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星すら斬るまで、俺は振り続ける  作者:
第六章 修羅と呼ばれる国
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第68話 一本道の先

 翌朝。

 修練場の中央には、リヴィアが一人で立っていた。


 今日は箒を持っていない。

 両腕を自然に下ろし、構えすら取らずに俺を待っている。

 カイウスは修練場の端で腕を組み、壁へ背を預けていた。


「昨日と同じ条件ですか」


「一撃を当てろ、とは言わない」


 リヴィアが右足を半歩前へ出す。


「私が何をしても、腹を中心に巡らせた流れを途切れさせるな」


「倒されても、ですか」


「倒されるのは勝手だ。地面へ転がるたび、魔力まで手放すな」


「分かりました」


「昨日作った順番を使いたければ、使ってもいい」

 リヴィアの口元が僅かに上がる。


「私が、その道を空けていればな」


 足を肩幅に開き、ゆっくりと息を吸った。

 無属性の魔力を腹の奥へ集める。

 腹から両脚へ。

 腰、背中、肩、腕、掌。

 胸を通し、再び腹へ戻す。


 一巡。


 二巡。


 昨日よりも滑らかに、全身へ魔力が流れていく。


「いつでもどうぞ」


「もう始まっている」

 リヴィアの姿が僅かに沈んだ。


 神経へ水の魔力を重ねる。


 《瞬》。


 右肩が動く。

 拳ではない。

 リヴィアが僅かに踏み込み、開かれた右掌を俺の胸元へ押し当てた。


 見えている。

 だが、近すぎる。

 避けるため両脚へ風を流そうとしたときには、掌が胸へ触れていた。


 直後、短い衝撃が身体の内側へ突き抜ける。


「ぐっ――」


 足が地面から離れた。

 身体が後方へ飛ばされ、背中から土の上へ落ちる。

 衝撃に息を詰まらせた瞬間、腹へ戻るはずだった魔力が散った。


「一度目で終わりだ」


 胸元を押さえながら、上体を起こす。


「見えてはいました」


「昨日と同じだな」


 リヴィアは追ってこない。


「見えれば、次は《速》で躱せると思った。だから水の後に風を用意した」


「はい」


「その風を流す時間を、私がお前へ与えると思うか?」


 答えずに立ち上がる。

 無属性の魔力を腹へ集め、再び全身へ巡らせた。


「もう一度、お願いします」


「来い」


 今度は、こちらから先に動く。


 両脚へ風を重ねる。


 《速》。


 リヴィアが踏み込むより先に、その外側へ回り込む。

 そう考えて左足を出した瞬間、リヴィアの右足が進路へ置かれた。

 足を止めることができない。

 風をまとった左足が、リヴィアの足へぶつかる。

 そのまま前へ流れた身体を、手首と肩で引かれた。

 勢いを利用され、視界が反転する。

 地面へ叩きつけられる寸前、背中へ魔力を集めた。

 衝撃を受ける。

 だが、背中へ集めた魔力を戻せない。

 風の流れごと、身体の外へ散っていった。


「二度目」


 リヴィアが俺の手首を離す。


「《速》から始めても駄目ですか」


「風を使えば足を動かす。それを先に決めているからだ」


 土へ手をつき、立ち上がる。

 なら、動かない。


 今度は筋肉へ火の魔力を重ねた。


 《剛》。


 両脚と腰を支え、リヴィアの攻撃を受け止める。

 正面から押し返し、そこから《瞬》へ繋げる。

 火の魔力が全身へ行き渡り、筋肉が引き締まる。


 リヴィアが踏み込んだ。

 右拳が腹部へ迫る。

 腰を落とし、両腕を構えた。

 だが、拳は届かない。

 リヴィアの右手が俺の肘へ触れた。

 左手が手首へ添えられる。


 次の瞬間、構えた腕が外側へ捻られた。

 火で強張った肩が、その動きへついていけない。

 肘を押し上げられ、重心が浮く。

 リヴィアが一歩入る。

 腰が触れた。

 身体が持ち上げられ、その背中を越えて地面へ落とされる。


 火の魔力が肩で滞り、無属性の流れまで止まった。


「三度目だ」


 空を見上げたまま、息を吐く。


「最初に使う属性を変えただけだ」


 リヴィアが俺を見下ろす。


「水から始まる道。風から始まる道。火から始まる道。お前は一本道を三本へ増やしただけで、どこを歩くかは動く前に決めている」


「順番を決めなければ、三つが繋がりません」


「だから、繋げようとするな」


「ですが――」


「立て」


 差し出された手を掴み、身体を起こす。

 リヴィアは俺の右手を離さなかった。

 手首を掴んだまま、正面に立つ。


「目を閉じろ」


「このままですか」


「早くしろ」


 言われたとおり目を閉じる。

 視界が暗くなり、掴まれた右手の感覚だけが強くなる。


「水を流せ」


 神経へ水の魔力を重ねた。


 《瞬》。


 リヴィアの指が僅かに動く。

 手首の外側へ圧力が掛かった。


 その直後、腕を引かれる。

 反応して右足を前へ出したが、リヴィアの足が内側へ掛けられていた。

 膝が崩れ、身体が傾く。

 左足で踏み止まろうとした瞬間、掴まれた手首が下へ押された。


 肩が落ちる。

 耐えきれず、片膝をついた。


「今、何が分かった」


「手首を引かれました」


「それだけか」


 目を閉じたまま、先ほどの感覚を思い返す。

 腕を引かれる前。

 手首の外側へ触れていた指の圧力が変わった。

 リヴィアの掌が僅かに沈み、俺の腕を掴む力が弱まった。

 同時に、足元から伝わってくる重さが右から左へ移っていた。


「引かれる前に、握る力が変わりました」


「他には?」


「あなたの重心が、左へ動いたように感じました」


「目で見たか?」


「いいえ」


「なら、《瞬》で得られるものは視界だけじゃない」


 リヴィアが俺の手首を離す。


「水を神経へ通し、身体の伝達を早める。それがお前の《瞬》だろう」


「はい」


「目が受け取る情報も、皮膚が受け取る情報も、足裏が受け取る情報も、最後に通るのは神経だ」


 目を開ける。

 リヴィアが自分の右手を差し出していた。


「攻撃を見るためだけに使うな。掴まれた場所、押された方向、踏んだ地面。身体は目より先に、相手の動きを受け取っている」


『あなた、《瞬》で見えるようになったことばかり気にしていたものね』

 セレスの声が頭の中へ響く。


「見えなければ、反応できないと思っていた」


『今のリヴィアは、あなたの手に次の動きを教えていたわ』


「ああ。俺が気づいていなかっただけだ」


 リヴィアが一歩離れる。


「次に何の属性を使うかを考えるな」


「では、何を基準に選ぶんですか」


「今、お前の身体に何が必要かだ」


 リヴィアが俺の胸元を指す。


「押されて姿勢を保てないなら、火を筋肉へ流せ。相手がどこへ力を掛けているか分からないなら、水を神経へ通せ。今いる場所が悪いなら、空いている足へ風を流せ」


「火、水、風の順になっています」


「順番として聞くな」


 指先で胸元を軽く押された。


「支える。感じ取る。場所を変える。その結果として、必要な属性が決まる」


 リヴィアの指が離れる。


「属性から動きを決めるな。動くために、属性を選べ」


 腹を中心に巡っている無属性の魔力へ意識を向ける。


 これまでは、その上へ何を重ねるかを先に考えていた。

 水を使った後は風。

 風を使った後は火。

 一つを終えなければ、次へ進めないと思っていた。

 だが、必要なのが火なら、水から始める理由はない。

 風を流した足が使えなければ、そこへ固執する必要もない。

 一度腹へ戻し、空いている別の場所へ流せばいい。


「もう一度、お願いします」


「今度は攻撃を捨てろ」


「一撃を当てなくていいんですか」


「当てようとすれば、お前はまた《剛》を最後へ置く」


 リヴィアが両手を上げる。

 掌を開き、右足を僅かに前へ出した。


「十呼吸。反撃はしなくていい。流れを残したまま、地面へ倒れずに立っていろ」


「分かりました」


「始めるぞ」


 息を吸う。

 一度目の呼吸が終わるより早く、リヴィアの掌が胸元へ迫った。


 《瞬》。


 そう考えた瞬間、頭の中からその名前を追い出す。

 今、必要なのは何だ。

 掌が届くまで僅かに距離がある。

 その正面から外れるため、左足へ風を流した。


 足を踏み出す。

 リヴィアの右足が、俺の左足を上から押さえた。

 動かない。

 風を強めようとする。


 その瞬間、腹を巡っていた無属性の流れまで、左足へ引かれ始めた。


 違う。


 この足は使えない。

 風だけを解き、左足から腰へ戻す。

 リヴィアの肩が、脇腹へ迫っていた。

 逃げる時間はない。

 腹と背中の筋肉へ火を重ねる。

 身体を支えた直後、リヴィアの肩が脇腹へぶつかった。


 重い衝撃。

 足が浮きかける。

 だが、流れは途切れていない。

 接触している肩から、リヴィアの力が斜め下へ向かっていることが伝わってくる。


 神経へ水を流す。

 押されているのではない。

 足元を崩すため、上半身を沈められようとしている。

 空いている右足へ風を重ねた。

 右足を斜め後ろへ滑らせ、身体をリヴィアの肩の正面から外す。

 

 左足が解放された。

 風を腹へ戻す。

 離れようとした俺を、リヴィアの左肘が追ってきた。


 前腕へ火を流す。

 肘と腕が触れる。

 正面から止めず、腰を回して外側へ滑らせる。

 火を肩から胸へ通し、腹へ戻す。


 次の瞬間、右手首を掴まれた。

 水を神経へ重ねる。

 引かれる。

 同時に、右足の外側へリヴィアの足が入った。


 足を払われる。


 風。


 右足ではない。

 既に力を掛けられている右足から魔力を戻し、左足へ流す。

 左足で地面を押し、身体を横へ逃がした。


 リヴィアの足が空を切る。


 一度目。


 二度目。


 呼吸を重ねても、無属性の魔力は腹へ戻ってくる。


 風。火。水。風。


 昨日とは違う順番。


 違う。順番ではない。

 動く場所を変える。身体を支える。触れた力を感じ取る。

 もう一度、動く。

 必要な働きを選んだ結果、属性がそこへ重なっただけだ。


 リヴィアの掌が顎へ迫る。

 上体を反らさず、右足へ風を流して半歩下がる。

 直後、腹部へ拳が来た。

 腰と腹へ火を重ねる。

 受け止めた瞬間、水を神経へ通した。


 拳は囮。

 本命は、左足への足払い。

 火を解きながら重心を右へ移す。

 風を流そうとした右足へ、リヴィアの足が重なった。

 塞がれた。

 なら、左へ戻す。


 だが、判断が僅かに遅れた。

 右腕を取られ、肩を押し込まれる。

 身体が宙へ浮いた。視界が回る。背中から地面へ落ちる。

 衝撃を受ける直前、背中へ魔力を集めようとした。


 違う。

 一か所へ集めれば、また流れが止まる。

 背中から受けた衝撃を肩、胸、腹へ通す。

 息が肺から押し出された。


 十度目の呼吸。

 地面へ倒された。

 それでも、腹へ戻った無属性の魔力は両脚へ流れ、再び腰から背中へ昇っていく。

 途切れていない。


「今の一巡だけは、悪くない」

 リヴィアが俺を見下ろしていた。


「倒されました」


「十呼吸立っていろとは言った。できたとは言っていない」


「はい」


「だが、左足を塞がれた後、無理に風を通さなかった。脇腹を守るため火へ変え、触れた肩から水で力の向きを拾った。その後、空いている右足へ風を流した」


 リヴィアが手を差し出す。


「昨日のお前なら、最初に塞がれた左足で全て終わっていた」


 その手を掴み、立ち上がる。


『今のあなた、属性の名前を一度も口にしていなかったわね』


「考える余裕がなかっただけだ」


『それでいいのではなくて? 名前を呼んでから身体を動かす必要はないもの』


 確かに、先ほどは水、風、火の順番を思い出していなかった。

 押される。触れる。足を塞がれる。

 起きたことへ応じて魔力を流していた。


「もう一度だ」

 リヴィアが構える。


「はい」


 それから何度も、十呼吸を繰り返した。

 三度目で倒される。

 六度目まで耐えても、腕を掴まれた瞬間に流れを止められる。

 足元だけを意識すれば、掌で上体を崩される。

 接触から力を読もうとすれば、触れられる前に蹴りが飛んでくる。

 火で耐えようとしすぎれば、固まった身体をそのまま投げられた。

 それでも、地面へ倒されるたび、無属性の流れだけは腹へ戻した。

 順番を間違えたとは考えない。

 失敗した場所へ、次は何が必要だったのかを考える。

 陽が傾く頃には、十呼吸立っていられる回数が少しずつ増えていた。


 リヴィアが両手を下ろす。


「次で最後だ」


「十呼吸ですか」


「今度は一度だけ打ち返せ」


 痣の残る胸元へ手を当てる。


「ただし、当てることを優先するな。拳を止められても、流れを残せ」


「分かりました」


「カイウス」


 呼ばれたカイウスが、壁から背を離す。


「見ている」


「なら、今のこいつが昨日と何を変えたか、見落とすな」


「ああ」


 リヴィアが俺へ向き直る。

 無属性の魔力を腹へ集める。

 両脚へ下ろし、腰、背中、肩、腕へ。

 掌から胸を通し、腹へ戻す。

 流れを止めない。

 その上へ、必要なものだけを重ねる。


「始めるぞ」


 リヴィアの右足が動いた。

 最初に来るのは、胸元への短い掌打。

 朝と同じ攻撃。

 見てから避けても間に合わない。

 なら、避けることから始めない。


 腹と背中へ火を重ねる。


 《剛》。


 掌が胸元へ触れた。

 衝撃が身体の内側へ入る。

 火で固めた筋肉が、その衝撃を受け止めた。

 同時に、神経へ水を流す。


 《瞬》。


 掌から伝わる圧力が、正面ではなく左肩へ向かっている。

 俺の上体を捻り、右足へ重心を集めようとしている。

 空いている左足へ風を流した。


 《速》。


 左足を斜め後ろへ滑らせ、掌の正面から身体を外す。

 リヴィアの右手が胸元を滑った。

 だが、その肘が折り畳まれる。

 掌打を外した動きのまま、右肘が俺の顎へ跳ね上がった。

 左前腕へ火を重ねる。

 肘を受ける。

 衝撃を正面から止めず、腰を回して外側へ流す。

 火を肩から胸へ戻す。

 リヴィアの左足が、俺の右足首へ掛かった。

 風を流そうとしたときには、右足が地面から離れていた。


 昨日なら、ここで止まっていた。

 右足は使えない。

 流れを腹へ戻し、地面に残っている左足へ風を重ねる。

 左足で小さく跳び、払われた右足を外側へ下ろす。

 倒れない。

 体勢を立て直した瞬間、背中から腹へ魔力が戻ってきた。

 そこへ火を重ねる。

 右拳を腹の横から放つ。

 リヴィアの左掌が上がった。

 拳が、その掌へ突き刺さる。


 乾いた音が鳴った。

 止められた。

 拳は届かない。

 それでも、火の魔力を拳から外へ散らさない。

 掌へ触れた衝撃を肘、肩、胸へ通し、腹へ戻す。

 

 リヴィアの左手が閉じた。

 右拳を掴まれる。

 腕を引かれ、右足の後ろへリヴィアの足が入った。


 投げられる。

 掴まれた拳から水を神経へ流す。


 引く力は前。

 だが、肩へ掛かる力は斜め下。

 後ろへ退けば、足を掛けられる。

 前へ出る。

 空いている左足へ風を流した。

 引かれる力に逆らわず、左足をリヴィアの外側へ踏み込む。

 重心が、掛けられた右足から左足へ移る。

 肩を沈め、身体を半回転させた。

 リヴィアの腰を越えるはずだった俺の身体が、その横へ抜ける。

 両足が地面へ残った。


「止め」

 リヴィアの声が響く。


 掴まれていた右拳が解放された。

 反撃は掌で止められた。

 一撃を当てることもできていない。

 それでも、腹から両脚へ向かう無属性の魔力は消えていなかった。


 足から腰へ。腰から背中、肩、腕へ。

 胸を通り、再び腹へ戻ってくる。


「残っています」


「ああ」


 リヴィアが一歩離れる。

 カイウスがこちらへ歩いてきた。


「昨日なら、拳を止められたところで終わっていたな」


「はい」


「その後に腕を取られれば、また《瞬》から始めようとしていた」


「ですが、今は掴まれた場所へ水を流し、空いていた左足へ風を流せました」


「見ていた」

 カイウスが僅かに頷く。


「昨日作った道から、初めて自分で外れたな」


 自分の右拳を見る。


 火、水、風。

 その後に火、風、水、風。

 思い返せば、決まった並びではない。

 同じ属性へ戻り、使えない場所から別の場所へ流し直している。


「順番を捨てられたということですか」


「違う」


 リヴィアが即座に否定する。


「必要なら、昨日の《瞬》《速》《剛》を使えばいい。相手の攻撃を見て、外へ踏み込み、拳を打つ。その状況なら、あの一本道が最も早い」


「では、今日覚えたことは……」


「道を捨てたんじゃない」


 リヴィアが俺の腹を指す。


「そこしか歩けなかったお前が、初めて自分で曲がる場所を選んだ」


 無属性の魔力が、指を向けられた腹を通過する。


「流れを止めず、その時に必要な場所へ、必要な属性だけを重ねる」


 リヴィアの指が、腹から胸、肩、腕へ動く。


「一つの技で終わらせず、受けた力も、使った魔力も、全て次へ戻す」


 最後に、俺の掌を指した。


「それが《命脈闘法》の入口だ」


「これが……」


 手を開き、掌へ流れてきた魔力を胸から腹へ戻す。

 一本道だった流れが、身体の中で途切れることなく円を描いている。


「できたとは思うなよ」

 リヴィアの声が落ちる。


「今日のお前は、円環を一度だけ巡らせた。それだけだ」


「一度できたなら、何度でもできるようにします」


「言うようになったな」


 リヴィアが俺から離れ、修練場の中央へ立つ。

 左足を前へ置き、僅かに腰を落とした。

 右足が持ち上がる。


 次の瞬間、地面を強く踏み抜いた。

 震脚。

 低い音が修練場へ響き、右足を中心に土が円形へ沈む。

 だが、力は地面へ逃げていない。

 足から腰。腰から背中。背中から両肩を通り、開かれた掌へ。


 リヴィアの着衣が、内側から押されたように揺れた。

 それだけだった。

 拳も掌も放たれない。

 集められた力は両腕を巡り、再び腹へ戻っていく。


「明日からは、その円環を一撃へ集める」

 リヴィアが俺の右掌を見る。


「刀を通して身につけた、打ち据えるための力の流れを、今度は掌へ繋げろ」


「刃へ届けていた力を、今度は掌へ……」


「刃がなくても、お前が積み重ねたものは残っているんだろう?」


 兄が《グラジオラス》で見せたものを思い出す。

 祖父から学んだ足運びと力の流れを、自分の身体と長剣へ作り直した技。

 俺も同じだ。

 刀へ届けていた力を、今度は掌へ届ける。


「はい」

 右手を開く。

 腹から巡ってきた無属性の魔力が掌へ届き、再び胸を通って戻っていく。

 昨日作った一本道の先に、ようやく小さな円環が生まれた。

 明日は、この流れを一撃へ変える。

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