狡猾な犯人らしいです
「それで私は保健室に運ばれずに、アルギュロス様のお世話になったということなのね」
確認の為にまとめると、アントニオは頷きながらもアルギュロスを睨んだ。
「そうです。けれど、この魔族はなんなのですか。アントリオンが僕の言うことを聞かずにこの魔族に従うなど……!」
「ええと、アントニオ。これあまり言いふらさないで欲しいのですけれど、アルギュロス様は魔王四天王のお一人で、魔界のナンバーツーであらせられるの」
申し訳なさを込めて告げると、「はっ」と短い息を漏らして絶句してしまった。アントニオの肩に三センチメートルくらいに縮んだアントリオンが乗っているけれど、アルギュロスを前にして頭を垂れているように見える。
「アントリオン、名は知っているぞ。救護院にいた魔獣だろう。面識はないが書類にあった。ルシアからも聞いたことがある。大層ユーモアに溢れる魔獣だそうだな」
アルギュロスに声を掛けられ、アントリオンはぴこぴこと跳ねてみせた。ユーモアの溢れるクモ……かどうかはわからないけれど、昔同じように気絶した私を気遣って、以来小さな姿でしか現れなくなったというようなエピソードはある。優しいクモではあるのだ。
「まあ、そう畏まらずともよい。魔界は既に崩壊し、私も任を解かれている。……それよりも、アレクシアを取り巻く状況が思ったより厄介なのが気になる」
視線を向けられたことに感づいて目を向ければ、黄金の瞳の中に白銀の炎が燻っていた。
「先程述べたが、あの二人は精神に魔術攻撃を受けていた。しかも、術者が簡単にはわからないよう細工をされていた。……そうだな、このゲート・アインという国では魔法が感覚で行使されているようなので、説明は些か難しいのだが」
一度言葉を切り、顎に手を当てて考え込んでいる。どう説明するか思案しているように見えるでしょうけど、私の目は誤魔化せない。
「アルギュロス様、説明するのが面倒だと思ってますわね?」
「……アレクシア、君は読心魔術でも使えるのか」
やっぱり。ミラが吹き出し、アントニオの眉がまた吊り上がっていく。私はやれやれと溜息をついてアルギュロスの脇腹に肘を入れた。
「話す前から諦めないでくださいませ。私、知識は人よりある方ですのよ」
男だらけの官職に女の身で就こうとしているのだ。これでも成績は学年トップ、王城の書庫の本だって読んでいる。アルギュロスは渋々という風に口を開いた。
「ではさらっと説明するが、あの二人にはとある魔法が埋め込まれている。それによって精神を操られているのだが、その魔法は宿主の魔力で動くように組まれていた。よって、魔力から犯人を見つけることは不可能だ。ならば魔法の癖から犯人を特定するしかない。しかし魔術回路を見る目を持つ人間がいないと癖もなにもわからない」
「ほぅん……。なるほど、糸は辿れないから、魔法陣の筆跡鑑定というか、数式を解く時の癖みたいなものを読み解くしかないのね」
呟くと、アントニオが困惑気味の視線を向けてきた。なんだろうと思って首を傾げると、アルギュロスが言った。
「アレクシア。魔法陣というものはこの国にはない概念だが、どこからその知識を得た?」
…………あれぇ??




