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収穫  作者: 時帰呼
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鳥籠

エリスは語る、この学園に起こった『事件』のあらましを…。


エリスは語る、この学園に隠された『真実』を…。



小一時間も エリスのあとを追って、ようやく辿り着いたのは、古びたエレベーターの前の小ホールだった。


そう、この学園に来た翌日に エリスと乗った扉が折り畳み式のケージで造られた、まるで鳥籠のようなエレベーター。


ひとつ違うのは、あのエレベーターのアナログ式の古めかしい階数表示は 四階まであった。


けれど、このエレベーターには 二つしか表示がない。 ひとつは『機械室』もうひとつは『展望台』。


「ね、不便でしょ。 これ以外にも、幾つか小部屋があるらしいけれど、誰もそこには わざわざ行かないんだって。

だって、時計を動かす『機械室』と この学園一眺めのいい『展望台』以外に行くには、長い長い螺旋階段を 自分の足で昇らなきゃいけないんだもの」


エリスは、何故 こんな学園の奥深くにある尖塔まで連れてきたのだろう?


いいえ、答えはわかっている。


「ここで、『セイ』に会ったの?」


「ううん。 会ったのじゃなくて、見たの…」


意味ありげなエリスの笑み。


「ここで、『セイ』を見たの。 このエレベーターに 一人で乗ってゆくのを。 生徒は、この塔に昇るのは禁じられているのに、何度もね… 」


「止めなかったの?」


「止めて、どうなるの? 私に なんの特が? 誰だって、一人っきりで 静かな所で考え事をしたい時ってあるじゃない」


(でも、エリスの言っていることは、なにかがおかしい)


「エリスは、何度も見たの…? その『セイ』の行動を」


「仕方ないわよ。 だって、アイリーンから セイの様子が変だから、注意して見ていてって言われていたから」


「アイリーン…先生…に?」


「ううん。 それも違う。 私の言っているのは、同級生のアイリーン。 アイリーン先生ではないわ」


セイとセイ先生。


エリスとアリス先生。


そして、エリスの同級生のアイリーンとアイリーン先生。


どういうことなんだろう?

頭が 混乱して なにがなんだか分からなくなる。


「その エリスの同級生のアイリーンって、今は どこにいるの? 私は、まだ会ったこと無いのだけど…」


「『セイ』の話を聞きたかったんじゃなかったっけ?

まぁ、いいわ。 アイリーンは もういないわ。 死んじゃったの」


(死んだ…? いつ? どこで? なんで?)


「ごめん、驚かせちゃった? ほんとはね、死んだか どうだか、まだ 分からないの。 ある日、姿を消したの。 先生たちも 必死で探したけれど 見つからなかった。

きっと、この迷宮みたいな学園の何処かに迷い込んで 出てこられなくなったって噂。 それが、真相」


同級生が、行方不明になったというのに、エリスは 事も無げに その事件を淡々と語る。 真相ってなに? 何も ほんとは わかってないってことじゃないの?


「…で、『セイ』の件だったわね」


考え込んでいた 繚子の顔を見ながら エリスが また意地悪そうな顔をして笑っている。


「最後に『セイ』を見たのは此処よ。 このエレベーターに 一人きりで乗り込むところを見たの。 私は いつもの通り、気晴らしに 展望台へ行ったんだと思った。

普段なら、小一時間ももすれば 降りてきたけれど、その日は 一時間以上経っても 降りてこなかった」


「それで、どうしたの?」


「どうもこうもしないわ。 いつまでも帰りを待っていてやる義理もないし、お腹も空いたし、自分の部屋へ戻って、それから定刻に遅れないように晩御飯を食べに行った…」


「それだけ?」


「うん、それだけ。 でも、翌朝から『セイ』の姿を、誰も見なくなった」





「…で、どうする? 繚子」


エリスが エレベーターの扉を開けて 待っている。 微笑みながら。


「せっかくだから、展望台まで 行ってみない?」


なんとなく、嫌な感じがする。 ずいぶん変わっているけれど、平和とばかり思っていた学園に そんな事件が起こっていたなんて。


でも、セイはいる。


この目で見たのだから。 触れたのだから。



「行ってみる」


繚子は 『セイ』が姿を消したという尖塔の展望台へ 行ってみようと思った。

なにかが分かるだろうと思ったわけではない。 『セイ』の見たもの、『セイ』が感じたものの一端だけでも 体験したいと思ったのだ。


繚子とエリスは エレベーターに乗った。 ガラガラと耳障りな音をさせて扉が閉まると、意外なほど スムースに エレベーターは上昇を始めた。


「とりあえず、機械室には 用がないと思うから、展望台へ向かってるわ」


エリスが エレベーターの操作盤の近くに立ち、繚子は その反対側のかべの近くに立っている。


「あまり、隅に近づかない方がいいわよ。 見たとおり鳥籠みたいな造りだから、下手をして 服の端でも 鳥籠からはみ出して 何処かに引っ掛かったりしたら大変よ… 」


「あ、ありがとう」


繚子は、慌てて 鳥籠の中央に 立ち位置を変えた。見ていると、凄まじい速度で昇降路の壁が下へと過ぎ去って行く。


(もしかしたら、このエレベーターで セイは 何らかの事故に…)


(なに、バカなことを考えてるの。 だって セイは 昨夜…)


「さぁ、着いたわ」


エリスが、開ボタンを押して 繚子が降りるのを待っている。


「ありがとう…」


繚子は、エリスに礼を言うと、初めて学園の中央に屹立するシンボルとも言える 尖塔の最上階に 足を踏み入れた。


そこは、エレベーターを中心にした かなり広い正方形の部屋で、四方に大きな硝子窓が幾つも設置されている。 外観からは 意外と思えるほど 綺麗でモダンな造りだった。


「ここで『セイ』は何を見ていたのかしら…」


「さぁね、どっちを向いても、あの忌々しい麦畑しか見えないのに、『セイ』は 飽きもせずに、何度も ここへ来ていたようだわ」


セイは、どうして姿を消したのだろう?


どうして、私の前にだけ 姿を表すのだろう。


(君は 僕の花嫁だ)


セイの言葉がよみがえる。


「ねえ、セイが姿を消したのはいつ頃のことなの?」


退屈そうに 窓硝子に寄りかかり、四方の窓を見て歩く繚子を眺めていたエリスが言った。


「ずいぶん前のこと。 私が この学園に来た年の暮れだった。 みんなは、『セイ』は鳥になったと噂していた」


「みんな?」


「そう。 その頃は まだ学園に 生徒が もっと沢山いて、みんなが 噂をしていた。 アイリーンは その噂を聞いて、ひどく悲しんでいたわ。 今 思うと、彼女、きっと『セイ』のことが好きだったのよね」


アイリーン…。 セイのことを好きだったアイリーン。


「…で、アイリーンは、ずっと沈みこんでいた。 それから間もなく、アイリーンも姿を消した…ってわけ」


「アイリーンも、この塔で?」


「違うと思う。 セイの事があってから、塔は ずっと閉鎖されていたの。

アイリーンは 人混みが苦手で、セイがいなくなる前から、皆が食堂で昼食をとっている間は、ひとりきりでいられる場所を見つけて お昼時は 其処にいたみたいなの。そして ある日の午後、ふと姿を消したの…」


全部、知らないことばかり。


セイに続いて、アイリーンという生徒も姿を消した?


そんな事件が 表沙汰にならなかったのかしら。 繚子は、この学園に そんな噂を聞いたこともなかった。


この学園には 変なことが多すぎる。

なのに、誰も 教えてくれない。

知っていても、変なことだと思っていないかのように振る舞う。

このエリスのように。


「エリス…、今日から セイ先生の代わりに、アリス先生が 私を教えてくれることになったの。 エリスは、アリス先生を知ってる?」


エリスは、その名を聞くと 急に苦虫を噛み潰したような顔をして、吐き捨てるように言った。


「アリス? まるでおとぎ話の主人公みたいな名前で、あんな可愛い子ぶって 似合いもしないドレスを着て、いったい 自分の歳を 幾つだと思ってるの? 」


不意に エリスが 今までに見せたことのない激情を あらわにして悪態をついた。

いったい、二人の間に 何があったというのだろう?


「繚子、あのアリスっていう女には 気を許しちゃ駄目よ。 いいように丸め込まれて、学園に都合のよい生徒にされてしまうわ」


「学園に都合のよい…って?」


繚子は、入学して以来何もかも 学園の規則に従って生活してきた。 それは正しいことじゃないの? アリス先生が、それ以上に 何を 求めてくると言うの?


「いい? これだけは、言っておくわ。 アリスは『欠陥品』なの。 この学園には ふさわしくない奴なの」


『欠陥品』…、その言葉を聞いて、繚子は 忘れかけていた過去を思い出した。 小さな頃から、『わたしたち』は 選別されてきた。


定期的に行われる 事細かな健康診断。

血液検査やDND鑑定。


振り分けられ、振り落とされ、選別されて 『わたしたち』の中から『わたし』だけが、この学園へ運ばれてきた。


何かのシステム、或いは プログラムに添って、それは ずっと昔から、産まれた時から繰り返し行われてきたのだろうか。


では、選ばれなかった人たちは、どうなったのだろう?


『欠陥品』として、システムから 弾かれた人たちは、今も 生まれ故郷で 親子代々受け継がれてきた 今までと同じ生活を送っているのだろうか?


あの麦畑に頼り、いつか麦畑に飲み込まれてしまいそうな故郷の村で。


「私の知っていることは、これだけ。

どう? 繚子、気がすんだ?」


エリスは、もう いい加減うんざりだわという表情を 隠そうともせずに、腕組みをして 繚子を 真っ直ぐに睨んでいる。


なにが、エリスの癇に障ってしまったのだろう?


「ごめんなさい…、エリス」


繚子は 訳もわからず、つい謝ってしまった。


「繚子、言いすぎたのは私。 貴女が 謝ることじゃないわ。 これは、私の問題なの」


エリスは、窓際から離れると 繚子に歩み寄り 片手を差し出した。


「別に、喧嘩をしたつもりは無いけれど、お互いに わだかまりは残したくない。 だから、これは 仲直りの印」


エリスが繚子の右手をとり、繚子は ゆっくりと その手を握り返した。


「うん、ありがとう」


「こちらこそ、ごめんね。 昔のことを いろいろと思い出しちゃって…」


エリスの笑顔は、いつものやさしい彼女らしい明るい笑顔に戻っていた。


「さて、そろそろ戻らなくちゃ。 晩御飯に 遅れたら アイリーン先生に大目玉を喰らうわよ♪」


「そうね。急がなくちゃ!」


二人は、見た目の不安な例の鳥籠に 怖々と乗り込むと、エリスが 一階へのボタンを押してくれた。


ガラガラと扉が締まり、暮れなずむ夕陽と 黄金色に染まる大地が 展望台の大窓から ちらりと見えたが、それは あっという間に視界から消え去り、エレベーターの降下する音と天井に据え付けられた 裸電球の頼りない光だけが鳥籠のような室内を照らしていた。


エリスが 話してくれた学園が秘匿する失踪事件。


アイリーンという エリスの同級生とアイリーン先生との関係。 それに エリスのアリス先生への憎悪。


何もかもが、繋がるようで繋がらないジグソーパズルのピースのようだ。


もしかしたら、それを、今夜 訪れると約束したセイが 埋めてくれるのではないかと 繚子は密かに思っていた。



To be cotinued……


秘匿された真実と秘匿された過去が語るのは、何なのだろうか?


選別された『わたしたち』の中の『わたし』である繚子は、真実に辿り着けるのだろうか?


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