街で囁かれる森の名
街側の視点回です。
森がどう見られているかを描きます。
「また売り切れか?」
市場の一角で、干果の棚を見た商人が舌打ちした。
精霊の森産。
その札がかかった商品は、並べるとすぐに消える。
甘さが違う。
保存が利く。
品質が安定している。
「値を上げろ」
別の商人が言う。
「いや、上げすぎると供給が止まる」
街の商人たちは、森の存在を“商機”として見始めていた。
だが全員が歓迎しているわけではない。
「森が安定した? 笑わせるな」
年配の穀物商が腕を組む。
「偶然だ。いずれ崩れる」
だが、その“いずれ”が来ない。
魔物は減った。
森の流れは整った。
街の周辺はむしろ荒れ気味なのに、森側だけは静かだ。
「領主様も動くそうだ」
その一言で空気が変わる。
領主が動く。
それは、保護か。
それとも囲い込みか。
商人たちは、それぞれの思惑を胸に秘める。
一方、領主館。
アルヴァン卿は書簡を閉じ、静かに窓の外を見ていた。
「揺れない村、か」
誇張ではないと報告は上がっている。
魔力の流れが安定。
交易は誠実。
急拡大しない。
「珍しい」
側近が言う。
「力を持てば、普通は誇示します」
アルヴァン卿は小さく笑う。
「だからこそ会う価値がある」
街はざわめいている。
だが、精霊の森は静かだ。
その対比が、逆に噂を強くしていた。
森は、ただ作物を売っているだけ。
それなのに。
街は、森を意識し始めている。
精霊の森は直接動いていませんが、
外の世界は確実に動き始めました。
静かな存在ほど、周囲を揺らすことがあります。
皆さんなら、領主は味方になると思いますか?
それとも別の思惑があるでしょうか。
次回、ハルと領主が直接会います。
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これからも、静かに育てていきます。
月灯り庵




