表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/29

アイドル催眠おじさん!?

作中初の下ネタ回です。

エッチなのは無いので健全です。

 翌、早朝。日の出前に目が覚めてしまったドスケベ催眠おじさんは、トイレを探して歩き回った。

 しかし覚めてきた頭でもう一度よく考えてみると、実は尿意なんて無かったことに気づいた。

 単におじさん特有の、無駄に早い時間に目が覚めてしまうアレである。


「うわぁ……歳とったなぁ……」

「あら、おはようございますドスケベ催眠おじさん様」


 ベッドに戻る道すがら、リナとばったり遭遇した。同じ早朝起きでも、向こうは活力に満ちたキラキラの瞳でこちらを見つめていた。若さが違う。


「どちらへおいでに?」

「あー、トイレを探しに。でも、考え直したら尿意なんて無くて」

「といれ? にょーい……?」


 リナの反応に、ドスケベ催眠おじさんは違和感を覚えた。まるで異国語を聞いたような反応だったのだ。

 ドスケベ催眠おじさんは、しまったと思った。転生してからこっち普通に会話できているから、日本語で喋っているものと認識していた。

 だが、ここは異世界ムートポス。神さまの不思議なパワー、あるいはゲーム的都合でなぜか言葉が通じるだけで、日本にある単語がそのままムートポスにもあるとは限らない。ドスケベや催眠はともかく、おじさんが通じない時点で、ドスケベ催眠おじさんはもっと文化の違いに配慮すべきだった。


「すいません。トイレってのは、お手洗い、便所、あー、なんて言ったら伝わるのかな。(かわや)とか……?」


 トイレを意味する単語を次々と並べてみたが、そのどれもリナには響かない。お手洗いに至っては洗面台と勘違いされた。


「それは何をするところでしょうか? 用途をお伝え頂ければ、ムートポス語で適切な表現が見つかるかもしれません」

「用を足す……あー……オシッコとか、その、ウ〇コとかするところです……」


 乙女の前でシモの話をすることに躊躇いを感じつつも、ドスケベ催眠おじさんは簡潔に答えた。……そもそも自分は本当にトイレに行きたいわけでもないのに、なんでこんな羞恥プレイをしなければならないんだと思いつつ。

 だが、ここで恥に耐えたことは、結果的に正解だったと、ドスケベ催眠おじさんは思い知る。


「おしっこ……? う〇こ……?」


 リナはポケーッとしながら、小首を傾げた。ドスケベ催眠おじさんは目を見開いた。

 

――いくらなんでも、流石におかしい。


 日常会話に支障がないレベルで単語が共有されているのに、幼稚園児でも知っている単純な言葉が通じないのは奇妙だ。表現や言い換えなんてチャチな問題じゃあ断じてない、もっと根源的な何かがそこにある……。

 その後、しばらくリナと知識を交わして、ドスケベ催眠おじさんは確信に至る。


――ムートポス人はウ〇コをしない!


 考えてみろ――ドスケベ催眠おじさんは自分自身に語り聞かせる。

 昨日から散々食ったり飲んだりしてるのに、一度もトイレに行かなかったのは何故だ? リナの家は全部の部屋を合計しても決して広くはないのに、探し回ってもトイレを見つけられなかったのは何故だ?

 そもそも――「ゲーム時代にトイレって見かけたか」?


「無かった……そういえば、無かった……!?」


 リアル志向の作品ならともかく、ファンタジー世界の、龍とか魔王とのバトルを主軸としたゲームに、トイレなど必要ない。むしろ邪魔だ。数回バトルする度にウ〇コしに戻る勇者なんて格好がつかないし、魔法の薬をガブ飲みして尿意に襲われる姫なんか見たくない。

 深い意味もなく、ほんのり香るフレーバー的に、実際は使わない便器のグラフィックを民家に設置しておく作品だって、あるにはある。だが「ムートポス〜天と地と海の物語〜」はそうではなかった。そんな無意味なものを実装するくらいなら、肝心のバトルシステムをブラッシュアップしたり、遺跡に刻まれた古代文字の書体をかっこよくしたりすることに労力を割く。そういう硬派なゲームだった。

 当時はトイレが存在しないことに疑問など持たなかった。持ったとしても「まぁそういう現実的なライフラインはプレイヤーが見えないところに一応あるって設定なんだろうな」くらいに思って受け流していたことだろう。

 だが、フタを開けてみれば――フタといっても便座のフタじゃないぞ――ムートポスの世界が現実となったとき、血の通った本物のヒトが暮らす世界になったとき、そこに「あるべき施設が無い」ことは、辻褄が合わない。


――選択肢はふたつ。


 ひとつは、あるべき施設を、ゲームでは見ることのできなかった場所にしれっと増設しておき、あたかも元々ありましたよーみたいな顔をすること。

 もうひとつは、「あるべき」という前提を消し去り、そもそもそんな施設は必要ないって設定にすること。


――ムートポスを現実にしたどこぞの超越存在は、よりによって後者を選んでしまったのだ!!


 そして、その法則は、ムートポスの英雄であるドスケベ催眠おじさんの肉体にも適用される。


 結論。


 ドスケベ催眠おじさんはウ〇コをしない!!


「ええっ!? でも――」


 ドスケベ催眠おじさんは、自分が出した結論ながらにわかに信じることができず、自らのブリーフをまさぐったり、リナから借りた人体解剖図を読んだりして、もう一度確かめようとした。

 検証の末わかったのは、子孫を残すための器官としてのアレや、太ももの付け根としてのソレは存在するけれど……そこに排泄口としての機能はなく、ただ清潔にモッコリしているだけだということだ。


「この世界、肥料とかどうしてるんですか……!?」

「肥料には通常、牛や馬などの糞を加工したものを用います」

「あっ、動物はウ〇コするんだ……」

「獣は食べたものを完全に魔力に変換することができないので、消化しきれなかった食物残渣が排泄物として出るのです」


 ちなみに、オシッコやウ〇コという単語も、人間の行為のように言ったからピンと来なかっただけで、動物の話題だと共通認識があれば伝わりはするらしい。

 ただ、日常的に家畜やペットの世話をする人でもない限り、わざわざ動物特有の生理現象を親しみやすい幼児語になおして言う習慣がないので、基本的に「糞」とか「排泄物」とか、辞書的な言い方をしたほうが通りがよい。


「逆に、人間は食べたものを欠片も残さず消化できるんですか?」

「はい。食物から栄養を吸収したのち、残りカスは魔力に変換され、生命維持や身体能力強化に利用されます。ですので、魔力器官に障害をもつ方でもない限り、基本的に人間が排泄物を出すことは――」

「ンだよ、朝っぱらからクソの話なんぞしやがって。すがすがしい目覚めが台無しだぜ」


 ついさっき起きてきたケヴィンが何気なく放った「クソ」だって、人間ではなく獣のそれに由来する罵声であると思うと、ドスケベ催眠おじさんは軽くカルチャーショックに呑まれる思いだった。


「そっか。僕はもう、ウ〇コしなくていいのか……」


 むしろ食物を残さずエネルギーに変えているのなら、そのお陰で強くなっている可能性すら考えられる。レベルとかスキルとか魔法とか、そういった物理法則を超越した要素が、全てウ〇コをしないおかげで成り立っているかもしれないのだ!


当たり前(ったりめー)だ。つーか食う度にクソしてたら『邪神との千夜にわたる死闘』とかやってらんねーだろ」


 正論である。画面の前のノーマル地球人おじさんはともかく、ゲームの中のドスケベ催眠おじさんは、休みなく戦い続けていたことになっているのだから。




◎ ◎ ◎ ◎ ◎




「しかしよ、ドスケベ催眠おじさん。()りあってみて分かったんだが」


 トイレ談義も落ち着いて、朝食も済ませたころ。リナが入れたホットミルクをしばきながら、ケヴィンは口を開く。


「アンタ、強いけど意外と弱いな」

「どっちですかそれ」


 ケヴィンは意味深なことを言って、リナのツッコミを浴びた。

 昨晩あんなことがあったのに、いや、あんなことがあったからこそ。ケヴィンは百年前の英雄にも、忌憚(きたん)なく自論を投げかける。


「どっちもだよ。催眠はクソ強いけど、他は意外なほど弱っちぃ。まるで素人みてぇだ」


 ケヴィンの指摘は的を射ていた。ドスケベ催眠おじさんは転生ホヤホヤ、前世は格闘技経験もないノーマル地球人おじさん。慣れないダイナマイト肥満ボディーを動かすだけで精一杯で、襲いくる剣を弾く技量などない。


「あれじゃ俺みたいなのが十人かかってきただけで押し潰されて死ぬだろ。催眠何発分あるか知らんが魔力が尽きても死ぬ」

「そうなる前にリナが暴漢を排除します」

「それでも対魔騎士全員でかかれば殺せる」


 物騒なこと言うなぁ。というか、リナさんは騎士を総動員しないといけないぐらい強いのか? ドスケベ催眠おじさんは静かに脂肪を震わせた。


「平和の時代とは言ってもよ、ちょっと外に出りゃ魔物だって腐るほど居るんだ。せめて俺ぐらいは片手で握り潰せるようになってもらわなきゃ、おちおち留守番も頼めねぇ」

「ドスケベ催眠おじさん様に留守番など頼みません!」

「例え話だよ。用事があって別行動することもあるだろ?」

「わたくしはドスケベ催眠おじさん様のお側を離れません!」

「五分ぐらい席外すことも」

「わたくしはドスケベ催眠おじさん様のお側を離れません!」

「でもよ」

「わたくしはドスケベ催眠おじさん様のお側を離れません!」


 ケヴィンは両手を挙げて降参を示した。


「あー……若干一名過保護な守人がいるせいで脱線したが。とにかくドスケベ催眠おじさんには強くなってもらいたい」


 ケヴィンは席を立ち、鎧などの仕度をしながら提案する。


「【転生システム】を使ったあとはレベルが下がるんだろ? 経験値を貯めてステータスを上げておきたいところだ」


 ムートポスの一般常識として伝わる用語を使って、ケヴィンは目的を簡潔に示す。そもそも主人公にそういう概念を教えてくれるのは最初の村にいるNPCだったりするのだから、それらが広く浸透しているのは当然ともいえる。


「ま、魔物狩りとかに行くんですか?」


 経験値を得るためにはバトルが必要だ。それは魔物との命のやり取りを意味する。話の流れがちょっと怖い方向へ進みつつあるので、ドスケベ催眠おじさんは恐る恐る尋ねる。


「予定ではな。だが狩りにしても俺とリナ以外にもう少し戦力がないと安心できない。さりとて戦力をつけるにも経験値が要る。悩ましいところだが、幸いにも両方得られるアテがあるんだ」


 ケヴィンは荷物袋を担ぎ、扉に手をかけつつ、こちらへ振り向いて言った。


「会いに行こうぜ。アンタの召喚獣(ペット)に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ