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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
二章
33/76

#28 Autres

 「ただいま」

 誰もいない広大な家に、詩織の声が虚しく響いた。

 詩織は、そのまま自室へと向かう。

 広い部屋。普段はなにも感じないのに、今の詩織にとってこの部屋は広すぎた。

 部屋の一角にカバンを置く。そして、制服のタイを緩めようとした時だった。

 脳内に、メールの着信を告げる楽曲のサビが流れる。

 大人気5人組ガールズバンド"CHRONiCLE(クロニクル)"の新曲「INFINIT COLORS」だ。

 今詩織がハマっているバンドであり、そのうち綾たちとライブに行けたらいいなぁ、などと思っていたりする。

 詩織は、アプリケーションを展開し、メールを見る。

 送り主は、リオナだった。

 "センパイが今どこにいるか知っていますか?"、と書かれていた。

 詩織は首を傾げながらも、"知らない。でもどうして?"と返信した。

 そう間を置かずに、リオナからの返信は届いた。

 "さっきからなんか落ち着かなくて"――メールにはそう書かれていた。

 そして、"ログを調べてみます"、とも。

 どうやって調べるのだろうか、と詩織は疑問に思ったがそれも一瞬のことだった。

 綾は、電子世界で戦っている。どこへ行くかは言っていなかったが、それはもはや関係ないことだ。

 どこだろうと、今の自分の力では逆に足を引っ張るだけだ。

 そう、今は、まだ。

 数分後、再びリオナからメールが来た。

 "詳しくは言えませんが、ログを調べたらTN.007430に行ったことがわかりました。私たち(・・)も行ってみましょう"。

 どれくらいそうしていただろうか、私はそのメールを見ながら、しばらく固まっていた。

 うまく思考が回らなかった。私たちということは、私も一緒に行こうということだろうか。

 まぁ、他にはないだろう。

 確かに、綾のことは気になる。綾が強いのは分かるが、それでも全く心配していないと言えば嘘になる。

 だけど――。

 私は、仮想キーボードを叩いて、文字を入力した。

 

 "私は、行かない"。

 

 行っても、邪魔になるだけだ。私が行ったせいで、他の誰かが負う必要のなかった怪我を負ったら、それこそ元も子もない。

 だから詩織は、そう返信をした。

 数十秒後、返信の代わりとばかりに、来客を告げる音が家の中に響く。

 詩織は、そういえば誰もいないんだっけ、と呟きながら、仕方なく階下へと降りて行った。

 そうして、エントランスホールへと向かい、総合自動電子ロックを解除して扉を開けると、そこには学校の制服を着たリオナがいた。

 さらに正確に言えば、私立アンジエスタ学園中等部の制服を着たリオナが。

 リオナは、詩織の腕を掴むと、無言のまま外へと引っ張り出した。

 詩織は、体勢を崩しながらもなんとか革靴を履くことに成功する。

 そして同時に、詩織はリオナへの抵抗を諦めた。

 というのも、腕を掴む握力がかなり強く、どうやっても振りほどけそうにもないためだ。

 さらに言えば、間違いなく幻視だろうが、リオナから赤色のオーラというか覇気のようなものが、擬音つきで発せられているように見えたからだ。

 「VCC、座標指定、SN.007430――ログイン」

 リオナによって、詩織は半ば強制的に、電子世界へとログインした。

 ちなみに、この時詩織はこんなことを考えていた。

 ――そういえば、時間あったのに着替えるの忘れてた。



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