三年先の揺れ
ソラに“三年後の兆し”が現れる回です。
予言ではなく、重なり。
未来はまだ確定していません。
森の夜は、深く静かだった。
風は弱く、精霊の揺れも穏やか。
だがその夜、空気がほんの少しだけ違った。
ミナが、最初に気づく。
「……深い」
何が、と問われても説明はできない。
揺れが、いつもより奥で震えている。
丘の上。
ハルは水路の音を聞いていた。
一定のはずの流れが、ほんの一瞬だけ重なる。
二重に聞こえる。
今の音と、まだ来ていない音。
「……おい」
小さく呟く。
ソラが目を開ける。
眠っていたはずなのに。
瞳が、夜を映す。
「あ……」
いつもの声ではない。
少しだけ、強い。
精霊が一斉に揺れる。
拒絶ではない。
恐れでもない。
“重なり”。
森の時間が、ほんの一瞬、先に触れた。
エリシアが膝をつく。
「これは……」
未来視ではない。
予言でもない。
だが可能性が、重なった。
三年。
王都が決めた期限。
その先の森の姿。
ソラの小さな手が、空を掴む。
その瞬間、丘の景色がぶれる。
一瞬だけ。
大きくなったソラ。
少し広がった畑。
森の子どもが増えている。
そして――
王都から来た若者が、丘に立っている。
すぐに揺れは収まる。
夜は元通り。
精霊も静まる。
ソラは、何もなかったように笑う。
「あー」
ハルは息を吐く。
「見たか?」
ミナが頷く。
「少しだけ」
レイナが腕を組む。
「悪い未来じゃないな」
恐怖はなかった。
崩壊もなかった。
ただ“広がりすぎていない未来”。
「三年か」
ハルが呟く。
王都の期限。
森の期限ではない。
だが重なる。
森は広げない。
だが育つ。
子どもが増える。
時間が重なる。
エリシアがソラを抱く。
「あなたは、時間に触れたのね」
ソラは意味を知らない。
ただ笑う。
だが精霊の揺れは、いつもより深い。
森は未来を急がない。
だが未来は、森に触れている。
三年後。
壊れていない森。
整った王都。
可能性は、そこにあった。
未来は急いでも近づきません。
整えた時間の先に、静かに現れます。
三年後。
その日まで、森は森であり続けます。
―― 月灯り庵




