銀の天使と金の悪魔
レオとウィラの側仕え体験の日は、生憎の雨だった。
しかし、これから会う主人(になる予定)の二人はアルテミスの執務室から出ることは殆どないそうなので、問題ないだろう。
そして、問題があるのはレオ達の方かもしれない。なぜなら、母が言うには、王城には料理人や清掃員がおらず、全ての家事をそれぞれの側仕えがこなすらしいのだ。
母であるアウラから約五ヶ月間みっちり扱かれたウィラは望むところだと意気込んでいるが、一体何をしたらあの問題児がこうなるのかを知りたいところである。ちなみに、レオの予測通りアウラはクローディアのメイド兼護衛だったらしい。
ウィラ曰く、「メイドとはなんなのか、側仕えとはなんなのかをみっちり母上から教わったのだよ。そして、母上のメイド憲法六十四手をコピーした私に不可能などないッ!!」らしいが、その後アウラに「貴方がコピーしたメイド憲法は七級よ。真のメイドならば、十段にまで上り詰めなさい」と言われ、項垂れていた。
真のメイドとはなんぞや?と三十秒ほど考えたが、後にそれは無駄だと悟る。レオは男だからメイドにはなれないから考えても無駄なのだ。
それでも、まず、メイド憲法に階級なんてあったのか。そして、七級で六十四手なら十段は一体いくつあるんだ。そう問い質したかったが、それを聞いて信じられないほどのえげつない数が飛び出たら(ウィラの)心が折れる気がしたので聞かないことにしたのだ。
ウィラの向上心をボキボキの粉々にするわけにはいかないのである。
そして、いよいよ王城へ上がり、アルテミスの執務室へ三人で向かう。ちなみにアウラは外出予定のクローディアの護衛についていき不在である。
途中、普段滅多に職場に子供を連れてこないレイズが子供を連れて来たことにより、関心を引かれたレイズの同僚達から声をかけられ、少し時間がかかったが何とか予定より早く着くことができた。
「やあ、レイズ。昨日ぶりだね。それと、レオにウィラは半年ぶりかな?」
執務室の来客対応用ソファに座っていたのは、アルテミス一人。三人は跪き頭を下げようとしたが、それを手で制される。楽にしていい、と言うことだろう。
「陛下だけなのですか?姫君と弟君はどちらへ?」
「アレンちゃんとルイはもうすぐ来るんじゃないかな?来週の誕生日に世間へのお披露目だからね。それまでに事情を知らない者に見つかったら面倒だから、慎重にこっちまで来てるよ」
アルテミスとレイズはその他にも他愛ない会話を続けていた。アルテミスから話される内容は殆どクローディアのことで、この会話から彼が重度の愛妻家だというのはわかったが、如何せんレオとウィラとしては、これから仕える予定の主人(仮)の話をして欲しかったところである。
まあ、そんなことは父の前では口が裂けても言えないが。
しばらく時が経ち、遂にその時はきた。
コンコンコンコンと、控えめに扉がノックされる。アルテミスが入室を許可すると、扉が小さく開き少年と少女の二人が執務室に入室する。
銀髪の少女と、金髪の少年。
その二人をみたレオは一瞬、息をすることを忘れた。隣にいるウィラも、レオと同じ反応をしているだろう。それほどまでに、この二人は美しかった。まるで金と銀の天使である。
そして数十秒後にようやく我に返り、慌てて礼をする。幸い相手は礼が遅れたこちらを咎める気はないようだ。すぐに頭を上げる許しをもらい、気を引き締める。
父は若干渋い顔をしているが、自分より立場が上の人物がいるからだろう。ただ、何も言わずに何か言いたげな顔をしてこちらを見ている。
「じゃ、四人揃った事だし君たちはこの執務室内なら好きにしてていいよ。アレンちゃんもルイもお利口にしててね?
あ、レイズは外の見張りよろしく。何度も言うけど、今の段階で関係者以外に二人のことがバレると面倒臭いからね」
「御意」
そう言って、大人達は仕事に取り掛かった。残されたのは、子供達四人だけである。そう、もう一度言おう。自分の兄妹姉弟を除けば初対面の子供達同士である。
「別に、お父さまに言われなくても、いい子にしてるもん」
そうやって、不意に消え入りそうな声で呟いたのは銀髪の少女、アレンである。不満げな顔で、頬をぷくりと膨らませた彼女の顔は年相応で可愛らしい。
しかし、見れば見るほど美しい少女である。
腰まで無造作に伸ばした銀髪は窓から入る太陽の光を受けてキラキラと輝き、澄んだ瞳はアメシストのようだ。
そうやってじっと見つめていることに気づかれたらしい。アレンは首を傾げ、レオを見つめ返した。
「どうしたの?私の顔に、何かついてある?」
「あ、いえ。何もついていませんので、ご安心ください」
「そうなの?ならいいけど。何かついてたのならちゃんと教えてね?」
……何故だろう。どこからかは分からないが殺気を感じる。しかし、どこから向けられているのかは分からない。自分の未熟さがここで裏目に出てしまった。だが、この殺気はアルテミスも感じたらしい。そして、彼は笑いながら殺気の原因に声をかけた。
「ルイ。君ねえ……レオがアレンちゃんに見惚れちゃったからって、殺気を飛ばすのはいけないよ?」
「あははは。バレた?アレンちゃんはもちろんのこと、誰にも分からないように、どれだけ殴ったら息しなくなるか考えてたのに。俺もまだまだだねー」
金髪の少年、ルイは笑いながら物騒な言葉を口にする。誰を殴り殺そうとするかは明確にしていないが、話の流れからして確実にレオである。
(お前かよ!!てか、怖っ!!え?なに?俺、殴り殺されんの!?)
レオはルイの物騒過ぎる思考回路に戦慄した。顔面は強張り、顔は青を通り越して白くなっている。それはウィラも同様で、この場で今のルイの言葉を気にしていないのは、アレンだけだった。恐らく、ルイはこの殺気をアレンにだけは絶対に感じ取らせないように工夫しているのだろう。そして、自分の考えを改めた。
銀の天使と金の悪魔。
それが、直接二人を見て自分なりに判断した結論である。
今日はあと一話追加する予定です。




