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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
二章
20/76

#15 未奈(後編)

 「ありがとうございます、秀さん」

 ここは、電子世界、中央サーバーにある電子魔術公館の一階。

 あの後、未奈は秀に術師になりたいと相談を持ちかけた。

 秀は、ヒマだしいいよ、と快諾してくれた。

 そして、未奈を電子世界まで連れてきてくれ、申請やらなにやらいろいろやってくれたのだ。

 そして、今に至る。

 「別にいいよ。それにしても、未奈ちゃん・・・だっけ?同じ《氷剣》だったのには驚いたよ」

 そして秀は、はいこれ、と一つのファイルを転送してきた。

 「これは何ですか?」

 「マニュアル・・・みたいなやつかな。俺が作ったものだから分かりにくいところもあるかもしれないけれど。参考になればいいかな、って」

 じゃ、俺はこれで。そう言って、秀はログアウトをした。

 これを秀が渡した理由は、しばらくして分かった。秀は騎士で、騎士の隊に入れるのは男性だけだからだ。

 未奈は、そのままその場にとどまり、ファイルを開いてみる。

 それは、拡張子でも分かるのだが、テキストとムービーの複合ファイルだった。

 びっくりするくらい分かりやすかった。

 そこに載っていたのは、魔術の基礎だけだったが、それでも完成度の高さに舌を巻いた。

 十分に独学できるレベルだったのだ。







 そうして、1年くらい経った頃。

 未奈が、ライセンスを2ndに昇進させてそう日が経っていない頃だった。

 TN.07430で、祐太と再会したのは。

 未奈は当然驚いた。

 それは祐太も同じだったらしく、ぽかんとしたまま固まっていた。

 「久しぶり」

 最初にそう声をかけたのは、未奈のほうだった。自分でも意外だった。

 「お、おう」

 「祐太も術師になっていたんだね」

 未奈にとって、祐太は家族を除いて唯一タメ口で会話できる相手だった。

 「お前もな」

 会話はそこで途切れる。

 もっと、話したいことがあるのに、照れくさくてできなかった。

 だから、未奈は視線を移した。そこには――。

 「――わぁ・・・・・・・キレイ」

 思わず感嘆の声をあげてしまうような、そんな光景が広がっていた。

 荒廃しているからこその美しい景色が、そこには広がっていた。

 見れば、祐太も同じ景色を見ていた。

 ここには、未奈と祐太以外誰もいない。

 そう考えると、なぜだか顔が熱くなった。夕日のせいにした。

 言葉はいらなかった。

 ただ、静かに二人して同じ景色を見ていた。






 祐太に再会できたのは、あとにも先にもこの日だけだった。

 相変わらずこの日だけだった。

 連絡はとれず、何度この場所に足を運んでも会えなかった。

 だが、全く情報がなかったわけではない。いい情報でもなかったが。

 祐太が所属するギルドが違法ギルドになったこと。

 所属メンバー全員が違法術師扱いになったこと。

 だから、未奈は探していた。祐太を。

 そして、あのメール。

 約1年ぶりに届いた、幼馴染の言葉。

 だが、それが罠だってことはすぐにわかった。突然のメールに不信感を抱かないわけがなかった。

 それでも、未奈は赴いた。この場所に。

 そして、こうして捕まっている。なにもできずに、人質になってしまっている。

 悔しかった。殴ってやりたかった。バカな幼馴染を。無力な自分を。

 「・・・・・・バカ」

 眼下の祐太には聞こえない、ひどく小さな声で、未奈は呟いた。

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