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異世界転生した俺は精霊に愛されすぎて、静かに村を育てます  作者: 月灯り庵


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名も告げぬ来訪者

観測者の一人が森に接近する回です。


介入はしません。


ですが、森は彼女を覚えました。

森の外縁。


夕暮れの色が落ち始める頃。


ひとりの旅人が立っていた。


長衣を脱ぎ、簡素な外套に替えている。


髪も束ね直し、装飾は外した。


観測塔の女。


だが今は、ただの旅人。


名も告げない。


「……静か」


森を前にして、思わず呟く。


魔力は濃い。


だが暴れていない。


抑圧もない。


均衡。


理論では知っていた。


だが体感は違う。


一歩、踏み入れる。


精霊が揺れる。


拒絶ではない。


問いかけ。


あなたは何を持ってくる?


奪うのか。


急がせるのか。


女は目を閉じる。


「観るだけ」


声に出さない。


だが意志は揺れない。


精霊のざわめきが、少しだけ和らぐ。


丘の上。


ミナが顔を上げる。


「……来た」


ハルが振り向く。


レイナが腰に手をやる。


だが敵意は感じない。


硬さもない。


ただ、深い。


女は水路のそばに立つ。


直線ではない流れを見つめる。


効率を削る曲線。


余裕を残す幅。


記録は頭の中に刻まれる。


紙には書かない。


「何者だ」


ハルが声をかける。


振り向く女。


瞳は冷静。


だが好奇心がある。


「旅人です」


嘘ではない。


本名でもない。


「囲いに来たのではない」


女が先に言う。


ハルは肩をすくめる。


「囲えない」


その言葉に、女はわずかに口角を上げる。


理解している。


囲えない。


だから面白い。


そのとき。


ソラが歩いてくる。


「あー」


精霊が強く揺れる。


女の胸が一瞬だけ圧される。


これは、観測では足りない。


“重なり”。


時間が薄く重なる感覚。


「あなたが……」


言いかけて止める。


名前は知らない。


だが中心だ。


壊れない均衡の核。


ソラが女を見上げる。


「みてる?」


問い。


女は一瞬迷い、頷く。


「見ている」


正直。


「とらない?」


小さな確認。


女は首を振る。


「取らない」


その瞬間、精霊の揺れが穏やかになる。


森は、拒絶しない。


だが忘れない。


夕暮れ。


女は森の外へ戻る。


「介入は……まだ不要」


独り言。


観測塔へ戻る。


だが一つ、誤算がある。


森を“対象”として見られなくなっている。


興味が、少しだけ変質した。


丘の上。


ハルが空を見る。


「どう思う」


ルナが静かに答える。


「敵ではない」


「まだ」


森は広がらない。


だが見られている。


観測者は、観測され始めた。

見る者は、同時に見られています。


森は壊れません。


ですが、世界はもう無関心ではありません。


―― 月灯り庵

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