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桜の花を君と【エルシオンは語る】




 僕がスバルと出会ったのは、二百年とちょっと前。僕が五歳でスバルが四十歳くらいの時だったかな。


 え、まず前提がおかしいって? やだなぁまだ序の口じゃないか!


 とにかく、当時の状況を説明するよ。僕は体が弱くて、成人まで生きられるかどうかって言われてた。そのせいで姉さんが過保護でね。屋敷から出してくれなかったんだ。反発した僕はこっそり屋敷を抜け出して、桜を見に行ったんだ。わかるかい、桜。この木のことさ。ウェルターナには一本だけ桜があってね。僕の部屋の窓からはよく見えたものさ。


 そうしたら、桜の根に躓いてすっ転んで、岩壁に顔面からダイブしたんだよ。ああ、そんな痛そうな顔はしなくていいよ。その岩壁は幻影でね。すり抜けた僕は洞窟の中に転がり出たって訳。

 これは冒険するしかないよね? 僕は嬉々として洞窟の中に入って行った。ところがその洞窟、人間を滅ぼそうとしたこわーい化け物が封印されていたんだ。僕は転んだ拍子に封印の要を破壊していたんだよね。


 あ、ちなみにそのこわーい化け物っていうのがスバルのことなんだけど。


 ……ああ見えて、スバルはあまり人と関わるのが得意じゃないんだ。実は双子の妹さんが人間に殺されていてね。うん。人と魔族の子は『忌み子』とされていて、人間に殺されることが多い。だから僕らも秘境と言われるウェルターナに隠れ住んでいる。アレクサンドラさんもその辺は考えた方がいいだろうね。


 あれ? 言ってなかったっけ? スバルは魔族と人間の間に生まれた子だよ。スバルの両親も『永遠の約束』をしているから、もし機会があったら彼らにも話を聞くといいよ。


 とにかく、妹を殺されたスバルは、人間憎い! 滅ぼす! ってなったんだけど、お父さんに頭を冷やせって怒られて封印されちゃったんだって。僕が壊した封印はスバルを眠らせる方だけど、もうひとつの結界がスバルを洞窟内に縛ってた。

 これが面白くってねぇ。『スバルが人を好きになると解ける結界』なんだ。すごいよねぇ、お父さん。そんな魔法使えるなんて。


 ま、スバルの元にせっせと通ってた僕はそんなこと知らなかったんだけどね! 屋敷を抜け出したのは姉さんにすっごい怒られたけど、姉さんはスバルのこと知ってたみたいで、スバルのところに行くのは許可してくれたんだ。


 その後は猛烈アプローチさ。なんてったって一目惚れしたからね。何度邪険にされようが、めげずにプレゼントとか持って会いに行った。一番喜んでくれたのは桜の枝かな。毎年持って行くんだ。だから外の桜を見に行こうよって誘うんだけど、いつも結界に弾かれてた。代わりに僕が枝を持ってきたり、桜色の着物をプレゼントしたりしてたんだ。


 スバルの妹さん、桜が好きだったんだって。


 話が脱線しちゃったかな? まあそんなこんなで十年ちょっと経ったんだけど。うん。今話をすごい飛ばしたよ。途中、体調がよくなくってスバルのところに行けなかった時期もあるんだけど。


 あ、確かその時もそうだったかな。すこぶる体調が悪かったんだけど、僕はスバルのとこに行ったんだ。なぜかっていうと、すごい地震があったからだね。洞窟が崩れてしまうんじゃないかと思って、慌ててスバルの無事を確認しに行ったのさ。


 ちょっと、そんな馬鹿ですかみたいな顔しないでよ! 僕普通に馬鹿だから!


 そうだよ。洞窟は崩れかかっていてね、僕は落盤に巻き込まれて死にかけたんだ。それは結界まであとちょっとってところだった。スバルが気づいて助けようとしてくれたんだけど、僕は結界の外だったから、スバルはどうしても出て来られなかった。

 このまま死ぬな、って思ったよ。でもどうしてもスバルに気づいて欲しかったんだ。スバルは冷たいけど、人間が嫌いな訳じゃないんだ。妹さんを喪って悲しい気持ちがちょっと歪んじゃっただけ。喪うのが嫌だから、人間なんて嫌いだって言って遠ざけた。うん。死にかけてるのになに言ってるんだって叱られたよ。


 でもスバルは認めたんだ。親交を結んだ人間が、自分より早く死んじゃうのが悲しくて耐えられないだけなんだって。妹さんを殺した犯人は確かに憎いけど、それは人間全てを嫌う理由じゃなかったって。


 そう、そうだよ! そうしたらスバルは結界を抜けられたんだ。まあ岩に埋もれた僕は完全に手遅れだったけど。喪う悲しみを教えたお前が目の前で死ぬなとまた叱られた。

 僕が『永遠の約束』をしたのはその時だね。僕はスバルを置いて死ぬのは嫌だったし、スバルも僕を死なせたくなかった。だから受け入れたよ。


 痛かったか? いやぁー、岩に挟まれて死ぬ間際だったから痛かったよ。え、そういうことじゃない。ああ、別に痛くはないさ。ただ、水だよーって言われて受け取ろうとしたら、川を丸ごと渡されたみたいな気分だった。息できないよね、苦しいよね。でもふと気がついたら水の中で息ができるようになった。そんな感覚かな。


 でね、スバルが岩を吹っ飛ばしてくれて、僕らは無事洞窟の外に出た訳さ。丁度桜の花も満開でね。ロマンチックだろ? あの時のスバルの笑顔は何百年経っても忘れないだろうなぁ。


 って感じなんだけど、参考になった?







昔サークル会誌で『春告げる君』という題で載せた辺りの話ですね。漫画はスバル目線ですが、今回はエルシオン語りとなってます。

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