#16 <華焔> vs ベルガッセ――①
「未奈!」
綾が転送後に最初に見たのは、巨大な十字架に架けられた未奈と、その前に立つ一人の少年だった。
周りが廃墟なのも相まって、その銅色の十字架は異様な雰囲気を辺りに散らしていた。
「あれは・・・"縛"!?」
"縛"とは、魔導拘束楽譜の一種で、対人拘束に使用される。
騎士がよく使う楽譜だが、その汎用性の高さから、こうして犯罪に用いられることも実は珍しくない。
「何が目的?シュカズを使って何をする気なの?」
その時だ。地を削る音が微かに響いたのは。
「・・・・・・ッ!?」
それは、音のした方――すなわち右へ、体ごと向けた時にはすでに、目の前に迫ってきていた。
電子魔術を起動していない状態で回避は不可能、綾がそう即断し、身構え、覚悟を決めた時だった。
綾とそれの間に滑り込む影が一つ。
ギィイン、という金属音が目の前で生じる。
見れば、影は綾と同い年くらいの少年だった。
そして、その後ろ姿を綾はよく知っている。
少年は、両手に持つ黒き長剣でそれ――音の無い風撃を逆袈裟に弾く。
弾かれた風撃は、上空へと進路を変え、霧散した。
――今のは"無音の風撃"・・・・・いや、そんなことより・・・・・・・・
「・・・・・秀?」
少年――滝浦秀は、綾の幼馴染で同い年。そして、ともに同じ格位にいる。
騎士・第三格位。
通称、"黒剣"。
「よう」
返ってきたのは、あまりに軽い挨拶だった。
「さすがは"黒剣"、風撃を剣で弾くとはね」
その直後、秀のものとは明らかに異なる声が空気を震わした。
「ステイル・ヴィダン・・・・・!」
綾はその名を硬い口調で呼ぶ。その男を睨みつけながら。
「御名答、"アオアゲハ"。そして――」
男――ステイルは、祐太の方へと体と顔を向ける。
「御苦労、坂井祐太」
ステイルは、その顔に笑みを貼り付けながら、感情のこもっていない声でそんなことを言った。
そして、今度はさっきまでとは正反対の声音で起電術音を呟く。
「ガルザディア」
祐太と未奈を、"無音の風撃"が襲った。




