、依頼って言ってもその辺の雑魚モンスターを狩るだけだ。一番ランクの低いCランクの依頼だからお前でも余裕だな」


  とライズはニヤッと笑うとマシロの反応を待ってみた。


「狩り……。因みに狩る魔物の名前は?」


「んーミストキャット……ちょっと悪さをする猫だと思った方がいいな」


「ミストキャット……でも私、剣とか武器を握った事ありませんよ?」


「だからこそ俺がいるんだろ?危なくなったら俺が消し炭にしてやるから安心しな」


  ドンと胸を叩くがマシロからは白い目で見られると共に嘆息を吐かれた。


「ライズさん、私まで消し炭にしそうで怖い。火力調整してくださいよ?」


  辛辣な意見はライズの胸に突き刺さった。

 ライズは頬を掻きながら引きつった表情を浮かべていた。



 *

 

 外に出た二人は早速依頼を受けた小さな森に足を踏み入れた。マシロはロングTシャツとズボンに着替えており腰には剣を差していた。無言で獣道を進みながら歩くこと十分、やっと目的の場所に到着した。


「ここがミストキャットの出没区域ですか?

 イメージ的には住宅街って感じがしてたんですけど、全くの逆でした」


「良くあるなそれ。 俺も子供の頃そんな風に思ってたぜ」


  そんな事を言い合っていると、茂みでガサッと動く音がする。マシロは身構えて剣の柄に手を掛ける。


「落ち着けマシロ。狩りじゃ焦ったり行き急いだら死に繋がる事だってある。平常心を保て。って言っても無理だよな」


「……いつ襲われるか分からないですからね。警戒しておきたいんです」


(色んな意味でね)


  キリッとした顔は真剣そのものだった。

 それを察したのかライズも真剣になる。


「この森じゃあ俺の炎も満足に使えん。だが剣があるから任せろ。ミストキャットレベルなら余裕だ」


「少し黙っていてください。気が散ります」


「……すまん」


 ライズを黙らせたあと、今度はマシロの真後ろからガサガサと茂みが揺れる。そして茂みを二分するかのようにマダラ模様の少し大きめの猫が姿を現す。


「ニャー」


「っ!? マシロ! ミストキャットだ!油断してる!チャンスだ!」


「分かってるんですど……手の震えが止まりません……」


  マシロの言う通りカタカタと小刻みに震えていた。見かねたライズはマシロの手にそっと手を重ねる。


「落ち着け……怖いのも分かる、逃げ出したい気持ちも分かる……だが逃げ続けても何も始まらない。お前なら出来るよ。深呼吸して気持ちを落ち着かせろ」


「分かりました……すぅ、ふぅ……」


  深呼吸をしてマシロが一旦目を閉じてまた開ける。その瞳には迷いがなくなったのかどこか吹っ切れていた。ミストキャットを見定め、剣を握り締めいざ斬りかからんとした瞬間、ミストキャットが怯えるように威嚇をしだした。それを見たライズが不思議そうに口を開く。


「おかしい……。ミストキャットはイタズラ好きで本来なら誰に対しても威嚇はしないはずだ。しかも何かに怯えてるようにも感じる……俺の時はこんな事なんて無かった」


  ライズが多少混乱気味に呟いているのを尻目にマシロはミストキャットに一歩ずつ近づいて行った。ミストキャットはマシロに恐怖を感じているのか威嚇しながら後ずさりしている。


(……何で怯えてるのか分からないけど、人に危害を加える魔物なら容赦しない)


  業を煮やしたマシロはミストキャットとの距離を一気に詰めると剣を横に薙いで一閃する。ミストキャットは自分の出せる限界の声量を上げ、それが断末魔となりマシロの横薙ぎで胴体を真っ二つにされてしまった。

  ミストキャットが死んだかどうか確認した後マシロは剣を腰に納め、ライズの方に駆け寄った。


「あの、ライズさん……?」


  何か思い詰めた表情のライズにマシロは思わず声を掛けるが一拍遅れてライズがマシロに気付いた。


「ん、ああ……悪い。ちょっと考え事をな。マシロ、俺がミストキャットの死体の一部を証拠として持って帰るという仕事があるから先に帰っててくれ」


「……分かりました」


  マシロは少々腑に落ちなかったがライズの言葉に素直に従って来た道を戻っていった。マシロがこの場に居なくなった事を確認したライズは無惨に斬り捨てられたミストキャットの死体を睨み付ける。


(死体に特別おかしい所は無い。だが人の油断を誘う為のミストキャットの人懐っこさは見る影も無かったな……。マシロをまるで天敵を見るような行動だったし、あのミストキャットは明らかに虚勢を張っていた……あいつに、マシロに何かあるはずだ。こいつは死ぬ直前まで何を見ていたんだ?)


  考え出したらきりが無かったのでミストキャットの死体の一部を持って、ギルドに急いだライズだった。

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