没案・高校生編
○死後
「私が甘えたからだ」
「楽しく過ごしていたからバチが当たったんだ」
「普通に生きるなんて、私にできるわけなかったんだ」
それ以来、未来は、笑えなくなった。いや、笑わないようにしているのかもしれない。○が死んだのは、自分のせいだと。○が死人化したのも、自分のせいだと思っているのかもしれない。
俺たちと、距離を置くようにもなった。長谷川と阿部とは変わらず一緒にいるみたいだけど、別人みたいだって言ってる。現に、廊下ですれ違っても、無視をすることは無いにしろ、必要でなければ声をかけてくることもしない。
長谷川に最近の未来の様子を聞いても、口止めをされているようで、何も言うなって言われてるとしか帰ってこない。阿部も同様で、二人が心配しているのは伝わってくるものの、その状態が改善することは無かった。
そうやって、中学3年の冬が終わる。
勉強が苦手だった未来は、どうにか頑張ったようで、高等部に進学。長谷川、阿部も高等部へと行ったらしい。
秀は研究の為の知識をつけるために、もっといい高校へ進学。研究も忙しいのに、大丈夫だろうか。
俺はというと、少し家から遠いが、マダーの養成専門校があるので必死に勉強してそこへ進学した。
俺たちは、バラバラになった。
それ以降の彼女らの生活のことは、何ひとつ知る由もない。
秀は変わらずペアを組んでいるけど、研究が忙しくて顔を出せないことも増えた。まあ当然だろう。○が死んでしまった穴を埋められるのは、恐らく彼だけなのだから。
「ストップ」
素体状態での戦闘訓練中、凪さんの声が聞こえる。
「隆一郎。今何を考えていた?」
「…なに、って」
顔を上げると、怖い顔の凪さんが俺を見ていた。
「全く集中できてない。今僕が止めなかったら、君は死んでたよ」
凪さんの指さす方向、つまり今俺が殴りかかろうとしていたのは、割れて鋭利なマテリアルだった。全身で突っ込んで殴っていれば、体がマテリアルで串刺しにされていただろう。
「何があったのか知らないけど、心の状態が戦いに影響するようじゃあ僕には勝てないよ」
そう言って彼は壁に掛けられた黒色の帽子を俺に軽く投げ、それが体に当たり軽い音を立てて地面に落ちる。
「帽子を取る事が出来たからって、僕を殺せるようになったわけじゃないことを忘れないで」
「…はい」
帽子を拾いながら、俺は素直に反省した。これが実践だったら、本当に死んでいるところだったのだ。気を引き締めるべく、帽子をしっかりと握った。
「…あの子の事なら心配しなくていい。僕がちゃんと見てる」
「あの…それって、あいつも学校に行けてないってことですか?」
凪さんが壁に背をつけてもたれる。
「うん。東京で腕の立つマダーが殆どいない状態だからね。未来には悪いけど、今は僕と一緒に前線で戦ってもらってる」
「…そうですか」
「僕が認めるぐらい隆一郎が強くなったら、一緒に同じところに立てる。そうしたら、自分であの子のことを見ててあげられるでしょ」
「頑張りなさい」
「…うす」
「続けよう」
文化祭
「…未来?」
教室のドアの方から聞きなれた声がする。
「あ、あ…」
未来が硬直して、顔を真っ赤にする。そこにいる色男を見て。
「びっくりした…可愛いね」
「ひぅ!?」
「高等部の方で噂になってたよ。金髪碧眼の可愛いコスプレさんがいるって。もしかしてと思って見に来たんだけど…やっぱりみーちゃんだったね」
驚きのあまりつい『未来』と呼んでしまった美青年・凪さんは、みーちゃんと言い直して未来の方へと淑やかに歩いて行く。
その綺麗な顔立ちを引き立てる、美しい袴を着て。
「せっかくだし、一緒に写真撮ってもらおうか」
「な、凪、まって!」
未来の肩を抱いて引き寄せる。
「はい!はいはいはい!!私が撮ります!!!」
「笑って。未来」
こっそりと言う声。
恥ずかしそうにする未来
「相沢さんかたいよーっ!」
「じゃあこうしようか」
「わぁあっ!」
突然のお姫様抱っこに更に顔を赤くする未来
「ぎゃああああ」
教室の外で上がる悲鳴にも似た黄色い声。
デスゲーム
『やっほーつっちー。生きてたんだ?』
「長谷川もな」
死んでいるかもしれない。それが日常なせいで、なんとも不気味な冒頭の会話。
『今日さ、暇でしょ?』
「あ?」
確かに用事はないけど。
『面白いもの見せてあげる。競技場においで』
「…競技場って、今日は毎年やってるキューブの大会の日だろ。アタシの勇姿を見においでーとか言うんじゃねーだろうな」
『うわっ、失礼なやつ!まあそれもあるけどねー』
あるんかい。
『でも今年は、もっと面白いものが見られると思うよ』
「…なんだよそれ」
『見てからのお楽しみ!とにかく開始時間までに遅れずにおいで』
心底楽しそうな声で、長谷川は言った。
『今年は決勝戦まで…早いと思うから』
「長谷川が…2回戦敗退?」
もう何年も不動の優勝者だった長谷川。それが2回戦敗退なんて、一体どういうことだ。そう思ったすぐに、実況者の声が響く。
『いぇあー!ただいまの試合時間!48秒!!なんて事だブラザー!1分すら経たずしてノックアウトねーん!!』
敗退したらしい顔と名前の一致しないその男は、肩を落として競技台から降りてくる。その競技台に残っている人物が、今の試合の勝者。勝った者はそのまま次の対戦者と戦い続ける形式の試合。だから後になればなるほど体力が奪われて勝ちにくくなる。
ちなみに最後まで勝ち残ったやつが優勝なわけではなくて、相手に与えた総ダメージポイントで一番高かったやつが優勝というルールだ。
『yoyo!!次がラストねん!けっしょーーせん!!』
実況者が言うその名前を、俺が聞き間違えるはずがなかった。
『弥重凪バーァサス!相沢ッ未来ぅーーー!!』
…未来。
競技台に立つのは、変わり果てた幼なじみの姿。髪は相変わらず長く、ポニーテールに結い上げている。でも…顔が。顔が、全然違う。
優しく綺麗だった青い瞳は、美しいのに怖いと思うほどの鋭さを宿している。それだけなら、美人になったのだと言える。だけどそれだけじゃないのだ。
顔に、大きな痣があるんだ。傷があるんだ。首筋に、何かが突き刺さったような跡があるんだ。タイトな服を着た引き締まった体の、至る所に生々しい傷跡があるんだ。
俺は悟った。この大会に来る前に、どこかで強大な敵と戦ってきたのだと。
「やっぱり最後の相手は未来だったね」
長袖の上着、長ズボンに帽子を深く被った凪さんが、未来に話しかける。未来はそれに返事をしながらキューブを展開していた。
「前線で戦ってる身で、すぐ負けるなんてできないからね」
「それもそうだね。じゃあ…」
凪さんが、上着を脱ぐ。被っていた帽子をとって、両方場外へと放り投げる。露になったその肉体は、俺が見慣れたあの体ではなかった。見慣れない、包帯がぐるぐると巻かれた痛々しい姿。
「はじめようか」




