領主の使い
領主の使者回です。
敵対ではなく、探り合い。
街の門番が、森へやって来たのは三日後だった。
正確には、門番ではない。
仕立ての良い外套をまとった、若い男。
背後に二人の従者。
「精霊の森の代表に会いたい」
声は落ち着いている。
敵意はない。
レイナが前に立つ。
「用件」
短い。
男は一礼した。
「我が領主、アルヴァン卿よりの書簡を預かっております」
エリシアが視線を細める。
ルナは少女形態のまま、静かに観察している。
俺は前へ出た。
「俺が代表だ」
男は少しだけ意外そうな顔をする。
「……お若い」
「若いな」
否定はしない。
書簡を受け取る。
封は丁寧だ。
開く。
簡潔な文章。
“森の流れが安定したことを喜ぶ”
“精霊の森産の作物に深い関心がある”
“無理な徴税や干渉の意思はない”
“正式な関係を築きたい”
悪くない内容だ。
ルナが小声で言う。
「探ってる」
「当然だ」
俺は使者を見る。
「何を求めている」
男は正直に答えた。
「安定です」
少し間を置く。
「最近、周辺の森は荒れています。魔物も増えている。しかし、あなた方の森は安定している」
レイナが小さく鼻を鳴らす。
「守ってる」
男は頷く。
「その安定を壊すつもりはありません。ただ、互いに利を得られる関係を」
バルドが腕を組む。
「税は?」
「通常の交易税のみ。特別徴収はしないと明記されています」
エリシアが静かに言う。
「森を削る要求は?」
「ないと書いてあります」
俺は考える。
ここで拒めば、敵に回す可能性がある。
受け入れれば、影響も増える。
でも。
「無理はしない」
俺はゆっくり言う。
「急拡大もしない。森も削らない。それでもいいなら、会う」
使者は深く頭を下げた。
「その言葉をお伝えします」
緊張は解ける。
丸い土精霊がぴょんと跳ねる。
芽吹き精霊がころころ転がる。
男はそれを見て、目を丸くする。
「……噂以上だ」
俺は肩をすくめる。
「大げさに広めるなよ」
男は少し笑った。
「難しいかもしれません」
去っていく使者の背中を見ながら、ルナが言う。
「広がるわね」
「ゆっくりだ」
レイナが言う。
「守る」
エリシアが森に触れる。
「均衡は保てます」
精霊の森は、もう小さな隠れ里ではない。
でも。
急がない。
焦らない。
揺れない。
外の世界が、こちらを見始めた。
それでも――
中心は、変わらない。
第36話を読んでいただきありがとうございます。
精霊の森は、ついに領主の耳にも届く存在になりました。
けれどこの物語は、力を誇示する話ではなく、
「安定をどう守るか」の物語です。
外と関わることは、広がることでもあり、揺れることでもあります。
皆さんなら、領主とどう向き合いますか?
次回は、外の動きがもう一歩踏み込んできます。
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これからも、静かに育てていきます。
月灯り庵




