いちばん最初の出会い
王女と森の“最初の出会い”は、子どもから始まりました。
政治ではなく、体温。
森らしい形で、距離が縮まります。
森の入口。
王女リシェリアは、一歩ずつ奥へ進んでいた。
葉の揺れは穏やか。
光はやわらかい。
精霊が、一定の距離を保ちながら漂っている。
拒まれていない。
だが、歓迎もされていない。
ただ、見られている。
丘の上。
ハルは森の揺れを感じ取る。
「……静かだな」
レイナが腕を組む。
「敵意は?」
「ない」
エリシアが目を閉じる。
「精霊が警戒していない」
それが答えだった。
そのとき。
揺り籠の中で、ソラがぱちりと目を開けた。
いつもより、少し早い。
ミナが気づく。
「……ソラ?」
ソラは天井ではなく、森の入口の方を見ている。
まだ見える距離ではない。
だが、確かに向いている。
「あ……」
小さな声。
精霊が一斉に揺れた。
強くはない。
やわらかい波。
森の空気が、少しだけ変わる。
入口付近。
王女リシェリアは、胸の奥に微かな温度を感じた。
冷たくない。
熱くもない。
ただ、やわらかい。
まるで誰かに見つけられたような感覚。
「……いま、何か」
侍女アナが小声で言う。
リシェリアは頷く。
「はい」
怖くない。
むしろ懐かしい。
理由は分からない。
丘の上。
ハルが目を細める。
「子どもだな」
レイナが驚く。
「まさか」
ミナが小さく呟く。
「ソラが、先に見つけた」
ソラは両手を伸ばす。
「あー……」
笑う。
その瞬間。
王女の胸の奥が、ほんの少しだけ震えた。
理屈ではない。
計画でもない。
評価でもない。
ただ――
「……やわらかい」
思わず、声が漏れる。
精霊が、王女の周囲で小さく揺れる。
拒絶はない。
問いもない。
ただ確認。
この人は、壊す者か。
急ぐ者か。
奪う者か。
違う。
少なくとも、今は。
ハルはゆっくり丘を下りる。
急がない。
王女も立ち止まる。
視線がまだ交わらない距離。
だが森はもう答えを出していた。
最初に触れたのは、政治ではない。
王でもない。
思想でもない。
子どもだった。
ソラが、もう一度声を出す。
「……あい」
ミナが微笑む。
カイが空を見る。
森は、王女を拒まなかった。
そして王女は、初めて“森の体温”を感じた。
それは、理屈よりも強いものだった。
大人の前に、子どもが判断する。
それが精霊の森の在り方です。
次は、いよいよ対面。
静かな対話が始まります。
―― 月灯り庵




