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冷めた世界に【エドガー目線】




「可愛くない子ねぇ」


 俺は母上にそう言われながら育った。冷たくされていた訳ではない。仕方がない、呆れたというように、眉を下げて笑って言われていた。

 実際、そうだったと思う。王太子として厳しい教育を受け、令嬢達に次々と引き合わされ……纏わりつかれて心がどんどん冷えていった。子どもながらにどんな対応をすれば周囲が認めるか考えて行動していたし、城内で見かけた令嬢だって偶然を装って待ち伏せしていることを知っていた。


 全くつまらない。


 驕っていた俺は、六歳の時に大失態をしでかした。アルバース公爵に魔法の指導を受けていたところ、制御しきれなくなった火球が公爵令嬢に当たってしまったのだ。俺は心配する振りをしながら、これは虫除けが手に入るチャンスだと思った。アルバース公爵家は古い家だから権力を利用するにも丁度いいと。

 ……最低だった。

 そんな打算と共に見舞いという名目で公爵令嬢に挨拶し、傷物にした責任を取るという形で婚約を申し込んだ。完璧だと思っていた。


「え、いや」


 舌足らずな声で即答されて、思考がフリーズした。貴族令嬢なら泣いて喜ぶものだとばかり思っていたのに。公爵令嬢は困った顔で理由を続けた。


「殿下が魔法の練習をなさっているのなら、私がそこを避けて通ればよかっただけです。それに殿下はこれから沢山の人と出会われるのでしょう? 罪滅ぼし? 同情? そんなもので婚約者をお決めになってはなりません」


 それを聞いて真っ青になったのはアルバース公爵だ。背中に大火傷の痕があっては、公爵令嬢といえど貰い手はあるまい。しかしアルバース公爵の遠回しな説得にも首を横に振った。


「結婚以外にも道はあるはずです。私、大好きなお父様のようになりたいと思っていましたし」


「あ、アレクサンドラ……」


『大好きなお父様』という言葉はアルバース公爵を見事に黙らせた。そして公爵令嬢……アレクサンドラは俺に向かって微笑んだ。


「なので、殿下が気に病むことなど一切ございません。ですが、そうですね……。私が城でお仕えするという時には、女だからという理由で跳ねられることがないようにしていただけると嬉しゅうございます」


 俺を射抜く緑の瞳は、とても冷たかった。まるで俺の計画など全てお見通しだというように。一つ年下の彼女は既に俺と同じ冷めた世界にいたのだ。俺はアレクサンドラを繋ぎ止めるべく頭をフル回転させた。


「しかし、それでは私は『令嬢に怪我をさせておきながら責任も取らない王子』と言われてしまいます」


 困った顔をしてみせる。俺にさほど興味が無さそうな彼女に効くかどうかはわからないが、持っている武器は最大限に活かす。ここは小さいが交渉の場だ。舌戦で負けたくないと初めて思った。アレクサンドラは少し考え込んだ。


「……でしたら、私のデビュタントまで保留ということにしませんか? 大抵のご令嬢は、デビュタントの後に婚約することが多いはずです。ですよね、お父様」


「あ、ああ……。けれど、子どもの頃に婚約するのも珍しくないぞ」


「それは親の都合であったり、お互いに想い合っている場合でしょう。私達は、どちらでもありません」


 王家と懇意になりたい訳でもなければ、俺には興味がないと遠回しに告げられた。その潔さがむしろ心地よかった。初めてもっと人のことを知りたいと思った。ますます青ざめていくアルバース公爵に助け船を出すように、少し大きめの声で笑う。


「わかりました。それならば面目も保てます。貴女の提案を呑みましょう」


「ありがとうございます」


 それがアレクサンドラとの出会いだった。それからアルバース公爵は魔法の鍛練にアレクサンドラを同伴するようになり、共に勉強することになった。アルバース公爵にねだったのか、王城の書庫で本を読んでいる姿も時々目にする。

 さすがに何度も出くわしては彼女も勘づいたようで「私とばかりではなく、沢山の人とお話してください」と窘められた。その反論の為に城内の者と言葉を交わすようになったのだが……アレクサンドラの言う通り、本からでは得られない知識や民の考えを感じることができたのは思わぬ収穫だった。


 世界が冷めていると感じていたのは、俺が冷たい人間だったからなのだ。


 王太子教育だけをこなしていればいいと考えていた俺は、目を閉じ耳を塞いで蹲っているだけだった。少し外の世界に目を向ければ、アレクサンドラがいる、アルバース公爵がいる、城の兵がいる、民がいる、その先に世界がある。賑やかで温かい人々が暮らす世界。


「なんだか楽しそうね」


 いつからか、母上の口癖がそれに変わった。俺の返答も決まっている。


「はい。アレクがいますから」


 お互い年齢を重ねて気軽に会えなくなったけれど、学園で再会したアレクは美しく成長したものの好奇心旺盛な部分は変わっていなかった。なにより、新しいことを見つけて緑の瞳を輝かせる……一番好きなところが。


「まさか、それがこんな副産物を引き連れて来るとは思ってなかったけどね」


 小声で呟くと、勉強していたアレクが顔を上げる。その隣にはなぜかアレクにくっついている白銀の魔族。視線を感じたのか、教科書の裏からちらりと金の目を覗かせた。睨み合っているとアレクにも気づかれるので視線を外して誤魔化す。


「いや、負けられないなと思っただけだよ」


「あら。私達学年が一つ違うではありませんか。勝負するにもできませんわよ」


 アレクは斜め上の返答をして勉強に戻った。学年が一つ違うといえど、一つ上の学年の参考書をひょいひょい解けるアレクに、頭脳で勝てる気は全くしないのだが。







割とアレクは素直に書いているつもりです。

逆に、周りがめちゃめちゃひねくれています。ひねくれている側から素直な子を観察するとこうなるんだなって。


(以下なんか愚痴というかなんというか)


創作においても視野を広く持つことは大切です。結局自分の中の源泉から生み出されるものなので、そこにストックしていない知識は使えません。読み手に親切な文章が私は好きですが、不親切な文章も頭フル回転するので楽しいですよ。例えば「百合」という単語でなにを想像するかですね。花? 関係性? フランス? そういうことです。

知らないから面白くない現象は教科書に載ってるような文豪の小説にも言えると思ってます。要は大正時代なら通じたギャグが平成の読み手にわからないからですよねぶっちゃけ。


ただ、時代や国を越えても人って変わらないなと思うこともあると面白いですね。『枕草子』の「にくきもの」とか読んでるとエクストリーム頷きます。

それでも読めないのがあって、私は芥川先生の本を読むと文章が上手すぎて気持ち悪くなってくるので、読めないという現象を引き起こします。自分の文章の拙さが恥ずかしくなってきます。文章系の創作物やってる人には味わってみて欲しい感覚ですね。


……なんか書き散らしてすいません。なんの話してたんだっけ……。

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