衆人環視!? R15魔物討伐!!
今回はセンシティブな描写があります
えっちなのではありません
あとがきに要約載せるので苦手な方は読み飛ばしてください
勇者一行の後ろに、ぞろぞろと付いていく対魔騎士団。万一に備え偵察部隊こそ任務継続していても、主役はドスケベ催眠おじさん。見つけた敵はあえてスルーし、一向独自の警戒網に引っかかるのを待つ。
「来たぞ!」
騎士団の偵察部隊から遅れること数秒、専任でない一般団員としては上々の反応をみせたケヴィンが、いち早く魔物の接近を察知する。
「触手が三! 塩が一匹!」
略称を叫んで時間を短縮。触手ことテンタクル・ゾンビ三体に加えて、塩――ソドムゲイザーという名の別の魔物が接近してくる。
ソドムゲイザーは胴体のほとんどを占める巨大な単眼に、甲殻類のごとき硬質の多脚を備えた異形の魔物。一本ずつ独立して動く器用な脚で機敏に駆け、最大の特徴である眼球から凶悪な魔眼系スキルを放ってくる厄介な敵だ。
死の間際に全身を塩に変化させる不思議な性質をもつので、ケヴィンは「塩のやつ」「しょっぱい目玉」などと呼んでいる。
「《パニックリング》!」
「《コピーキャット:パニックリング》」
「《パニックリング》!」
「《コピーキャット:パニックリング》」
ドスケベ催眠おじさん、ミリオン、ドスケベ催眠おじさん、ミリオンの順で交互に催眠魔法を撃ち込んでいく。味方を巻き込むリスクのある「全体化」は使わず、敵の数だけ単体魔法を繰り返す選択をとった。
前より少しレベルの上がったドスケベ催眠おじさんと、本職ではないにせよレベル99あるミリオンは、みごと抵抗されずに催眠をかけきることに成功する。
魔物たちはお互いの触手や脚で突いたり蹴ったり、同士討ちを始めた。
仲間の消耗を抑えて敵のHPを削るなら、初手《パニックリング》がとにかく便利である。
「ある程度傷つくと解けるのでしたよね?」
「はい。解けたやつから処理しますが、動き出しが面倒なのでうまく抑えてくれると助かります」
リナは頷き、両手に《ピュアスフィア》を滞空させながら、じりりと一歩前に踏み出した。クソツヨナメクジたちも、やんのかー、やんぞー、やらねばー、やったるー、やっちゃうー、みたいな感じでそれぞれ上下にぽよんぽよん弾んでいる。
「どうせならそれぞれ違う方法でトドメ刺すか」
「余裕があるうちは、そうしましょう」
ケヴィンの提案に頷き、ドスケベ催眠おじさんは頭の中でイメージを固める。
催眠に――状態異常による搦手に特化したドスケベ催眠おじさんは、攻撃手段に乏しい。《パニックリング》で途中まで削ることはできても、最後まで仕留め切る手段は限られてくる。
事前に考えておいた方法は大きく分けて五つ。そのうち一つは「通常攻撃」すなわち「杖で地道に殴り続けて倒す」という極めて非効率的な方法となるから除くとして――残りはちょうど目の前にいる魔物の数に等しい。
ひとつ、仲間を頼ること。
「来たッ!」
最初に正気を取り戻したテンタクル・ゾンビの一体が向かってくると、まずはケヴィンが聖剣で触手を切り払う。
――《ショートワープ》――
――《クリーピングブロウ》――
次にクソツヨナメクジが敵の背後に転移し後頭部を強打する。
「《ピュアスフィア》!」
それからリナが拳に纏わせた魔法を叩き込む。武器スキルを活かすため、左で軽くしばいてから右をねじ込んだ。
「おつかれさん」
そしてテンション低めのミリオンがねぎらう。彼女が手を出さずとも、リナが殴った時点で一体目のテンタクル・ゾンビは爆散してドロップアイテムに変わっていた。《ピュアスフィア》の光と浄化の属性は、不浄なる存在に特によく効くらしい。
「二匹目もそろそろ起きそうな雰囲気だぜ」
「そっちは僕がやります。離れてください」
ずっと仲間におんぶにだっこ、というわけにもいかない。ドスケベ催眠おじさんが単独でトドメを刺せる方法も用意してある。
ふたつ、アイテム扇風機。
ドスケベ催眠おじさんは意識を集中し、二体目のテンタクル・ゾンビがいる座標に複数の武器を同時に出現させる。
――ガギギゴガンガラガンズンバラドッシャビシャーン!!!
刹那、けたたましい金属音が響き渡り、物理演算のいたずらで激しくぶつかり合い絡み合う聖なる刃たちが、魔物の全身を容赦なく切り刻み、同士討ちで消耗したHPの残りを奪い去っていった。
扇風機が落ち着いて名刀や聖槍が地に落ちると、クソツヨナメクジたちが落下点にわらわらと集まり、万が一にも敵に武器を奪われたりしないよう、引きずって回収する。
アイテム扇風機はアイテムを「出す」だけで魔法でも攻撃でも何でもないので、魔力も体力も消費せず撃てるのが利点だ。
ただ先述のとおり鹵獲のリスクや回収の手間があるのと、スキルやステータスによるダメージボーナスが一切乗らないので威力自体さほど上がらないのが欠点といえる。あくまで弱った魔物に追い討ちで仕掛けるその場限りの一発芸と割り切るのがいいだろう。
「三体目のテンタクル・ゾンビも起きました!」
「ゾンビならアレが使えるんじゃね?」
「試してみます」
みっつ、回復催眠。
「《ナーサリーナイトメア》……!」
不死者系の魔物は、あるべき命の終わりに逆らっているという背景からか、癒しの魔法が反転する――つまり、回復されると逆にダメージを受けるという難儀な体質を有している。かといって別に攻撃魔法を食らっても回復したりしないのは、まぁ、ご愛嬌といったところ。
ともかく、動く腐乱死体であるテンタクル・ゾンビにとって回復催眠は毒に等しい。《ナーサリーナイトメア》を受けたそいつは苦悶の声をあげることすら許されず、ぼろぼろと崩れ去り昇天した。
相手が不死者であるからこそ使えた、限定的な一手である。
三体のゾンビを仕留め、残るはソドムゲイザーのみ。ソドムゲイザーは異形であれど不死者ではなく「そういう形の生き物」なので、倒すにはまた別の方法が必要となる。
「最後のクソデカ塩目玉どーすんにゃ? ウチまだ仕事してないからヤッてもいいけど」
「いや……僕がやるよ」
ドスケベ催眠おじさんは、今まで以上に鬼気迫る表情で宣言した。あとひとつだけ、ドスケベ催眠おじさんにもできる方法が残っている。
それはドスケベ催眠おじさん自身にとっても、ある種の代償を払う必要があるやりかたである。体力や魔力というよりも、もっと自己の根幹に関わる、精神的な部分の問題といえる。
「ヤルのかい」
「やるよ」
「ん。任せた」
ミリオンも、いつになく神妙な面持ちで主人を見送った。お人好しのドスケベ催眠おじさんがどれだけの覚悟をもって決断したか、容易に察することができたから。
ドスケベ催眠おじさんは両手で「人魚わからせ棒」を握りしめ、まさに起きあがらんとする魔物に向けて口を開く。
よっつ、禁断の魔法。
ひとつのスキルツリーを育てきった先、極めし者だけが至れる深淵がある。
剣士なら門外不出の秘奥義。
魔法使いなら至高の古代魔術。
そして催眠術師には、禁断の催眠魔法。
使うことは無いと思っていた。習得はしたものの、流石のドスケベ催眠おじさんもコレはよろしくないと思い、常用していなかった。
が、強くなるならば。慣れない異世界で仲間に依存せず生きていけるようになるためには、諸刃の剣をも使いこなせてこそ。
ドスケベ催眠おじさんは唱えた。
「禁呪……《デプレッシブライム》……!!」
ドスケベ催眠おじさんの声に、不気味な反響効果がかかり、いつもより野太く聞こえた。特殊演出が乗せられるのは、ゲーム的にもそれだけ特別なポジションに置かれた現象だということの現れ。
杖先から流れたのは、魔力というより、黒く歪んだ音符。その旋律が耳へ届いたとき、一体どんな風に聞こえるのか、知っている者はこの世にいない。
ソドムゲイザーはびくりと震えた。巨大な単眼をぎょろぎょろと落ち着きなく彷徨わせ、やがてトロリと脱力したかと思えば、次の瞬間、自らの脚の一本を高く掲げ、振り下ろした。
硬質な爪先は突き刺さる。
自らの、ソドムゲイザーの身体に。
(ゲギョギョギョギョギョギョギョギョグァグァウェビョギョギョギョギョワギョワワワワワワワワワワワワワワワアーアーアーーーアーーアーーーアアーーキリリリリルルルリリリリリリリリギョワコロロロロギョワコロログゥグゥグゥ)
声帯を持たぬはずのソドムゲイザーが、一体どこから発しているのか。正体不明の悲鳴を掻き鳴らし、一心不乱に自身を突き刺す。体液は飛び散り、自慢の眼球は見る影もなく潰れて穴だらけになっていく。
何かに取り憑かれたように、あるいは、何かから逃げるように、自分自身を刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して――
動かなくなるまで、そうしていた。
「…………っは、……ぅぁ………、………。」
ドスケベ催眠おじさんは自分のしたことの結果を直視できなかった。対魔騎士の何人かも同様に顔を手で覆っていた。
ケヴィンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。リナは無表情だった。クソツヨナメクジはふるふる震えた。ミリオンは何を思ったか真摯に一部始終を見届けている。
そうしてみんなが見ている、または見ていない前で、ソドムゲイザーは力尽き、塩の柱と化した。
戦闘終了。勇者の勝利だ。
「……………………ふ、ぅ……っ」
絶望を錯覚した魔物が、自らを害して死に至る。催眠というにも度が過ぎている、あまりに暴力的で悪辣な現象――これこそ《デプレッシブライム》が禁呪たる所以だ。
卑劣きわまりない。見るに耐えない。現実の肉眼に映ることで、画面越しより直接的に、その凄惨さが伝わってくる。
しかし一歩引いて考えてみれば、過程が違うだけで「即死魔法」なんてものは掃いて捨てるほどファンタジー作品のなかに溢れている。
殺すのは許され、死なせるのは罪なのか?
そんな悪趣味に過ぎる問いを、ムートポス開発者はプレイヤーに投げかけているような気がして、そういうところもこの禁呪が好きになれない理由のひとつだった。
対魔騎士たちも、先刻の興奮と活気はどこへやら、浅い呼吸で生唾を飲み、畏怖に満ちた視線を向けている。
「……はい。これが今の僕にできる戦い方です」
水を打ったように冷え込む空気のなか、ドスケベ催眠おじさんは額の脂汗を拭い、なんとか場を締めくくる。
「たぶん、参考には……なりませんよね……」
【要約】
ドスケベ催眠おじさんがみんなをドン引きさせた




