↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
60/67

初っぱなからなんなんですか





 空間移動特有の浮遊感が消え、ヒールがコツンと床を叩く。


「着いた」


 レナスの短い宣言に目を開ける。すると視界に飛び込んで来たのは……なんていうか、ごちゃっとした部屋であった。整理整頓は最低限なされているけれど、本を筆頭にとにかく物が多い。辛うじて本棚が塞いでいない窓からは青空が見える。


「見てきていいよ」


 私の視線に気づいたのか、レナスが軽く促した。私はどれどれと近寄って、窓の外を見て驚いた。


「うわ……すごくRPG」


 背後でアルギュロスがふっと息を漏らしたのがわかったけれど、気にしていては勿体ない。高い高い塔の窓から見えるのは、一面に広がる街と人だ。


 私は初めて『始まりの街』の外に出たのだ。


「なんかあれっぽいわね……中盤くらいで立ち寄る砂漠のバザー。砂漠じゃないけど」


 むしろ気候は初夏の関東みたいな過ごしやすい感じだ。真っ直ぐ伸びた大通りは活気があって、露店もちらほら見える。いいところだな、と思った。……男が飛んで来るまでは。


 なにを、と思うかもしれない。けれど本当に文字通り飛んで来たのだ。豆粒くらいの大きさの人々の中から、黒い豆がひとつ。あれっと思ったらぐんぐんと近づいて来た。気づいた時にはその男の風貌がわかるくらいになっていた。


「ひえっ」


 思わず悲鳴を漏らすと、ぐいっと腰が引かれた。続いて、窓が爆発したのかというくらいの音がした。あのままそこに立っていたら……と想像するだけで怖い。私を抱え込んでくれたアルギュロスに礼を言おうとするも、アルギュロスは真剣な眼差しを窓へ向けていた。……お礼は後で言おう。


 私が口をつぐんでしまえば、粉砕された窓枠が落ちるパラパラという音と、積んであった本が崩れ落ちる音が耳につく。しかしその声は空気を裂いた。


「なんだァ……? 妙な気配がするな……」


 私は思った。ヤンキーだ。ヤンキーがいる。


 砂煙と埃がもうもうと舞う中「よっこいせ」とか言いながら人影は窓枠を乗り越えて来た。呑気な掛け声なのに、空気はピリピリと緊張したままだ。視界が晴れれば、吊り上がった紫の瞳が真っ直ぐに私を射た。私は思わず「あっ」と声を上げてしまった。


「「シュトルギース」様?」


 アルギュロスと声が重なった。そう、髪や目の色は違えど、彼の纏う雰囲気はシュトルギースによく似ていた。アルギュロスの記憶の中でちらっと見かけた私ならまだしも、アルギュロスもそう言うのだから相当だ。しかし男はいいやと首を横に振る。


「へェ。その名前が出てくるとは驚いたな。……お前ら何者だ?」


 不遜な態度にアルギュロスも不穏な雰囲気を漂わせ始めたけれど、ここは私達が名乗るべきだろう。膝が震えるのを堪えて礼をした。


「名乗りもせずに無礼な発言をしたことをお許しください。ゲート・アインという国から参りました、アレクサンドラ・アルバースと申します。こちらは……元魔王四天王のアルギュロス様でいらっしゃいます。私達は見聞を広め本を蒐集せよとの王命を受け、レナス様に随伴する形で空間移動をさせていただきました。正規の手順を踏まず入国してしまったことは深くお詫び申し上げます」


 男はなにも言わなかった。レナスが微かに動く気配がしたので、目で確認を取ったのかもしれない。そうしてやっと、空気が緩んだ。


「顔を上げてくれ。こちらこそ済まなかった。オレはクロウだ。アルギュロス殿の気配があまりにも濃かったものだから、過剰に警戒しすぎた」


 そしてがばっと頭を下げて来た。レナスがボソッと呟く。


「窓、直して」


「あ、悪ィ。というかお前あのレナスか!? 前会った時はこんな小さかったよなァ」


 こんな、ってそれは三歳児くらいの大きさじゃなかろうか。そして驚いたことにクロウがこうして喋っている間にも、窓はひとりでに修復していく。魔法に疎い私でもわかる。クロウってもしや……すごい人なのでは? そういえば、黒髪に紫の瞳って色味は……。


「あっ、スバルさんと同じ」


「あァ?」


 なんだろう、めっちゃ睨まれた。レナスが「ああ」と声を上げる。


「当たり。クロウは、スバルさんの……父親」


「通りで……似ていると思いましたわ」


「ばっかやろ、オレに似てるなんて言ったらあいつが可哀想だろうが」


 口で悪態を吐きながらも、口の端が持ち上がっているのに気がついた。私は悟る。親バカ……ツンデレ……。そういう類だと。


「せっかく来たんだ。さっきの会話で察したかもしれねェが、オレ達は旅をしていて一ヶ所に長く留まることはそうそうない。けどオレが持っている情報はアルバース嬢に有益だと断言できる。少し話をしないか」


「ええ、是非。気を遣ってくださってありがとうございます」


 クロウはにっと笑った。獰猛な肉食動物を連想させるような凶悪な笑みだった。


「そうか。おいレナス、茶ァ淹れとけ。オレはさっき焼いたアップルパイを持ってくる」


「え」


 アップルパイ。さっき焼いた? それではまるで手作りしたみたいではないか。そんなバカな。


「やった。クロウの菓子は、絶品……」


 レナスの嬉しそうな呟きに私は内心絶叫していた。マジで!?







クロウ先輩、出すつもりなかったんですけどね……出て来てしまった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。