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最終回 せっかく超絶美少女になったので、やっぱり最後はこういう感じだろ?

 二人の風邪について、ようやく終息宣言が出された。

 そんなある日、四人で夜ご飯を食べていると、お義父さんが突然つぶやいた。

 『……そろそろ孫の顔が見たいな』と。


 それをお義母さんが、ぴしゃりと制する。

 『あなた、夫婦の問題に、口出ししないの』と。


 隣に座っている小次郎を横目で見ると、目が合ってしまった。

 なんだか恥ずかしいので、すぐに視線を反らす。


 二人とも無言のまま、隣にある自宅に帰った。

 そして一言も発さずに、お風呂に入る。


 念の為、いつもよりたくさん洗った。

 およそ三時間ほどだ。


 寝室に行くと、なぜか小次郎が布団の上で正座していた。

 なんとなく、それにならって正面に正座する。


「あのさ」


 小次郎の言葉に、びくりと身をすくめながら、答える。

「は、はいっ」


「俺は、お前が『良い』って思うまで、いつまででも待つつもりでいる」

「か、か、覚悟的なものは、もう出来ていると申しますか……」


「無理しなくて良いんだぞ」

「で、では、お言葉に甘えて、三ヶ月……、いえ、一ヶ月ほど頂戴(ちょうだい)出来れば……」

「分かった」


 その日は、いつもよりちょっとだけ近づいて寝てみた。

 そして翌朝。


 スーツケースを引きながら、一人で玄関を出る。

 はずだった。


 そこには、スーツケースとパスポートを持った小次郎がいた。


「おいおい、忘れ物があるんじゃないか?」

「えっ?」

「パスポートと、俺だっ!」


 こうして世界のエステを巡る二人の旅が始まった。


 最初に降り立ったのはインドネシアのバリ島だ。

 バリ式マッサージのリラックス効果は抜群だった。

 アロマとかでめっちゃ癒やされる。


 観光地のイメージがあるけど意外と物価が安いからおすすめだ。

 ただし、日本人と見るやナチュラルにふっかけてくるから注意しろっ!


 次に行ったのはタイだ。

 そこで古式マッサージを体験した。

 ストレッチによって体が少し柔らかくなった気がしないでもない。


 あと、タイに行ったらパクチー三昧(ざんまい)だと思ってるそこのあなた。

 タイ人は意外とパクチーを食べない。

 期待して行ったら拍子抜(ひょうしぬ)けするぞ!


 その次に行ったインドでは、アーユルヴェーダを……。

 とまあ、そろそろみんな飽きてきただろう。

 世界の観光エステレビューを聞き来てるわけじゃないからな。


 何ヶ国か飛ばして、最後はイギリスにたどり着いた。

 一つだけ言わせて欲しい。


 ホテルマンには気をつけろ。

 やつらは客のお手伝いをする機会、もといチップチャンスを虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。


 お金目当てで人に近づくなんて、恐ろしいやつらだ。

 パンツを売るなどして真面目に働け!


 ……とまあ、いろいろと言ってきたが、ホテル自体は良かった。

 特に大きな窓から見える夜景は最高だ。


 ふと横を向くと、隣に立つ小次郎と目が合った。

 どちらともなく、手をつなぐ。


「一緒に来てくれてありがとう」


 そう伝えると、小次郎は照れるように笑った。


「新婚旅行とか、行ってなかったからな」

「中東には、二人で行ったよね」


「あれは結婚する前だろ」

「うん。あの時も、一緒に行ってくれてありがとう」

「お前を一人で行かせるのは、心配だったんだ」


「過激派の人質になったの、覚えてる?」

「忘れられるわけがない」


「命懸けで守ってくれた小次郎がカッコ良くて、本当はあの時から石油王じゃなくて――」

 言い掛けた口を、小次郎が口で塞ぐ。


「……他の男の話しはするな」

「ごめん。……あのさ、小次郎のこと、す」


 またも唇を奪われて、ベッドに押し倒される。

 あっさりと倒された自分の細い身体(からだ)と、倒した彼の太い腕。

 そしてその腕の中にいることを、心地良く感じる心。


 それを認識した時『自分は本当に女の子になったんだ』と思った。

 これまで、超絶美少女になったことは知っていたけれど、女の子になった実感はそれほどなかった。

 すこし、変かな?


「好きだ」

「好きだよ」


 唇が今日何度目かの彼のキスを受け入れて、指と指が絡み合う。

 そして――




 とまあ、これ以上は怒られそうなのでやめておこう。

 あと単純に恥ずかしい。


 だがまあ、小次郎がヒゲモジャ系男子じゃなくて本当に良かったなと思ったのは確かだ。

 もしそうだったら、もっとずっとずっと、くすぐったかったことだろう。


 とにかく、こうして無事ご懐妊(かいにん)となったわけだ。

 それをお伝えした時のお義父さんお義母さんの喜びようはすごかった。

 まさに狂喜乱舞だ。


 実家の両親にも報告へ行くと『一時期、孫は諦めてた』とか『女の子になって良かった』とか言ってきた。

 失礼な親たちだ。

 だが、ときどき孫の顔を見せに行ってあげるから、安心すると良い。


 そして、ここで問題が発生した。

 生まれてくる子供の名前をどうするかだ。


 その日の朝ごはんの時、お義父さんは、まるで全てのページにびっしりと文字が書かれていそうなノートを(たずさ)えて現れた。

 お義母さんはそれを見るなり『あなた、孫の名前に口出しちゃだめよ』と言った。


 絶望に打ちひしがれながら、ノートを落としたお義父さんは可哀想ではあった。

 でも、こんな先回りが出来て気の利く(しゅうとめ)に、いつか自分もなりたいと思った。


 そして、小次郎と二人で意見を出し合うことになった。

 これは本気で考える必要がある。

 なにしろ、名前は一生モノだ。


 就職の時に、キラキラネーム的なもので書類選考落ちさせるわけにはいかない。

 もしも本人が自宅警備員志望なら話は別だ。

 でも、うちの子に限ってそんなことあるわけがない。


 そんなわけで、筆ペンと和紙を用意して、考えた名前をカッコよく発表することにした。

 性別は早く知りたいような、どちらか想像してワクワクしたいような微妙な心境だったので、まだお医者様から聞いていない。


 それに、TS病というものがある以上、生まれてきた性別のまま一生過ごすとは限らない。

 いや、それはありえないか。

 うちの子に限って『自分に甘く、ダラダラしがちなダメ人間』になるはずがないからだ。


 そして、いよいよ小次郎との名前案発表会の時がやってきた。

 最初は女の子の名前からだ。


 二人で同時に出したそれは――

 なんと、同じ名前だった。

 しかも漢字まで一緒だ。


 ただ、小次郎の方が漢字自体を少し間違えている。

 まったく、意外と抜けてるところがあるんだよな。


 しかしまあ、同じ名前というのは奇跡的だ。

 やっぱり心が通じ合っていると、以心伝心(いしんでんしん)的なものはある。


 次は男の子の名前だ。

 一緒に出したそれは――

 さすがに違った。


「二つとも一緒だったら、いくらなんでも怖いからなっ!」


 なんて明るく言ってみたが、小次郎の表情が暗い。

 そんなに一緒が良かったのか?


「……ちょっと待て」

「ふふ、ズルはダメだぞっ! これは一回勝負だ!」


「いや、それ俺の本名」


 なん、だと。


「こ、こ、小次郎は偽名だったと言うのか……!?」

「待ってくれ。小次郎はお前が付けたあだ名だろ。親父たちまで俺のこと小次郎って呼ぶから、忘れがちだが」

「で、では……これまでの結婚生活は、全て偽りだったのか……!?」


「そんなことはない。というかだな、それ候補として出してくるってことは、お前やっぱ俺の名前ずっと覚えてなかっただろ?」

「まったまたーそんなわけないじゃないですかーいやだなー」


 とか言いながら、自分のお腹をさすってみる。


「うんうん、変なパパだねーうんうんっ」

「子供でごまかそうとするな」


「冗談はさておき、真面目な話をしようではないか。小次郎」

「いや、俺はわりと真面目だ」


「本名も小次郎に改名してくれ」

「なぜだ」


「こんなに良い名前は、子供に譲るべきだっ!」

「いや、おかしいだろ」


「……『出産を控えた主婦です。子供より自分を優先するような夫の言動が目立ちます。今後が不安になってきました。どうすれば良いんでしょうか?』」

「おい、ネット相談掲示板的なものに書き込もうとするな。というか、俺の名前覚えてなかった話はまだ終わってないぞ」


「……『夫が過去のちょっとしたミスをいつまでもしつこく言ってきます。助けてください』」

「ミスってことはやっぱ覚えてなかったんじゃないか。っていうか、これ『ちょっとしたミス』か?」


「ごめんね……」

 などと、上目遣いで言ってみた。

 超絶美少女嫁にこう謝られては、手も足も出まいっ!


「……許す」

 ふふっ、ほらな?


「それでさ、男の子と女の子、どっちが良い?」

「いや、俺はどっちでも良い。というか、どっちでも嬉しいな。お前は?」

「私もそうだよ」


「お前、今『私』って言ったか?」

「当然だろう、小次郎! 私はもう超絶美少女ママなのだからなっ!」


 とまあ、こんな感じで、私は出産したわけだ。

 出産の感想については、この世の全てを呪うほど痛かったとだけ言っておこう。


 だが、それだけの価値はあった。

 生まれてきたのが、超超超超超超超超超超絶カワイイ女の子だったからだ。


 この世にまさか、私の超絶さを超えるカワイサがあるとは思わなかった。

 だが、ここにこうして存在するのだから否定しようもあるまい。


 そんなわけで、私は今、ダラダラとは無縁の生活をしている。

 夜泣きとかがいろいろ大変だ。


 だが、小次郎と結婚したことを、全く後悔していない。

 なぜなら私は、超超超超超超超超超超絶幸せな超絶美少女だからだっ!




お読みいただきありがとうございます。

もし気に入っていただけましたら、感想などをいただけますと、超絶美少女と作者が泣いて喜びます。


暴走するアホの子と、ひたすら面倒見の良い小次郎の二人が、思いのほか気に入ってしまったため、いつか続編的なものを書きたいなと考えております。

まだ構想段階ではありますが、キャラ設定の一部を使う形で、二人の前世または来世の異世界モノにしたいです。

そちらを投稿開始する際には、本作の次話という形にてお知らせを出しますので、引き続きお付き合いいただけましたら光栄です。



また、気高い軍人がTS転生し、美少女政治家となる。というストーリーのTS長編も連載しております。

『黒き白バラ ~最強の魔法軍人は、最恐の美少女政治家として復讐を成す~』

http://ncode.syosetu.com/n6231eq/

もしよろしければ、こちらもお読みいただけますと幸いです。


本作にお付き合いいただいたことに、重ねてお礼申し上げます。

ありがとうございました。

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