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いずれ銀河は俺のもの  作者: 白田 まろん
別れの章〜仲間だと思っていたのに〜
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第18話

 そこは戦艦アリスイリスの艦長室。あの後俺は放心状態となり、まともに話も出来そうにないということで解放された。そして皇帝陛下の許しを得てアリスに連れてこられたというわけである。


 あれから数日、一人にしてほしいと伝えた俺は大きめのベッドにうつ伏せになってろくに食事も摂れずにいた。


「レイア……」

艦長(キャプテン)、よろしいでしょうか」


 インターホンでアリスが呼びかけてきた。応える気力はない。黙っていると勝手に扉を開いて彼女が入ってくる。その姿をぼんやりと眺めていた俺は、ハッとして飛び起きた。


「レイア? レイア! 生きていたのか! レイア、レイア!」


 なんとアリスの隣には死んだと思っていたレイアが立っていたのである。レイアが生きていた! 俺は嬉しさのあまり思わず駆け寄って彼女を抱きしめた。


 丸く愛らしい輪郭に栗色の大きな瞳と長い睫毛。ツーサイドアップにしたライトブラウンの細く長い髪。健康的な肌色の(きゃ)(しゃ)な体型であまり大きくない胸は間違いなくレイアだ。


 ところが彼女は俺に抱きしめられて困惑している様子だった。そうか、俺はレイアに惚れていたが、告白したわけではないからいきなり抱きしめられたら驚くのも無理はないよな。


「きゃ、艦長(キャプテン)……」

「ん?」


 キャプテン? なぜ俺をそう呼ぶ?


艦長(キャプテン)、落ち着いてください」

「アリス?」


 彼女によって俺の腕はレイアから解かされた。


「俺は落ち着いているが?」

「いきなり女性を抱きしめるのは落ち着いているとは言えません。心拍、血圧とも異常な興奮状態にあります」


「だ、だって仕方がないだろう。死んだと思っていたレイアが生きていたんだから。アリスも救えたなら救えたと教えてくれればよかったのに」

「申し訳ありません、艦長(キャプテン)


「いや、いいよ。怪我の治療に時間がかかっていたとか、そういうことなんだろう?」

「いえ、そうではありません」

「うん?」


「私の謝罪は、()()はレイア嬢であっても艦長(キャプテン)の知るレイア嬢ではないというところにです」

「どういうこと?」


「このレイア嬢はクローンだからです」

「クローン……? レイアがクローンだって!?」


 アリスが言うには、今から約1200年後にどのようにしてジダル星人が戦争を仕掛けてくるのか、その情報を聞き出すためにレイアの体をクローン再生したのだそうだ。


「ですが検体が艦長(キャプテン)の指先に残ったわずかな皮脂のみだったため、記憶の再生までは出来ませんでした」

「レイアがクローン……」


「従いましてこのレイア嬢は……」

「ふざけるな!」

艦長(キャプテン)?」


「アリスの時代にはどうか知らないが、この時代ではたとえ人体の一部だけだったとしてもクローン再生は禁止されているんだぞ!」


 本人が病気になった際に臓器などを調達するためだとしても、クローン再生は冥王星条約で禁止されていたのである。むろん臓器を含む人体の売買は重罪だし、そんなことをしなくてもほとんどの病は医療技術で治せるのだ。


「はい。ですから処分いたします」

「処分?」


「1500年後でもクローン再生はある目的がある場合を除いて禁止事項です」

「ある目的?」

「情報の取得です」


 アリスの時代では重要な事実や証拠などを持ったまま対象者が死んだ場合のみ、クローン再生して情報を引き出すことが許されているそうだ。そしてそれが終わればクローンは処分されるのだという。


「ですがクローンとはいえ生命体である以上、処分にはこの(ふね)の責任者である艦長(キャプテン)の命令が必要となります」


「1200年も先の情報を得るためにレイアを冒涜したと言うのか!」

「冒涜など……」


「死者のクローン再生は冒涜以外の何物でもない!」

「私、死んじゃうの?」


 その時、今にも泣きそうな表情でクローン(レイア)が声を震わせた。


「嫌だよ、死にたくないよ。死ぬの怖いよ」

「レイア……」


 そこにいるのは俺の知るレイアではない。だが彼女の細胞から再生されたのだから、レイア本人ではないとも言えないのだ。


 このレイアは精神年齢こそ幼児に近いそうだが、思考や言葉など最低限の知識は埋め込んであるという。つまりすでに自我を持っているということだ。なのに目の前で処分するなどと言われては恐怖を感じるのは当然だろう。


艦長(キャプテン)お願いします! なんでも言うことを聞きますから殺さないでください! お願いします! 殺さないで……」

「レイア嬢、可哀想ですがそれは出来ません」


「あ、アリスさまぁ……やだ、やだよぅ……死にたくないよぅ……」

「せめて苦しまないように眠らせてから……」


「黙れ!」

「は、はい?」


「黙れアリス! クローン(レイア)の処分は認めない!」

艦長(キャプテン)? ですが法を曲げるわけには……」


「法? 法と言ったか? それはいつの法だ?」

「我々の時代の法です。我が艦はその法の支配を受けております」


「1500年後の法だな。つまり現在はない法だ」

「ですが……」


「法というならアリス、レイアをクローン再生した時点でアリスは帝国法に触れている。これは条約違反でもあるから極刑は免れないぞ」

「承知いたしました。クローンの処分は中止します」


艦長(キャプテン)、私死なない? アリスさま、私を殺さない?」


 未だレイアは不安げだった。そんな彼女が愛おしくなり、俺は改めてその細い体を抱きしめる。


「大丈夫だ。俺が殺させない」

「本当?」

「本当だとも。なんてったって俺はこの(ふね)で一番偉い艦長(キャプテン)様だからな」


艦長(キャプテン)……それでは私の処分はどうなりますでしょう?」

「アリスの処分?」


「この身は帝国の法に触れ条約にも違反したのですから極刑、ということでよろしいでしょうか」

「ま、待て待て」


「極刑と申しましても私はイリスと共に我が艦を動かすのに必要不可欠ですので、再構成という形にはなりますが」


「いやいや、そんなことはしなくてもいいよ」

「私のこともお許しになられると?」


「そうだな。さっきは怒りに任せて酷いことを言ってしまったけど、帝国法も条約も際関係ないさ。この(ふね)では俺が法とする。なーんてな」


「承知いたしました。これより本艦の法は艦長(キャプテン)だと即刻周知いたします」

「お、おい……」


 その時思わぬ念話が飛んできた。イリスだ。


艦長(キャプテン)、お元気になられたようで安心しました。姉の演技もなかなかのものでしたでしょう?」


 どうやらレイアのクローンの件も、何もかもひっくるめて塞ぎ込んでいた俺を元気づけるための演技だったそうだ。


 いや待て、それってめちゃめちゃ恥ずかしいぞ。


 そうして帝国士官学校の卒業式を迎えるのだった。

——あとがき——

次話で最終回となります。

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