27話 第二王子派の暗躍、突然の同居
「第二王子派……。確か、あなたの異母兄弟の……?」
「そうだよ。まあ、あいつらに殺されそうになるのは、いつものことなんだけどね」
フェイランは警戒するように周囲へ視線を走らせ、顔に影を落としながら冷ややかに唇を吊り上げた。
「そもそも……俺がこの国に留学できたのは、暗殺の危険から逃れるという口実もあったんだ。第一王子派閥……つまり俺の陣営側からすれば、王位を継ぐまで他国で匿われていた方が安全だと判断したんだよ」
「そんな……。フェイランが、そんな危険な立場に置かれていたなんて……」
「あ、もちろんジゼルに会うことが一番の目的だったよ。そこは安心してね」
「そんなこと、いま心配していないわよ! ……つまり、あなたにとって安全だったはずのこの国にまで、刺客が送り込まれてきているということよね……?」
フェイランが『災厄の王』になるだのならないだのどころの話ではない。
彼のすぐ間近まで、死の危険が迫っているのだ。
あまりの緊急事態に、私の頭の中は混乱と焦燥で満ちあふれていく。
「ジゼルが不安に思うことは何もないさ。こちらの陣営の影を動かしておくし……何より君は、俺が絶対に守る。何に代えてもね」
「え……? 私よりも危険なのは、直接狙われているフェイランの方でしょ!?」
「俺を直接狙うだけなら、何人来ようと全員その場で返り討ちにできる。けれどあいつらは今回、ジゼルを狙った。……ようやく、俺の唯一の弱点が分かったんだろうな」
「まさか……フェイランの恋人である私を標的にすることで、あなたを無力化しようとしているの……?」
「不愉快なことにね。……ああ、本当に気分が悪い。ジゼルに危害を加えようとする害虫は、どうしてこうも次から次へと湧いて出てくるのかな……」
フェイランが重いため息をつき、木漏れ日を落とす木々の梢を暗い眼差しで見上げる。
その瞳は、遥か遠くにいる首謀者へ向けて、殺意を煮詰めているようだった。
(そうだ……。彼が以前暴走しかけたのは、私に危険が及んだから。もし、私に今後何かあれば、彼はきっと……)
私を失った絶望で自暴自棄になり、世界を滅ぼすという最悪の手段を選んでしまうかもしれない。
たとえ歴史上で『災厄の王』と蔑まれようとも。
「ジゼル、しばらくは俺の側を絶対に離れないでね。君に万が一のことがあれば、俺はきっと……自分を抑えることなんてできないから」
「……それって、世界を滅ぼしてしまうかもしれないということ?」
私はおそるおそる、彼の暗く沈んだ紅玉の瞳を見つめた。
フェイランが一瞬だけ動きを止めた後、ふっと薄笑いを浮かべる。
「どうだろうね。……けれど、俺を『災厄の王』にしたくないのなら、かすり傷一つ負わないように十分注意してほしいな。君に危害を加えた連中は……間違いなく一人残らず皆殺しにしてしまうだろうから」
「わ、分かったわ……」
私自身の安全が、この世界の命運を握っている。
突如として背負わされたあまりに巨大すぎるリスクに、私は身震いを抑えることができなかった。
「ジゼル……不安だろうけれど、ほんの少しの辛抱だよ。君に手を伸ばそうとした第二王子派は、俺が根絶やしにして殲滅する。二度と俺たちに手を出そうなんて思えないくらいにね」
「そこまでする必要は……。ううん、ごめんなさい。あなたの命がかかっているものね……」
「俺というか……ジゼルの命が、だよ。さて、そうと決まったら早速準備を始めないと」
それまで殺気を放っていたフェイランが、なぜか急にこの場にそぐわない、実に嬉しそうな笑みを浮かべた。
私は彼の意図がまったく読めず、首を傾げて疑問符を浮かべる。
「準備……? 私は何をすればいいの?」
「ジゼルは俺と一緒に来てくれればいいよ。必要な荷物は俺の影に運ばせるからさ」
「え? 荷物?」
まだ何のことだかさっぱり理解できていない私に、フェイランは満足気にくすりと笑い声を漏らす。
「ジゼル。君は今日から、俺の部屋で同居するんだよ」




