異世界生活8日目
今日は本当に大成功だったと思う。
まず朝は、メイクも衣装も身につけず、フェイスマイクだけを装着してリハーサルを行った。
これはマイクチェックも兼ねたリハーサルだった。
フェイスマイクは肌色でとても細く、観客から目立たないように作られている。
私は、こんな目立たないマイクがあることを初めて知った。
演出についても話し合った。
今回はスポットライトだけを浴び、舞台上を動き回らず、歌そのものに集中できる演出にするようだ。
そのため、歌い始めは立ったまま歌い、最後は両手で顔を覆い、悲しんでいるかのように頭を垂れる演出にすることにした。
朝一は、やはりなかなか声が出なかった。
それでも、曲全体のイメージはつかめたので良かったと思う。
その後、いつものブランチを食べていたが、ふと気付いた。
昨日サインをしたのが夜だった。
ということは、オーブンとガスレンジが届くのは24時間後ということになり、今日の夕飯には間に合わない。
それでは遅すぎる。
やばいと思い、私はJINさんにメールを送った。
「24時間待たずに、ガスレンジとオーブンは処分して、新しく見てきたもののコピー品を置いてください。」
仕事が早い。
すぐに新しいガスレンジとオーブンがやってきた。
今日は、初めてのオーブン、初めてのガスレンジ、そして初めての良い食材の日でもある。
私はヒューゴに、フレンチのフルコースをお願いした。
俄然、今日のやる気が出てきた。
夕方からは、ヒューゴにメイクをしてもらい、衣装を着せてもらい、頭にかぶるものも付けてもらった。
イケメンが私の顔のすぐ近くまで来てメイクをしてくれる。
そんな経験はもちろん初めてである。
めちゃくちゃドキドキした。
こんな経験、今まで一度もない。
メイクが終わり、鏡を見た。
悲壮感あふれる、みすぼらしい姿のはずなのに、ここまで美しく仕上げられるものなのかと驚いた。
見た目は普通の私なのに、みすぼらしさと美しさをここまで両立させるヒューゴ。
すげえ。
その後は、ほぼ本番と同じ状態でリハーサルをした。
完璧である。
もうこれでオッケーだ。
あとは本番を待つのみとなった。
ヒューゴにウイダーインゼリーを出してもらい、それを飲んだ。
最後にメイクをもう一度見てもらい、いよいよ本番となった。
もう、ミュージカルごっこを極めたり。
我が人生に悔いなし。
最高だった。
そして最後に、JINさんとヒューゴの二人から花束をもらった。
花束は自分で用意してほしいとお願いしたものだった。
それでも、実際にもらってみると嬉しいものである。
あの瞬間、私は完全にミュージカル女優、ミュージカルスターだったと思う。
最高の気分でミュージカルを終えることができた。
すぐにヒューゴに手伝ってもらい、衣装を脱ぎ、メイクを落とした。
クレンジングを付けた状態で軽くシャワーを浴びる。
その間に、ヒューゴには食事を作ってもらっていた。
やはりフレンチのフルコースは素晴らしい出来である。
食材が違い、道具も最高級になると、ここまで味が違うのかと驚いた。
やはり、こういう料理のときは、食器も最高級のものにしなくては雰囲気が出ないと思う。
今度はJINさんに、最高級の皿や食器を見てきてもらわなくちゃ。
食後のデザートと一緒に紅茶を飲んでいたら、ふと、もらった花束がそのままになっていることを思い出した。
そういえば、我が家には花瓶がない。
独身の頃は、少ないながらも花束をもらうことがあった。
そのたびに、花を飾るのが好きな母が、家にあるいろいろな花瓶に生けてくれていたと思う。
結婚してからも、一度だけゆりの花をもらったことがあった。
しかし、その時も花瓶がなく、二リットルのペットボトルを改造して花瓶代わりにしていた。
今回は、それではいかん。
私は、JINさんなら実家の中も見て回っているかもしれないと思い、連絡をした。
「実家の花瓶は出せますか。もし出せるようなら、今回の花束に合う花瓶を二つ用意してください。」
仕事が早い。
すぐに花瓶が用意された。
私はヒューゴに頼み、一つは食卓に、もう一つは私の部屋に飾ってもらった。
これも、すぐにやってくれた。
では、今日はストレッチをして寝ることにする。
今日は、この成功の余韻だけで幸せな気持ちで眠れそうな気がする。




