#26 <華焔> vs ベルガッセ――⑩
7発目――高速で飛来する重力球が掠めた数。
12回目――放った投剣が重力操作によって落とされ砕かれた数。
戦況は、あまりに一方的だった。
未奈の体に傷が増えていくばかりだった。
たいした傷ではないものの、未奈が苦戦を強いられているのは誰の目から見ても明らかだった。
このままでは、一退すろことこそあれど一進することはないと考え、未奈はいったん攻撃の手を止めた。
無論、断続的に重力球が飛んでくるため、足まで止めることはできない。
敵の魔術に死角がないので、今の攻撃方法ではまず届かない。
接近戦は、さらに危険だ。未奈自身が潰されてしまうからだ。
――じゃあ・・・・・どうすれば・・・・・・・・
思考の方に気をまわしていたせいだろう。
敵の変化に気づくのが僅かに遅れた。
気が付けば、未奈は上級魔術を放たれていた。
頭上から、隕石の如き重力球が降ってきていた。到底避けられものではなかった。
「レーナ・シェズ・エストラシア!」
未奈は、足を止め、真上に向かって手を伸ばし、起電術音を唱えた。
巨大な円環術譜が展開する。
瞬時に形成されたのは、巨大な盾だった。
桜城が誇る、現段階で最高の防御力を備えた、まさしくそれは城塞の中枢を守る最終城壁。
それが、重力球と衝突した直後、辺り一帯に衝撃が走る。
地に亀裂が刻まれ、空気が震える。今や瓦礫の山となっていた元・建物がさらに細分化される。
本当に隕石が落ちてきたかのように、未奈を中心としたクレーターが生じる。
そうして、絶大な威力を秘めた重力球に耐えきった盾は、っしゃぁあんという音ともに霧散し、消えた。
「そうか・・・・・」
きらきらと輝く氷の粒が舞う中、未奈は一つの光明を見出した。
「シリウ・アーズ・ペルゼニア」
それを唱えた未奈を、光が包む。
同時に、未奈の足元には、新たな円環術譜が展開していた。
それも束の間、未奈の全身を桜色をした鋼鉄にも勝るとも劣らない装甲が包んでいく。
両手には内蔵型のライフルと一体になった大型サーベルが、背中と腰には高出力のスラスターが、両肩には大口径の砲身が形成される。その間2秒余り。
未奈は、サーベルのグリップをぎゅっと握り、感触を確かめる。
実は、未奈はこの能力"兵装"を使うのは、今回が初めてだった。
武装後のイメージこそしていたものの、使う機会がなかったのだ。
もっとも、極力戦闘をさけていた節があるので、それも当然なのだが。
「よしっ・・・・・!」
未奈は、サーベルを握りなおすと、勢いよく飛び上がった。
そうして、1秒程度で相手術師の真上に到達する。
未奈は、くるりと反転しながら、両肩の氷結砲とサーベルを構える。
音もなくサーベル下部がスライドし、中から銃口が現れる。
未奈はさらに、ライフルをバスターモードに切り替える。
そして――
「はぁぁあああっ!」
普段なら絶対に出さないような、気迫の入った声とともに、未奈はトリガーを引いた。
極低温の光条は、敵を重力に従って貫き、即座に凍結、直後に粉々に撃ち砕いた。
未奈は、するりと滑らかに着地すると、上空へと視線を投げた。
その先には、二体の竜が炎と雷をぶつけ合っていた。
それらは、中級魔術でありながら、先ほどの上級魔術に匹敵する衝撃を、幾度となく走らせていた。