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ネコチャンvs概念的ネコチャン 地下のぬるぬるキャットファイト!!

 地下水路の最深部――かつては「ボス部屋」と呼ばれ、ダンジョンで最も強い凶悪な魔物が待ち構えていた広間。いまは「王都地下水路の守護者」のおかげでもぬけの殻となっているその場所に、ドチャッ、ドチャッと重いものが落ちる音が響く。


「こ、れ、で……最後ォ!!」


 ケヴィンが投げ込んだ塊は、丸一日地下水路を駆けずり回って拾い集めたフラグメント――クソツヨナメクジの欠片が乗り移った分体、その最後の一匹。

 ドチャッ、と着地音がした先には、数十もの同じ姿をしたスラグ・スライム・フラグメントたちが、汚いマカロンタワーのように積み重なっている。


【 収集進捗 100/100 】


「完了メッセージ出ました!」


 ドスケベ催眠おじさんの合図とともに、一行はナメクジタワーから距離をとる。

 杖を構えて正装のブリーフ形態となったドスケベ催眠おじさん、両手首にバングル型の銀の魔道具をはめたリナ、対魔騎士標準装備の長剣と円盾を構えたケヴィン、湿気に不機嫌そうな顔をしているミリオン、ふしゅうううと紫の煙を吐くガーファンクル。

 臨戦態勢の仲間たちに、ケヴィンが号令をかける。


「俺とガーファンクル教官が先頭、リナは中央。ドスケベ催眠おじさんは後方から、声かけと催眠魔法を頼む! メスネコは好きに暴れとけ」


 各自が配置についたことを確認すると、ドスケベ催眠おじさんは、たっぷり深呼吸してから、クソツヨナメクジに語りかける。


「クソツヨナメクジ! 僕だよ、ドスケベ催眠おじさんだ! もう苦しまなくていい。我慢しなくていい。楽になろう。楽しくやろう。一緒に遊ぼう。リナさんが、僕たちが、君の戦いを終わらせてあげるから!」


 ナメクジタワーが(うごめ)く。輪郭が溶け、境界がなくなり、折り重なり混ざり合い、やがてひとつの塊となる。ちょっとした小屋ほどもあるスラグ・スライムの集合体は、己のうちで流動する悪意に耐えかねたように、ぶるぶると震え出す。


(ィ……ピゥ……ウィギ…………)


 それは単なる空気のうねり、ゼラチンの蠕動(ぜんどう)が生み出す破裂音か。声帯をもたないはずのスライムの苦悶はしかし、やがて悲鳴じみた響きを孕みはじめて――


(ギッ! ピャガッ! ピギイイイイィッ!!)


――広間全体をビリビリと震えさせた。


「作戦開始!!」




◎ ◎ ◎ ◎ ◎




(キュオオオォゴゴゴ……!!)


――《フルメタルプレス》――


 真っ先に動いたのはガーファンクル。その巨躯と幅広の大剣で、押し潰すように上からナメクジタワーの動きを止める。

 ケヴィンもガーファンクルに続き、盾と剣の腹をフル活用。半ば殴りつけるような形で波打つスライム体を抑え込む。


「奈落を照らせ――《ピュアスフィア》」


 リナは手に魔力の球を生成し、堂々たるフォームで振りかぶって投げつける。ガーファンクルの脇の下を抜けて着弾した魔法が、ナメクジタワーの表面に神秘的な波紋をつくる。清らかな浄化の魔力に身を削られた悪意は、その肉体をつき動かし、ダメージから逃れるように身をよじらせる。


「《スヌーズバレット》!」


 体動を防止するべく、ドスケベ催眠おじさんが杖先から弾丸タイプの催眠魔法を撃ち込む。霧状の《スリープスモッグ》では味方を巻き込むリスクが高いと考え、今回は直線的に進むこの魔法を選択した。


「ウチもヤるかぁ。《コピーキャット:スヌーズバレット》」


 ミリオンも、味方の習得している技を模倣するスキルで、催眠魔法を重ね撃つ。ミリオンは主人ほど装備やスキル構成を催眠色に染めているわけではないが、単純にレベルとステータスが高いので何をやってもそれなりに高威力が出る。

 そうしている間にも、ドスケベ催眠おじさんの脳内には、デカデカと表示されるメッセージと、けたたましく鳴り響く警告音が駆け巡っていた。


【WARNING!! WARNING!!】

【スラグ・スライム・スウォーム Lv.(レベル)80】

【※適正レベル未満のメンバーがいます※】


 敵の名称と強さのレベル、そして格上との不利な戦いを意味するメッセージ。

 しかしドスケベ催眠おじさんは、むしろ希望を感じていた。


――レベルが下がってる。


 ドスケベ催眠おじさんは基本的に召喚獣たちをレベル99――すなわち「ムートポス〜天と地と海の物語〜」における味方ユニットの上限値まで育て上げている。クソツヨナメクジもその例に漏れず、少なくとも邪神ヒュプノスとやりあった時点では、レベル99になっていたはずだ。

 ところが現在のクソツヨナメクジは、悪魔スライムとの死闘で多数の分体を削られたことが響いてか、レベル80まで低下している。

 かたや、こちら側のガーファンクルやミリオンはレベル99のまま。リナやケヴィンもそれなり以上の剣術や魔術の心得がある。相手が群体であることを差し引いても、能力値では優位といえるだろう。

 唯一の心配事は、肝心のドスケベ催眠おじさんが未だにレベル1であること。ステータスの差が壁となって催眠が通りづらい。そうでなくとも流れ弾が飛んできたら即死する。

 ドスケベ催眠おじさんは、妙な事故が起こる前に、貧弱なステータスで催眠をかけきらなければならないのだ!


「《スヌーズバレット》、《スヌーズバレット》……」


 弾丸を十発二十発と叩き込んでいると、【聖杖『人魚わからせ棒』+99】のスキル「耐性貫通」の恩恵もあってか、徐々にナメクジタワーの動きが鈍ってくる。


「効いてきた? よしよしいい子だね、そのまま大人しくオネンネしておくれよぉ……」

「まずいぞドスケベ催眠おじさん! (やっこ)さん分裂しようとしてやがる!」

「ふえぇ!?」


 弾丸状の魔法は「点」の攻撃であるために、全身へ効果が浸透するまではタイムラグがある。スラグ・スライム・スウォームは催眠が回りきる前に、無事な部分を切り離し始めた。

 熟れた木の実のごとく、ボトボトと剥がれ落ちていく塊。それらはやがて個々に意志をもって動き出し、一行に襲いかかってくる。


「せっかく集めたのに拾い直しかよ……ッ!」

「ぼく対応します! みんなアレ飲んで!」


 ドスケベ催眠おじさんの合図に従い、事前に配布された【加護の丸薬】を口に含むと、一行の身体の表面に、一度だけ状態異常を防いでくれる不思議なバリアが展開される。

 ドスケベ催眠おじさんは「人魚わからせ棒」をアイテムボックスにしまい、代わりに板状のものを取り出す。


【聖盤『催眠アプリ魔石板(タブレット)』+99】


 見た目はいかにも古代文明の遺跡から発掘された石板、名称は部分的ルビふり機能まで悪用した渾身の一作。

 そのスキルは「全体化」および「射程延長」。敵単体を対象とする魔法を全体に拡大したり、届く距離を伸ばしたりする効果をもつ。


「オラッ! 無差別催眠――」


 これまでは催眠魔法と言いつつ、ただ眠らせるだけの魔法しか使ってこなかった。

 今こそドスケベ催眠おじさんの真価を見せるとき。


「――《パニックリング》!!」


 魔石板から放たれた無色の波紋が広間を駆け抜けると、状態異常保護バリアに守られた味方をすり抜け、ナメクジたちの頭上に光輪(リング)を付与する。

 輪がスライム体の内部へ沈むように溶けて消えたのち、分体たちは身を震わせ、手近にいた分体(じぶん)に襲いかかる。

 広間は大量のナメクジが殴り合う、混乱と狂騒の舞台(リング)と化した。


「同士討ち催眠! エグいにゃあ!」


 《パニックリング》は仲間割れを促す催眠魔法。成功すれば、ドスケベ催眠おじさんは自らの手を汚さずとも、座して待つだけで敵が消耗していく。

 あまりダメージが蓄積すると催眠が解けてしまうため、これ一本で勝ちを狙えるほど万能な技ではないが、対多数の戦闘において抜群の効果を発揮する。

 好き勝手に暴れ回るナメクジたちのHPが、効率よく削られていく。このまま順調に弱らせ、動きを鈍らせることができれば、続く催眠魔法も通りやすくなることだろう。

 とはいえ相手も高レベル魔物。


「お気をつけください! 催眠から逃れたものがいます!」


 ステータスの差、もしくは確率の問題で、催眠にかかっていない分体も存在する。リナは飛びついてきたナメクジに掌底打ちの要領でゼロ距離《ピュアスフィア》を叩き込みながら警告した。

 催眠をかけ直そうにも、全体化した《パニックリング》は味方にもかかってしまうため、対策なしでホイホイ使えるものでもない。


「そこは俺たちの出番ってわけだ!」

「ウチのゴールデンタイムにゃ!」


 盾で叩き、剣で引っ掛け、爪で追い詰め――ケヴィンとミリオンは、再び広間の中央へナメクジたちを集めていく。集まったナメクジはガーファンクルのパワーで無理やりコネコネされ、団子状にまとめられる。

 どんどん数が減り、一体また一体と、浄化と催眠の檻へ塗り込められていくナメクジたち。

 だが、クソツヨナメクジを蝕む悪意も黙ってはいない。無闇に分裂して量を増やすのではなく、質の高い少数精鋭の分体を生み出すことで、事態の打開を図った。

 ミチミチと不穏な音を立て、本体から分離したのは三匹の精鋭ナメクジ。


【スラグ・スライム・メイジ Lv.70】

【スラグ・スライム・シーフ Lv.72】

【スラグ・スライム・キラー Lv.71】


 デブ猫サイズを超え、大型犬くらいになった高レベルナメクジ部隊が一行を睨む。

 触角の先から刺すように飛んでくる視線を受けて、ミリオンは毛を逆立てる。


「濃いのが……いっぱい出たにゃ……!」


 表現こそおふざけ混じりだが、百年以上生きた妖怪ネコの危機感知能力は本物。

 ヒゲにビリビリ響いてくる威圧感に見劣りしない魔力が、スラグ・スライム・メイジの粘体内に渦巻いている。


(ピュ、ギギ、ギギア……)


 呪文の詠唱とは似ても似つかない、声ならざる音を鳴らしたスライムはしかし、人間顔負けの上級魔法を当たり前のように発動させる。


――《ダーティストリーム》――


 その直後、敵の行動をスキル発動メッセージとして察知できるドスケベ催眠おじさんが叫んだ。


「ヤバいの来る! 津波! 洪水!!」


 咄嗟のことで語彙が貧弱になったけれども、ニュアンスは伝わった。一行は急いでガーファンクルの周囲に集まり、鋼鉄の巨体にしがみつく。


――《フォームオブフォートレス》――


 ガーファンクルは体重に比例して防御力を高めるスキルを発動し、地面にドッシリ構える。

 人間チームがその巨体を掴み、ミリオンが肩に登った、次の瞬間――地鳴りと水しぶき。全てを押し流す濁流が、一行のもとへ迫ってくる。


「ファッ!? ヤバ、あっ、アッー!!」


 広間を覆いつくさんばかりの勢いで襲いくる濁った奔流に、ミリオンは軽いパニックを起こし、ガーファンクルの上から滑り落ちてしまった。ミリオンは水が苦手なタイプの猫ちゃんであり、妖怪になってもそれは変わらないのだ!

 ジタバタもがきながら落ちていく猫の身体が、押し寄せた濁流に呑まれる――


「『送還(アンサモン)』!!」


――寸前、ドスケベ催眠おじさんはミリオンだけを亜空間へ避難させ事なきを得る。

 一方で人間たちと、防御の要たるリビングアーマーはそうもいかない。ミリオンが消えたのと同時、腰ほどもある濁流に全身を打ちのめされる。


「くぅっ――!」

「危ない!」


 体重の軽いリナは流されかけた。ドスケベ催眠おじさんは咄嗟にその身体を抱きかかえる。ドスケベ催眠おじさんの頼もしすぎる体重と、ガーファンクルが先頭に立って波を打ち消してくれたおかげで、なんとか踏みとどまることができた――が、被害もゼロではない。


「あッ……がが……ぁ」


 濁流のおさまった広間で、ドスケベ催眠おじさんは膝から崩れ落ちる。


【HP 19/100】


 最大値の八割強の大ダメージ。洪水一発で木剣ボコボコ81発分のフルボッコ。

 ガーファンクルの巨体と最強のブリーフ【聖衣『裸一貫』+99】に守られていたとはいえ、流石にレベル1では本体の防御力が低すぎたのだ。レベル70を超える精鋭スライムの上級魔法を何度も耐えきれるものではない。


――次に全体攻撃を受けたら、死ぬ。


 ドスケベ催眠おじさんは物理的激痛と精神的ショックの後遺症で、涙を流してうずくまった。転生してからこんなんばっかであるが、素人おじさんだから仕方ないのである。あまり責めないでやってほしい。


「うぅぅぁあ……い……たい……」

「ドスケベ催眠おじさん様、お気を確かに! さぁ回復薬を――」

「俺がカバーする! リナは浄化続けろ!」


 その隙を、隠密特化型のスラグ・スライム・シーフは見逃さない。


――《ナイトフォッグ》――霧に紛れ姿を消し、


――《ショートワープ》――音もなく瞬間移動、


――《クリーピングブロウ》――背後から一撃、


――《ミアズマ》――離脱ついでに毒霧を撒く。


「う、ご、ぶぁ……!?」


 標的はケヴィン。死角からの攻撃に何が起きたかすら把握しきれず、衝撃のままに吐血。酸素を求めて吸った息から《ミアズマ》が流入し、瘴気で肺を焼き焦がす。

 悶絶するケヴィンを、折悪しく、ドスケベ催眠おじさんが目撃してしまう。


「な、《ナーサリーナイトメア》!!」


 気が動転したドスケベ催眠おじさんは、慌ててケヴィンに回復催眠を飛ばしてしまう。


――そいつは悪手だ!


 ケヴィンは頭の中で叫んだ。

 そんなことをするくらいなら、アイテムを任意座標に落とせる機能を使って、ケヴィンに回復薬でも寄越してやればよかった。その薬を咄嗟にうまくキャッチして飲めるかはともかく、少なくともドスケベ催眠おじさんは魔法一発分の時間をロスせずに済むし、ケヴィンは《ナーサリーナイトメア》の効果で眠りにつかずに済む。

 ドスケベ催眠おじさんは善意のつもりの魔法で、隙を晒したのみならず、貴重な戦力を自ら一枚落としてしまったのだ。

 ケヴィンは歯を食いしばって首を振り、眠りに落ちる寸前、なんとか一言ひねり出す。


「うしろ……!」


 振り向いたドスケベ催眠おじさんのすぐ目の前に、それは居た。いや、来た。


――《ゼラティナスキャノン》――


 一撃必殺型のスラグ・スライム・キラーが、砲弾のごとく飛んでくる!

 リナの救援は間に合わない。ドスケベ催眠おじさんが自分で尻拭いするしかない。

 ドスケベ催眠おじさんは過去最高の早口で叫ぶ!


「『召喚(サモン):ミリオン』!!」


 間一髪で召喚が間に合った! 間に割り込むように出現した猫が、魔力を帯びた爪でスライム体を斬り散らす。


「急な配置変更(チェンジ)は心臓に悪いにゃあ!」

「ごめんミリオン助かった!」

「まーさっきのヘルプでプラマイゼロ!」


 シュタッとスタイリッシュに着地を決めたミリオンは、次なる襲撃を狙っている様子の精鋭ナメクジどもを睨み、忌々しげにデカいため息をつく。


「ッハァーまったくこの濡れ濡れスライムちゃんたちはまったく、ホントにまったく、まったくもう! ウチを本気にさせちゃってさぁ!?」


 毛は逆立ち、眼球は煌めき、爪は紅く燃える。


「ご主人、デカいの一発イくからあとヨロシクにゃ!」


 頭を低くした狩猟体勢から――弾けるように、跳び上がる。


――《十六夜(いざよい)万華鏡(まんげきょう)》――


 縦横無尽に飛び交う、レーザービームめいた斬撃の嵐。

 敵一体あたり十六ヒットのクリティカル攻撃、そして実際のダメージ発生数よりも明らかに多すぎる派手な残像(エフェクト)が、視界を紅く染め上げる。

 無数のスライム飛沫が飛び散る広間。必殺技を終えて着地したミリオンは、そのままクタリと力を失う。


「ふにゃあ……もう足腰立たにゃあい……優しくベッドに運んでぇ……」


 正確にはスキルの代償で一定時間攻撃行動を封じられただけだが、ドスケベ催眠おじさんはお望み通りにしてやった。


「『送還(アンサモン)』」

「いやアンタ風情とか無――」


 ミリオンの抗議も途切れ、静寂を取り戻したボス部屋。そこかしこに散乱した破片たちが、まだ諦めずにモゾモゾしている。

 そんな破片たちをガーファンクルがせっせと拾い集めているが、あっちを拾えばこっちが逃げ、こっちを拾えばあっちが暴れ、思うように作業が進まない。


「まだ動けるとは、伝承通りの粘り強さ――」


 リナはクソツヨナメクジを称賛する。そのうえで、容赦なく断じる。


「――ですが、流石に()()()が過ぎます。どこまでドスケベ催眠おじさん様を困らせるのですか? 同じ英雄を愛する者として、苦言を呈さざるを得ません」


 シャボン玉色の瞳が、静かな怒りに揺れている。目の前でドスケベ催眠おじさんが何度も危機に陥る様子に、誰よりも憤慨し、自らを恥じていたのは彼女なのだ。


「僭越ながら、不祥わたくしめが、諫言(かんげん)の代わりにひとつ、ふたつ、あるいは、もっと……」


 リナは両手を広げ、おもむろに天を仰ぐ。ドスケベ催眠おじさんは視線を辿り、天井付近を見た。

 そこには――戦闘中せっせとリナが仕込んでおいた発動待機状態の光球が、プラネタリウムよろしく無数に滞空していた。

 リナは両手を振り下ろす。


(あまね)く照らせ――《シャイン・イン・レイン》!!」


 刹那、降り注ぐ光の矢。地を叩く暴力の雨音、湿気を祓う焦熱のにおい。


 ミリオンの《十六夜(いざよい)万華鏡(まんげきょう)》が嵐なら、こちらはさしずめ豪雨といったところか。そこらじゅうに飛び散ったスライム片を、余すことなく撃ちぬいていく。

 それでいてガーファンクルやドスケベ催眠おじさんには当たらないよう制御されているのだから、流石の魔力操作制度と感服せざるを得ない。


「あっ」


 途中、床で寝ているケヴィンの頭頂部を一発かすめていった気もするが、きっと気のせいだろう。


「り、リナさん大丈夫ですかこれ? 勢い余ってクソツヨナメクジ殺しちゃったりしませんかね?」

「加減は心得ております」


 ニッコリ微笑むリナ。彼女の魔法の腕は信用が置ける。だからこそ、威力が心配になりもするけれど。

 やがて光球のストックが尽き、天罰の雨が止む。あとには、無事に生きている仲間たちと、ピクピクするのみで移動すらままならない様子のスライム片だけが残った。

 ドスケベ催眠おじさんたちは破片を拾い集めた。スライムたちはもはや反撃の余力もなく、無抵抗でガーファンクルにコネコネされる。


「随分ちっちゃくなっちゃいましたね」

「戦っているうちに、悪い肉も削がれたのでしょう」


 完成したのは、最初のナメクジタワーより遥かに小さな、全部集めても猫ぐらいのサイズしかない、標準体型のスラグ・スライム。


「リナさん、お願いします」

「お任せを」


 戦闘中でも少しずつ浄化できていたのだから、動かない対象を清めることなど造作もない。リナは丁寧に祝詞(のりと)を唱え、儀式を進める。


「流転の女神よ、気高き守護者に(ねぎら)いを。待ち人に(まみ)えるよろこびを」


 手を宙にさまよわせ、目には見えない尊いものを、吹けば飛びそうな(かそ)けきものを、いたわるように動かしていく。

 最後はビシッと四動作。


愛霊(ハーツ)究霊(ラーン)築霊(メイク)――発霊(オーラ)ッ!!」


 クソツヨナメクジの身体が淡く発光し、スライム体の内部で淀んでいた黒いものが消え去る。愛されキモカワ猫サイズボディーを取り戻したクソツヨナメクジは、のろまな動きで……だけど確かに、主人のほうへ頭を伸ばす。

 ドスケベ催眠おじさんは、手を差し伸べかけて……少し迷った。なにもかも一人で上手には出来なくて、今回だってケヴィンたちの足を引っ張ってばかりだった自分が、胸を張って主人として、この健気な守護者と向き合ってよいのかと。


(ピ……ピキュ……)


 そんな理屈っぽい考えは、触角の先できらめく、つぶらな瞳で見つめられて一瞬で吹き飛んだ。


「クソツヨナメクジ……」


 むっちり太った指が、召喚獣の頭に触れる。


【クソツヨナメクジが召喚可能になりました】


 きっと彼はこれからも、沢山の言葉をかけるのだろうけれど。


「よく頑張ったね」


 最初に呟いた一言が、なによりも守護者の心に報いた。

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