悪意だらけのルール
可能か否か確認するために、ひたすらプレイをして確認作業を行っていましたが、い・ち・お・う、話の流れや目途が立ったため、ドラクエⅢHD-2D版が発売される今日から続きを書きます♪
名前の件で少し肩を落としつつも、無事に次へと進めた事に安堵した俺は、新たに表示された項目に目を移す。
まずこのゲームは光を取り戻したアレフガルドの外の世界、即ちアレフガルドの外に広がる過去のドラクエⅡの世界からが本番なのだが、ドラクエⅢがまるまるプロローグだと長すぎる。
そこで宣伝効果も兼ねて、ドラクエⅢに熱心なバカを特殊サーバーに招待し、β版の販売と同時に競わせるイベントが開催された……と聞いてはいるが、賞金額があまりにも大きすぎる。
運営様が赤字になろうと元が取れようと、そこはどうでもいいが、その賞金額の高さのせいでドラクエバカは集まらない。
間違いなく、ドラクエⅢに熱心な金の亡者の争いになるのはほぼ必死。
『泥沼の争いにならなければいいのになぁ』
などと思いつつ、参加ルールが事前に公開されていたものと同じかどうかを確認する。
【下記のルールを読み、同意をチェックしてから職業を選択してください】
・本作品は過去のドラクエ3の世界を忠実に再現した世界です。
ドラクエは、FC版の2を除けば、どのナンバリングも老若男女どころか初心者から玄人までが楽しめる絶妙なバランスに調整されている素晴らしいRPGだ。
むしろ完成され過ぎているが故に、確率やバランスに手を加えると逆に崩れそうなので、これは英断と言える。
・プロローグはドラクエ3の世界を旅をするRPGですが、クリア後に広がる新たな世界が本番です。
プレイヤー自身がアレフガルドの外の世界を作るのが本番である事は既に知ってるが、今から行われるのはプロローグのボスであるゾーマを誰が最初に倒すかの勝負。
なのでこの一文はどうでもいい。
・この世界は、地球の1/320の広さのオープンワールドです。
東京ー名古屋間が1キロになると言えば凄く狭く感じるが、地球の赤道は4万キロ。
これをドラクエ3のマップになおすと約125キロ。
一辺125キロのマップに256マスを当て嵌めると、なんと1マスが約500メートル四方もある事になる。
ちなみに、アリアハン城からレーベまでは概ね40マス。
これを距離に直すと約20キロ。
時速5キロで歩いた場合、最初の村まで約4時間。
長い。
当然、普通に歩けばその間の戦闘は多くても4~5回。
エンカウントするまで何十分、運が悪ければ1時間以上も歩き続ける事になる。
気が遠くなりそうだ。
あと気になるのは、オープンワールドが塔やダンジョンにどの様な影響を及ぼすかだが……既に最悪を想定した戦略を練っているので問題ない筈だ。
・ゲーム内での1日は24時間(現実では1時間)
シリーズによって異なるが、240から256マスの移動で1日経過する。
これを1マス500メートルで計算すると、24時間歩き通した時に125キロ進む計算になる。
ピッタリだ。
ピッタリだが、そこまでリアルを求める必要あったのか?
と言いたくなるが、そんな愚痴すらも一瞬で消え失せる不安が頭から離れない。
空腹は我慢できるとして、一番の問題はトイレだ。
仮想現実ダイブ中に活動しているのは頭のみ。
肉体は仮眠状態となっているためゲーム内では疲れや眠気は発生しない。
しかし今回は争奪戦のため途中でログアウトする時間があるとは思えない。
ゲーム終了後、目を開けたら周囲が汚物だらけの大惨事になっていないことを切に願う。
と言った感じで若干の不安場あるが、ありきたりの事が書かれているだけだったのでチェックボタンを押すために次へと進むと
【争奪戦に参加される方への特別ルールと追加特典】
「は? 特別ルール? 追加特典?」
これは事前に告知されていなかった。
破格の賞金が用意されているため、普通にプレイできないことくらいは覚悟していたが、それはプレイヤー間での事しか想定しておらず、まさか運営様自身がこの様な罠を仕掛けてくるとは。
底意地の悪そうな奴に喧嘩を売りたくなる。
とは言え、他のプレイヤーも同条件なので、無理やり溜飲を下げつつ続きを読むことにする。
①本来は勇者が所有している武器・防具・50Gを、全パーティが所持した状態で開始します。
これは非常に有難い。
拝啓
ケチな王様とは違い、大盤振る舞いで公平な運営様へ。
底意地が悪いと罵った事を今直ぐ謝罪します。
そして、ありがとうございます。
敬具
②開始前に、全てのプレイヤーが種を5つ使用できます。
参加者が9人の時点で、オリジナルではなくリメイク版がベースである事は既に分かっていたが、元から高性能な勇者や賢者にまで種をバラ撒くのってアリなのか?
うん、平らにする気はあるっぽいが、公平ではなく平等の方だった。
③パーティを組む場合、ゲーム開始前に各自で仲良く話し合って決めて下さい。
「は?」
ソロでの勝負と思い込んでいたため、思わず変な声が出てしまう。
勇者・賢者・僧侶にパーティを組まれた時点で、回復手段を持たない残りのプレイヤーに勝ち目無し。
何かの間違いだと思いつつ、絶望しながら何度も見ながら少し前に目を戻すと、①でも『全パーティ』と書かれている。
「嘘だろ……」
しかも、ゲーム中に対話が可能なため、知識を補填し合えるパーティは更に有利になる。
運営様は絶対に何も考えて無いだろ。
などと思っていたら秒で釘を刺してきた。
④酒場は利用できません。
NPCは無し。
敵も味方もプレイヤーのみ。
通常プレイであればその程度の話だが、一転してパーティプレイが大博打に早変わり。
対話が可能な1,000万ドル争奪戦で、この縛りは普通に危険過ぎる。
途中で仲違いをしたり足を引っ張る奴どころか、裏切り者が現れても別れる事すらできない鬼畜仕様。
対処法としては、邪魔者を殺したまま生き返らせないと言ったやり方もあるが、もしかしたら他の生きてる奴も……先を急ぐ争いの中、一度でも発生してしまった不協和音や疑心暗鬼は致命傷になりかねない。
「下手したら、ゲーム終了後に死人が出るぞ」
元からソロ前提だった俺はノーリスクだが、パーティを組む事を前提としていた人は頭が真っ白になった筈だ。
ザマー見ろ。
等と思っていたら、この先で出てくる縛りが全員を地獄に落とす。
⑤〇〇パークには最初から商人が配置されてます。
酒場が使えないなら当然か。
⑥尚、町の名前はス・パークです。
凄くどうでもいい。
いや、町を育てて繁栄と栄光を手にするも、色々とやり過ぎたため革命が起きて牢屋入り。
そう考えると、色々と弾けてそうな人生に思えるので、意外と悪くない名前かもしれないが、やはりどうでもいいので次へ行く。
⑦フィールド上および戦闘終了時に死亡していた場合、HP・MPが全快した状態で自動的に復活しますがレベルが5ダウンします。
「え?」
⑧パーティが全滅した場合、所持金の半分に加えてパーティ全員のレベルが更に5ダウンします。
「は?」
戦闘中に死亡した場合、何が何でも蘇生してから終了しないとレベル5ダウン。
フィールドのトラップで死亡しても即レベル5ダウン。
全滅したら更に5ダウン。
ソロプレイヤーの場合、死亡イコール即レベル10ダウンが確定するデスペナルティー。
1000万ドルに目がくらみ、先を行く者に追い付こうと無茶な進行でイベントを壊す輩が現れるのを抑制するためと思われるが、これは流石に酷過ぎる。
このせいで慎重に進まざるを得なくなるが、そうなると職業での有利不利が更に際立つことになる。
逆に不遇職ほどソロではキツいがパーティにも入れて貰えない二重苦に。
しかしパーティプレイが有利かと言えばそうとも言えない。
最悪、真逆の方針を打ち出す事で和を乱し、足を引っ張る事で不協和音や疑心暗鬼を撒き散らす裏切り者が紛れ込んでいたとしても、殺したまま放置で黙らせることができなくなる。
ソロに対しては不利な条件だが、パーティを組むと殺伐としそうで怖すぎる。
何の目的があって運営様がこんなルールにしたのかが全く理解できない。
しかし、何を考えても今更なので次へ進む。
⑨他のパーティと共闘や戦闘はできませんが観戦は可能です。
⑩仲間だけでなく、他のパーティとの会話も可能です。
至極当然の事しか書かれていないように思えるが、わざわざコレを文面にする意図は?
眼にする事で参加者はコレに対する意識を確実に強めてしまう。
単に攻略速度を競わせるのではなく、本気のマジで人間同士の醜い争いをさせる気満々だ。
しかも泥沼の戦いまで望んでそうでもある。
更には……
⑪一日が終了した時点で、各パーティの所在地と全参加者のレベルが告知されます。
単にライバルの進行具合が分かるだけでなく、パーティの場合は情報漏洩の観点から見ると下手に近寄る事もできなくなる。
しかし船を取るまでの流れは一直線のため、避けてばかりだと遅れが生じるばかりとなる。
逆にソロの場合は安全かと言えば、そうとも言えない。
仲違いをしているブラフである可能性があるからだ。
話すのも悪手。
話さないのも悪手。
近寄るのも悪手。
近寄らないのも悪手。
考えれば考えるほど悪い方へと進み、見えない何かに手足を絡め捕られて動けなくなる地獄。
面倒な条件を次々と、頭が痛い。
ただし、これだけはハッキリと言える。
運営様は、泥沼の争いをご所望で確定かな。
まぁ運営様の思惑に乗るつもりは無いが。
そして最後に、追加特典だが……
⑪開始直後、各パーティ毎に好きな魔法や技能を2つ選択し、それぞれ取得と禁止を選べます。
⑫取得を選択した魔法や技能は1名が覚える事ができ、消費MP半分で使用できます。
⑬禁止した場合、他のプレイヤーが追加特典で得た同名の魔法や技能が使用不可となります。
不遇職ほど有難みを感じやすい特典に思えるが、最後の一文が非常に厄介だ。
最初から有用な魔法や技能を覚えれば恐ろしく楽になるが、誰かが禁止してた場合は特典一つを失う事になる。
有用な物ほど禁止されるリスクも高くなる。
一見すると、互いに打ち消し合っているだけの様に思えるが、そうなる事を見越したうえで、無難な物を選択し、何事もなく二つの恩恵を得ようとする者も当然現れる。
禁止されるリスクを背負ってでも有用な物を選ぶか?
抜き出ようとする者を禁止で阻止するか?
禁止は誰かに下駄を預けて、確実に得れる無難な物を選ぶか?
ホント、始まる前から頭が痛い。
ここまでくると、醜い争を望んでいる事を隠す気の無さそうな運営様を逆に褒めたくなる。
が、たぶん運は俺の味方をしている。
事前に練っていた戦略のままでも行けると判断した俺は更に次へと進み……最後にもう一文残ってた。
⑮光の如く輝いた翼と虹色の尾が~~うんたらかんたら~~ラーミアはマジで速い。
ラーミアの速さが想像通りか、それ以上か、以下かはその時が来るまで分からないので、意味不明な長ったらしいポエムを読み飛ばした俺は、同意のチェックボタンを押してから職業選択を……
×勇者
×戦士
×武道家
×魔法使い
×僧侶
×盗賊
〇商人
×遊び人
×賢者
「……」
参加者は9人。
職業は9種類。
俺は9番目。
真っ暗な部屋の中、最初から選ぶ権利が無かったことに今更気付いた間抜けの顔がディスプレイに映っていた。