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スターダスト・オーヴァドライヴ  作者: 多咲 朔夜
chapter1
12/32

3

 その日は終始絶好調で、レン達は勝ちまくった。好調の理由はイヴが見てくれている以外に考えられないので、レンは自分の単純さが恥ずかしくなったが、無様な姿を晒すよりかは何倍もマシかと思い改めた。それに、特定の誰かのために戦うのは悪い気分ではなかった。自分の中にある、自分も知らないどこかから、不思議な力が沸いてくる気がした。

 戦い終えたレンは、イヴと2人で人気のまばらな夜の街を歩いていた。仲間達が気を遣って2人きりにしてくれたのだ。別れ際に散々っぱら冷やかされたのは屈辱だったが、それもまた不快さの伴ったものではなかった。


「今日はありがとな、わざわざ来てくれて」


 イヴは首を振り、珍しく冗談を口にした。「自ら誘拐されてみた」


「勝手に出てきて大丈夫だったのか? というか、俺が連れ出したあのあとお父さんからなにか言われたりしなかったか?」


「パパはたぶんわたしがいなくなったことにも気づいてない」


「……そっか」


 イヴの父親の娘に対する無関心さは思ったよりも深刻なようだった。


「よっぽど仕事が大事なんだな。有名な人なのかな、俺でも名前を知ってるような。なんていうんだ?」


「……ロイド」


 はて、どこかで聞いたことがあるような気もするが、判然としない。


「どうせ放っておかれてるのだから、好きなように行動することにした」


「それがいいよ。親なんていなくてもなんとかやっていけるってことは、俺達が証明してるしさ」


「レンは、寂しいと思うときはないの? 家族がいなくて」


 あまりにストレートな問いかけに、一瞬思考が止まる。


「どうだろう、施設にいるときも出たあとも、B・Bとかスミカが常に周りにいたから、寂しいとか感じる暇がなかったかな。でも、あいつらとだってこれからずっと一緒にいられるとは限らないからな、進路のこととかあるし。そう考えると不安にはなる。俺はこれから独りになるのかもしれないって。そんなとき、常に繋がりを感じていられる家族がいたらちょっとは気持ちの上で違ったりするのかな、と思ったりはする」


 真剣な表情で耳を傾けているイヴに、レンは続けた。


「家族ってさ、いろいろ面倒なこともあるし俺もイヴもそれで苦しんできたんだろうけど、やっぱり最終的にはその中でしか得られない温もりとか、安息とかがあるんじゃないかと思う。特別なもんなんだよ、俺達が同年代同士でつるんでも完全にその欠落を埋められるようなものじゃないんだ、たぶん。だからイヴには、なんつうか、お父さんを憎んでほしくはないんだよな。放任されて腹立つのは当然だし、そこは怒っていいとこだけど、いつか向こうが反省して謝ってくるようなことがあれば、許すか許さないかは別にして受け入れてやってほしいんだ。イヴはまだ、間に合うと思うからさ」


 俺とは違って、という言葉をレンは呑み込む。レンが向き合うはずだった相手は、もうこの世にはいない。許すことも、憎み続けることも叶わない。


「……なんて、説教くさくなっちまったな」


「ううん。レンがどうしてあんなに仲間達から好かれているのか、分かった気がする」


 柔らかい口調で独り言のようにイヴが言う。レンが意味を訊ねても、イヴは「さあ」とクールにはぐらかすばかりだった。

 そうしているうちにほとんど人の往来が絶えた路地裏に差し掛かっていた。


「じゃあ、今日はこのあたりで」


 とムーヴしようとするイヴを、レンは引き留めた。


「あ、あのさ」


「?」


「また、逢いに行くよ」


「うん、待ってる。わたしも、またみんなに逢いに来る」


「それとさ……」


「なに?」


 レンは前々から考えていたことを意を決して口にした。


「電脳だけじゃなく――現実リアルでも、そのうち逢えないかな、なんて」


 イヴの表情が変わった。いや、表情そのものに変化はない。出逢った当時ならなにも感じなかっただろう。けれど、浅からぬ付き合いを経た今、無表情ながらに彼女が動揺しているのがレンには感じられた。拒絶されている、というのが流石のレンにも分かった。


「あ、いや、ごめん。いきなりこんなこと言われても困るっていうか、おっかないよな。忘れてくれ」


「違う。そうじゃないの」


 取り繕おうとするレンをイヴがいつになく強い口調で制した。それから、切実な眼差しをレンに向け、告白した。


「レン。あのね、わたしは――」


 そのとき、ディスプレイの電源を切るように視界が突如暗転し、レンの意識はそこで途切れた。


―――――アボート―――――――――――――――――――――――――――――――


 数秒ののち、レンの意識が再び外界に接続される。目をしばたたかせなにが起きたのか把握しようとしたレンは、その場で凍りついた。

 自分の眉間に拳銃の銃口が突きつけられていたからだ。しかも、自分に向けられているのはその一丁だけではない。5、6人の人間が自分を包囲し、一様にこちらに狙いを定めている。反射的に逃げようと体を動かしかけたレンだったが、


「動くな」


 低く押し殺した、有無を言わさぬ声で制される。目の前の、自分の眉間に銃口を向けている男だ。ガスマスクのようなもので顔を覆っているため、正体は分からない。周りの男達も全く同じ物を着用している。

 と、同時にここがアパートの自分の部屋であることに気づく。電脳に没入する前同様端末の目の前のソファに座している状態だ。ちらりと端末に視線をやると、ポートからエントリデバイスが抜き取られていた。

 なるほど、状況だけは呑み込めた。どうやら自分の部屋に押し入ってきたこの男達が端末からエントリデバイスを引っこ抜いて自分を電脳から強制送還させたらしい。もっとも、男達の正体にも目的にもなんら心当たりはないが。とにかく、かなりヤバい状況なことだけは確かだ。


「こちらからの質問に答える以外の動作を行えばすぐさま撃つ」


 男はレンに警告した上で、


「パンドラはどこだ?」


「パンドラ? なんだよそれ、あんた達一体なんなんだ?」


「こちらからの質問に答えろ」男はレンの眉間に銃口を押し当てる。「パンドラのありかを教えろ、さもなくば命はない」


「ま、待ってくれ! パンドラってなんだよ、俺はそんなもの知らない!」


「しらばっくれるな。貴様が強奪したことはすでに調べがついている」


「強奪だって? 本当に知らないんだ!」


「ならばいい。貴様を殺して端末を調べよう」


 冷酷に男は告げ、会話を打ち切る。男の意識が自分から離れていくのが分かり、本当に自分を射殺するつもりなのだと直感した。ここは電脳ではない、現実だ。銃口から身を護る装甲はなく、デリートは文字通り死を意味する。死。

 死ぬのか、こんなところで? ――レンの胸に絶望が去来する。両親の離婚からこっち、いいとこなしの人生だった。孤児という負い目に常に苛まれ、貧困層とさげすまれ、なにも手にすることがないまま終わってしまうのか。やっと、その人のためならどれだけでも頑張れるという女の子と出逢えたのに。

 きつく目を閉じ、レンは祈る。神でも悪魔でもなんでもいい、頼むから助けてくれ。

 直後、銃声が鳴り響く。思わず身をすくめるレンだったが、セットにならなければいけないはずの痛みも衝撃もその身にはやってこなかった。

 おそるおそる目を開くと、自分に銃口を突きつけている男がほとんどスローモーションのような冗長さでその場にくずおれていく。


「誰だッ?」


 残された男達が部屋の入口に対し銃を向ける。直後再び銃声が轟き、一人、二人と男が倒れる。さらにレンの視界に少年のように小さな人影が飛び込んできて、銃を持った男に疾風のごとき上段蹴りをかます。

 と、残った最後の敵が自分を助けてくれた人影の背後を狙っていた。咄嗟にレンは立ち上がり、近くにあったジュースの瓶を手にとって男の後頭部を強打する。ごん、という鈍い音がして男は気絶した。

 人影がこちらを振り向く。


「助けるつもりが、逆に助けられてしまいましたね。ありがとうございます」


 そう言って微笑む救世主が少年ではなく少女で、レンはひどく驚いた。小柄な体を青みがかったワイシャツとサスペンダー付きのパンツで包み、犬耳のように左右に跳ねた癖っけのあるショートの金髪の上にベレー帽を乗せている。サファイア色の瞳はさっきまでの大立ち回りがなにかの冗談に思えるほど友好的な輝きを宿していた。


「礼を言うのはこっちだ。あんたが来てくれなきゃ俺は今頃頭の中身を部屋にぶちまけていたところだ。流石に大家に迷惑がかかる」


 ほとんど虚勢に近いレンの軽口に、しかし少女は律義に微笑んで見せ、


「礼には及びません。貴方を護るのが自分の仕事ですから」


「あんたは一体なんだ?」レンはそこらでのびている男達を一瞥し、「こいつらは? どういう関係だ?」


「聞きたいことは山ほどあると思います。いずれ自分にお答えできる範囲でお答えすることを約束しますが、今は時間がありません。増援が来ないとは考えづらいですし、この男達もいつ目覚めるかわかりません。一旦ここを離れましょう」


 どうやら少女が撃ったのは電子銃のようで、男達は気絶しているだけみたいだ。自分を殺そうとしていた者達とはいえ、目の前の少女が殺生をしなかったことにレンは安堵する。この女とて最前の身のこなしを見る限り真っ当な人種でないのは間違いなく、安易に信用するのは危険だが、少なくとも人命に対する配慮をしているだけマシに思える。なんにせよ、今はこの少女に命を預けるよりほかない。



 アパートの正門を出ると、路地の向こうから複数の人間がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。


「増援……! 予想より早い」少女が小さな声で呟く。


「裏から抜ける道がある。そっちを使うか?」


「そうしましょう。正面切って戦っては勝ち目はありませんから」


 レン達は取って返し、アパートの裏から隣家との間にある細い抜け道へと出る。しばらく小走りで進み、街路と合流する地点の直前まで来たところで、


「レンさん、待ってください」


 声と共に手首を掴まれ、路地の奥へと引き戻された。と、直後に目の前の街路を武装した男達が慌ただしく通り過ぎていった。


「あ、危ねぇ……。恩に着るぜ。よく気配が分かったな」


「日頃の訓練の賜です」と少女はちょっぴり胸を張り、「しかし、困りました。敵はすでにこのあたり一帯に散開しているようです」


「なんなんだよあいつら……。なんだって俺の命なんかを狙う? それにあんたもなんで俺の名前を知ってんだ」


「それには落ち着いてからお答えするとさっき……」


「その前に死んだら元も子もない。わけも分からない連中に殺されるのはご免被るし、正体も判然としない奴に助けられてるのも居心地が悪い。逆の立場になって考えてみてくれ」


 少女は眉根を寄せて思案し、「確かに」と呟く。案外素直な奴だ。


「彼らはパーフェクト・ティアーズ社が囲っている企業スパイと思われます。その中でも暗殺を請け負う首狩り部隊、要するに企業私兵ということですね」


「企業私兵……。民間企業が武力を持ってるってのか? 違法じゃないのか?」


「当然違法です。でも、司法機関よりも民間企業のほうが国勢に対し強い影響力を持っている今、法に企業を縛る力はなく、大手の企業では公然とスパイや兵士を育成しているのが現状です。かくいう自分も、その一人ですが」


「あんたも?」


「自分はエレクトリック・シープ社所属のスパイの一人です。階級は上等兵であります」


「ES社といったら、世界最大の多国籍企業じゃないか」


「僭越ながら。といっても父が重役なだけで、自分自身は末端も末端ですが」


富裕層トップスのご令嬢がスパイの真似事ね」レンは皮肉に笑い、「で、今をときめく大企業二社がしがない貧困層アンダーズの俺に一体何の用だ?」


「自分に与えられた任務はレン・シラヌイ、貴方の監視と護衛です。大変不躾な話とは存じますが、ここ数日貴方の動向を監視させていただきました」


「なんだって⁉」


「しっ、静かに」少女は口元で人差し指を立て、「驚かれるのも怒りを感じられるのも無理からぬことと存じますが、これも仕事です。ご安心ください、その、性欲の処理の際……など、極めてプライベート性の高い部分については自分の裁量で席を外していましたから」


「そういう問題じゃねえ!」


「わ、わ、わ、声が大きいです!」


 慌ててレンの口を塞いでくる少女。いろいろつっこみたいところではあったが、状況が切迫していたことを思い出し自制を働かせる。


「あんたが悪趣味な覗き野郎だってのはよく分かった」とレンはまた皮肉り、「しかし、理由が分からん。監視されなきゃいけない心当たりも、命を狙われる心当たりもないぞ」


「それは、自分にもよく分からないのです」


「どういうことだ」


「自分が受けた任務はあくまでレンさんの監視と、有事の際の護衛です。それ以外の情報は上から開示されていないのです」


「末端の末端だからだろうな」


「ええ、きっとそうです」


 監視されていた腹いせに皮肉を大盤振る舞いしているレンだが、その都度少女は素直に頷くばかりだ。どうにもこの娘はスパイとは思えないほど実直すぎる。


「ともかく、謎を解き明かすためにもこの窮地を脱さねばなりません。レンさんのことは自分が命に代えても守りますから、安心して背中を預けてください」


「ちょっと待て。自分をこっそり監視してた奴に背中を預けるなんて無理があるぞ。俺はあんたのことだって信用したわけじゃない。言っていることが正しい根拠もないしな」


「根拠、ですか」少女は困ったように首を傾げ、「それを提示するのは難しいです。ですが、ここは義理と人情の国です。もしも自分がレンさんに対して仁義にもとる行いをしたら、そのときは腹を斬って詫びる所存です」


 大真面目に言い切る少女が可笑しくて、レンは笑ってしまった。義理と人情ときたか。日本がそういう国だったのは、とうに昔の話だ。今はさしずめ金と無情の国。でも、だからこそこの少女のノスタルジックな幻想を信じてもいいような気がしてきた。というのはあとづけで、笑わされた時点でレンの負けだったのだ。どんなにうさんくさい手合いでも、笑ってしまった時点で人はその相手を心の底から憎むことはできないだろう。


「オーケー。そこまで言われたら信じないとこっちも男がすたるってもんだ。しばらくあんたに命を預けるよ。ええと……」


 そういえば名前をまだ訊いていなかった。少女はレンの意図を察し、しばらくなにやら考える間があってから、


「……メッセンジャー。自分のことはそう呼んでください」


 とやや歯切れ悪く言う。おそらくは本名ではなくコードネームなのだろう。義理と人情と言ったそばから偽名か、と思わないでもないが、向こうにも事情があるのだろう。

 そうこうしているうちに周囲からは人の気配が途絶えていた。


「チャンスです。今のうちに移動しましょう」


「ああ。しかし、どこに向かうんだ?」


「現状一番安心できる場所は、自分の泊まっているホテルです」


 なるほど。…………は? ホテル?



 ちょうどその頃、都内の別の場所でのことだ。

 薄暗い地下の一室に、獣のような女の嬌声が響き渡っていた。汗をはじめとする諸々の体液をたっぷり吸って濃いシミをつくり、乱れに乱れたシーツの上で、体中にタトゥーを施した細身の男が背後から女性を貫いている。

 女性の目は正気を失ったかのようにうつろで、口から漏らす声にもおよそ人間らしい品格は失われている。それもそのはず、ベッドの周りの床には注射器や錠剤のごみが散乱し、行為が常軌を逸したものであることを物語っている。

 やがて女がひと際大きな絶叫をあげて果てると、完全に脱力してぴくりとも動かなくなった。気絶したのか、あるいは過剰摂取オーバードーズで本当に逝ってしまったのか。どちらにせよ適当に引っかけただけの女だ、充分楽しませてもらったからどうなろうと知ったことではない。

 タトゥーの男は気怠げにベッドから離れ、机の上のウィスキーをボトルのまま掴んだ。それから大皿のリンゴを一つ手に取りナイフで皮を剥き始める。男は独り言のように言う。


「やっぱり女を犯すのは現実に限るな。電脳では薬物ドラッグを使えないし、何故だかアバターは涙を流せない。女が泣き叫ばないと興が乗らないんだよなぁ。あんたもそう思うだろ?」


 不意に男の独り言が特定の相手に向けられる。そして振り向き様に手に持ったナイフを投擲した。その先には、いつからそこにいたのか、闇に紛れるように一人の男が立っている。漆黒のロングコートを纏った、サングラスをかけたオールバックの男だ。サングラスの男は、頬のすぐ横の壁にナイフが突き刺さっても微動だにしない。


「お愉しみ中のところ失敬。私は君に用があってきた、シヴァ・イェーガー」


 とサングラスの男が朗々とした声で言う。歳の頃は24歳の自分より一回りくらい上だろうか、とタトゥーの男――シヴァ・イェーガー――は分析する。


「むさいオッサンのアポイントは受けていないが? だいたい、入り口の見張りはどうやってかいくぐってきた?」


「君の部下達のことなら、少しばかり眠ってもらっている」


「そりゃ剣呑だな。そこまでしてオレになんの用だ? 言っとくが気は長いほうじゃないから、手短に頼むぜ。ただでさえこのところ気が立ってるんだ」


「ふむ。アクセルローズ・ヴァレンタインに敗れたのがよほどの屈辱だったか」


「馬鹿言え。あんなもんはただのプロレスだ、ガチの殺し合いじゃない。ファイトマネーが高額だったから受けただけで、お互い本気じゃなかった。まあ、あの女はいずれオレが犯すがな。――そんなことはいい、さっさと本題に入れ」


「仕事を依頼したい。君のセクトの噂はかねがね聞いている。金さえ積まれればどんなに汚い仕事でも請け負うと」


「言い方を改めてほしいね。確かにスラム育ちのハングリーな奴らが多いし、合法非合法で依頼を区別しないのも事実だが、客ぐらいは選ぶ。素性も明かさないようなうさんくさい人間の仕事を受けなければいけないほど金に困っちゃいないんでな」


 シヴァは暗に身分を明かすようサングラスの男に促した。


「それは大変失礼した。私は現在タナトスと名乗っている。フリーのパイロット、表の大会には出場せず裏で請けた依頼を遂行することで生計を立てている身だ。こうして君と接触しているのも、クライアントから請けた依頼の一部に過ぎない」


「つまり、依頼主はあんたじゃなくあんたのクライアント?」


「然り。パーフェクト・ティアーズ社の名に聞き覚えは?」


 もちろんある。この国に本社を置く多国籍企業で、ドイツにも進出してきている。俄然興味が出てきた。それだけでかい企業ともなれば、当然報酬にも期待できる。


「依頼の内容は?」


「ある男から、ある物を奪還してほしい。手段は問わない。物資を奪還するためならターゲットやその周りの人物に危害を加えても構わない。詳細は端末に送っておく」


 すると、机の上の携帯端末がメールの受信を告げる。シヴァが内容を検めると、そこにはターゲットとなる男の情報が記載されていた。


「……見たところガキのようだが。それに、奪還すべき物資とやらもオレには重要なものには思えないだが……」


 と顔を上げて訊ねようとするが、ついさっきまでそこにいたタナトスとかいう男の姿は忽然と消え失せていた。まるでニンジャのような奴だ、とシヴァは鼻白む。しかし、もはやシヴァにとってはどうでもよかった。すでに彼の頭の中は、新たな狩りの獲物と、その先に待つ巨額の報酬で占められていた。

 シヴァは皮を剥きかけていたリンゴを丸ごとかじり、ターゲットとなる男の名を呟いた。


「――レン・シラヌイ……ねぇ」

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