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第6話◇まるで、宝物に触れるかのように

普通は切り花として枯れるまで花瓶に飾り、そして廃棄。

頑張ってドライフラワーやポプリや押し花に。


そうなることを前提で、マクファーソン家は他家に花を渡している。

全ての家門に差し木から枯らさずに育てられるほどの高レベルの庭師がいるわけでもないし、当主や夫人の中には当然薔薇に関心がない者もいると知っているから。


「どうして、ここまで……っ、まさか、お父様が」


武家のゾクラフ家がここまで事業として薔薇に力を入れているなんて、これまで一度も聞いたことはない。

お父様の耳に入らないはずが――そこまで考えたわたくしは、まさか、と考える。実はお父様はこのことを知っていて、秘密裏に栽培に協力していたのでは、と。


「お察しの通り、マクファーソン伯爵の協力を得ています。……しかしゾクラフ家の事業としてではなく、私個人の願いでした。貴女に頂いたものを枯らしたくなくて、父に泣きついたのですよ」


ウィリアム様はまるで当時のことを思い出したかのように微笑みながら、じっと見つめてくる。


その目線に強い熱を感じて、もの慣れなさにまるでどこかに逃げたいような気分になった。

男性に、こんな表情で見つめられるなんて。そんなことはこれまで一度もなかった。


恋物語なんて自分事ではない、わたくしには関係ない話。

幸せな男女の背後で素敵な小道具になる薔薇、それを誠心誠意育てることこそが、わたくしの喜び――そうとしか考えていなかったのに。


そんなわたくしに、ウィリアム様の好意が向いている。

まさかと思おうにも、その微笑と視線の優しさが勘違いとは思わせてくれない……。


「あの頃の私は強大な保有魔力をほとんど操作しきれず、周囲の者を危険に晒すばかりでした。乳母を魔力暴発に巻き込みかけた時の話がどこからか漏れて、同世代の者にもその親にも怯えられ、遠巻きにされていた」


語られて、確かに子供たちの中では浮いていたような、とわたくしの脳裏にも当時の思い出が段々とよみがえってくる。


そうでしたわ、思い出した。


あの時、ウィリアム様と一緒にいたらルーカスが話しかけてきましたのよ。

それじゃあみんなで話しましょうか、と思っていたら、相手の素性に気づいたルーカスは「うわ、こいつあの『凍らせ令息』だ!みんな近づくなっ」などと言い放って、走り去って……。


「ですから、アメリア嬢。あの日貴女から頂いたこの花は、文字通り『希望のかけら』でした。手放せるはずもなく、私はその希望にしがみついたのです。既に貴女にはルーカスという婚約者がいたので」


そう、当時、既にわたくしとルーカスの婚約は成立していた。

同世代の令息と令嬢の中では一番早い婚約だったのだ。


「ですが――それも、過去のこと。家同士の話も順調に進み、今日貴女はこうして正式にゾクラフ家に……この私に会いに来て下さった。それがどれほどの喜びか」


ウィリアム様は面前の「希望のかけら」からひとつの苗を選んでその手をかざす。

その人差し指の爪の先で宙に線を描くと、ピッと乾いた音を響かせて花の部分が切り取られ、彼の手のひらに綺麗に収まった。

同時に、茎にあったはずのとげも残らず切られている。


一連のそれは全く無駄のない魔力操作だった。

魔力がほとんどないわたくしから見ても見事なものだと思われた。


「……触れても?」


問われて、頷く。

この人になら、触れられてもいいと思う……。


そんなわたくしの肯定に応えて近づくと、ウィリアム様はその長い指ですくようにしながら前髪に触れてきた。

まるで宝物に触れるかのようなその触り方に、彼の気持ちの全てが込められているように感じる。


そろりと指が動くたびに冷気もすっと肌を撫でていく。

いちいちびくりと肩を震わせていることが、「わたくしは今、貴方の一挙手一投足、全てを意識しています」と明確に示していて、ひどく恥ずかしい。


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