幸せな気分です!
ちょこちょこ修正入れました。
大筋は変わっていません。
私が『天然シンデレラ』のハッピーエンドを見るためには、悪役として達成しなければならない大切なポイントが三つある。
まず一つ目は、私と敬太様との婚約を破棄にすること。
二つ目は、一つ目のポイントを達成するために敬太様から逃げ切る(嫌われる)こと。
そして、最も重要な三つ目は――真凛ちゃんと敬太様が、お互いを好きになること。
当たり前な事だがここは現実だ。いくら二人が『天シン』での公式カップルだったからといって、お互いを好きになるかどうかなんて分からないのである。
それに三つ目のポイントだけは二人の個人的な問題であるため、どうなるか分からず少し不安な気持ちもあったのだが――
(あぁもう……この世界に生まれてきて良かったぁッ!!)
互いの腕を組みながらしずしずとホールへと入ってきた二人の姿を見た瞬間、そんな私の不安はどこかへ吹き飛んだ。同時に、引き締めていた口元がだらしなく緩むがそれくらいは許してほしい。
柔らかなこげ茶色の髪をオールバックに流してタキシードを着こなす敬太様と、ふんわりとしたパールグリーンのドレスを着て少し戸惑ったように周囲を見回す真凛ちゃん。
そんな二人は、まるでおとぎ話に出てくる王子様と妖精のようで――
(これぞまさに『天シン』の主人公カップル!とってもお似合いだわ!)
口元がこれ以上緩まないように必死で引き締めながら、私は心の中で力強くガッツポーズをした。
もしも許されるのならば、私はファン根性とミーハー魂を丸出しにしてこの豪華な光景をデジカメ片手に収めていたことだろう。
テンションが上がりすぎて、
『天然シンデレラばんざーい!主人公カップルの未来にばんざーい!』
とか叫びながら。
けれど、これから『バルコニーでさらに仲を深める』という胸キュンイベントが待ち受けている二人の邪魔になるかもしれないし、なによりそれをやったら『ド変人』という嬉しくない称号をもらうのは必須なので、そこは自重する。写真のことは本気で残念だけど、心のメモリアルにばっちり残しておくから良しとしようじゃないか。
……まぁなんにせよ、仲睦まじい様子を見せる二人を見て私も一安心だ。
(二人がどうなるか――特に真凛ちゃんが敬太様のことをちゃんと恋愛対象として見るかが心配だったけど、杞憂だったみたいだね!なんか真凛ちゃん、敬太様のことウットリ見つめてるし!!)
私はその場でスキップを始めたくなるのをなんとかこらえつつ、プチケーキを食べる作業へと戻った。
いやぁ、いくつかイベント失敗したからどうなるかと思ったけど……さすがは主人公カップル!やっぱり二人は運命という名の赤い糸で結ばれてるんだね!!
こうなったら、私も気合い入れて悪役頑張ろーっと!
***
『別に問題ないですわよ?その仕事、私も手伝いますわ』
立食パーティー前、副委員長の仕事について星華があいつにそう告げた瞬間――俺は自分のプライドがガラガラと音を立てて崩れたような錯覚に陥った。
自分で言うのもどうかと思うが、純然たる事実として――俺は容姿や成績において人よりかなり優れている。
だからこそ自分にはある程度の自信を持っているし、自分が正しいと思った時はそれを貫くようにしている。それが原因で横暴だの強引だのと言われることもあるが、それは仕方がないだろう。俺だって子供じゃない、全員が全員俺の考えを理解し、共感してくれるとは限らないと知っている。
……知っている、はずだった。
『別に問題ないですわよ?その仕事、私も手伝いますわ』
『―――ッ!』
そのはずなのに、星華があの仏頂面の言葉に頷いた瞬間――俺の心を覆ったのは、紛れもない敗北感だった。
思わず星華に抗議の声を上げようとして――俺はそんな自分の行動に驚き、ぐっと口をつぐむ。
(なんで俺、そんなこと――)
そもそも俺は、星華の婚約者としてあいつをパートナーへ誘おうと思って彼女の部屋を訪れた。けれど、いざ誘おうとした矢先に彼女のもとへ舞い込んできたのは副委員長としての仕事。
されてもいないパートナーの誘いと、頼まれたという副委員長の仕事――どちらを優先させるべきか、なんて明白なはずだ。
それなのに、星華の選択を聞いて嫌な気持ちになったのは――
(星華へ伝えに来たのが妙に気にくわねぇあの仏頂面だったからか、それとも……星華が俺よりも仏頂面を選んだように聞こえたからか)
俺はそう考え、ふと笑みをこぼした。
いったい何を考えてるんだ俺は。それじゃまるで、俺が嫉妬してるみたいじゃ――
「……ん、西山くん?」
「え?……あ、すみません長谷川さん。なんでしょう」
「いえ、なんでもないんですけど……なんだか少し苦しそうな顔をしてたので気になって。バルコニーにでも出て風に当たります?」
「あぁ、それはいいですね。行きましょうか」
隣を歩く長谷川さんの声で我に返った俺は、今がパーティーの最中だったことを思い出し、すぐに顔へ笑顔を張り付けた。そのまま、彼女の提案通りバルコニーの方へ向かう。
どうやらバルコニーには誰もいなかったようで、自分たち以外に人影は一切見当たらない。
ホールとは打って変わった冷たい風に思わず目を細めていると、
「あの、西山くん。さっきから何か悩んでるでしょ」
そう言って、隣の女――クラスメイトの長谷川が、俺をまっすぐに見つめてきた。その綺麗な視線に少しドキリとした俺は、それを隠すために反射的に笑顔を浮かべる。
「いえ、そんなことはありませんよ?さっきも少し考え事をしていただけですし」
「ふっふっふ、取り繕ったってもう遅いよー?さっき聞いた時、思いっきり目が泳いでたの見たもん」
図星だったんでしょー?と言いながら、長谷川は少し意地悪そうにニヤリと笑った。その表情から思わず顔をそむけると、それに合わせて正面に回り込んでくる。
(なんだコイツ、うっとおしい)
俺は心の中でうんざりしながら、長谷川に「まぁ、悩んでないといえば嘘になりますけどね」とさみしそうな笑顔を見せておいた。くそっ、星華に見せつけてやろうと思ってテキトーに隣の席の女子をパートナーに誘ったが……人選ミスだったか。めんどくせぇ。
しかしそんな俺の思いなど露知らず、対する長谷川はなぜか誇らしげに胸を張り、そこを握り拳でトントン叩いている。いったい何をしているんだこいつ……と思っていると、
「星華ちゃんの――恋愛のことで悩んでるなら、相談に乗るよ?」
悪戯っぽい笑顔と共に聞こえたその言葉に、俺は一瞬硬直してしまった。そしてその反応を見てさらに確信を深めたらしい長谷川が、ニコニコと笑顔を作る。
「おかしいなぁと思ったんだよねー。西山くんには星華ちゃんっていう可愛い婚約者がいるのに、どうして私なんかをパートナーに誘うのかなぁって」
「……それについては説明しましたよね?彼女には副委員長の仕事があって、」
俺が再び説明しようと口を開くと、不意に長谷川が俺の方へと両手を伸ばしてきた。
そしてそのまま――俺の両頬をつまみ、ビヨーンと横に伸ばす。
「…………」
「ほらやっぱり。――その話をする時の西山くん、思いっきり頬が引きつってるんだよねー」
ついでに、おでこには『不本意』って書いてあるよ――そう言いながら、俺から手を放して長谷川は笑った。
その笑顔は、まるで悪戯が成功した時の無邪気な子供のようで。
「はぁ。……僕もまだまだですねぇ、そんなに分かりやすい顔をしているなんて」
「いやいや、正直に生きてた方がいいと思いますけどねー私は。むしろ、笑顔維持しててほっぺたの筋肉とか疲れません?大丈夫?」
「……気にするとこはそこなんですか?」
「当然でしょう!ほっぺたの筋肉がつったら痛そうじゃないですか!!……って、話はそこじゃないでしょう!?」
「いや、話を横道に逸らしたのは貴方なんですが……」
すっかり毒気を抜かれた俺は、しばらく雑談を交えながら星華についての相談に乗ってもらうのだった。
真凛ちゃんの行動やらちょっと大胆?なボディタッチは、完璧に素で行動しています。
計算なんて微塵もありませんw




