王と娘
王女帰還、王との本音の対話回です。
森をどうするかではなく、急ぐかどうか。
王都は一歩、急がない選択をしました。
王城の謁見室は、変わらない。
高い天井。
磨かれた床。
規律の空気。
リシェリアは、森の匂いをまだ少しまとったまま、父の前に立っていた。
王エドゥアルドは、何も言わずに娘を見る。
まずは報告を待つ目。
「行ってきました」
王女は、隠さない。
王も驚かない。
「港町から先もか」
「はい」
沈黙。
責める空気はない。
ただ、測っている。
「どうだった」
短い問い。
だが重い。
リシェリアは、言葉を選ばない。
「壊れにくい場所でした」
王の眉がわずかに動く。
「強い、ではなく?」
「壊れにくい、です」
森は軍を持たない。
城壁もない。
だが壊れにくい。
急がないから。
奪わないから。
囲わないから。
「王都はどうだ」
王が問う。
「強いです」
即答。
「ですが、急いでいます」
その言葉に、王は静かに笑う。
「急がねば守れぬものがある」
「はい」
否定しない。
森は小さい。
王都は国。
背負う重さが違う。
「森を組み込むべきか」
王はあえて聞く。
王女は首を振る。
「壊れます」
迷いはない。
「広げると、森ではなくなる」
王は目を細める。
その答えを望んでいたのか、試していたのか。
「では放置か」
「いえ」
王女は一歩踏み出す。
「守るべきです」
囲わない。
従わせない。
だが壊されないように。
「王都の余白として」
余白。
王はその言葉を繰り返す。
王都には、余白が少ない。
制度。
軍。
交易。
常に動く。
だが全てが動けば、いずれ歪む。
「森は、敵になるか」
王の目が鋭くなる。
王女は真っ直ぐに見る。
「急げばなります」
王が小さく息を吐く。
「急がなければ?」
「なりません」
長い沈黙。
やがて王は立ち上がる。
窓の外、王都が広がる。
人の営み。
秩序。
力。
そして疲れ。
「観察を続ける」
王は言う。
「触れぬ」
それが王の決断。
強硬派は不満を抱くだろう。
だが王は急がない。
娘の目を見て判断した。
「お前はどうする」
父の問い。
王としてではない。
娘としてでもない。
「学び続けます」
リシェリアは答える。
「急がずに」
王は、初めてはっきりと微笑んだ。
森では。
ハルが畑を整える。
ソラが笑う。
ミナが凪を保つ。
森は王都を知らない。
だが王都は、森を壊さないと決めた。
それは、静かな勝利でも敗北でもない。
ただ未来が少しだけ整った瞬間だった。
強さと余白。
どちらも国には必要です。
森は広がりません。
ですが、守られる存在になりました。
―― 月灯り庵




